キンクロハジロ

キンクロハジロのオス・貝をくわえた姿 水鳥類

キンクロハジロは、体長40〜47cmの中型の潜水ガモです。学名は Aythya fuligula。オスは頭が黒っぽく光沢を放ち、後頭部から長い冠羽(かんう)を垂らします。体側は白で翼と背中は黒。この「金・黒・羽白」の3色に鮮やかな金色(黄色)の目が加わり、和名「金黒羽白」はこの色の組み合わせに由来する命名です。

ユーラシア大陸北部で繁殖し、冬鳥として日本列島全域に渡来する代表的な水鳥です。都市公園の池・河川・湾内・湖沼など身近な水辺で観察でき、都心の皇居のお堀や上野不忍池、京都の御所苑池でも冬になると数十羽の群れが見られます。水中に潜って貝や水草を食べる「潜水採食」が特徴で、水面採食のカルガモやマガモとは行動パターンが大きく異なります。

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分類と学名

分類階層

  • 界:動物界 Animalia
  • 門:脊索動物門 Chordata
  • 綱:鳥綱 Aves
  • 目:カモ目 Anseriformes
  • 科:カモ科 Anatidae
  • 属:ハジロ属 Aythya
  • 種:キンクロハジロ Aythya fuligula

和名・英名

  • 和名:キンクロハジロ(金黒羽白)
  • 英名:Tufted Duck(タフテッド・ダック)

別名と名前の由来

  • 和名「キンクロハジロ」:漢字で「金黒羽白」。金=目の鮮やかな金色/黒=オスの頭部と背中の黒/羽白=体側と初列風切の白、の3要素を並べた率直な命名です。日本語のカモ類の和名は「頬白」「尾長」「白眉」など体の色を直接名前にする例が多く、その代表格の一つです。
  • 英名「Tufted Duck」:直訳すると「房のあるカモ」。オスの後頭部から垂れる長い冠羽(羽の房)に由来する命名で、日本人は色に、英語圏は房の形に着眼した違いが表れています。
  • 属名 Aythya:古代ギリシャ語で「水鳥・海鳥」を指す言葉。ホシハジロ・スズガモ・オオホシハジロなど、潜水採食を得意とする「潜水ガモ」の一群に共通する属名です。
  • 種小名 fuligula:ラテン語で「すす色の喉」の意味。体色の暗い色合いに由来する種名です。

大きさ・生息などの基本データ

越冬期:湖沼・河川・湾内・都市公園の池・河口・港湾/繁殖地:ツンドラ〜針葉樹林帯の湖沼
大きさ全長 約40〜47cm(マガモよりやや小型)/翼開長 約67〜73cm/体重 約550〜900g
体色オス(繁殖羽):頭部・首・胸・背中・尾が光沢のある黒/体側と腹が真っ白/後頭部に長い冠羽(8〜10cm)/目が鮮やかな金色/くちばしは青灰色で先端が黒/オス(非繁殖羽・エクリプス):黒が薄れ全体的にくすんだ茶褐色に近づく/メス:全体が暗い茶褐色/目は金色/冠羽は短めで目立たない/くちばし基部にわずかな白斑が出ることもある
分布繁殖地:北ヨーロッパ・ロシア・中国東北部・シベリア/越冬地:ヨーロッパ南部・地中海沿岸・日本列島・朝鮮半島・中国南部・東南アジア北部/日本には冬鳥として全国に渡来
生息環境
食性動物食が中心/貝類(タニシ・シジミ・淡水二枚貝)/水生昆虫の幼虫/甲殻類/水草の種子や根/潜水して底の生物を捕食
繁殖大陸の繁殖地で5〜7月に繁殖/湖沼の岸辺の草地に営巣/1腹8〜11個の卵/抱卵は主にメス(約23〜28日)/日本国内では基本的に繁殖しない(渡来のみ)
鳴き声オス:「クルル」「ヴィウー」と柔らかい低音/メス:「クワッ」「ガッ」と鋭い声/越冬期はほぼ鳴かず静かに群れで漂う
寿命野生で約10年程度(記録では15年超の例もある)
保全状況IUCN:LC(軽度懸念)/日本の越冬個体数は安定/狩猟対象種(狩猟鳥)に指定されている
キンクロハジロのオス・全身
Maga-chan, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons(東京都目黒川で観察されたオス)

「金・黒・羽白」の名前どおりの姿─オスの特徴

後頭部から垂れる長い冠羽

英名 Tufted の由来

キンクロハジロのオスの最大の特徴は、後頭部から後方に垂れ下がる細長い冠羽です。長さは8〜10cm程度で、風に流されて頭の後ろに寝たり立ち上がったりします。英名 Tufted Duck(房のあるカモ)はこの冠羽に由来し、他の潜水ガモ(ホシハジロ・スズガモ)にはない目印になっています。冠羽は繁殖期でとくに長く発達し、非繁殖期にはやや短く目立たなくなります。

金色の目と青灰色のくちばし

オスの顔をよく見ると、瞳が鮮やかな金色(山吹色に近い黄色)に輝きます。この目の色こそ和名「金黒羽白」の「金」の由来です。くちばしは青灰色で先端が黒く縁取られ、金色の目・青灰のくちばし・光沢のある黒い頭のコントラストが、水面に浮かぶ姿を美しく引き立てます。

