マナティは、水草を食べて暮らす、大型の水生ほ乳類です。人魚のモデルになった逸話や、よく似たジュゴンとの尾や食べ物の違いに特徴があります。いちばん近い親戚が陸のゾウである点も知られています。
分類と学名
分類階層
- 界:動物界 Animalia
- 門:脊索動物門 Chordata
- 綱:哺乳綱 Mammalia
- 目:海牛目 Sirenia
- 科:マナティ科 Trichechidae
- 属:マナティ属 Trichechus
和名・英名
- 和名:マナティ(海牛)
- 英名:Manatee
3種のマナティ
マナティには、現在3つの種がいます。カリブ海やフロリダに住むアメリカマナティ(Trichechus manatus)、西アフリカの沿岸に住むアフリカマナティ(T. senegalensis)、そして南米のアマゾン川に住むアマゾンマナティ(T. inunguis)です。アマゾンマナティは3種の中でもっとも小さく、川だけで暮らす唯一のマナティです。名前のとおり、海だけでなく川にも進出しているのがマナティの特徴です。同じ海牛目でも、海に限って暮らすジュゴンとは別の科に分かれています。
大きさ・分布などの基本データ
| 大きさ | 体長 約3〜4m/体重 約400〜550kg(大きな個体は590kgほど) |
|---|---|
| 分布 | 南北アメリカ・西アフリカの暖かい海・川・河口 |
| 生息環境 | 浅い海や川、河口の水草が茂る場所 |
| 食べもの | 水草・海藻など(植物食) |
| 寿命 | 野生でおよそ40〜60年 |
| 保全状況 | IUCN:3種とも危急(VU) |
水草を食べる海の草食獣
一日中、草を食べ続ける
体重の1割もの水草を食べる
マナティは、水中や水辺に生える草を食べて暮らす草食動物です。1日に食べる量は体重の1割ほどにもなり、大きな個体では50kg近い水草を平らげます。食事にかかる時間は1日6〜7時間に及び、起きている間の多くを食べることに費やします。60種を超える水草や海藻を食べ、水辺の植物を刈り取る役割から「海の草刈り機」とも呼ばれる大食漢です。

奥歯が一生生えかわる
硬い水草をかみ続けると、歯はすり減っていきます。マナティはこれに対応するため、奥歯が後ろから前へと動きながら、一生のあいだ新しい歯に入れかわり続けます。前のほうですり減った歯は抜け落ち、後ろから生えた歯が押し出すように前へ進みます。この変わった歯の仕組みは、ゾウの歯とよく似ています。
ゾウに近い親戚
海に暮らすマナティのいちばん近い親戚は、クジラやアザラシではなく、陸のゾウです。マナティやジュゴンの海牛類は、ゾウやハイラックスとともに「近蹄類」というグループにまとめられ、共通の祖先から分かれたと考えられています。歯の生えかわり方が似ているのも、この近い血縁を反映しています。海と陸でまったく違う暮らしをしていても、体のつくりには共通の祖先の名残が残っています。
泳ぎは遅く、数分おきに呼吸する
マナティはほ乳類なので、えら呼吸はできず、肺で息をします。ふだんは3〜5分ごとに、休んでいるときでも20分ほどで水面に鼻先を出して呼吸します。泳ぐ速さはふだん時速数kmと遅く、幅広い前ひれを使って水草を口もとへかき寄せながら食べます。1日の半分ほどは、水中で休んで過ごすとされます。上唇はよく動く2つに分かれた形をしていて、これで草を器用につかみ取ります。
人魚のモデルになった動物
船乗りが人魚と見間違えた
マナティは、人魚(マーメイド)の伝説と結びつけて語られてきた動物です。長い航海の途中で水面に浮かぶマナティを見た昔の船乗りが、これを人魚と見間違えたという話が広く伝わっています。探検家コロンブスも航海中に人魚を見たと記録を残しており、その正体はマナティだったのではないかといわれています。
授乳する姿が人を思わせた
もちろん、間近で見るマナティは、美しい人魚というより丸くふくよかな体をした穏やかな動物です。それでも、メスが胸のあたりで子に乳を飲ませる姿や水面から上半身をのぞかせる様子が、遠目には人の姿を思わせたのかもしれません。真偽は確かめようがありませんが、動きの遅い海牛が空想上の人魚と結びつけられてきたことは、人とマナティの古いかかわりを示す一例です。

