ワモンアザラシは北極海を中心に住む、アザラシ科でいちばん小さい種です。前ひれの太い爪で厚い氷に穴を開けて呼吸し、雪の中に掘った部屋の中で子を産みます。この巣を使うのはアザラシの中でこの種だけで、日本では北海道のオホーツク海側に来ます。
分類と学名
分類階層
- 界:動物界 Animalia
- 門:脊索動物門 Chordata
- 綱:哺乳綱 Mammalia
- 目:食肉目 Carnivora
- 科:アザラシ科 Phocidae
- 属:ワモンアザラシ属 Pusa
- 種:ワモンアザラシ Pusa hispida
和名・英名
- 和名:ワモンアザラシ(輪紋海豹)。別名フイリアザラシ(斑入海豹)
- 英名:Ringed seal
5亜種のうち2つは湖から出られない
分布が広いため、これまでに10もの亜種が記載されてきました。現在認められているのは次の5つです。
- hispida:北極海とベーリング海
- ochotensis:オホーツク海
- botnica:ボスニア湾
- saimensis:フィンランドのサイマー湖
- ladogensis:ロシアのラドガ湖
最後の2つは湖に閉じ込められた淡水の亜種で、海へは出られません。属の中でとくに近いのはカスピカイアザラシとバイカルアザラシです。いずれも体が小さく、頭骨の特徴と氷への強い結びつきを共有しています。


大きさ・分布などの基本データ
| 大きさ | 体長 100〜175cm・体重 32〜140kg(平均はおよそ1.5m・50〜70kg) |
|---|---|
| 分布 | 北極海を中心に、ベーリング海・オホーツク海・日本海・バルト海。日本では北海道の北部と東部 |
| 生息環境 | 安定した厚い氷のある沿岸と、流氷の海域 |
| 食べもの | 魚と無脊椎動物あわせて72種。ホッキョクダラ・エビ・タコ・貝など |
| 繁殖 | 妊娠9か月。3〜4月に1頭を出産し、授乳は3週間〜2か月 |
| 天敵 | ホッキョクグマ・ホッキョクギツネ・シロカモメ・シャチ・ニシオンデンザメ・セイウチ |
| 寿命 | 30年を超えるものが記録されています |
| 保全状況 | 5亜種すべてがアメリカの絶滅危惧種法で指定されています |
輪の模様が名前になり、鼻先はネコのように短い

背中と体側に銀色の輪が並ぶ
漢字で書くと輪紋海豹です。背中側は灰色の地に、灰褐色から黒色の斑紋が並びます。腹側は模様がはっきりせず、明るい灰色をしています。
ゴマフアザラシとの違いは斑紋の縁取り
この斑紋は明るい灰色で縁取られます。ここがゴマフアザラシの模様との違いです。輪のように見えるのはこの縁取りがあるためで、和名も英名の Ringed seal もそこから来ています。
別名フイリアザラシ、頭は小さく体はずんぐり
別名のフイリアザラシは「斑入り」から来た呼び方です。頭は小さく、鼻先はネコのように短く、体はずんぐりしています。

爪で1.8mの氷を貫き、その下で餌をとる

前ひれの爪は2.5cmを超える
前ひれは小さいのですが、そこに生えた爪は2.5cmを超える太さがあります。この爪で氷に穴を開け、呼吸できる場所を保ちます。
その厚さは1.8mに達することもあります。大人の背丈を超える氷を、爪だけで貫いていることになります。
穴は開けるより保つほうが仕事
爪の役目は穴を開けることだけではありません。同じ穴に通って削り直し、ふさがらないように保ちます。
水深11〜46mまで潜り、72種を食べる
餌をとるときは水深11〜46mまで潜ります。夏は海氷のふちに沿ってホッキョクダラやコマイを食べ、浅い場所では小さなタラを捕らえます。獲物は魚と無脊椎動物をあわせて72種にのぼります。アミ類・エビ・ヨコエビなどの甲殻類、イカやタコ、ニシンやカジカの仲間も含まれます。
雪の中に部屋を作って、そこで子を産む

巣を使うのはアザラシでこの種だけ
メスは厚い氷の上に積もった雪の中へ、外から見えない部屋を掘ります。出産はその中で行われます。こうした産室を使うのはアザラシの仲間ではこの種だけです。
交尾は産室の近くの氷の下
交尾はメスがまだ氷の上で子に乳をやっている時期に行われます。場所は産室の近くの氷の下と考えられています。
巣の外で生まれた子は狙われる
出産の時期には巣の外で生まれた子がホッキョクギツネやシロカモメに獲られます。水の中ではシャチやニシオンデンザメ、ときにセイウチも子を狙います。
3〜4月に1頭を産み、授乳は3週間から2か月
妊娠期間は9か月で、3月から4月に1頭を産みます。生まれた子は真っ白な産毛に包まれ、まもなく潜り方を覚えます。
氷が安定していれば2か月続く
授乳の長さは氷しだいです。岸に固定された安定した氷なら2か月まで続き、動く氷の上では3〜6週間で終わります。子はふつう、春に氷が割れる前に乳離れします。
性成熟は3歳から9歳まで幅がある
性成熟を迎える年齢はその個体群の状態によって変わります。早ければ雌雄とも3歳、遅ければオスで7歳、メスで9歳になります。
北極でいちばん小さく、日本近海の亜種はさらに小さい
平均1.5m、日本近海ではオスで130cm
体長は100〜175cm、体重は32〜140kgと幅があります。平均するとおよそ1.5m・50〜70kgです。アザラシ科でいちばん小さい種とされ、近縁のバイカルアザラシがこれに近い大きさになります。
日本近海の亜種はその中でもとくに小さくなります。オスで約130cm、メスで約120cmほどにしかならず、体重も50kg前後です。頭骨は骨の壁が薄く、鼻先が短く、両目の間の幅が非常に狭くなっています。
北海道のオホーツク海側に来る

日本では北海道の北部と東部、オホーツク海側に分布します。太平洋側では北緯35度あたりまで南下した記録もあります。国内の水族館でも飼育されています。
日本の亜種は雪の巣にあまり頼らない

雪の産室を使うのはオホーツク海の亜種を除く4亜種です。オホーツク海の亜種も産室を使ったという報告はありますが、主に氷丘の陰に身を寄せているとみられます。
※ 氷丘とは、海氷の上にできた丸い丘のような高まりのことです。
単独で暮らし、北極の食物網と人の暮らしを支えてきた

北半球でいちばん数の多い氷のアザラシ
北半球の氷に住むアザラシの中では、この種がいちばん数が多く、分布も広くなっています。正確な推定はありませんが、北極の亜種だけで世界に200万頭以上いるとみられます。種全体では600万〜700万頭とされます。
氷の上でも数百m離れて休む
数は多いのですが、普段は単独で暮らします。氷の上に上がるときもたがいに数百メートルほど離れて休みます。餌をとるのもふつうは単独です。
ホッキョクグマの食べものの中心にいる
この種はそのぶん、北極の食物網で大きな位置を占めます。とくにホッキョクグマにとっては欠かせない食べものです。
4000年前から人が捕ってきた
北極の先住の人々にとって、この種は長い間、大切な食料でした。今も多くの地域で毎年捕られています。
北極カナダの古い遺跡からは、およそ4000〜3500年前にこの種を捕った跡が見つかっています。氷の割れ目で捕らえたとみられ、若い個体が選ばれていました。

雪と氷が減り、船が増える。ただし天敵も減る

降雪が減ると氷が早く割れる
暮らしのほとんどが海氷に結びついているので、氷と氷の上の雪が減ることが大きな脅威になります。ハドソン湾西部の研究では、雪が少ない年ほどこの種の子が育ちにくいという結果が出ています。
雪が薄いと日光を反射する量が乏しくなり、氷は早く割れます。子は準備が整う前に水へ出ることになり、その年に育つ数が落ち込みます。バルト海では、将来はボスニア湾しか繁殖に使えなくなるという予測もあります。
5亜種すべてがアメリカの法律で指定されている
アメリカでは5つの亜種すべてが絶滅危惧種法の保護対象に指定されています。サイマー湖とラドガ湖の亜種では、漁具にかかって溺れることが大きな死因になっています。
北極航路の利用が広がると影響が出る
夏の海氷が減ったことで、北極海を航路として使う関心が高まっています。砕氷船の増加は春の出産と、毛の生え変わる時期にとくに影響しかねません。
天敵が減って、かえって増えるという予測もある
いっぽうで、温暖化でホッキョクグマが減ることによって、この種はかえって増えるという予測も出ています。分布が北極をぐるりと囲むほど広く、餌の好みも限られていません。そのぶんほかの北極の動物より影響を受けにくい、という見方です。
氷が失われれば、繁殖の場は狭まります。天敵であるホッキョクグマが少なくなることは、逆に数を増やす方向に働くかもしれません。どちらが強く効くのかはまだ決まっていません。
参考
画像出典
- NOAA Fisheries Plans Western Alaska Meetings on Ringed Seal ‘Critical Habitat’, Public domain, via Wikimedia Commons
- Michael Cameron (NOAA), Public domain, via Wikimedia Commons
- Кирилл Уютнов, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
- Shawn Dahle, NOAA, Polar Ecosystems Program research cruise, Public domain, via Wikimedia Commons
- Misei sen, CC BY 4.0, via Wikimedia Commons
- Shawn Dahle & Michael Cameron, NOAA, Public domain, via Wikimedia Commons
- Lee Cooper, Public domain, via Wikimedia Commons
- Jan Ebr & Ivana Ebrová, CC BY 4.0, via Wikimedia Commons