体側の白は「羽白」の由来

体の側面は真っ白で、黒い胸と背中との境界がくっきり分かれます。この白い体側が和名「羽白」の由来です。水面から見上げる位置では黒と白のツートンカラーが強く印象に残り、遠目にも「これはキンクロハジロ」と判断しやすい配色になっています。

キンクロハジロのオス・後頭部の冠羽
あおもりくま, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons(後頭部の冠羽が明瞭)

メスと非繁殖期の姿─オスメスで大きく違う

メスは全体が暗い茶褐色

メスはオスとは印象が全く違い、全身が地味な暗い茶褐色に覆われます。冠羽もオスより短く目立たず、体側の白もありません。それでも「目が金色」の点は共通で、暗い体色の中で瞳の色だけがオスと同じ金色に輝きます。この目の色を確認できれば、地味なメスもキンクロハジロと判別できます。個体によってはくちばしの根元にわずかな白斑が出ることがあり、これも識別の補助になります。

非繁殖期のオス「エクリプス羽」

カモ類のオスは繁殖期が終わると、一時的にメスに似た地味な羽色(エクリプス羽)に変わる期間があります。キンクロハジロのオスも夏〜初秋にかけて黒色部分がくすみ、体側の白もやや汚れた色合いに変化します。冠羽もこの期間は短くなり、パッと見ではメスと区別しにくくなります。日本に渡来する秋以降には繁殖羽に戻っており、越冬期は基本的にはっきりしたオスの姿で観察できます。

キンクロハジロのメス・全身が茶褐色
Maga-chan, CC BY-SA 2.5, via Wikimedia Commons(メス・横浜市金沢区)

潜水採食と食性─水中で貝を捕える

数十秒潜って底の貝を食べる

キンクロハジロは名前が示すハジロ属の名のとおり潜水採食を得意とし、水面から一気に潜って水底の獲物を捕えます。潜水時間は通常10〜30秒、最大で1分近く潜る個体も観察されています。主な餌はタニシ・シジミなどの淡水二枚貝や巻貝で、これに水生昆虫の幼虫・甲殻類・水草の種子や根も加わります。動物食に大きく偏った食性が特徴です。都市公園の池では底の巻貝を集中的に食べる姿がよく見られます。

「臭い」と言われる理由

キンクロハジロは狩猟対象種にも指定されていますが、他のカモ類(マガモ・カルガモ)と比べて食用としては敬遠されがちで、「肉が臭う」「泥臭い」と言われることがあります。理由の一つは、貝類を主食とすることで肉に磯の香りや泥臭さがつきやすいためと考えられています。植物食が中心のマガモに比べ、動物食(とくに底生の貝類)に偏った食性が味の違いを生むという説明です。生きた個体の身体自体が異臭を発するわけではなく、あくまで食用時に語られる話題として広まった認識です。

キンクロハジロのオス・貝を食べる姿
Alpsdake, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons(貝をくわえるオス・三重県)

越冬期の群れと近縁種との見分け

ホシハジロ・スズガモとの違い

3種の見分けポイント

日本の越冬期に見られる潜水ガモの主な3種は、キンクロハジロ・ホシハジロ・スズガモです。ハジロ属で似た体型ですが、色の組み合わせで区別できます。

比較項目キンクロハジロホシハジロスズガモ
オスの頭黒(光沢)+長い冠羽栗色(赤褐色)暗緑黒色(緑光沢)
オスの背灰色(細かい波模様)灰色(細かい波模様)
オスの体側真っ白灰色白(波模様入り)
目の色金色赤〜赤褐色金色
冠羽あり(長い房)なしなし

混群でよく見られる

越冬期のキンクロハジロは、単独でなく数十〜数百羽の群れをつくって過ごします。ホシハジロやスズガモと混群を組むことも多く、大きな湖沼や河川では複数種のハジロ属が入り混じった群れが観察できます。木曽川・霞ヶ浦・琵琶湖などの大水域では、双眼鏡で群れを走査するとキンクロハジロの冠羽と黒白のツートンがまず目に飛び込みます。

キンクロハジロの群れ・冬の木曽川
Alpsdake, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons(木曽川の混群・キンクロハジロ・ホシハジロ・スズガモ)

冬に会える場所と季節

10月〜3月が観察シーズン

キンクロハジロは冬鳥として、10月下旬〜11月上旬に日本列島全域に渡来し、翌年3月下旬〜4月上旬に大陸の繁殖地へ北帰します。次のような場所が定番の観察スポットです。

  • 都市公園の池(皇居のお堀・上野不忍池・井の頭池・大阪城公園・京都御所苑池など)
  • 湖沼(琵琶湖・霞ヶ浦・宍道湖・諏訪湖など)
  • 河川の中〜下流域と河口
  • 湾内・港湾・入江
  • ため池・農業用貯水池

都市部に強い水鳥

キンクロハジロは都市化の進んだ水辺にもよく適応する種として知られます。皇居のお堀や上野不忍池では毎年数十羽から百羽以上の群れが越冬し、市民に親しまれる冬の風物詩となっています。潜水採食のため水面採食のカルガモやマガモとは餌が競合しにくく、同じ池でも棲み分けが成立します。人慣れした個体はパンなどを与えられる場面もありますが、健康や生態系への影響を考えて給餌は控えるのが望ましいとされます。

キンクロハジロ・水面で羽ばたく姿
Yasuo Hamashima, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons(水面で羽ばたくキンクロハジロ・群馬県)

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参考

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