マナティとジュゴンの違い
尾の形と食べ物で見分ける
丸い尾のマナティ、三日月型のジュゴン
マナティとジュゴンは、どちらも海牛目に属するよく似た動物ですが、見分けるいちばんの手がかりは尾の形です。マナティの尾は、うちわのように丸く広がった形をしています。いっぽうジュゴンの尾は、イルカやクジラのように中央がくびれた三日月型です。尾が丸ければマナティ、中央がくびれた三日月型ならジュゴンです。

住む場所と食べ物の違い
暮らす場所にも違いがあります。マナティは海だけでなく川や河口にも入り、淡水の水草もよく食べます。ジュゴンは一生を海で過ごし、海底に生える海草(うみくさ)を専門に食べる、より海に特化した動物です。口の形も異なり、海底の草を食べるジュゴンの口先は、下向きに深く曲がっています。同じ「海牛」でも、暮らし方は少しずつ違います。
「スナメリ」はクジラの仲間
マナティやジュゴンと並べて語られることのある「スナメリ」は、海牛類ではありません。スナメリは背びれのない小型のイルカで、クジラの仲間にあたります。同じように水中で暮らし丸い体つきをしていても、水草を食べる海牛類とは系統がまったく異なります。名前や姿が似ていても、系統としては別のグループにあたります。
人とのかかわりと保全
人がもたらす危険
最大の脅威は船との衝突
おとなのマナティには、自然界にほとんど天敵がいません。かわりに最大の脅威となっているのが、人の乗る船です。水面近くを低速で泳ぐマナティは、モーターボートに気づかず衝突したり、スクリューで傷を負ったりします。フロリダでは、1年に死ぬマナティのおよそ4分の1が船との衝突によるものです。背中に50を超える傷あとをもつ個体も確認されており、傷の形から一頭ずつを見分けられるほどです。
寒さに弱く温かい水に集まる
マナティは大きな体のわりに脂肪の層が薄く、寒さに弱い動物です。水温がおよそ15度を下回ると生きていけないため、冬になると温かい水がわく泉や、発電所の温排水が流れ込む場所に集まります。フロリダの冬に、暖かい水辺へ何十頭ものマナティが身を寄せる光景は、この寒さへの弱さから生まれたものです。生息地の水草が減ることも、マナティの数を脅かす一因になっています。繁殖のペースも遅く、メスは数年に1頭ほどしか子を産まないため、一度減った数がもとに戻るには長い時間がかかります。かつて北の海には大型の海牛ステラーカイギュウがいましたが、乱獲により発見からわずか27年で絶滅しました。海牛の仲間は、これまでも人の活動によって数を減らしてきました。


日本で会える水族館
マナティは、日本国内でも数か所の水族館で飼育されています。沖縄美ら海水族館ではアメリカマナティが、三重県の鳥羽水族館では日本で唯一のアフリカマナティが、静岡県の熱川バナナワニ園ではアマゾンマナティが見られます。香川県の新屋島水族館でもアメリカマナティが飼育されてきましたが、2025年からは施設の改修で休館しています。世界に3種いるマナティのすべてを、国内の水族館で見分けられる点は珍しい環境です。水槽では、大きな体で水草を食べる姿が展示されています。デリケートな動物のため、多くの施設では直接ふれることはできません。
関連ページ

参考
- Wikipedia「Manatee」(3種・食性・歯・近縁・船との衝突・人魚伝説・ジュゴンとの違い)https://en.wikipedia.org/wiki/Manatee
- IUCN Red List「Trichechus manatus」(保全状況)https://www.iucnredlist.org/species/22103/9356917
- 鳥羽水族館「アフリカマナティー」(日本での飼育・生態)https://aquarium.co.jp/picturebook/trichechus-senegalensis.html
画像出典
NOAA, Public domain, via Wikimedia Commons | https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Trichechus_manatus,_NOAA.jpg


