アジアゾウは、インドから東南アジアにかけて暮らすゾウです。牙が目立つのはオスだけで、なかには牙のないオスもいます。2006年の実験では、鏡に映った姿を自分だと分かる個体が確認されました。日本では戦後まもなく来園した「はな子」が69歳まで生きました。
分類と学名
分類階層
- 界:動物界 Animalia
- 門:脊索動物門 Chordata
- 綱:哺乳綱 Mammalia
- 目:長鼻目 Proboscidea
- 科:ゾウ科 Elephantidae
- 属:アジアゾウ属 Elephas
- 種:アジアゾウ Elephas maximus
和名・英名
- 和名:アジアゾウ
- 英名:Asian elephant/Asiatic elephant
名前の由来と4つの亜種
種小名の maximus は「最大級の」を意味します。アジアゾウ属で今も生きているのは、この1種だけです。
種の下には4つの亜種が置かれています。インドゾウ・セイロンゾウ・スマトラゾウ・ボルネオゾウです。分けているのは分布する地域で、大陸部のインドゾウのほかは島ごとに分かれます。
- インドゾウ Elephas maximus indicus(インドから東南アジアの大陸部)
- セイロンゾウ Elephas maximus maximus(スリランカ)
- スマトラゾウ Elephas maximus sumatranus(スマトラ島)
- ボルネオゾウ Elephas maximus borneensis(ボルネオ島北東部・1950年に記載)

大きさ・分布などの基本データ
| 大きさ | 体高 オス平均2.75m(最大3.43m)・メス平均2.40m/鼻を含む体長5.5〜6.5m |
|---|---|
| 体重 | オス平均5.4t(最大6.7〜7t)・メス平均2.7t |
| 分布 | 西はインド・東はボルネオ島・北はネパール・南はスマトラ島まで |
| 生息環境 | 草原・熱帯/亜熱帯の湿潤広葉樹林・半常緑樹林など。標高0〜3,000m超 |
| 食べもの | 草・枝・葉・樹皮・根・果実など112種以上。1日最大150kg/水は1日80〜200L |
| 繁殖 | 妊娠18〜22か月/1回に1頭/出産間隔4〜5年/授乳は最長3年/初産17〜18歳 |
| 寿命 | 野生で約60年(記録では80年以上) |
| 個体数 | 野生で48,323〜51,680頭(2019年時点) |
| 保全状況 | IUCN:EN(絶滅危惧・1986年以降)/ワシントン条約 附属書I |

牙のないオス「マクナ」
オスとメスの牙
メスの短い牙「タッシュ」
アジアゾウで外から見て分かる牙を持つのは、基本的にオスだけです。メスには牙がないか、あっても外から見えないほど短く収まります。この短いものは英語で tushes と呼ばれ、口の外にはほとんど出てきません。
一方、オスの牙は長く伸びます。記録に残る大きなものは、長さ2.4m・直径43cm・重さ41kgでした。45〜68kgという重さの記録もあります。
マクナと呼ばれるオス
オスのなかにも、牙を持たない個体がいます。こうしたオスは現地で「マクナ(makhnas)」と呼ばれます。セイロンゾウに多く見られる特徴です。
牙のないゾウはアフリカゾウでも報告されていますが、そちらは密猟の圧力で割合が増えた経過をたどっています。アジアゾウのマクナは、もともと種のなかにある変異です。


1日150kgを食べる暮らし
食事に費やす時間
1日の50〜75%
アジアゾウは、1日の50〜75%という時間を食事に使います。量にすると、多いときで150kgの植物が体に入ります。この150kgは、平均5.4tのオスであれば体重の3%近くにあたります。
草や葉は、体の大きさに見合う栄養をまとめて得られる餌ではありません。そのため、少しずつ長く食べ続けることになります。
112種の植物と、200Lの水
食べるものは草・木の枝・葉・樹皮・根・果実と幅広く、確認されている植物は少なくとも112種にのぼります。何を口にするかは、季節や場所によってまちまちです。水は1日に80〜200L必要で、少なくとも1日1回は飲みます。

