カワムツ

硬骨魚類

カワムツは、西日本を中心に川や湖沼で普通に見かける、体長10〜15cmほどの淡水魚です。体側に太い紺色の縦帯が走り、繁殖期のオスは喉から腹が赤く染まる派手な婚姻色をまとうコイ目の身近な仲間です。オイカワと並ぶ「ハヤ」の総称で親しまれる一方、2000年頃までは「カワムツA型・B型」と呼ばれていた2集団のうち片方が2003年に「ヌマムツ」として分けられ、身近ながら分類が動き続けてきた魚でもあります。近年はチャビングと呼ばれるルアーフィッシングの対象魚として、少しずつ釣り好きの人気も集めるようになっています。

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分類と学名

分類階層

  • 界:動物界 Animalia
  • 門:脊索動物門 Chordata
  • 綱:条鰭綱 Actinopterygii
  • 目:コイ目 Cypriniformes
  • 科:クセノキプリス科 Xenocyprididae
  • 属:カワムツ属 Nipponocypris
  • 種:カワムツ Nipponocypris temminckii(Temminck & Schlegel, 1846)

和名・英名・地方名

  • 和名:カワムツ(川鯥)
  • 英名:Dark chub
  • 地方名:ハヤ・ハエ(各地)/アカバエ(北九州)/モト(近畿)/ムツ・モツ(琵琶湖沿岸)/ブト(静岡)/アカマツ(香川)

名前の由来と、動き続けてきた属名

「カワムツ」の名は、川に棲む「鯥(むつ)」に似た魚という意味からきています。地方名の「ハヤ」も動きが速いことに由来する俗称で、オイカワやウグイと一括りに呼ばれてきた歴史があります。属名の Nipponocypris は「日本のコイ属」の意で、2008年にオイカワ属 Zacco からカワムツ・ヌマムツが分けられた比較的新しい属名です。2013年の『日本産魚類検索』第3版ではさらに Candidia(タイワンアカハラ属)とされましたが、この属名変更は同書独自の扱いで、国際的には Nipponocypris が広く使われています。種小名 temminckii は、記載者の一人であるオランダの学者テミンクへの献名です。

大きさ・分布などの基本データ

大きさ体長 10〜15cm前後(大型オスは20cm近く)/体重 30〜80g
分布日本では能登半島・天竜川以西の本州から四国・九州まで/朝鮮半島全域と中国/アユなどの放流に混じり関東・宮城にも定着
生息環境川の中流域、湖沼。オイカワより水がきれいで流れの緩い場所を好む
寿命野生でおおむね3年前後
保全状況IUCN未評価。国内では普通種だが、名古屋市など一部地域で減少傾向

姿と体のつくり

カワムツ・体側の紺色縦帯が明瞭
Ffish.asia, CC BY 4.0, via Wikimedia Commons

太い紺色の縦帯 ―カワムツの目印

ずんぐりした体と大きな尻びれ

カワムツの体は側面から見ると紡錘形で、上から見るとオイカワに似ています。ただし胴に対してひれが小さく、体側の側扁が弱いために体幅が大きく、全体にずんぐりとした印象を与えます。頭は吻がとても短く丸みを帯び、口は大きく「への字」に裂けるのが特徴です。オイカワと同じ三角形の大きな尻びれをもち、この形も見分けの手がかりになります。

体側の太い紺色の縦帯

もっとも目立つ特徴が、頭から尾まで走る太い紺色の縦帯です。背中は黄褐色で、背びれの前には黄色い紡錘形の斑点が一つあり、胸びれと腹びれの前縁も黄色です。若魚やメスの体側から腹部にかけては銀白色ですが、成体のオスは繁殖期に喉から腹が赤く染まる派手な婚姻色をまといます。

繁殖期のオス ―腹の赤と追星

5〜8月の繁殖期になると、オスの体は大きく変化します。喉から腹にかけての赤い色が広がり、顔は赤黒く染まり、鼻先から頬にかけて白い突起「追星(おいぼし)」がびっしり並びます。同じコイ目のオイカワの婚姻色ほど華やかではありませんが、地味な普段の姿からは想像がつかない別種のような姿に変わる点で、身近な川魚のなかでも印象的な繁殖色です。

オイカワとの見分け方

婚姻色のカワムツオス・腹が赤い
Totti, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

2種の比較

カワムツオイカワ
体側太い紺色の縦帯桃色の横斑(婚姻色期)
体形ずんぐり・体幅広い細長くすっきり
吻の形短く丸いやや尖る
婚姻色喉〜腹が赤・顔は赤黒体側水色・腹桃色・七色
好む流れゆるい淵速い平瀬

同じ川で並んで見つかっても、体側の縦帯(カワムツ)か横斑(オイカワ)かで区別できます。稚魚のうちも、体側の帯がすでにカワムツの目印として現れているので、成魚と同じ基準で判別が可能です。

ヌマムツとの見分け方 ―元「A型・B型」

水槽で自然環境を再現したカワムツ
Lofor, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

2003年、A型がヌマムツ・B型がカワムツに

A型・B型と呼ばれていた頃

2000年頃まで、カワムツは「A型」と「B型」の2集団として同種扱いされてきました。同じ川に2つの型が並んで見られる状態が続き、遺伝子解析や生態観察の対象として研究者の関心を集めていました。

交雑せず、生態も違う

研究が進み、交雑が起きないこと・鱗の細かさが違うこと・生息環境の好みが違うことなどから、2003年に別種として整理されました。従来の「カワムツA型」が和名「ヌマムツ」、「カワムツB型」が現在の和名「カワムツ」に確定した経緯です。現在の学名 Nipponocypris temminckii もこのタイミングで安定していきました。

側線鱗数と生息環境で分ける

側線鱗数の差

実際の見分けの1点目は、側線に沿う鱗の数です。カワムツは46〜55枚、ヌマムツは53〜63枚で、ヌマムツの方がやや鱗が細かい傾向があります。数える手間はかかりますが、確実に分ける鑑別ポイントとして重宝されています。

流水と止水で好みが違う

2点目は生息環境です。カワムツは河川の中流の流水域を好む「流水適応型」、ヌマムツは用水路・支流・湖沼の緩やかな流れを好む「止水適応型」に分かれます。体側の縦帯や胸びれ・腹びれの前縁の色にもわずかな違いがあり、複数のポイントを組み合わせて判断されるのが現場での基本です。

棲み分け ―瀬と淵、そしてアユ

群れをなすカワムツ
Lofor, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

川那部浩哉が描いた宇川の棲み分け

魚類学者の川那部浩哉は、京都の宇川でカワムツとオイカワの棲み分けを詳しく観察しました。両者が同じ川にいるとき、オイカワが流れの速い「瀬」に出て、カワムツは流れのゆるい「淵」へ追いやられます。ここにアユが加わると、アユが最も浅い瀬に定位します。オイカワは中間の流れに移り、カワムツは瀬に押し出されてアユと共存する三段構えの棲み分けが成立します。日本の生態学の教科書に載る古典的な観察例です。

関東ではカワムツが優占する例も

近年は関東地方でこの関係が逆転した例も観察されています。オイカワが減ってカワムツが優占する河川があり、河川改修や水量変化が関わっていると考えられます。アユの放流に混じって関東・宮城にまで運ばれた集団が定着し、在来魚を圧迫している河川もあり、日本国内の移動でも外来種として扱う視点が必要とされます。オイカワとの交雑事例も、河川改修による産卵場の重なりから確認されています。

食性と繁殖

雑食で藻類も水生昆虫も

食性は雑食で、水生昆虫や水面に落下した昆虫・底生動物のほか、藻類や水草も口にします。動くものへの反応が良く、これが後述の「チャビング」のルアーフィッシング成立の理由にもなっています。オイカワと同じ川で暮らしても、こちらは流れのゆるい場所で腰を据えて餌を待つスタイルが目立ちます。

浅場に群れて産卵、若魚が卵を狙う

繁殖期は5〜8月です。成魚は昼の暑い時間帯に川の浅場に群がり、砂礫の中に卵を産みつけます。産卵の場に交配できなかった若魚が群がり、産まれた卵を食べてしまう行動が観察されており、身内での卵の食害という珍しい繁殖リスクを抱える魚でもあります。成熟には1〜3年かかり、寿命はおおむね3年程度とされます。

チャビング ―身近な川のルアー対象魚

釣り上げたカワムツ・網の上
りなべる, CC BY 4.0, via Wikimedia Commons

釣りの定番、フライやルアーでも

カワムツは、水遊びの相手や川釣りの外道として長く親しまれてきた身近な魚です。釣り方はウキ釣り・ミャク釣りが定番で、餌は練り餌・川虫・サシ・ミミズ・毛針・ブドウ虫(蛾の幼虫)などを使います。近年はフライフィッシングの対象魚として愛好者も増え、動くものへの反応が良い性質からルアーフィッシングでも狙われるようになりました。

「チャビング」は和製の呼び方

カワムツやオイカワなどの小型淡水魚を、トラウト用のウルトラライトタックルと小型のスプーンやスピナーで狙うルアーフィッシングは、日本で「チャビング」と呼ばれることがあります。元来英語圏の chubbing はヨーロピアン・チャブ(Squalius cephalus)を対象とした釣りを指す言葉で、対象魚は通常30〜40cm・大型は60cm級に達します。日本の「チャビング」は対象魚のサイズも釣法もまったく異なる独自の用法として発展してきました。食用としては「まずい」と検索されることもある魚ですが、甘露煮や唐揚げでオイカワと同じように利用されてきた地域食もあります。

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参考

  • Froese, R. & Pauly, D. (eds.) FishBase:Nipponocypris temminckii(分類・分布)
  • 細谷和海『増補改訂 日本の淡水魚』山と溪谷社(2019)(見分け・棲み分け・交雑)
  • 川那部浩哉『川の自然を残したい ―川那部浩哉先生とアユ』ポプラ社(宇川の棲み分け)
  • 大阪府立環境農林水産総合研究所「カワムツとヌマムツ」(A型・B型の分割経緯)
  • Wikipedia(日本語版):カワムツ(形態・生態・釣り/チャビング)

画像出典

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