チョウザメ

古代魚

チョウザメは、ジュラ紀からほぼ姿を変えずに現代まで生き延びてきた「生きた化石」の淡水魚です。名前に「サメ」とありますが、サメ(軟骨魚類)とは別のグループで、条鰭類のなかでも最も原始的な体つきを残す27種の総称にあたります。体は5列の硬い骨質の板(硬鱗)で覆われ、口は歯がなく、餌を吸い込むように食べます。オオチョウザメは1827年に体長7.2m・体重1,571kgの記録があり、卵は「キャビア」として世界最高級の食材になります。一方で乱獲と生息地破壊によりチョウザメ類の85%以上が絶滅の危機にあり、地球でもっとも絶滅の危機に瀕した動物グループの一つに数えられています。日本にも歴史的に北海道へ遡上するミカドチョウザメが記録されていました。

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分類と学名

分類階層

  • 界:動物界 Animalia
  • 門:脊索動物門 Chordata
  • 綱:条鰭綱 Actinopterygii
  • 目:チョウザメ目 Acipenseriformes
  • 科:チョウザメ科 Acipenseridae(現生27種/5属)
  • 主な属:チョウザメ属 Acipenser、ダウリアチョウザメ属 Huso、ヘラチョウザメ属 Scaphirhynchus ほか

和名・英名

  • 和名:チョウザメ(蝶鮫/鱘魚)
  • 英名:Sturgeon
  • アイヌ語:ユペ/オンネチェプ(老大魚)/カムイチェプ(神の魚)

名前の由来

和名の「チョウザメ」は、体表に並ぶ5列の硬い骨質の板(硬鱗)の一枚一枚が蝶の形に見えることと、全体のシルエットがサメに似ていることから「蝶+鮫」と名づけられました。ただし本種は軟骨魚類のサメ類とは分類が全く違う条鰭類(硬骨魚に近い一群)の魚で、名前に反してサメの仲間ではありません。英名 sturgeon はゲルマン系の古い呼び名で、フランス語 esturgeon などにつながる古い語源を持ちます。

大きさ・分布などの基本データ

大きさ種によるが通常2〜3.5m。最大種オオチョウザメ(Huso huso)の記録は体長7.2m・体重1,571kg(1827年ヴォルガ川デルタ)
分布ユーラシア・北米の亜熱帯〜亜寒帯の河川・湖沼・沿岸。日本には歴史的にミカドチョウザメが遡上した記録があります
生息環境多くは河川で産卵し、三角州・河口・沿岸で摂餌する遡河魚。純淡水種(イケチョウザメ・バイカルチョウザメなど)もあります
寿命平均50〜60年、条件が良ければ100年以上。性成熟に15〜20年、遅い種では20年超
保全状況IUCNレッドリストで科の85%以上が絶滅危惧または近絶滅に指定される、動物界でもっとも危険な状況にあるグループの一つです

姿と体のつくり

チョウザメの側面と5列の硬鱗
Jonathan Cardy, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

5列の硬鱗と軟骨の骨格

体を守る骨質の板

チョウザメの体は細長い紡錘形で、皮膚は滑らかで通常の鱗を欠き、代わりに5列に並ぶ大きな骨質の板(硬鱗/scutes)が背中と体側を鎧のように覆います。硬鱗の一枚一枚は蝶の形をしていて、これが和名の由来にもなっています。この骨板と大きな体格のおかげで成魚は天敵をほとんど持たず、乱獲以前は長寿を全うできる魚でした。

軟骨の骨格と脊索

骨格はほぼ完全に軟骨でできており、条鰭類でありながら軟骨魚類のサメと似た体の作りを残しています。椎骨の椎体を欠き、脊椎動物としては珍しく成体になっても脊索が体を貫いて残る点も原始的な特徴です。尾鰭は上葉の長いサメ型の異尾で、この形も進化の古さを示す指標として知られています。

歯のない吸引式の口と4本のヒゲ

吻(口先)は細長く前方に突き出し、その下側に前へ突き出せる伸縮式の口が開きます。口の中には歯がなく、砂泥の底の獲物を掃除機のように吸い込んで食べます。吻の下面には4本のヒゲが並び、味と触感で獲物を探る感覚器として使われます。ヒゲを底に触れさせながらゆっくり泳ぎ、貝・甲殻類・小魚などを吸い上げるのが基本の狩り方で、大型種は魚食性でサケなど大きな獲物を丸のみにする場合もあります。

ジュラ紀からほぼ姿を変えない「生きた化石」

モントレー湾水族館の生息地展示に泳ぐチョウザメ
Kārlis Dambrāns (janitors), CC BY 2.0, via Wikimedia Commons(モントレー湾水族館)$6

1.7〜2億年の系譜

チョウザメ目の魚は、ジュラ紀前期(約1.74〜2.01億年前)の化石記録に登場する条鰭類のなかで最古参のグループです。現生のチョウザメ科自体は白亜紀後期に化石が現れ、カナダのアルバータ州で見つかったセノマニアン期(約1億〜9,400万年前)の頭蓋骨がもっとも古い記録のひとつに数えられます。以来、体の形は極めてゆっくりとしか変わっておらず、進化のスピードが並外れて遅い「生きた化石」として扱われてきました。

変化が少ない理由

形態変化が少ない背景には、長い寿命と遅い世代交代・広い温度や塩分への耐性・大きな体と硬鱗のために天敵が少ないこと・餌となる底生生物が安定して豊富なことなどが指摘されています。異尾・少数だが大きな鱗・条数の多い鰭・独特な顎の付き方など、いくつもの原始的な特徴が現代まで残っているのが本科の魅力です。

遡河と純淡水 ―多様な生活史

ウルム動物園水族館のチョウザメ
Vigneshdm1990, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

多くのチョウザメ類は、川で生まれて海へ下り、成長したのち産卵のために遡上する遡河魚(anadromous)です。三角州や河口の栄養豊富な汽水域で底生生物を食べて育ち、大人になってから産卵のために上流へ戻ります。一方でイケチョウザメ(Acipenser ruthenus)やバイカルチョウザメのように純淡水で一生を過ごす種もいて、コロンビア川のシロチョウザメやオビ川のシベリアチョウザメのように、ダムなどで河川に閉じ込められて淡水化した個体群も知られています。

100年の寿命と20年の性成熟

飼育下のオオチョウザメ
Daniel Döhne, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

成熟が遅い長寿命の魚

平均50〜60年・最長は100年超え

チョウザメは魚類のなかでもとくに長命で、平均寿命は50〜60年、条件がよければ100年をゆうに超える個体もいます。性成熟までにも15〜20年、種によっては20年以上かかることが知られています。

産卵は毎年ではない

産卵には春の適切な日照・卵が付着できる浅瀬の岩や砂利・透明な水・十分な酸素を含む水流など特定の条件が必要で、条件が揃わない年は産卵を見送ります。加えて長寿ゆえに1匹あたりの生涯産卵回数は限られており、乱獲に対して極めて脆弱な生活史をもつ魚として知られています。

10万〜300万個の卵

1匹のメスが放出する卵の数は10万〜300万個と桁違いに多く、そのうち受精した卵が粘着質になって岩などに付着します。孵化までは8〜15日で、仔魚は流れに乗って下流の湿地帯や三日月湖に運ばれ、そこで昆虫幼虫や甲殻類を食べて最初の1年を過ごします。1年で18〜20cmに達し、河川に戻って徐々に大きくなる長い成長曲線が本科の特徴です。

謎の跳躍行動 ―800m先まで届く水音

チョウザメ類は突然水面から高く跳び上がる行動でも知られています。大型個体が着水すると大きな水しぶきと轟音が生じ、その音は水面から800m離れた場所や水中からも聞こえるほどです。理由ははっきりわかっておらず、群れの結束を保つコミュニケーション・空中の獲物の捕食・求愛・卵の放出・寄生虫を落とすため・呼吸のため、といった仮説が並びます。「単に気分が良いから」という説まで挙げられており、大きな謎として残っています。

キャビア ―世界最高級の卵と乱獲の歴史

指先に載せたキャビアの一粒
The Ogre, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

3種の主要キャビア

ベルーガ・オセトラ・セブルーガ

キャビアはチョウザメの卵を塩漬けにした高級食材で、カスピ海と黒海周辺で古くから作られてきました。もっとも高価とされるのがオオチョウザメ由来の「ベルーガ」で、続いてロシアチョウザメの「オセトラ」、ホシチョウザメの「セブルーガ」が三大キャビアと呼ばれる代表格です。粒の大きさ・色・香りに違いがあり、いずれも1kgあたりの価格が数十万円に及ぶこともあります。

養殖キャビアの時代へ

野生からの採取は乱獲の大きな要因となったため、現在流通するキャビアの多くは養殖チョウザメから採取されたものです。日本でも宮崎県などがシベリアチョウザメを中心とした養殖と国産キャビアの生産に取り組んでおり、天然由来の輸入品に比べて安定供給できる資源として注目されています。

キャビア需要と乱獲

キャビアの需要が高まった19世紀以降、カスピ海のオオチョウザメを中心に本科の大型種は激しく漁獲され続けました。産卵まで15年以上かかる長寿の魚が、卵を持つ寸前のメスを狙って捕獲される構造のため、個体群の再生産が追いつきません。ダムの建設で産卵場への遡上が阻まれた影響も大きく、多くの種で野生の親魚が観察できないほど個体群が縮小しています。

85%が絶滅危機 ―地球でもっとも危険な動物グループ

国際自然保護連合(IUCN)の評価では、チョウザメ類の85%以上が絶滅危惧または近絶滅の指定を受けており、あらゆる動物群のなかでも突出して絶滅の危機に瀕したグループとされています。すでにアドリアチョウザメ(Acipenser naccarii)とチョウコウチョウザメ(Sinosturio dabryanus)の2種は野生絶滅、パリドスタージョンの一部個体群も野生では極めて厳しい状況にあります。生息地の破壊・ダム・水質汚染・キャビア目的の乱獲・密漁が主な要因で、養殖と生息地保全の両輪での対策が急務です。

日本のミカドチョウザメと養殖

北海道に遡上した「サハリンチョウザメ」

日本の在来チョウザメとしてしばしば挙げられるのがミカドチョウザメ(Sinosturio mikadoi/サハリンチョウザメ)で、歴史的に北海道の河川に遡上した記録があります。アイヌの人々は本種を「ユペ」「カムイチェプ(神の魚)」などの名で呼び、川と海を行き来する大型魚として敬っていました。近代以降は環境の変化と乱獲によって遡上が途絶え、現在では日本国内の川で観察されることはほとんどありません。

宮崎の「キャビア県」

現代の日本では、チョウザメは主に養殖魚として姿を見せます。宮崎県は1980年代からシベリアチョウザメの養殖研究を進め、「宮崎キャビア」ブランドの国産キャビアや、身の販売で知られる産地に成長しました。北海道の一部でもチョウザメ養殖の取り組みが続けられ、水産研究の対象として重要な位置を占めています。

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