カンムリワシは、石垣島や西表島など、沖縄の八重山諸島だけに暮らすワシです。後頭部の冠のような羽が名前の由来で、ヘビを好んで食べる「蛇鷲(じゃしゅう)」のなかまです。日本ではごく限られた場所にしかいない貴重な鳥で、国の特別天然記念物に指定されています。ボクサー具志堅用高さんの愛称としても知られます。
分類と学名
分類階層
- 界:動物界 Animalia
- 門:脊索動物門 Chordata
- 綱:鳥綱 Aves
- 目:タカ目 Accipitriformes
- 科:タカ科 Accipitridae
- 属:カンムリワシ属 Spilornis
- 種:カンムリワシ Spilornis cheela
和名・英名
- 和名:カンムリワシ(冠鷲)
- 英名:Crested serpent eagle
名前の由来
「カンムリワシ」の名は、後頭部にある冠のような羽(冠羽)にちなみます。驚いたときなどに、この冠羽を立てる姿が見られます。英名の Crested serpent eagle は「冠のあるヘビワシ」という意味で、ヘビを食べる習性をよく表しています。漢字では「冠鷲」と書きます。日本にいるものは、八重山諸島だけに暮らす固有の亜種です。
大きさ・分布などの基本データ
| 大きさ | 全長 約55cm/翼を広げた幅 約1m(体重 約800g) |
|---|---|
| 分布 | 東南アジア〜南アジアに広く分布。日本では八重山諸島(石垣島・西表島・与那国島)のみ |
| 生息環境 | 森林と、その周りの水田・農地・林縁 |
| 食べ物 | ヘビをとくに好む。カエル・トカゲ・カニ・昆虫など |
| 繁殖 | 3〜4月に樹上へ営巣。卵は1個 |
| 保全状況 | IUCN:LC(軽度懸念)/日本の個体群:絶滅危惧IA類(CR)・特別天然記念物 |

冠羽をもつ南の島のワシ
白い斑と後頭部の冠羽
大きさと冠羽
カンムリワシは、全長55センチメートルほどの中型のワシです。ワシのなかまとしては大きくありませんが、翼を広げると1メートルほどになります。いちばんの特徴は、後頭部に生える冠羽です。ふだんは寝かせていますが、興奮すると立てて、頭が大きく見えます。この冠羽は、ほかのワシやタカと見分ける大きな手がかりになります。飛ぶときは、幅の広い丸みのある翼を広げ、ゆっくりと輪をえがきます。
褐色の体に白い斑点
全身の羽は褐色で、翼や腹には白い小さな斑点が散らばります。尾は白く、先のほうが黒くなっています。飛ぶと、翼の下面に白と黒の帯模様が現れます。目やくちばしのつけ根は黄色みをおび、遠くからでもよく見分けられます。若い鳥は胸から腹が白っぽく、成鳥とはずいぶん見た目が違います。2年目ごろから、しだいに褐色の羽へと変わっていくとされます。電柱や木のてっぺんにとまる、ずんぐりとした姿がよく見られます。
八重山だけに暮らすワシ
カンムリワシは、東南アジアから南アジアにかけて広く分布するワシです。そのなかで、日本の八重山諸島は分布のいちばん北のはしにあたります。石垣島・西表島・与那国島に暮らすものは、ここだけにいる固有の亜種です。亜熱帯の島の森と、そのまわりに広がる田んぼが、このワシの暮らしを支えています。一年をとおして島で暮らす留鳥で、渡りはしません。南の島づたいに分布を広げた結果、日本では八重山にだけ残ったと考えられています。日本の最も西にある与那国島でも、記録が知られています。

ヘビを食べる蛇鷲
ヘビが大好物
カエルやカニも食べる
カンムリワシは、名前のとおりヘビをとくに好んで食べます。八重山の島々に暮らすヘビは、この鳥の大切な獲物です。大きなヘビをとらえると、するどい足でしっかりと押さえてから食べます。じょうぶな足とかぎ爪が、あばれるヘビをおさえこむのに役立つとされます。ヘビのほかにも、カエル・トカゲ・カニ・大きな昆虫など、いろいろな小動物を食べます。田んぼや林のふちで、こうした獲物をさがして暮らしています。ときには、道路で車にひかれた小動物の死骸を食べることもあります。ヘビは頭のほうから飲みこむことが多く、蛇鷲らしい食べ方をします。
電柱で待ち伏せ、地上で仕留める
カンムリワシの狩りは、待ち伏せが基本です。電柱や木の枝にとまり、獲物が通りかかるのをじっと待ちます。獲物を見つけると、いったん地上に降りてから襲うことが多いのが特徴です。この降りてからの狩りはうまくいかないことも多く、空ぶりに終わる場面もよく見られます。低い電柱や標識にとまる姿は、島の道路ぞいでとくによく見かけられます。
巣は樹上、卵は1個
カンムリワシは、3〜4月ごろ、高い木の上に枝を組んだ皿形の巣をつくります。産む卵は、ふつう1個だけです。オスとメスが交代であたため、およそ35日でヒナがかえります。ヒナは2か月ほどで巣立ち、翌年の春に親から独立します。1回に1個しか産まないため、数がふえるのはゆっくりです。親はヒナの世話に長い時間をかけ、独立まで手をかけて育てます。

特別天然記念物のワシ
絶滅の危機と交通事故
島にわずかしかいない
日本のカンムリワシは数がとても少なく、絶滅危惧IA類とされています。国の特別天然記念物であり、国内希少野生動植物種にも指定されています。近年の調査では、石垣島でおよそ110羽、西表島で80羽ほどが確認されました。もともとの数が少ないうえに、増え方もゆるやかなため、保護が欠かせない鳥です。世界には広く分布する鳥ですが、日本国内の生息数はごく限られます。
車にひかれる事故が多い
カンムリワシは、道路ぎわの電柱にとまり、地上へ降りて狩りをします。そのため、車にひかれる交通事故が、大きな脅威になっています。近づく車に驚いてもすぐには飛び立てず、とっさに逃げきれないことがあるためです。夜明けや夕方には、路上に出た小動物を狙って、道路の近くへ降りることが多くなります。雨あがりには、路面に出てきたヘビやカエルを追う個体もいるようです。島では、事故を減らすための注意の呼びかけや、けがをした個体の保護が続けられています。ヘビが減るような環境の変化も、この鳥の暮らしに影を落とします。

具志堅用高と「カンムリワシ」
石垣島の島の鳥
カンムリワシは、石垣島の人々にとって、身近で誇りとなる鳥です。石垣市は1977年に、カンムリワシを市の鳥に定めました。石垣島出身のボクサー、具志堅用高さんは、世界王座をとったあとに「カンムリワシ」の愛称で呼ばれました。これによって、カンムリワシの名は全国に知られるようになりました。この愛称は、地元・八重山の言葉での本人の発言がきっかけになったと伝えられます。空港や店先など、島のあちこちで、カンムリワシをかたどった絵や像を見かけます。

カンムリワシの豆知識
「ピィーョ」と鳴く声
カンムリワシの鳴き声は、「ピィーョ」「ピュイュー」と聞こえる、よく通る声です。晴れた日には、上昇気流に乗って空高く舞いながら、この声で鳴くこともあります。八重山では、上空を飛びながら鳴くことも多いとされます。姿より先に、声で存在がわかることも多いようです。繁殖期には、つがいでかわるがわる鳴きかわす姿も見られます。
世界に広がる蛇鷲の仲間
カンムリワシを含むカンムリワシ属には、アジアの各地に何種類もの仲間がいます。どれもヘビなどを食べる蛇鷲のなかまで、地域ごとに姿や大きさが少しずつ違います。こうした蛇鷲のなかまは、東南アジアの島々でとくに種類が豊富です。日本のカンムリワシは、その大きなグループのなかで最も北に暮らす一員です。台湾など近くの島にも、よく似た仲間が分布します。たとえばアフリカには、地上を歩いてヘビを狩るヘビクイワシがいます。系統はちがっても、ヘビを主な獲物にする猛禽は、世界のあちこちで暮らしています。ヘビの多い暖かい地域ほど、そうした猛禽が見られる傾向があります。
関連記事


参考
- ウィキペディア「カンムリワシ」(分類・形態・食性・繁殖・分布・保全)
- 石垣市・西表野生生物保護センター(保護・交通事故・個体数)
- 文化庁 文化遺産オンライン(特別天然記念物の指定)
画像出典
- アイキャッチ・顔と冠羽:Crested Serpent Eagle — Crisco 1492, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
- 全身:Crested Serpent Eagle — Mildeep, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
- 枝で待ち伏せ:Crested Serpent Eagle (Western Ghats) — T. R. Shankar Raman, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
- 青空に止まる姿:Crested serpent-eagle (Yala) — Charles J. Sharp, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
- 冠羽:Crested serpent eagle (Pench) — Rohit Sharma, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
- 顔:Crested serpent eagle (Yala) — Senthiaathavan, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons


