ウミイグアナは、ガラパゴス諸島だけに住む、海に潜って餌をとる世界で唯一のトカゲです。岩場に生える海藻を食べ、冷たい海に潜っては、岩の上で日光浴をして体を温めます。黒っぽい体と、鼻から塩を吹き出す習性で知られています。同じ島には、陸で暮らすリクイグアナも住んでいます。
分類と学名
ウミイグアナは、爬虫綱の有鱗目(ゆうりんもく)のなかの、イグアナ科に含まれるトカゲです。学名は Amblyrhynchus cristatus といいます。海に住むイグアナはこの一種だけで、同じガラパゴスの陸に住むリクイグアナとは、近い仲間にあたります。
分類階層
- 界:動物界 Animalia
- 門:脊索動物門 Chordata
- 綱:爬虫綱 Reptilia
- 目:有鱗目 Squamata
- 科:イグアナ科 Iguanidae
- 種:ウミイグアナ Amblyrhynchus cristatus
和名・英名
- 和名:ウミイグアナ(ガラパゴスウミイグアナ)
- 英名:Marine iguana
名前の由来
「ウミ(海)」は、海に潜って餌をとる暮らしにちなみます。陸で暮らすリクイグアナに対して、海に入るイグアナを分けて呼ぶための名前です。英名の Marine iguana も、「海のイグアナ」という意味になります。学名の Amblyrhynchus は「鈍い鼻先」を指し、海藻を岩からかじりとるのに向いた、丸みのある口の形にちなみます。
大きさ・分布などの基本データ
| 大きさ | 全長1.2〜1.5mほど(尾が体の半分以上) |
|---|---|
| 分布 | ガラパゴス諸島の固有種(岩の多い海辺) |
| 生息環境 | 溶岩の岩場が広がる海岸や、その周りの海 |
| 食べ物 | 岩に生える海藻(紅藻・緑藻) |
| 寿命 | およそ12年ほど |
| 保全状況 | 危急(VU)=数が減りつつある |
海に潜る唯一のトカゲ
ウミイグアナが他のトカゲと大きく異なる点は、海に入って餌をとることです。海で暮らすトカゲは、世界でこの一種だけとされます。
岩に生える海藻を食べる
ウミイグアナの餌は、岩の表面に生える海藻です。丸みのある口を岩に押しあて、短い海藻をかじりとって食べます。とがった歯で、岩についた藻を削るように口へ運びます。陸のイグアナが植物を食べるのに対し、こちらは海の藻を主な餌にしています。
体の大きさで分かれる採食
ウミイグアナは、体の大きさによって餌をとる場所が分かれています。大きなオスは沖の海へ、メスや若い個体は岸の岩場へと、それぞれ別の場所で海藻を食べます。
沖に潜る大きなオス
体の大きなオスは、沖の海に潜って海藻をとります。深いところでは水深30mまで潜り、長いときには1時間ちかく水中にとどまるとされます。大きな体は冷たい海でも冷えにくく、深くまで潜るのに向いているようです。沖の岩に生える海藻を、じっくりと食べることができます。
磯で食べるメスと若い個体
メスや体の小さな個体は、潮の引いた岩場で海藻を食べることが多いようです。体が小さいと海の冷たさで早く冷えるため、深くは潜りません。潮が引いてあらわれた磯の海藻を、水に入らずについばみます。体の大きさに合わせて、無理のない場所で餌をとっています。
潜るあいだは心臓の動きを落とす
冷たい海に長くとどまるため、ウミイグアナは潜るあいだ、心臓の動きをゆっくりにするといわれます。心拍を落とすことで、体の熱や酸素の消耗をおさえていると考えられています。水の冷たさに合わせて、体のはたらきを切りかえる生きものです。
黒い体と泳ぐための姿
ウミイグアナの体は、海に潜る暮らしに合った形をしています。黒っぽい体や平たい尾は、冷たい海で生きるための特徴です。

黒い体で日ざしの熱をためる
ウミイグアナの体は、黒っぽい灰色をしています。黒い色は日ざしの熱を吸いやすく、冷えた体を早く温めるのに役立つと考えられています。冷たい海から上がったあと、体温を取りもどすうえで、この体色が向いているとされます。溶岩の黒い岩場では、体の色が景色に溶けこみます。
泳ぎと岩場に合った体
ウミイグアナの体には、海を泳ぎ、岩場にしがみつくための特徴がそなわっています。平たい尾と鋭いつめが、その代表です。
泳ぐための平たい尾
尾は左右に平たく、体の半分以上をしめます。この尾を左右にふって、魚のように水をかいて泳ぎます。手足は泳ぐあいだ体にそわせ、尾の動きだけで進むとされます。細長く平たい尾が、海を泳ぐうえで大きな役目をはたしています。
岩をつかむ鋭いつめ
足には長く鋭いつめがあります。このつめで、波の当たる岩にしっかりとつかまります。強い波に流されないよう、岩の表面をがっちりととらえるのです。背中には、とげのようなうろこが一列に並びます。
岩の上で日光浴をする
ウミイグアナは変温動物なので、まわりの温度で体温が決まります。ガラパゴスの海は冷たく、長く潜ると体が冷えてしまいます。そこで海から上がると、岩の上で体を広げ、日光浴をして体を温めます。体が温まるまでは、岩場でじっとしていることが多いようです。
鼻から塩を吹き出す
海藻を食べ、海水にふれるウミイグアナの体には、塩分がたまりやすくなります。この余分な塩を体の外に出すしくみが、鼻にあります。
塩類腺のはたらき
ウミイグアナが余分な塩を体の外に出すのは、鼻にある塩類腺(えんるいせん)のはたらきによります。海の水や海藻から入る塩を、この器官が受けもっています。
塩を集める塩類腺
ウミイグアナの鼻の奥には、塩類腺という器官があります。ここで、体にたまった余分な塩分を集めます。海藻を食べ、海水にふれる暮らしでは、体に塩がたまりやすくなります。その塩を集めて始末するのが、この塩類腺の役目です。
くしゃみのように吹き出す
集めた塩は、鼻の穴からくしゃみのように吹き出されます。飛ばした塩は、頭の上に白い粉のようにこびりつくことがあります。塩を吹くようすは、まるでくしゃみをしているように見えるものです。こうして、海で暮らすうえで欠かせない塩の始末をしています。
島の自然とのつながり
島の自然のなかで、ウミイグアナはほかの生きものや歴史とも、深くつながっています。
エルニーニョで体が縮む
数年ごとに起こるエルニーニョという海の変化のときには、海水が温かくなり、餌の海藻が減ります。餌が足りなくなると、ウミイグアナは体が小さく縮むことが知られています。全長が最大で2割ほども縮むという報告もあります。餌がもどると体もまた大きくなり、環境に合わせて体の大きさが変わると考えられています。

クリスマスイグアナ
ウミイグアナの体色は、住む島によって違います。エスパニョラ島のものは、繁殖期になると体が赤みをおび、背には緑がかった色があらわれます。赤と緑の組みあわせから、この島のものは「クリスマスイグアナ」と呼ばれます。ふだんは黒っぽいウミイグアナのなかでも、目を引く色あいをしています。
リクイグアナとの交雑
サウスプラザ島という小さな島では、ウミイグアナとリクイグアナが、まれに交雑することが知られています。生まれた子は育つものの、その多くは子孫を残せないとされます。海のイグアナと陸のイグアナが交わる、めずらしい例です。陸のイグアナについては、次のページでくわしく紹介しています。

ダーウィンが見た「闇の魔物」
ガラパゴス諸島は、生物学者ダーウィンがおとずれたことで知られています。ダーウィンは、岩場にむらがる黒いウミイグアナを見て、「闇の魔物」と書き記しました。陸の上での動きは鈍く見えたようで、あまり良い印象では書かれていません。それでも、海に潜って餌をとるこのトカゲは、後の研究で大きな注目を集めました。
守られる島のイグアナ
ウミイグアナは、ガラパゴス諸島だけに住む生きものです。しかし、近年はその数が減り、危急(VU)に分類されています。
環境の変化と外来動物
数が減る原因のひとつは、エルニーニョによる餌不足です。海藻が減る年には、多くのウミイグアナが弱ってしまいます。また、人が島に持ちこんだネコやネズミ・イヌなどが、卵や子をおそうことも脅威となっています。海への油の流出も、体をよごし、命をおびやかします。もともと島にいなかった動物や、人の活動が、島のイグアナに負担をかけています。
数を守る取り組み
ガラパゴスでは、外来動物を減らす取り組みが続けられています。島の自然を守るしくみのなかで、ウミイグアナも保護の対象になっています。海と陸にまたがって暮らすイグアナについて、島での数の回復がめざされています。
イグアナのなかま
ウミイグアナは、イグアナ科の一種です。同じ仲間には、ペットで知られるグリーンイグアナや、陸で暮らすリクイグアナがいます。イグアナの仲間全体については、次のページでまとめて紹介しています。

参考
- ウミイグアナ Amblyrhynchus cristatus(Wikipedia日本語版)分類・分布・交雑・天敵
- Marine iguana(Wikipedia英語版)採食・潜水・塩類腺・エルニーニョ・クリスマスイグアナ・ダーウィン・保全
- ウミイグアナ(各図鑑)体・生態・ガラパゴス
画像の出典
- アイキャッチ(岩場を歩く姿):Bernard Gagnon, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
- 黒い体と鋭いつめ:Bernard Gagnon, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
- クリスマスイグアナ:Nicolas Völcker, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons


