ホホジロザメは、海の食物連鎖の頂点に立つ、大型のサメです。体長は6mに達し、するどい歯とすぐれた感覚で獲物をしとめます。映画「ジョーズ」のモデルとして、人食いザメの代表のように語られてきました。しかし、その実像は、イメージとは少し違います。
分類と学名
分類階層
- 界:動物界 Animalia
- 門:脊索動物門 Chordata
- 綱:軟骨魚綱 Chondrichthyes
- 目:ネズミザメ目 Lamniformes
- 科:ネズミザメ科 Lamnidae
- 属:ホホジロザメ属 Carcharodon
- 種:ホホジロザメ Carcharodon carcharias
和名・英名
- 和名:ホホジロザメ(ホオジロザメとも。漢字で「頬白鮫」)
- 英名:Great white shark(大きな白いサメの意味)
名前の由来
ホホジロザメの背中は、灰色や青灰色をしています。いっぽう、おなか側は白くなっています。この白さから、「頬白(ほほじろ)」の名がつきました。英語の Great white shark も、白いおなかに由来します。海の中では、上から見ると背の灰色が海にとけこみ、下から見ると白い腹が空にまぎれます。獲物に気づかれにくい、うまい体の色です。
大きさ・分布などの基本データ
| 大きさ | 体長 約4〜6m(メスがオスより大きい)・体重 1〜2t |
|---|---|
| 分布 | 世界の温帯・亜熱帯の海。日本の近海にもいる |
| 生息環境 | 沿岸から外洋まで。海面近く〜水深1000m以上 |
| 食べもの | 肉食(アザラシ・アシカ・魚・イルカ・ほかのサメなど) |
| 寿命 | 70年をこえると考えられている |
| 保全状況 | IUCN: VU(危急) |
海の頂点に立つ捕食者

体長6mの巨体
ホホジロザメは、獲物をおそうサメのなかで最大です。大きなメスは、体長6mに達します。体重は1tをこえ、2t近くになる個体もいます。ジンベエザメやウバザメには及びませんが、これらはプランクトンを食べるおとなしいサメです。「獲物をおそう肉食のサメ」としては、ホホジロザメが最大級です。
下から襲い、宙を舞う
ホホジロザメの狩りは、待ちぶせが基本です。海の深いところから、獲物のかげを見上げてねらいます。相手が海面近くを通ると、下から一気に加速して襲いかかります。太陽を背にした獲物のシルエットを、下から見つけるのがうまいのです。
海面を割るブリーチング
アザラシをねらうときは、勢いあまって海面から3mも飛び上がることがあります。この大ジャンプは「ブリーチング」と呼ばれます。2tの体が海面を割って宙を舞う姿は、大きな迫力があります。南アフリカの海などで、よく観察されています。
メガロドンの子孫?
大昔の海には、メガロドンという巨大なサメがいました。体長は15mをこえたと考えられ、ホホジロザメの2倍以上です。姿が似ていることから、長いあいだホホジロザメの祖先だと考えられてきました。しかし近年は、メガロドンは別の系統で、直接の祖先ではないとする見方が有力です。ホホジロザメは、むしろアオザメの仲間に近いとされます。同じ「大きな捕食ザメ」でも、たどってきた道は違うようです。
するどい歯と、黒い目

300本の、生え変わる歯
ホホジロザメの口には、約300本の歯がならんでいます。歯は三角形で、ふちがノコギリのようにギザギザです。このギザギザで、かたい皮や肉を切りさきます。前の歯が折れたり抜けたりすると、後ろから新しい歯が前へ送られてきます。まるでベルトコンベアのように、歯は一生、何度も生え変わります。
黒く見える、まぶたのない目
ホホジロザメの目は、まん丸で黒く見えます。よく見ると、ほんとうは濃い青色をしていて、黒っぽく見えているのです。人が「目が真っ黒でこわい」と感じるのは、この色のためです。サメの目には、人のようなまぶたがありません。かわりに、別の方法で大切な目を守ります。
襲うとき、白くむく目
ホホジロザメは、獲物にかみつく瞬間、目玉をぐるりと後ろへ回します。すると、黒目が消えて白目だけになり、白くにごったように見えます。あばれる獲物から、大切な目を守るための動きです。この「白目むき」は、ホホジロザメの狩りを語るとき、よく知られた特徴です。
温かい体と、ザラザラの肌

まわりより高い体温
多くの魚は、まわりの水と同じ体温になります。ところがホホジロザメは、体の一部を水より高い温度に保てます。冷たい海の中でも、体はぽかぽかと温かいのです。温めた筋肉は力強く動き、すばやい泳ぎや狩りに役立ちます。短い距離では、時速24kmほどまで加速できるとされます。
止まると呼吸できない
ホホジロザメは、泳ぎ続けることで呼吸をします。口から入った海水をエラに通し、そこで酸素を取り入れるしくみです。泳ぐのをやめると、うまく水を取りこめず、息が苦しくなります。そのため、眠るときも完全には止まらず、泳ぎながら体を休めると考えられています。水そうの中で飼うのがむずかしい理由の一つも、この習性にあります。
歯と同じ「ウロコ」の肌
サメの肌は、さわるとザラザラしています。体の表面には、「楯鱗(じゅんりん)」という小さなウロコがびっしり生えています。このウロコは、歯とよく似たつくりをしています。前から後ろへなでると、さめ肌が水の流れをととのえ、泳ぐときの抵抗を減らします。ワサビをおろす「さめ皮おろし」は、このザラザラの肌を使った道具です。
微弱な電気を感じる
ホホジロザメは、するどい感覚をいくつも持っています。においには特にすぐれ、遠くの血のにおいもかぎ分けます。さらに、鼻先には「ロレンチーニ器官」という電気を感じるしくみがあります。生きものが動くときに出る、ごくわずかな電気を感じ取れます。にごった水や暗い海でも、かくれた獲物を見つけ出せます。
「ジョーズ」の実像 ― 本当に人を襲う?

人を「えさ」にはしない
ホホジロザメは、人を襲う危険なサメとして恐れられてきました。たしかに、世界で起きるサメによる事故の多くに関わっています。人身事故の多いサメは、ホホジロザメ・イタチザメ・オオメジロザメの3種が知られます。しかし、ホホジロザメが人を「えさ」として好んで食べるわけではありません。ふだんのえさは、脂肪の多いアザラシやアシカです。人の体は、サメにとってごちそうではないのです。
なぜ人をかむのか
多くのかみつきは、確かめるための「試しがみ」だと考えられています。海面のサーファーを、下からアザラシと見まちがえることもあるようです。ひと口かんで人と分かると、多くはそのまま去っていきます。それでも大きな歯を持つため、ひと口でも大けがにつながります。
命を落とす事故はまれ
おそろしいイメージとはうらはらに、命を落とす事故は世界でも年にわずかです。映画「ジョーズ」が広めた「人食いザメ」の姿は、実際よりずっと大げさなものでした。今では、正しい知識をもとに、むやみに恐れない見方が広がっています。
天敵は、シャチ
肝臓をねらうシャチ
海の頂点に立つホホジロザメにも、こわい相手がいます。それは、シャチです。シャチは、群れの知恵と力で、ホホジロザメを襲うことがあります。とくに、栄養たっぷりの肝臓だけをねらって食べることが知られています。ひっくり返して動けなくさせ、正確に肝臓を抜き取る例も観察されています。
シャチが来ると姿を消す
シャチにおそわれると、ホホジロザメはその海域から一斉に姿を消すことがあります。数か月ものあいだ、もどってこないこともあります。強い王者に見えるホホジロザメも、シャチの前では身を引くのです。海の王者どうしの力関係が、近年の観察で少しずつ分かってきました。
卵から、体の中でかえる
おなかの中で卵を食べて育つ
ホホジロザメは、卵を産むのではありません。メスの体の中で卵をかえし、子ザメの姿で産みます。このふえ方を「卵胎生(らんたいせい)」といいます。変わっているのは、おなかの中での育ち方です。先に育った子ザメは、母親が次々に出す栄養用の卵を食べて大きくなります。母乳のかわりに卵を食べて、おなかの中で力をたくわえるのです。この「食卵(しょくらん)」のおかげで、生まれる子は少数ですが、どれも大きく強く育ちます。
大きく生まれ、ゆっくり育つ
おなかの中でおよそ1年を過ごし、2〜10匹ほどが生まれます。生まれたときすでに、体長1mをこえる立派な子ザメです。大きく生まれるぶん、天敵におそわれにくくなります。ただし、大人になるまでには非常に長い時間がかかります。メスが子を産めるようになるのは、30歳を過ぎてからともいわれます。生まれる子が少なく、成長もおそいため、数はなかなか増えません。
どこにいる? 会える?
日本の海にもいる
ホホジロザメは、世界の温帯や亜熱帯の海に広く分布します。日本の近海にもすんでいます。瀬戸内海や日本海などで、姿が見られることがあります。えさや水温を追って、海をこえる長い旅もします。ある個体は、1年たらずで2万kmもの距離を泳いだ記録があります。
ふだんは1匹で行動する、単独のサメです。ただし、アザラシの多い海など、えさの豊富な場所には何頭も集まります。そこでは、体の大きな個体が優先してえさを食べる、ゆるやかな上下関係も見られます。広い海を、それぞれが単独で旅する暮らしです。
水族館では飼えない
「水族館で見たい」と思う人も多いですが、ホホジロザメの飼育はとてもむずかしいものです。広い海を泳ぎ続ける習性があり、水そうの中では弱ってしまいます。世界中で飼育がこころみられましたが、多くは数日ともちませんでした。今のところ、ホホジロザメを長く飼える水族館はありません。会うには、海で観察する「ケージダイビング」などの方法があります。
減っていく数
強い王者に見えるホホジロザメも、今は数を減らしています。ヒレを目当てにした漁や、あみにかかる事故が大きな原因です。成長がおそく、子の数も少ないため、減るといっきに回復しにくいのです。IUCNは、ホホジロザメを危急(VU)に分類しています。海の生態系の頂点を支える、大切な存在です。

関連記事

参考
- Wikipedia(英語版)「Great white shark」(大きさ・狩り・歯・体温・繁殖・保全)
- IUCN Red List:Carcharodon carcharias(VU・個体数の減少と脅威)
- 各国の研究機関の報告(シャチによる捕食・回遊の追跡)


