ヒクイドリは、「世界でもっとも危険な鳥」とも呼ばれる大型の鳥です。飛ぶことはできず、足には短剣のような鋭いツメを持ちます。ニューギニアやオーストラリアの森にすみ、ふだんはとても臆病です。じつは森の木の実を食べ、種を運ぶ大切な役目も担っています。
分類と学名
分類階層
- 界:動物界 Animalia
- 門:脊索動物門 Chordata
- 綱:鳥綱 Aves
- 目:ヒクイドリ目 Casuariiformes
- 科:ヒクイドリ科 Casuariidae
- 属:ヒクイドリ属 Casuarius(現生3種)
和名・英名
- 和名:ヒクイドリ(火食い鳥)
- 英名:Cassowary
名前の由来
「ヒクイドリ(火食い鳥)」という名は、赤く垂れた首の皮に由来するとされます。その赤色が、まるで火を食べているように見えたためと言われます。もちろん、実際に火を食べるわけではありません。現生のヒクイドリは3種に分けられ、いちばん大きいのがミナミヒクイドリです。英名の Cassowary は、現地の言葉に由来します。
大きさ・分布などの基本データ
| 大きさ | 高さ 最大約1.8m(まれに2m)・体重 最大約76kg(メスが大きい) |
|---|---|
| 分布 | ニューギニア島・周辺の島々・オーストラリア北東部 |
| 生息環境 | 熱帯雨林などの深い森 |
| 食べもの | おもに木の実(果実)。菌類や小動物も |
| 特徴 | 飛べない。頭に「かぶと」、足に鋭いツメ |
| 保全状況 | 世界IUCNは3種ともLC。豪州では地域的に絶滅危惧 |
世界でもっとも危険な鳥?

短剣のようなツメ
内側の指の、長いツメ
ヒクイドリの足の指は3本で、内側の1本に長いツメがあります。このツメは、長いもので10cmを超えることもあります。まっすぐで鋭く、短剣のような形をしています。太くて力強い足で、このツメを相手に突き立てます。「世界でもっとも危険な鳥」と呼ばれる、いちばんの理由です。
強いキックで身を守る
ヒクイドリは、強い脚力で前や下へ蹴り出します。走る速さも速く、追いつめられると跳びかかることもあります。人や犬が大けがをした例や、まれに命を落とした例も知られています。ただし、それは相手を追いつめたり、エサを与えたりしたときに多いのです。むやみに近づかないことが、身を守る何よりの方法です。
それでも、むやみには襲わない
おそろしい評判のわりに、ヒクイドリは本来おくびょうな鳥です。人の気配を感じると、多くは森の奥へ逃げていきます。攻撃するのは、追いつめられて逃げ場を失ったときです。じつは、統計の上で人を襲う数はダチョウのほうが多いともいわれます。危険なのは確かですが、進んで人を襲う鳥ではありません。
飛べない、大きな鳥

ダチョウ・エミューに次ぐ大きさ
ヒクイドリは、生きている鳥のなかでも指折りの大きさです。もっとも大きいミナミヒクイドリは、ダチョウとエミューに次ぐ重さになります。翼は小さく退化しており、空を飛ぶことはできません。そのぶん太い脚で、森の中を素早く走り回ります。ダチョウやエミューと同じ、飛べない大型の鳥(走鳥類)の仲間です。
頭にのせた「かぶと」
何のためのかぶとか
ヒクイドリの頭には、かぶとのような突起があります。中は骨とスポンジ状の組織で、外側を硬い角質がおおう突起です。この役目は、じつはよく分かっていません。森の茂みをかき分ける・低い声を響かせる・相手に示す、など諸説あります。近年は、体の熱を逃がす役目が有力とされ、いくつかの役目をあわせ持つとも考えられています。
青い首と赤い肉垂れ
ヒクイドリの首は、あざやかな青色。首の前には、赤い皮が垂れ下がっています。この赤い部分が、名前の由来にもなりました。黒く硬い羽におおわれた体との対比が、ひときわ目を引きます。派手な色は、仲間どうしの合図に役立つと考えられています。
森を育てる果実食
果実を食べ、種を運ぶ
おそろしい姿とはうらはらに、ヒクイドリの主食は木の実です。森に落ちた果実を、大きな口で丸ごとのみこみます。種は消化されずに、遠くまで運ばれてふんとともに落とされます。こうして、大きな種を持つ木の芽ばえを助けているのです。ヒクイドリは、森を育てる「種まき屋」ともいえる存在です。
とても低い声で鳴く
ヒクイドリは、地をはうような低い声で鳴きます。「ボーッ」とうなるその声は、鳥の鳴き声としては非常に低いものです。あまりに低いため、人の耳の限界に近いともいわれます。低い音は、木々の茂った森の中でも遠くまで届きます。姿の見えにくい森で、仲間と連絡を取り合うのに役立ちます。
オスだけの子育て

メスは産んだら去る
緑色の、大きな卵
ヒクイドリの卵は、あざやかな緑色です。にわとりの卵よりずっと大きく、長さは13cmほどにもなります。メスは巣に数個の卵を産むと、そのまま去っていきます。そして、別のオスのもとでまた卵を産むこともあります。子育てをまったくしないのは、鳥のなかではめずらしい生き方です。

オスが温めて、育てる
卵を温めて育てるのは、すべてオスの役目です。オスは50日ほど、飲まず食わずに近い状態で卵を温め続けます。かえったひなには、茶色に縦じまの模様があります。オスは、このひなを数か月ものあいだ連れて歩いて守ります。父親がひとりで子を育てる、けなげな一面を持つ鳥です。
ひなを守り、育てる
ひなを連れたオスは、ふだんよりずっと気が荒くなります。近づくものには、鋭いツメを向けて激しく威嚇します。人がヒクイドリに襲われるのも、この時期が多いとされます。子を守るためとはいえ、迷いこんだ人には大きな危険です。子育て中のヒクイドリには、とくに近づいてはいけません。
長い一生と、絶滅の心配
長生きな鳥
ヒクイドリは、鳥のなかでも寿命の長い部類です。飼育下では、40年以上生きた例も知られています。大きな体と鋭いツメのおかげで、大人には天敵がほとんどいません。ただし、卵やひなは、野生化した犬やブタなどに狙われます。ゆっくりと育ち、長く生きる鳥だといえるでしょう。
レッドリストと保全
ヒクイドリのすむ森は、伐採や開発で少しずつ減っています。車との事故や、犬におそわれることも脅威です。森の木を育てる役目を持つため、その減少は森全体にも影響します。世界全体では、まだ数が保たれているとされます。ただしオーストラリアなどでは地域的に数が減り、保護が進められています。なお、日本の野生にヒクイドリはすんでおらず、動物園で会えます。
参考
- Wikipedia(英語版)「Cassowary」(分類・大きさ・危険性・かぶと・食性・繁殖)
- Wikipedia(日本語版)「ヒクイドリ」(生態・分布)
- IUCN Red List/各動物園の解説(保全状況・生態)


