オグロジャックウサギは、北米西部の砂漠と乾燥草原に住む大耳のノウサギです。「ジャックラビット」の代表格として英語圏で広く知られ、体長の4分の1に及ぶ長い耳を体温調節の放熱器として使う暑熱適応で有名な種です。40℃前後の砂漠で夏を凌ぐ体の造りを持つ野ウサギとして知られています。名前の由来は、開拓時代のカウボーイが「jackass(ロバ)の耳のようだ」と呼んだことにあるとされます。
分類と学名
分類階層
- 界:動物界 Animalia
- 門:脊索動物門 Chordata
- 綱:哺乳綱 Mammalia
- 目:ウサギ目 Lagomorpha
- 科:ウサギ科 Leporidae
- 属:ノウサギ属 Lepus
- 種:オグロジャックウサギ Lepus californicus
和名・英名
- 和名:オグロジャックウサギ(尾黒ジャック兎)
- 英名:Black-tailed jackrabbit、Desert hare、American desert hare
別名・学名の由来
種小名 californicus は「カリフォルニアの」を意味し、記載地に由来します。英名の「Jackrabbit(ジャックラビット)」は、19世紀の米国開拓時代に本種を初めて見たカウボーイたちが「jackass(ロバ)の耳のようだ」と呼んだ「jackass rabbit」が短縮されて定着した通称で、日本語の和名「オグロジャックウサギ」はその英名の直訳です。「オグロ(尾黒)」は、尾の上面に走る太く黒い縞から取られています。
大きさ・分布などの基本データ
| 大きさ | 体長 約61cm、体重 1.4〜2.7kg |
|---|---|
| 耳の長さ | 約12〜15cm(体長の約4分の1・ノウサギ属で最長級) |
| 体色 | 背面は黒混じりの暗褐色、腹面は淡白色、尾の上面に太い黒縞 |
| 分布 | 米国(ワシントン州中部〜メキシコ北部)/導入分布に米国南東部の一部 |
| 生息環境 | 灌木草地・砂漠・プレーリー・シャパラル。標高0〜3,000m |
| 食性 | 植物食(灌木・小木の葉・草本)。冬は木質、夏は多汁性の草本 |
| 活動時間 | 薄明薄暮性〜夜行性 |
| 繁殖 | 妊娠期間41〜47日/地域差大(アイダホは年2産・平均4.9頭、アリゾナは年7産・平均2.2頭) |
| 走行速度 | 時速55〜65km、跳躍距離最大 約6m |
| 寿命 | 野生でおよそ1〜5年 |
| 保全状況 | IUCN 軽度懸念(LC) |
姿と体色 ── 巨大な耳が目印

体長の4分の1に及ぶ耳
ノウサギ属で最長級の耳
本種の最大の特徴は12〜15cmに達する巨大な耳です。体長61cmの4分の1近い長さで、ノウサギ属のなかでも際立って長い部類にあたります。耳の先端は黒く縁取られ、内側は色素がなく淡いピンク色に見えます。開けた砂漠を歩けば、遠くからでも灌木の上に長い耳だけが突き出す姿が観察できます。
ロバの耳と呼ばれた理由
19世紀の米国開拓時代、テキサスからカリフォルニアへ進む一行が初めて本種を見て「ロバ(jackass)の耳を持つ兎」と呼んだのが英名 Jackrabbit の起源とされます。ノウサギ類全般の英名は「hare」ですが、北米西部の乾燥地に住むこの仲間だけは民間名「jackrabbit」の呼称が定着し、学術書にも採用される形になりました。
尾の上面に走る黒縞
和名の「オグロ(尾黒)」の通り、尾の上面には脊椎の付け根まで達する太く黒い縞が入ります。腹側の尾は白色で、走行中に尾を上下すると白と黒が交互に閃く形になり、追跡してくる捕食者に位置を撹乱させる働きがあるとも解釈されています。
巨大な耳の放熱器 ── 砂漠の暑さに耐える体

血管網で体熱を逃がす
耳内の薄い皮膚と血管網
本種の耳は聴覚器官であると同時に、精巧な放熱器としても機能します。耳の内側の皮膚は薄く、そこに走る血管網に温まった血液を送り込むことで、周囲の空気に体熱を逃がす仕組みです。夏の砂漠で気温が40℃を超える環境でも、日陰でじっとしている個体は耳を血管の広がった状態で保ち、体温上昇を抑えていることが観察されています。
アレンの法則の逆パターン
寒冷地の哺乳類にみられる「アレンの法則」(体の突出部が短くなる)に対して、乾燥地の哺乳類では放熱を優先して耳が長くなる方向へ進化した点も特筆されます。同じウサギ目でありながらホッキョクノウサギ(耳長9〜10cm)とオグロジャックウサギ(12〜15cm)では体の突出部が真逆の方向に発達しており、極寒と極暑への対称的な進化の見本になっています。
砂漠と乾燥草原の暮らし

本種は米国西部の砂漠・プレーリー・シャパラル(乾燥灌木林)と、いずれも開けた乾燥景観に住みます。サルビア(セージ)・クレオソートブッシュ・メスキートといった砂漠特有の灌木のなかを移動し、日中は灌木の陰や地面の窪みで暑さを避け、夕方から夜にかけて活動します。海抜0mから標高3,000mの高原まで垂直分布も大きく、極寒の高山を除いた乾燥景観全般に適応した種です。
食性 ── 木質から多汁性の草本まで

植物食で、季節に応じて食性を変えます。秋冬は灌木の枝や小木の樹皮など木質の割合が高く、春から初夏は多汁性の草本や広葉草本(forbs)が中心に。乾燥地でも水を得やすい多汁性植物を選好し、水場が乏しい環境では食料からの水分摂取に依存する体になっています。特定地域ではメスキート・クレオソートブッシュが主要な採食対象で、砂漠のなかでも食料資源の分布に合わせて縄張りを構える形です。
繁殖 ── 地域差の大きい多産型
妊娠期間はおよそ41〜47日と、他のノウサギ属より短めです。特徴的なのは繁殖の地域差の大きさで、比較的涼しいアイダホでは年2産・平均4.9頭。温暖で採食シーズンの長いアリゾナでは年7産・平均2.2頭となり、産む回数と1回の頭数のバランスが気候に応じて逆転する形になっています。オスは生後約7か月で性成熟し、成熟の早さも短い寿命に見合った戦略にあたります。
時速65kmの俊足と跳躍

加速と方向転換
1回のジャンプで6m
追われた時の走行速度は時速55〜65km前後で、1回のジャンプで6m近くを跳ぶことも観察されています。長い後脚は加速と着地衝撃の吸収の両方を担う造りです。時速65km、跳躍6m。大股の跳躍で一気に距離を稼ぐ逃走が、生存戦略の中心になっています。
ジグザグ走行と尾の閃き
S字状のジグザグ走行で捕食者を撹乱する動きも典型的です。走行中は白い腹面と黒い尾上面が交互に見え、追跡する捕食者の視線を撹乱する効果もあるとされます。開けた乾燥景観で身を隠す茂みが少ない環境では、逃走そのものの巧みさが生死を分ける形になります。
天敵
主要な天敵はフェレギナスタカ・アカオノスリなどの大型猛禽類、コヨーテ・ボブキャット・キツネ・ピューマ、そして幼獣に対しては大型のヘビ類まで多岐にわたります。乾燥地に隠れる茂みが少ないため、俊足と保護色に加えて、集団で採食地に集まる際の互いの警戒行動が生存を支えています。
他のジャックラビットとの違い
北米西部の3種
「ジャックラビット」と呼ばれる北米西部のノウサギ属には、本種のほかにオジロジャックウサギ(Lepus townsendii)とアンテロープジャックウサギ(Lepus alleni)などが知られています。3種の関係を並べると次のとおりです。
| 種 | 尾の色 | 分布と生息環境 |
|---|---|---|
| オグロジャックウサギ | 上面が黒 | 米国西部・メキシコ/砂漠と乾燥草原 |
| オジロジャックウサギ | ほぼ全体が白 | 米国北西部・カナダ/草原・低地 |
| アンテロープジャックウサギ | 白と灰の混色 | 米国南西部・メキシコ/灌木砂漠 |
近年は本種が分布を東方向に拡大しており、オジロジャックウサギの生息域と重なる地域で競合が観察されています。気候変動による乾燥化がジャックラビット3種の分布バランスを変えつつあると報告されている状況です。
関連ページ

参考
- Wikipedia (英語版)「Black-tailed jackrabbit」(分類・分布・生態・繁殖)
- IUCN Red List: Lepus californicus(LC評価と分布動向)
- Best, T. L. (1996). “Lepus californicus.” Mammalian Species 530:1-10(形態・生態総説)
- Bartholomew, G. A. (1964). “The roles of physiology and behaviour in the maintenance of homeostasis in the desert environment.”(耳の放熱機構の古典研究)
画像出典
- Yathin S Krishnappa, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons
- Robert Body, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons
- Alan Vernon, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons
- Renee Grayson, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons
- USFWS Mountain-Prairie, Public domain, via Wikimedia Commons
- Yathin S Krishnappa, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons


