ツノメガニは、奄美大島より南の暖かい海の砂浜に住む、甲羅の幅5cmを超える大型のスナガニの仲間です。夜の波打ち際を素早く走り、はさみで音を出して仲間とやりとりするとされます。近年は黒潮に乗って運ばれた幼生が育ち、東北の太平洋岸でも若い個体が見つかっています。
分類と学名
分類階層
- 界:動物界 Animalia
- 門:節足動物門 Arthropoda
- 綱:軟甲綱 Malacostraca
- 目:十脚目 Decapoda
- 下目:短尾下目(カニ下目) Brachyura
- 科:スナガニ科 Ocypodidae
- 属:スナガニ属 Ocypode
- 種:ツノメガニ Ocypode ceratophthalmus (Pallas, 1772)
和名・英名
- 和名:ツノメガニ(角目蟹)
- 英名:Horned ghost crab/Horn-eyed ghost crab
- 別名:ゆうれいガニ
目の先の「角」が名前の由来
和名の「角目」は、目の先に伸びる角のような突起を指します。英名の horned ghost crab も「角のあるゴーストクラブ」という意味です。ゴーストクラブ(スナガニの仲間の英語での総称)の名は、夜に活動することと、全体に淡い体色から付いたとされます。
大きさ・分布などの基本データ
| 大きさ | 甲羅の幅5cm以上になる(500円玉2枚を並べたほど) |
|---|---|
| 分布 | 奄美大島より南から、インド洋・西太平洋に広く分布(紅海を除く) |
| 生息環境 | 砂浜 |
| 食べ物 | 雑食(打ち上げられた物、小さな動物) |
| 保全状況 | IUCN:軽度懸念(LC。現時点で絶滅の心配が少ない区分) |
角のある目と、音を出すはさみ
目の先に伸びる角
目の付いた柄(眼柄)は太くて長く、その先の目も大きいのが特徴です。成長したオスでは、目の先にさらに長い突起が伸びて角のように見えます。ただし、目の先に角を持つスナガニの仲間は他にもいるため、角だけでツノメガニと決めることはできません。

甲羅の後ろの黒褐色の帯
やや横長の四角形の甲羅は、前後に緩く曲がっています。後ろ寄りの中央、心臓のある部分の左右には黒褐色の帯があり、スナガニとの見分けの手掛かりになります。

大きいはさみの内側にある発音器
左右で大きさの違うはさみのうち、大きい方の内側には、やすりのように粒が列になって並んだ発音器があります。スナガニの仲間はこの部分をこすって音を出し、仲間とのやりとりに使うとされます。粒の列の並び方は種ごとに違い、種を見分ける手掛かりにもなります。
夜の波打ち際を走る暮らし
深さ30〜50cmの巣穴
砂浜の満潮線(潮が最も満ちたときの水際)より上に、巣穴を掘って暮らします。穴の深さは30〜50cmで、30cmの物差し1本から1本半ほどです。夜になると巣穴から出て、波打ち際で打ち上げられた物や小さな動物を拾って食べます。
スナガニの仲間は、湿らせたえらで空気から酸素を取り込みます。えらは時々海水で湿らせる必要があります。そのため、湿った砂から水を取ったり、波打ち際へ走り込んで波をかぶったりします。一方で、長く水に沈んだままでいると溺れます。

速さによって変わる走り方
追われると、素早く走って逃げます。ゆっくり歩くときは4対の歩脚(歩くための脚)を全て使いますが、速くなると一番後ろの1対を地面から浮かせます。最も速いときは、前の2対の脚だけで走ることが観察されています。
沖縄県浦添市の図鑑によると、逃げるときはジグザグに素早く動き、夜には体の色素が変わって真っ白になります。暗い砂浜を白い体で走る姿から、「ゆうれいガニ」とも呼ばれます。
赤や紫、緑の個体も
体の色は場所によって幅があります。ハワイでは紫色、インド洋のディエゴガルシア島では緑色、台湾では赤みの強い個体が撮影されています。

黒潮に乗って北へ運ばれる幼生
2010年に新潟、2018年に宮城で記録
本州で見つかるツノメガニは、黒潮に運ばれた幼生が育ったものと考えられています。幼生は卵からかえって間もない時期の姿で、南の海から海流に乗って漂ってきます。2010年には新潟県柏崎市の砂浜で見つかり、本州の日本海側で初めての記録になりました。太平洋側では2017年に茨城県で採集され、翌2018年10月には宮城県・福島県・茨城県の砂浜でも見つかっています。これにより、太平洋側での分布の北の端は宮城県石巻市まで広がりました。
冬を越せないとみられる若い個体
2019年の日本甲殻類学会の報告は、2018年に東北と北関東で採集された個体を調べています。どれも甲羅の幅が6〜17mm(1円玉より小さい)の若いものでした。ツノメガニは甲羅の幅がオス27mm、メス29mm(500円玉とほぼ同じ幅)ほどで成熟するため、全て未成熟です。こうした若いカニは暖かい時期だけ育ち、冬には死滅すると推測されています。一方で2年続けて見つかったことから、幼生が毎年南から運ばれてきている可能性も指摘されています。
スナガニとの見分け方と関係
若い個体の見分け方
北の砂浜で見つかるのは若い個体が多く、若いツノメガニとスナガニはよく似ています。兵庫県レッドデータブックや日本甲殻類学会の報告では、次の点で両者を区別しています。
| 見る場所 | ツノメガニ | スナガニ |
|---|---|---|
| 大きいはさみの内側の粒の列(発音器) | 下へ行くほど間隔が狭い | ほぼ同じ間隔 |
| 腹側に折りたたまれた尾の先(尾節) | 縦に長い三角形 | 横に長い半円形 |
| 甲羅の後ろの模様 | 黒褐色の帯 | 白いDの字を向かい合わせたような模様 |
| 脚の長さ | 甲羅に対して長い | ツノメガニより短い |
北へ広がる南の種と、在来のスナガニ
2018年の東北・北関東の調査では、スナガニの仲間41匹のうち、61%にあたる25匹がツノメガニとナンヨウスナガニでした。温暖化で南の種が北へ広がることは、元からその土地に住む(在来の)スナガニに影響を与えるおそれがあります。また、兵庫県の淡路島の東岸では、近年はスナガニよりツノメガニの方が多く見られます。

関連ページ

参考
- Cancer 28巻「東北および北関東の太平洋岸におけるスナガニ類の生息記録」
- J-STAGE「ツノメガニ(スナガニ科)の日本海沿岸からの初記録」
- 兵庫県レッドデータブック(スナガニ)
- 浦添市 環境マップ図鑑(ツノメガニ)
- コトバンク「ツノメガニ」
- Wikipedia(英語版)「Ocypode ceratophthalmus」
- Wikipedia(英語版)「Ghost crab」


