ツキノワグマは、胸に三日月のような白い模様を持つクマです。日本では、本州と四国の山にすんでいます。北海道にすむヒグマよりも小さめですが、木登りが得意な森の名人です。名前の「月の輪」は、この胸の模様に由来します。
分類と学名
分類階層
- 界:動物界 Animalia
- 門:脊索動物門 Chordata
- 綱:哺乳綱 Mammalia
- 目:食肉目(ネコ目)Carnivora
- 科:クマ科 Ursidae
- 属:クマ属 Ursus
- 種:ツキノワグマ Ursus thibetanus
和名・英名
- 和名:ツキノワグマ(漢字で「月の輪熊」)
- 英名:Asian black bear/Moon bear(月のクマの意味)
名前の由来
「ツキノワグマ」という名前は、胸にある白い模様が三日月のように見えることからつきました。英語の Moon bear(月のクマ)も、同じ模様に由来します。全身は黒っぽい毛におおわれ、その中で胸の白い月だけがよく目立ちます。日本にすむクマのうち、この胸の模様を持つのがツキノワグマです。ツキノワグマはアジアに広く分布し、いくつかの亜種に分かれます。日本の本州・四国にすむものは「ニホンツキノワグマ」と呼ばれる亜種です。
大きさ・分布などの基本データ
| 大きさ | オス 体重 約60〜130kg/メスはより小さい(ヒグマより小さめ) |
|---|---|
| 分布 | アジアに広く分布。日本では本州と四国(北海道にはいない) |
| 生息環境 | 森におおわれた山地 |
| 食べもの | 雑食(ドングリ・果実・草・昆虫・ハチミツなど)。植物が中心 |
| 寿命 | 野生で25年ほど |
| 保全状況 | IUCN: VU(危急) |
胸の「月の輪」

黒い体に浮かぶ白い月
ツキノワグマの胸には、三日月やアルファベットのVのような形の、白い模様があります。真っ黒な体の中で、この白い月だけが浮かび上がって見えます。全身の毛は黒っぽく、鼻先だけがうすい茶色をしています。体つきはずんぐりとして、耳は丸く大きめです。
一頭ごとに違う模様
月の輪の形や大きさは、1頭ごとに少しずつ違います。太い三日月もあれば、細い線のようなものもあります。なかには、模様がほとんど見られない個体もいます。この胸の白い模様が、ツキノワグマをひと目で見分ける手がかりになります。
木登りの名人

木の上の食卓とクマ棚
ツキノワグマは、クマの仲間のなかでもとくに木登りが得意です。一生の多くの時間を木の上ですごすほどで、木にのぼって暮らす大型の動物としても知られます。秋には、ドングリのなる木にのぼり、実のついた枝を手もとへ引き寄せて食べます。折り取った枝を体の下に敷いていくと、木の上に鳥の巣のようなかたまりが残ります。これは「クマ棚(くまだな)」と呼ばれ、ツキノワグマがそこにいた印になります。
二本足で立って歩く
ツキノワグマは、後ろ足で立ち上がるのも上手です。立ったまま数百mを歩いたという記録もあります。遠くのようすをうかがうときや、においをかぐときに、すっと立ち上がります。二本足で立った姿は、人のように見えることもあります。
残された痕跡
ツキノワグマは、森のあちこちに暮らしの跡を残します。木の幹には、のぼるときにつけた細い爪あとが縦にならびます。地面には、植物質の多い黒っぽいフンが落ちています。ドングリの季節には、フンの中に実の皮がまじることもあります。こうした痕跡は、姿が見えなくてもクマがそこにいるしるしです。
ヒグマとの違い

すみか・大きさ・胸の模様
日本には、ツキノワグマとヒグマの2種のクマがすんでいます。2種は、すみかも大きさもはっきり違います。おもな違いを、下の表にまとめました。
| ツキノワグマ | ヒグマ | |
| すみか | 本州・四国 | 北海道 |
| 体重 | 約60〜130kg | 約100〜400kg超 |
| 毛色 | 黒っぽい | 茶色っぽい |
| 胸の月の輪 | ある | ない |
2種のすみかは、津軽海峡をはさんで南と北に分かれ、たがいに重なりません。ツキノワグマは体重100kg前後で、400kgを超えることもあるヒグマより、ずっと小さめです。胸の白い月の輪も、ツキノワグマだけの特徴です。

力と強さ ― ライオンと比べると
ツキノワグマは、クマのなかでは中くらいの大きさです。体重130kgほどのオスは、190kg前後になるライオンのオスより軽い体つきです。それでも、太いツメと強いあごを持つ力の強い動物です。木にのぼり、二本足で立つ身のこなしは、大型のネコ科の動物にはない得意わざです。ふだんは争いをこのまず、危険を感じると木の上へ逃げることもあります。
森の暮らしと冬眠

季節でかわる食べもの
ツキノワグマの食べものは、その多くが植物です。季節によって、口にするものが移りかわります。春には、芽ぶいたばかりの若葉や山菜を食べます。夏には、アリやハチなどの昆虫や、木の実をとります。そして秋には、ドングリやブナの実をたくさん食べ、冬に備えて脂肪をたくわえます。
木の実が実る秋の出来ぐあいが、その年のクマの暮らしを大きく左右します。ドングリなどが不作の年には、山のえさが足りません。えさを求めて、里へおりてくる個体がふえます。
木のうろでの冬眠
寒くなると、木のうろや岩あな、地面に掘った穴などにこもって冬眠します。冬眠に入るのは11月ごろ、目覚めるのは春の3月ごろです。冬眠の場所には、地上十数mの高い木のうろが選ばれることもあります。ふだんは1頭で暮らす動物で、食べものが足りていれば、わずか1〜2平方kmほどのせまい範囲でも暮らせます。
冬眠中に生まれる子
メスは、冬眠のさなかに1〜2頭の子を産みます。生まれたばかりの子は体重400gほどしかなく、大きな親からは想像できない小ささです。子グマは、母親のあたたかい体のそばで乳を飲んで育ちます。春に穴から出たあとも、母子はしばらく行動をともにします。子は1年半から2年ほど母親と過ごし、木登りやえさ探しを覚えてから、ひとり立ちしていきます。この間、母グマは次の子を産まないため、ツキノワグマがふえる速さはゆるやかです。
人とのかかわり

森での出会いと事故
ツキノワグマは、ヒグマより小さいものの、油断できない野生動物です。森は見通しが悪く、たがいに気づかないまま近くで出会うことがあります。驚いたクマが、身を守ろうと人をおそう事故も報告されています。ヒグマよりも人に向かってきやすい、という指摘もあります。
音で存在を知らせる
登山者は、鈴やラジオで音を出し、自分の存在を早めにクマへ知らせてきました。多くのクマは、先に人に気づけば自分から離れていきます。近年は、とうがらしの成分でクマを追いはらう「クマ撃退スプレー」も使われます。走って逃げても、クマの足の速さには追いつかれてしまいます。
ふえる数と、里への出没
近年、日本ではツキノワグマの数がふえ、里や町に出てくる例もめだつようになりました。2010年代からの十数年で、生息数は大きくのびたと報告されています。かつては数が減り、地域によっては絶滅が心配された時期もありました。数がもどってきた一方で、人の暮らす場所とのきょりが近くなり、両者がどう付き合っていくかが課題になっています。ツキノワグマは、身近な山にすむ大型の野生動物です。
参考
- Wikipedia(英語版)「Asian black bear」(分類・胸の模様・樹上性・食性)
- IUCN Red List:Ursus thibetanus(VU・分布と脅威)
- 環境省・各県のツキノワグマ情報(生息数・出没と事故)
画像出典
サムネイル画像: Guérin Nicolas (messages), CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons


