フクロモモンガは、皮膜を広げて木から木へ滑空する、手のひらサイズの有袋類です。名前に「モモンガ」と付きますが、リスの仲間ではなく、カンガルーやコアラと同じ有袋類です。夜行性で、日本ではペットとしても親しまれています。
分類と学名
フクロモモンガは、有袋類のなかのフクロモモンガ科に含まれます。同じ「モモンガ」でも、リス科の齧歯類(げっしるい)であるニホンモモンガとは、まったく別のグループです。
分類階層
- 界:動物界 Animalia
- 門:脊索動物門 Chordata
- 綱:哺乳綱 Mammalia
- 目:カンガルー目(双前歯目) Diprotodontia
- 科:フクロモモンガ科 Petauridae
- 属:フクロモモンガ属 Petaurus
- 種:フクロモモンガ Petaurus breviceps
和名・英名
- 和名:フクロモモンガ
- 英名:Sugar glider
名前の由来と分類の話
「フクロ」は有袋類のおなかの袋を、「モモンガ」は滑空する姿を表しています。英名の Sugar glider は「砂糖をなめる滑空動物」という意味で、甘い樹液や花の蜜を好むことに由来します。
フクロモモンガは、かつて一つの種とされてきました。しかし2020年の研究で、いくつかの種に分けられています。ペットとして世界で飼われている個体の多くは、このうちのクレフトフクロモモンガ(Petaurus notatus)にあたるとされます。
大きさ・分布などの基本データ
| 大きさ | 頭胴長 約12〜15cm(尾を入れて24〜30cm) |
|---|---|
| 体重 | 約100〜160g |
| 分布 | オーストラリア東部、ニューギニアなど |
| 生息環境 | 森林の樹上 |
| 食べ物 | 樹液・花蜜・昆虫など(雑食) |
| 寿命 | 野生で約9年、飼育下で10〜12年ほど |
| 保全状況 | IUCN: LC(軽度懸念) |
リスに似た有袋類
フクロモモンガの姿は、リスの仲間のモモンガによく似ています。しかし体のつくりをみると、両者はまったく別のグループに属します。

モモンガ・ムササビとの違い
齧歯類と有袋類
モモンガやムササビは、ネズミやリスと同じ齧歯類です。いっぽうフクロモモンガは、カンガルーやコアラと同じ有袋類です。見た目は似ていても、歯のつくりや子育ての方法が大きく違います。フクロモモンガはおなかの袋で子を育てますが、モモンガにはこの袋がありません。
※ 有袋類は、まだ未熟な状態で子を産み、おなかの袋の中で乳を飲ませて育てる哺乳類のなかまです。カンガルーやコアラも有袋類です。
三種を並べると、体のつくりと分類の違いがはっきりします。
| フクロモモンガ | モモンガ | ムササビ | |
|---|---|---|---|
| 分類 | 有袋類 | 齧歯類(リス科) | 齧歯類(リス科) |
| 大きさ(頭胴) | 約12〜15cm | 約14〜20cm | 約30〜50cm |
| おなかの袋 | ある | ない | ない |
| おもな分布 | オーストラリア・ニューギニア | 日本・ユーラシア | 日本・アジア |
似た姿が別々に生まれた
遠く離れたグループでありながら、両者はよく似た姿をしています。どちらも樹上で暮らし、皮膜を使って滑空する夜行性の動物です。同じような暮らしに合わせて、別々に似た形へ進化したと考えられています。このような現象は、収斂進化(しゅうれんしんか)と呼ばれます。

おなかの袋で子を育てる
とても小さな赤ちゃん
有袋類のフクロモモンガは、育児嚢(いくじのう)と呼ばれるおなかの袋で子を育てます。生まれたての赤ちゃんは、わずか0.2gほどしかありません。目も開かず毛もない状態で生まれ、袋の中の乳首に吸いついて育ちます。生後60日ほどは袋の中で過ごし、やがて外に出てきます。目が開くのは生まれてから80日ほど、巣立ちは110日ほどとされます。
オスも子育てに加わる
フクロモモンガは、オスも子育てに関わる数少ない哺乳類の一つとされます。群れの中心となるオスが、子を守る役割を担います。群れには順位があり、上位のオスが子を残すことが多いとされます。一度に生まれる子は、一頭または二頭のことが多いようです。
皮膜で滑空する暮らし
フクロモモンガの最大の特徴は、体の横に張った皮膜です。この膜を使い、木から木へと空を滑るように移動します。
皮膜を広げて飛ぶ
前あしと後ろあしをつなぐ膜
皮膜は、前あしの指から後ろあしの指にかけて張っています。木から飛び出して手足を広げると、体は四角い凧(たこ)のような形になります。ふだんは体の横にたたまれていて、滑空するときだけ大きく開きます。

50mを超える滑空
一度の滑空で、50m以上をすべることもあります。長い尾をかじのように使って、飛ぶ向きを調整します。高い場所から飛び出すほど遠くへ進み、およそ1m下がるあいだに1.8mほど前へ進むとされます。飛び立つときは、高い枝から身を投げ出して四本の足を広げます。着地の直前に体を起こし、幹に足からつかまります。木から木へ直接移ることで、地面におりる回数を減らし、天敵に襲われる危険を避けていると考えられています。
夜行性の大きな目
フクロモモンガは夜行性で、昼間は樹洞(じゅどう)などで眠って過ごします。前を向いた大きな目は、暗い中でもよく見えるつくりです。よく動く耳で、小さな音も聞き分けます。夜の森を、音と視覚をたよりに動きまわります。オーストラリア東部からニューギニアにかけての森に住み、標高の高い山地の林でも見られます。
何を食べ、どう暮らすか
フクロモモンガの食べ物や暮らし方は、樹上と夜の生活に深く結びついています。

季節で変わる食べ物
フクロモモンガは雑食で、食べ物は季節によって変わります。虫の多い夏は昆虫をよく食べ、冬はユーカリやアカシアの樹液や樹脂をなめて過ごします。花の蜜や花粉、木の実も口にします。花から花へ移るときに花粉を運ぶため、植物の受粉を助ける役割ももっています。樹液や樹脂に含まれる複雑な糖を消化するため、盲腸(もうちょう)がよく発達しています。
群れで暮らし、においで縄張りを示す
フクロモモンガは社会性が高く、七頭ほどの家族の群れで暮らします。オスは額や胸に臭腺(しゅうせん)をもち、においを付けて仲間や縄張りの目印にします。飼育下で独特のにおいがあるのは、このためです。一頭あたりの行動範囲は0.5ヘクタールほどで、群れは縄張りをにおいで守ります。上位の二頭のオスがたがいに争わず、下位のオスをおさえる関係も知られています。
鳴き声も豊かで、警戒するときや仲間を呼ぶときなど、場面によって声を使い分けます。犬のような声で鳴くこともあります。寒い時期には体を寄せ合い、活動を落として眠る休眠(きゅうみん)に入ることもあります。休眠中は体温が10〜19℃ほどまで下がり、休眠は2〜23時間ほど続きます。わずかなエネルギーで寒さをしのぐ、省エネの状態です。
天敵と身の守り方
野生では、フクロウやヘビ・大型のトカゲ・野生化したネコなどに狙われます。木から木へ滑空し、地面におりない暮らしは、こうした天敵を避けるのにも役立つとされます。危険が迫ると、素早く別の木へ飛び移ります。昼間は樹洞に潜み、姿を見せないようにして過ごします。
保全と近年の状況
広い意味でのフクロモモンガは、これまで軽度懸念(LC)とされ、ふつうに見られる動物です。しかし近年の研究や環境の変化から、注意すべき点も分かってきました。
生息地の分断と山火事
2020年に種が分けられた結果、せまい範囲に住む種は、以前より環境の変化に弱いと考えられるようになりました。フクロモモンガは昼間の眠り場所として樹洞を使うため、古い木のある森が欠かせません。2019年から2020年にかけての大規模な森林火災では、こうした森が大きな被害を受けました。木々が切り開かれて森が分断されると、滑空で行き来できる範囲もせまくなります。
光害の影響
夜行性のフクロモモンガにとって、夜の強い人工の明かりは暮らしのさまたげになります。明かりの強い場所では、えさ探しや天敵を避ける行動がうまくいきにくいとされます。街の明かりが自然の森にまで届くことが、近年の課題として指摘されています。
ペットとしてのフクロモモンガ
日本では、フクロモモンガはエキゾチックアニマルとして飼われています。小さな体と大きな目で人気がありますが、飼うにはいくつもの注意が必要な動物です。
飼育の難しさ
もともと群れで暮らす動物のため、一匹だけで飼うとさびしがることがあります。夜行性で、夜に活発に動いたり鳴いたりする点も、暮らしに合わせにくいところです。寿命は10年を超えることもあり、長い期間の世話が必要になります。オーストラリアでは野生動物として保護されており、日本で飼われている個体は海外で繁殖されたものです。仲間との関わりが足りないと、食欲をなくしたり自分の体をかんだりする問題が出ることも知られています。夜行性や群れ性、長い寿命といった特徴から、迎えるには十分な準備がいる動物とされます。
餌とにおいの注意
飼育下では、専用のフードに昆虫や果物などを組み合わせて与えられます。カルシウムが不足すると、後ろあしが動かなくなる「後肢麻痺(こうしまひ)」が起きることが知られています。これを防ぐには、カルシウムとリンの割合に配慮した食事が必要とされます。栄養がかたよると体調をくずしやすい動物です。水分の多い果物なども好みますが、チョコレートやカフェインを含むものは体に害があるとされます。オス特有のにおいは、去勢によって弱まる場合もあります。
値段と毛色
ペットとしては、専門店などで数万円ほどで扱われることが多いようです。飼育に必要なケージや保温器具をそろえると、初めにかかる費用はさらに増えます。飼育のなかで品種改良も進んできました。灰色をした一般的な「ノーマル」のほか、白っぽい個体や模様の変わった個体など、さまざまな毛色が生み出されています。
参考
- Sugar glider(en.wikipedia.org)分類・2020年の種分割・滑空・食性・繁殖・寿命
- Cremona et al. (2020)フクロモモンガ属の分類の見直し(3種への分割)
- IUCN Red List「Petaurus breviceps」保全状況(軽度懸念)
画像出典
- アイキャッチ:Greg Tasney, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons(Petaurus breviceps)
- 枝の写真:patrickkavanagh, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons(Sugar Glider, Petaurus breviceps)
- 皮膜を広げた標本:MUSE – Science Museum, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons(Petaurus breviceps)
- 採食の写真:Public domain, via Wikimedia Commons(Petaurus breviceps, sugar glider)