鏡に映る自分
2006年の実験
額のXに触れた1頭
2006年、ニューヨークのブロンクス動物園で、3頭のメスのアジアゾウを使った実験が行われました。囲いの中に、高さ2.5m・幅2.5mの大きな鏡が置かれます。
研究チームは、ゾウの頭に2種類の印を付けました。目に見えるXの印と、位置は同じでも目には見えない印です。3頭のうちハッピーという個体は、鏡を見ながら、見えるXのほうだけを鼻で繰り返し触りました。見えない印には反応しません。研究チームは、この反応を鏡の像を自分と認識した証拠と評価しました。
マークテストに加わったゾウ
この方法はマークテストと呼ばれ、自分の姿を認識できるかを調べる標準的な試験です。それまで合格が確かめられていたのは、人・類人猿・イルカ・カササギに限られていました。この報告で、ゾウがその一覧に加わります。
3頭のうち印に触れたのは1頭だけでした。マークテストは、合格しなかった個体に自己認識がないと決めつけられる試験ではありません。鏡そのものへの関心や、印の付いた場所への慣れなど、結果を左右する条件が多いためです。アジアゾウは陸上の動物のなかで、認知に関わる大脳皮質の体積が最も大きいとされています。
日本のアジアゾウ
国内の飼育数と繁殖
32施設に86頭
日本の動物園でゾウといえば、多くはアジアゾウです。2025年11月の時点で、32施設にオス23頭・メス63頭の合計86頭が暮らしています。ゾウ科は特定動物に指定されているため、飼育には許可が必要です。
国内で繁殖に初めて成功したのは2004年です。それから2025年までの繁殖は17例にとどまります。妊娠だけで2年近くかかり、次の出産まで4〜5年空くため、数を増やすには時間がかかります。
はな子の69年
2013年に66歳で国内最高齢の記録を更新したゾウが、井の頭自然文化園のはな子です。1947年ごろタイのクンジャラ農園で生まれ、2歳半で日本へ渡りました。タイと日本の友好の印として、子どもたちの求めに応じて贈られた1頭です。
1949年9月4日に上野動物園へ着き、はな子と名づけられます。1954年に井の頭自然文化園へ移り、以後はそこで暮らしました。2016年5月26日に69歳で死亡するまで、飼育された期間は約66年8か月におよびます。正確な生年月日が分からないため、誕生日は毎年1月1日とされていました。

人とゾウの衝突
減る数と、増える摩擦
個体数の推移
野生のアジアゾウは、2019年の時点で48,323〜51,680頭と推定されています。過去60〜75年で、少なくとも半分に減ったとみられます。森が切り開かれて生息地が失われ、残った森も道路や畑で分断されました。
IUCNレッドリストでは1986年から絶滅危惧(EN)に分類され続けています。国別ではインドの推定27,312頭(2017年)が最多です。中国の雲南省に残るのは約300頭です(2020年時点)。
衝突による死者数
暮らす場所が狭まると、ゾウと人の距離は近づきます。2010年の研究では、インド全体で年に400人以上がゾウに殺害されていると推定されました。アッサム州では1980年から2003年までに、1,150人以上の人と370頭以上のゾウが死んでいます。
スリランカでは2019年に405頭のゾウが殺され、人の死者は121人と、いずれも過去最多を記録しました。

関連記事


参考
- Plotnik, de Waal, Reiss「Self-recognition in an Asian elephant」PNAS 103(45)(2006年)(ブロンクス動物園のマークテスト)
- 東京ズーネット「さようなら、アジアゾウ『はな子』」(生年・来園の経緯・移動・享年・飼育期間)
- ウィキペディア「アジアゾウ」(亜種・大きさ・牙・食性・個体数・人との衝突・国内の飼育数)
- IUCN Red List「Elephas maximus」(EN=絶滅危惧)
画像出典
- Basile Morin, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons(アイキャッチ・ラオス)
- Charles J. Sharp, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons(セイロンゾウのメスと子)
- Yathin S Krishnappa, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons(牙の長いオス)
- Tisha Mukherjee, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons(水を飲む若いインドゾウ)
- Alexander Klink, CC BY 3.0, via Wikimedia Commons(目のアップ)
- uniunitwins, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons(はな子・2013年)
- Carlos Delgado, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons(野生の群れ)


