リスザル

リスザル・パナマSummit Zooのボリビアリスザル 哺乳類

リスザルは、南米・中米の熱帯雨林に暮らす体長25〜35cmの小型のサルです。学名は Saimiri 属で、コモンリスザル・ボリビアリスザル・エクアドルリスザルなどいくつかの近縁種が含まれます。白い顔・黒い頭頂・オレンジ色の体という覚えやすい配色で、動物園でも高い人気を集める新世界ザルです。

数十〜数百頭の大群で暮らす社会性・体の割に大きな脳・細長い尾でバランスを取る樹上生活・活動的な雑食性。小さな体に見どころが詰まった霊長類として、生態研究の対象にもよく登場します。

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分類と学名

分類階層

  • 界:動物界 Animalia
  • 門:脊索動物門 Chordata
  • 綱:哺乳綱 Mammalia
  • 目:サル目 Primates(霊長目)
  • 亜目:直鼻猿亜目 Haplorhini
  • 下目:真猿下目 Simiiformes
  • 小目:広鼻小目 Platyrrhini(新世界ザル)
  • 科:オマキザル科 Cebidae
  • 亜科:リスザル亜科 Saimiriinae
  • 属:リスザル属 Saimiri
  • 代表種:コモンリスザル Saimiri sciureus 他

和名・英名・別名

  • 和名:リスザル(栗鼠猿・リス猿)
  • 英名:Squirrel Monkey(リスザル)
  • スペイン語名:Mono ardilla(リスザル)
  • ポルトガル語名:Macaco-de-cheiro(匂いのするサル・スメル・モンキーの意味)

Saimiri属の主な種

5種構成が一般的

リスザル属は現在おおむね5種で構成されるとされます。研究者によって分類は少しずつ変わり、亜種を種に格上げする議論も続いています。

  • コモンリスザル(Saimiri sciureus):ガイアナ・スリナム・アマゾン北岸に広く分布・最も知られた種
  • ボリビアリスザル(Saimiri boliviensis):ボリビア・ペルー・ブラジル南部・頭頂が黒い
  • エクアドルリスザル(Saimiri macrodon):エクアドル・ペルー北部・コロンビア南部
  • コロンビアリスザル(Saimiri oerstedii):コスタリカ・パナマ・唯一の中米種・絶滅危惧種
  • ジェントルフェイスドリスザル(Saimiri vanzolinii):ブラジル・アマゾナス州の限定地域

名前の由来

  • 属名 Saimiri:南米先住民の言語(トゥピ・グアラニ語系)で本種を指す名から来たとされ、17〜18世紀の博物学の中で学名として取り込まれた語です。
  • 種小名 sciureus:ラテン語で「リス(squirrel)に似た」の意味。リスのような素早い動きと樹上生活からの命名です。
  • 和名「リスザル」:英名「Squirrel Monkey」の直訳。リスに似た大きさと機敏な動きからついた名前です。

大きさ・生息などの基本データ

大きさ頭胴長:25〜35cm/尾長:35〜42cm(体より長い)/体重:オス750〜1,100g・メス600〜800g/小型霊長類ながらピグミーマーモセットの約7〜10倍の体格
体色頭頂:黒色〜灰色/顔:白色〜クリーム色/目の周辺:白い縁取り/口の周辺:黒色/背中〜四肢外側:オレンジ〜黄褐色/腹側:淡い黄色〜白色/尾の先端:黒色
身体特徴細長い尾(把握機能なし・バランス用)/指先は平爪(マーモセット類の鉤爪と異なる)/頭は体に対して大きい/目は前向きで大きい/体重に対する脳容量比率は霊長類上位
分布コモンリスザル:南米北部(ガイアナ・スリナム・ブラジル北部)/ボリビア・エクアドル・コロンビアリスザル:それぞれ南米各地/コロンビアリスザル:中米コスタリカ・パナマ・唯一の中米種
生息環境熱帯雨林の中下層(地上5〜30m)/原生林・二次林・河畔林/マングローブ林も利用/季節冠水林で見られる例も多い
食性雑食性/果実・種子・花・花蜜(約半分)/昆虫・蜘蛛・小型脊椎動物・卵(約半分)/季節・地域により比率変動/他のサル群と共同採食する例あり
繁殖繁殖期:主に9〜11月(種による)/妊娠期間:約150〜170日/通常1頭出産/授乳期間:約4〜6か月/性成熟:メス2.5〜3年・オス3.5〜4年
寿命野生:推定15〜20年/飼育下:25〜30年
保全状況種による:コモン・ボリビア・エクアドルリスザルはLC(軽度懸念)/コロンビアリスザルVU(絶滅危惧II類)/ジェントルフェイスドリスザルはVU/CITES附属書II
リスザル・エクアドル・Rio Napoの幼獣
Charles J. Sharp, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons(エクアドル・Rio Napoのエクアドルリスザル幼獣)

大群で暮らす社会

数十〜数百頭の群れ

大所帯で森を移動

熱帯の森を、数十匹のリスザルが枝から枝へ次々に移っていきます。1つの群れは20〜75頭ほど。コモンリスザルとエクアドルリスザルでは、100頭を超える大群も報告されています。マンドリルのハーレム型や、ピグミーマーモセットの家族単位とは対照的な、多頭数のにぎやかな社会です。

種で違う主導権

コモンリスザルではメスが群れの中で優位に立つ場面が多く、繁殖期にはメスが中心となります。一方ボリビアリスザルはオスが優位。同じ属でも社会のあり方が種ごとに異なる点は、リスザル研究の面白い題材となっています。

他のサルとの混群

オマキザルと一緒に採食する

リスザルはよくオマキザル属(Cebus)と一緒に「混群」を作ります。オマキザルが上の枝で果実を落とすと、下にいたリスザルが拾って食べる、という自然な連携が観察されます。ときには数日〜数週間、両種が一緒に移動する姿も見られます。オマキザル側にとってもリスザルの警戒が役立ち、双方に利益がある関係です。

警戒音を互いに理解

混群を作る両種は、天敵を発見したときの警戒音を互いに理解して反応するとされます。ワシタカ類・大型のヘビ・ジャガーやオセロットなどに対して、両種が共通のシグナルで危険を共有します。異なる種で「言葉」を通じ合わせるこの仕組みは、霊長類のコミュニケーション研究で注目される事例です。

リスザル・コモンリスザル成獣
Luc Viatour, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons(コモンリスザル成獣・2007年)

脳の大きい霊長類

体重に対する脳の重量

「頭でっかち」なサル

リスザルは、体重に対する脳の重さの比率が霊長類の中で上位に入る種です。成体の体重約800gに対し脳は約25g。体重比では約1/32とヒト(約1/40)に近い割合となります。他の中型霊長類(オマキザル・アカゲザル)より高い比率で、機敏な動きや複雑な社会行動を支える生物学的な基盤です。

視覚と学習能力の高さ

大きな脳と大きな目で、リスザルは視覚に強く頼った暮らしをしています。動く昆虫を目で追いかけ、果実の熟度を色で判断し、仲間の動きに合わせて動く。飼育下では簡単な道具の使用や個体識別も確認されており、脳・神経科学の実験対象にも選ばれてきました。

色覚多型

リスザルを含む多くの新世界ザルは、独特の「色覚多型」を持ちます。オスは常に2色型色覚(赤緑を区別できない)ですが、メスは遺伝子型により2色型と3色型(ヒトと同じフル色覚)に分かれます。3色型のメスは熟した赤い果実を見つけるのが得意な一方、2色型のオスは薄暗い環境で動く昆虫や偽装する餌を見つけるのが得意とする研究もあります。同じ群れの中で異なる色覚が共存することで、多様な採食機会を得られる利点があるとされます。

リスザル・ミュンヘンHellabrunn動物園
Diego Delso, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons(ミュンヘン・Tierpark Hellabrunn)

樹上生活と身体の特徴

細長い尾はバランス用

物を掴めない尾

リスザルの尾は体より長く、35〜42cmもあります。ただし同じ新世界ザルのクモザルやオマキザルとは違い、物を掴む機能は持ちません。役割は樹上移動のバランス保持です。細い枝の上を走ったり、枝から枝へ飛び移ったりするとき、尾を反対方向に振ってバランスを取ります。この使い方はリス(同じ樹上性の哺乳類)と共通し、和名の由来にもつながっています。

樹上を俊敏に動く

本種は熱帯雨林の中下層(地上5〜30m)を主な活動空間としています。1日の移動距離は2〜5kmに達することもあり、大群が枝から枝へ次々に飛び移る様子は、まるで「動く棚」のよう。地上に降りることは稀で、水を渡る際や落ちた果実を拾う際に限られます。

指先の平爪

リスザルの指先はヒトと同じ平爪です。ピグミーマーモセットのような鉤爪状の特殊化は見られません。親指も他の指と向かい合う部分的な対向性があり、果実や小型の獲物をしっかり掴んで扱えます。この一般的な霊長類型の手が、樹上での枝掴みや器用な採食を支えています。

リスザル・スリナムの野生個体
Gerry van Tonder, CC BY 4.0, via Wikimedia Commons(スリナム・野生個体)

雑食性の食生活

果実と昆虫、半々の食事

雨季は果実、乾季は昆虫

リスザルの食性は果実(約45〜55%)と動物性の餌(約35〜45%)を半々で組み合わせる雑食型です。動物性の餌は昆虫・蜘蛛・小型脊椎動物・鳥の卵など、樹上で見つける獲物が中心。雨季には果実が豊富なので植物質が増え、乾季には昆虫の比率が上がる、季節ごとの切り替えが観察されます。

群れで情報を共有

大群で採食する本種は、他個体の採食情報を利用する行動が発達しています。誰かが良い餌場を見つけると、そこに周囲の個体が集まります。鳴き声で群れ全体に情報が伝わる仕組みで、大群としての採食効率が上がります。限られた餌資源から最大の栄養を引き出す、集団の知恵といえます。

体臭で情報を伝える

本種はポルトガル語で「Macaco-de-cheiro(匂いのするサル)」と呼ばれるほど、体臭が強いサルです。特徴的な行動として「尿浴(urine washing)」があります。自分の尿を手足に塗り、木の枝や葉に匂いを付けていく行動で、縄張り主張・繁殖状態の告知・仲間との情報共有など多くの役割を担うとされます。見た目や音と並んで、匂いが重要な情報チャネルとなっています。

リスザル・コロンビア・Santacruz Zoo
Petruss, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons(コロンビア・Santacruz Zoo)

種による保全状況の違い

コロンビアリスザルの窮状

唯一の中米種

Saimiri属のなかで唯一中米(コスタリカ・パナマ)に暮らすのが、コロンビアリスザル(Saimiri oerstedii)です。IUCNレッドリストで絶滅危惧II類(VU)に指定され、コスタリカ南太平洋岸の限られた熱帯雨林に約1,500〜5,000頭ほどしか残っていないとされます。生息地の伐採・都市化・農地転換が主な減少要因で、コスタリカでは国立公園による保護が進められています。

ジェントルフェイスドリスザル

Saimiri vanzolinii(ジェントルフェイスドリスザル)は、ブラジル・アマゾナス州のごく狭い地域だけに暮らす種です。生息地はMamirauá持続可能開発保護区の周辺に集中し、全生息面積は約870km²と狭い範囲。IUCN絶滅危惧II類(VU)に指定されており、研究例が少ないため生態の詳細もまだ十分に分かっていない部分が多い種です。

コモン種はLCだが減少傾向

コモンリスザル・ボリビアリスザル・エクアドルリスザルの3種はIUCN軽度懸念(LC)ですが、いずれも生息地の減少・違法ペット取引・実験動物としての捕獲などの圧力を受けています。CITES附属書IIに掲載され、国際取引には輸出国の許可が必要とされます。動物園での飼育は世界各地で行われ、繁殖の実績もあるため、飼育下個体群による種の保全は比較的安定した状態にあります。

リスザル・エクアドルの野生個体
Geoff Gallice, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons(エクアドル・Amazon rainforest)

動物園と実験動物

日本の動物園での飼育

日本国内では上野動物園・多摩動物公園・東山動植物園・京都市動物園・広島市安佐動物公園・仙台市八木山動物公園など、多くの主要動物園でリスザルが飼育展示されています。中心はコモンリスザルとボリビアリスザルで、群れでの飼育により自然な社会行動を観察できる形が広く採用されています。「サル山」のような集団展示にも向く種類として、日本の動物園文化のなかで長く親しまれてきました。

医学研究での役割

リスザルは体格・脳容量・扱いやすさから、医学・生命科学研究の霊長類実験動物にも用いられてきました。特にコモンリスザルは20世紀後半から神経科学・感染症研究・薬理学試験などに使われた歴史があります。近年は動物福祉への配慮から霊長類実験は縮小傾向にありますが、繁殖しやすさと管理しやすさから研究用個体群が世界各地で維持されています。

近縁種と系統

オマキザル科の中の位置

リスザル属(Saimiri)はオマキザル科(Cebidae)に属し、同じ科のオマキザル属(Cebus・Sapajus)と近い関係にあります。オマキザル科は南米・中米で最も広く分布する新世界ザルのグループで、雑食性・群れ社会・器用な手など多くの共通形質を持ちます。マーモセット科(Callitrichidae)とは別系統で、体格・食性・繁殖のスタイルでも対照的な位置にあります。

学名和名/英名分布・特徴
Saimiri sciureusコモンリスザル/Common Squirrel Monkey南米北部・最も知られた種
Saimiri boliviensisボリビアリスザル/Bolivian Squirrel Monkeyボリビア・ペルー・オス優位社会
Saimiri oerstediiコロンビアリスザル/Central American Squirrel Monkey中米・唯一の中米種・IUCN VU
Cebus capucinusフサオマキザル/White-faced Capuchin中米・オマキザル科の代表・道具使用

オマキザル属との比較

近縁のオマキザル属(Cebus・Sapajus)は本種より大型で、物を掴める尾を持ちます。道具使用も高度に発達し、堅い果実を石で叩き割る行動などが野外で確認されています。リスザルはこうした道具使用は行いませんが、機敏な動きと大群社会で別の進化的な解を見せています。オマキザル属と対をなす、小型系統の代表格といえます。

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