ハダカデバネズミは、東アフリカの地中で暮らす、毛のない小さなネズミのなかまです。アリやハチのように、一匹の女王を中心とした群れで生きる、めずらしい哺乳類です。齧歯類のなかまでは飛び抜けて長生きで、老いのサインが出にくいことから、医学の研究でも注目されています。哺乳類なのに体温を自分で保てない、変わった体のつくりでも知られます。
分類と学名
分類階層
- 界:動物界 Animalia
- 門:脊索動物門 Chordata
- 綱:哺乳綱 Mammalia
- 目:齧歯目(ネズミ目)Rodentia
- 科:ハダカデバネズミ科 Heterocephalidae
- 属:ハダカデバネズミ属 Heterocephalus
- 種:ハダカデバネズミ Heterocephalus glaber
和名・英名
- 和名:ハダカデバネズミ(裸出歯鼠)
- 英名:Naked mole-rat
名前の由来
「裸出歯鼠(はだかでばねずみ)」という名は、その姿をそのまま表しています。毛のない「裸」の体、口の外に出た「出歯」の前歯、そして「ネズミ」のなかまであることを合わせた名前です。名前にモグラを思わせる部分はありませんが、暮らしぶりはモグラによく似ています。ただし、モグラとは別のなかまで、あくまでネズミの一員です。
大きさ・分布などの基本データ
| 大きさ | 頭胴長 約10〜14cm/尾長 約3〜5cm(体重 約9〜70g) |
|---|---|
| 分布 | 東アフリカ(エチオピア・ケニア・ソマリアなど)の乾いた土地 |
| 生息環境 | 地中に掘ったトンネル。一生のほとんどを地下で過ごす |
| 食べ物 | 地中の植物の根や、イモのような塊茎 |
| 寿命 | 飼育下で30年ほど。齧歯類のなかで最長級 |
| 保全状況 | IUCN:LC(軽度懸念) |

毛のない、しわだらけの体
ピンク色の裸の体
小さな体と毛のなさ
ハダカデバネズミの体は、頭から尾まで10センチメートル少々の、とても小さなネズミです。体重は、重いものでも70グラムほどしかありません。体の毛はほとんどなく、しわの多いピンク色の肌がむき出しになっています。ただし、体には感覚のするどい細い毛がまばらに生えていて、暗い地中で物にふれるのに役立ちます。
口の外に出た前歯
いちばんの特徴は、口の外に飛び出した大きな前歯です。この前歯は、土を掘るためのシャベルのような道具として使われます。くちびるは、前歯の後ろで閉じるようになっています。そのため、前歯で土を掘っても、口の中に土が入りません。左右の前歯をべつべつに動かせるため、はしのように土をつまむこともできます。
目や耳が小さい地中の住人
一生を暗い地中で過ごすため、目はとても小さく、視力はほとんどありません。外に張り出した耳たぶもなく、顔はのっぺりとした印象です。そのかわりに、ひげや体の毛・においや振動を手がかりとして、トンネルの中を動きまわります。暗い地下の暮らしに、体のつくりが合わせられています。光のとどかない地中では、目にたよらない暮らしが選ばれてきたと考えられます。

女王をいただく地中の社会
一匹の女王だけが子を産む
女王と働きデバ
ハダカデバネズミは、アリやハチと同じように、「真社会性」という暮らし方をします。哺乳類でこの暮らし方をするのは、ごくわずかしかいません。一つの群れには、平均して70〜80匹ほどが暮らします。そのなかで子を産むのは、たった一匹の女王だけです。女王は、ほかのメスが子をもてないように、その体のはたらきをおさえていると考えられています。女王が死ぬと、次の座をめぐって、メスどうしの激しい争いが起こります。
大きさで分かれる役割
女王以外の多くは、子を産まずに群れのために働きます。体の小さな個体は、トンネルを掘ったり、食べ物を運んだりします。体の大きな個体は、ヘビなどの外敵から巣を守る役目です。まるで一つの体のように、役割を分けあって群れが動きます。女王は一度に十数匹もの子を産み、その数は齧歯類のなかでも多いほうです。
地中のトンネルで暮らす
群れは、地下に張りめぐらせた長いトンネルの中で暮らします。トンネルには、食べ物をさがす道・休む部屋・トイレの場所などが分かれています。掘り出した土は、地上へ押し出して山にします。この土の山が、外敵であるヘビに巣を見つけられる手がかりにもなってしまいます。

老いにくく、がんになりにくい?
30年生きる長生きのネズミ
年をとっても衰えにくい
ふつうのネズミの寿命が数年ほどなのに対し、ハダカデバネズミは飼育下で30年ほども生きます。齧歯類のなかでは、飛び抜けて長生きな動物です。しかも、年をとっても体の衰えが目立ちにくいことが知られています。年齢とともに死ぬ割合が上がりにくい点は、多くの動物とは大きく違う特徴だとされます。
がんになりにくいわけ
ハダカデバネズミは、がんになりにくい動物としても注目されています。体の中に、細胞がむやみに増えるのをおさえるしくみがあると考えられています。とくに、特別なヒアルロン酸という物質が、その働きにかかわるとされます。ただし、飼育された個体でがんが見つかった例もあり、まったくがんにならないわけではありません。
酸素がうすくても生きられる
大勢が地中の巣にひしめくため、巣の中の空気は酸素がうすくなりがちです。ハダカデバネズミは、そんな環境でも平気で生きられます。酸素がまったくない状態でも、しばらくのあいだ耐えられることが実験でわかっています。このとき、ふつうとは別のしくみで、果糖を使ってエネルギーを作り出していると考えられています。
体温を保たない変温の哺乳類
まわりの温度に体温が合う
多くの哺乳類は、寒くても暑くても、体温をほぼ一定に保ちます。ところがハダカデバネズミは、体温を自分で調節するしくみをほとんどもちません。体温は、まわりの温度に合わせて上がり下がりします。哺乳類でありながら、変温動物のようなふるまいをする、めずらしい動物です。こうした性質は、温度の安定した地中の暮らしと深くかかわっているとされます。
折り重なる「布団係」
体温を保てないぶん、暮らす地中の温度がほぼ一定なことが、この動物を支えています。それでも寒いときには、仲間どうしで折り重なって暖をとります。下になった個体が、上の仲間を温める「布団」のような役目をすることもあります。体が冷えすぎたときは、暖かい部屋へ移って体温を調節することもあります。地中の温度がほぼ一定であることと、仲間どうしで折り重なる行動とが、体温調節のしくみの乏しさを補っているとされます。

どこで会える
日本の動物園で見られる
ハダカデバネズミは、日本のいくつかの動物園でも飼育・展示されています。上野動物園や、埼玉県こども動物自然公園などでは、群れの暮らしをガラスごしに観察できます。トンネルを模した展示では、土を掘る姿や、折り重なって眠る地中さながらの暮らしが見られます。体長10センチほどの小ささや、毛のないしわの多い肌を、間近で見ることができます。
ハダカデバネズミの豆知識
鳴き声には「方言」がある
ハダカデバネズミは、見た目のわりに、鳴き声でのやりとりがさかんな動物です。ピーピーやチャッチャッといった、いろいろな声を使い分けます。近年の研究では、群れごとに声の特徴が違い、いわば「方言」のようなものがあるとされます。目のきかない地中で、声はなかまを見分ける大切な手がかりになっています。
医学研究のスター
老いにくく、がんになりにくいという特徴から、ハダカデバネズミは医学の研究で大きく注目されています。人の老化や病気を防ぐヒントが、その体のしくみにかくれているかもしれないと期待されています。日本でも、この動物を専門に研究するグループがあります。老いや酸素のうすさに強いしくみには、まだわかっていない部分も多く残されています。
参考
- ウィキペディア「ハダカデバネズミ」(分類・形態・真社会性・寿命・生理)
- IUCN Red List「Heterocephalus glaber」(保全状況=軽度懸念)
- 各種の学術記事(長寿・がん耐性・低酸素耐性・鳴き声の研究)
画像出典
- アイキャッチ・全身:Naked mole rat in a zoo — Roman Klementschitz, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons
- 前歯:Naked Molerat eating — Ltshears (Trisha M Shears), Public domain, via Wikimedia Commons
- 野生(ケニア):Heterocephalus glaber, Samburu — Bernard DUPONT, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons
- 全身:Naked Mole rat — Ltshears, Public domain, via Wikimedia Commons
- 展示の巣穴:Heterocephalus glaber — Wes Bryant, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons


