トウブワタオウサギ

ウサギ目

トウブワタオウサギは、北米東部から中米・南米北部まで広く分布する小型のワタオウサギです。白い綿のような尾(コットンテール)が名前の由来で、北米ではもっとも普通に見られるウサギとして庭・畑・郊外の公園でも姿を見せます。ノウサギ属(Lepus)とは別系統のワタオウサギ属(Sylvilagus)に属し、本属15種のなかで最も広い分布域を持つ代表種にあたります。

スポンサーリンク

分類と学名

分類階層

  • 界:動物界 Animalia
  • 門:脊索動物門 Chordata
  • 綱:哺乳綱 Mammalia
  • 目:ウサギ目 Lagomorpha
  • 科:ウサギ科 Leporidae
  • 属:ワタオウサギ属 Sylvilagus
  • 種:トウブワタオウサギ Sylvilagus floridanus

和名・英名

  • 和名:トウブワタオウサギ(東部綿尾兎)
  • 英名:Eastern cottontail

別名・学名の由来

属名 Sylvilagus はラテン語で「森のウサギ」を意味し、種小名 floridanus は模式標本の産地であるフロリダに由来します。英名の「Cottontail(綿尾)」は、逃走時に上を向けて閃く白く丸い綿のような尾を指す名で、日本語の和名「ワタオウサギ」もその英名の直訳です。北米で単に「rabbit」と呼ばれる場合、ノウサギ属ではなくワタオウサギ属の本種を指すことが多く、絵本や漫画に登場するアメリカのウサギ像も本種を下敷きにしています。

大きさ・分布などの基本データ

大きさ体長 36〜48cm、体重 800〜2,000g(平均1,200g)
約5.3cm。上面は褐色、下面は白い綿状
耳の長さ約6〜7cm(ノウサギ属の半分ほど)
体色赤褐色〜灰褐色、腹面は白
分布米国東部から南部の広範囲/カナダ南部/メキシコ/中米/南米北部/マルガリータ島
生息環境開けた草地・草原・灌木林の縁・農地・郊外の公園
食性植物食(70〜145種の植物を食べる)
活動時間薄明薄暮性〜夜行性
繁殖年1〜7回(平均3〜4回)・妊娠28日/1回3〜8頭(平均5頭)
寿命野生でおよそ2〜3年(捕食圧が高いため短寿命)
保全状況IUCN 軽度懸念(LC)/個体数は安定

姿と体色 ── 綿のような尾が目印

草地に座るトウブワタオウサギの全身(赤褐色の体と白い綿尾の下面)
Volkan Yuksel, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

白い綿尾と赤褐色の体

「コットンテール」の名の通り

本種の最大の特徴は、名前の由来にもなった白い綿のような尾です。上面は褐色で、下面が真っ白の綿毛のように膨らむ構造で、通常は下面を隠して尾の上面だけが見えます。逃走時になると尾を上向きに反転させ、真っ白な下面をパッと見せる動作をとります。この「白い綿玉が跳ねる」姿がノウサギ類と識別する分かりやすい特徴です。

体格はノウサギ属より小型

体重は800〜2,000g(平均1,200g)で、日本のニホンノウサギ(1.3〜2.5kg)とほぼ同じかやや小さい程度。ノウサギ属最大級のホッキョクノウサギ(最大7kg)と比べると4〜5分の1のサイズです。耳もノウサギ属より短い6〜7cm程度で、遠くから見ると全体的にずんぐりした印象を与えます。

草地と郊外の暮らし

米国コネチカット州イーストハートフォードの草地にいるトウブワタオウサギ
Salicyna, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

本種は北米で最も普通に見られるウサギで、開けた草地・草原・灌木林の縁・農地から、郊外の公園・住宅街の庭まで幅広い環境に適応します。「田舎で見るウサギ」のイメージそのものである一方で、都市化が進んだ地域でも姿を消さない適応力の高さでも知られています。庭先に植えたクローバーやハーブに現れる小型のウサギは、北米東部ではほぼ本種と考えて間違いのない種です。

食性 ── 100種を超える多様な植物

オハイオ州ブラックリックウッズで採食するトウブワタオウサギ
Ken Slade, CC BY-NC 2.0, via Wikimedia Commons

植物食で、地域によって70〜145種もの植物を食べることが記録されています。夏はクローバー・タンポポ・イネ科の草本や庭の花・野菜を、冬は木の樹皮・小枝・冬芽を食べて凌ぎます。特定の植物に依存しない広い食性が、都市部の造成緑地にも進出できる大きな強みで、家庭菜園を荒らす害獣として名前が挙がる地域も多い種です。ウサギ目に共通する軟糞の再摂食も行い、繊維質から効率よく栄養を取り出します。

繁殖 ── 年数回の多産で数を保つ

妊娠28日の高速サイクル

年に7回産む個体も

妊娠期間はおよそ28日と、ノウサギ属より1週間以上短めです。雌は1シーズンに1〜7回、1回に3〜8頭(平均5頭)を出産する多産型で、温暖な南部では年7回産む個体が観察されます。ワタオウサギ属では巣穴のような浅い窪みを地表に掘り、乾いた草と自分の毛で内張りした「フォーム」で子を育てます。

子は晩成性寄り

ノウサギ属の子が生まれた時点で毛がそろい目を開けているのに対し、本種の子は毛がまばらで目を閉じたまま生まれる晩成性寄りです。母親は1日1〜2回ほど巣に戻って授乳し、それ以外の時間は離れて過ごすことで捕食者に巣の位置を悟らせない子育て様式で、この点はアナウサギに近い戦略になっています。

短い寿命と多産のバランス

農場の縁に立つトウブワタオウサギ
Ryan Hodnett, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

本種の野生下での寿命は2〜3年と短く、成体の年間死亡率は80%前後に達するという報告もあります。捕食圧が極めて高い環境で暮らす種のため、短い寿命を「多産」で補う戦略に大きく振り切っており、r戦略(多くの子を産んで捕食圧に耐える)の教科書事例に取りあげられる種でもあります。

天敵と防御

主要な天敵はアカギツネ・コヨーテ・ボブキャット・イエネコなどの中型食肉目と、アカオノスリ・ミミズク・アメリカワシミミズクなどの猛禽類、それに大型のヘビ類まで多岐にわたります。逃走時に上下する白い綿尾は捕食者の視線を撹乱する「フラッグ効果」を持つと解釈されており、短距離のジグザグ走行で藪に飛び込む戦略と組み合わせて生存を支えています。

都市部への進出 ── 郊外に順応した種

人の生活圏に定着

公園と庭のウサギ

米国イェール大学キャンパスの芝生に現れたトウブワタオウサギ
Colin Faulkingham, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

本種の大きな特徴は、20世紀後半以降の都市化に順応して生息域を保ってきた点です。造成された公園・住宅街の庭・線路脇の草地・空き地・大学キャンパスなど、人の生活圏の内側で世代を重ねる個体群が広く成立しており、住宅の庭でクローバーを齧る姿は北米東部の日常風景の一部になっています。

緑地ネットワークの利用

人工的な緑地ネットワークをうまく利用する能力の高さが、他のワタオウサギ属種が減少していくなかで本種の分布を保ってきた理由と考えられています。断片化した草地の間を短距離で移動できる暮らし方が、住宅地と公園が交互に並ぶ北米東部の都市景観と相性の良い形になっています。

他のワタオウサギ属との違い

北米西部のいとこたち

ワタオウサギ属には約15種が知られ、北米・中米・南米に広く分布します。分布と生息環境で並べると次のように分けられます。

分布主な特徴
トウブワタオウサギ米国東部〜南部〜メキシコ〜中南米北部属最多分布・都市部にも進出
サバクワタオウサギ米国南西部〜メキシコ北部乾燥地・砂漠
アパラチアワタオウサギ米国東部の山地森林・低地の湿地
ヤブワタオウサギ米国西部沿岸沿岸の灌木地

ノウサギ属との違い

「Rabbit(本種を含むワタオウサギ)」と「Hare(ノウサギ属)」の違いは英語圏の生物学入門で必ず取りあげられるテーマです。本種を含むワタオウサギはノウサギ属より小型で、耳が短く走行速度も遅めです。地表に浅い巣を掘って晩成性の子を育てる点で、ノウサギ属の「巣穴を掘らず・早成性の子」型と対照的な生活史を持ちます。この違いはウサギ目内で早い段階に分岐した2系統の生活史戦略の違いを反映しており、同じ「ウサギ」の名で呼ばれる動物の中にも大きく異なる生き方が存在する例として取りあげられます。

関連ページ

ウサギ【総合】
ウサギは、長い耳と大きな後ろ足を持つ草食動物です。名前は似ていても、ネズミの仲間ではなく、「ウサギ目」という別のグループに入ります。世界に70種以上がいて、野生のものからペットの品種まで、姿はさまざまです。分類と学名分類階層界:動物界 An...

参考

画像出典

タイトルとURLをコピーしました