ニホンヤモリ

ニホンヤモリの顔 トカゲ類

ニホンヤモリは、家の壁や窓ガラスに張りつく、小さな爬虫類です。夜になると、明かりに集まる虫を狙って現れます。すべすべしたガラスでも平気で登り、天井を逆さまに歩くこともあります。人の家のまわりで暮らし、虫を食べてくれることから、「家を守る」という名がつきました。

身近な生きものですが、その体には変わったつくりがいくつもあります。壁に張りつく指のしくみ、まばたきをしない目、切れても生える尾。名前のよく似た「イモリ」とは、分類のうえで遠い間柄です。

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分類と学名

分類階層

ニホンヤモリは、有鱗目ヤモリ科に入る爬虫類です。学名は Gekko japonicus といいます。ヘビやトカゲと同じ、うろこにおおわれた仲間です。世界には千種をこえるヤモリの仲間がいて、日本にも十種ほどが知られています。

  • 目:有鱗目
  • 科:ヤモリ科
  • 種:ニホンヤモリ(Gekko japonicus
  • 分布:本州・四国・九州などの人里(中国東部や朝鮮半島にも分布)

名前の由来「家守」

ヤモリは、漢字で「家守」や「守宮」と書きます。家のまわりに住みつき、虫を食べてくれる姿から、家を守る生きものとされてきました。そのため、見つけても追い出さず、縁起のよいものとして大切にする地域もあります。家の守り神という古い見方が、そのまま名前になっています。「守宮」の字は、宮殿を守る役目からきたともいわれます。

大きさ・分布などの基本データ

大きさ全長 約10〜14cm(尾を含む)
分布本州・四国・九州の人里。中国東部・朝鮮半島にも分布
生息環境家の壁・すきま・塀・木の幹など
食べ物ガや小さな虫、クモなど(肉食)
活動夜行性。明かりに集まる虫を狙う
すきまに1〜2個。ふ化までおよそ50日

壁を登る指のつくり

ニホンヤモリは、垂直な壁やガラスを登ります。吸盤や粘液によるものではありません。この力は、指の裏のつくりから生まれます。

ヤモリの指のしくみを示した図
ヤモリのなかまの指の裏のしくみを示した図。細かい毛と分子の力を表しています。作図:Matteo Gabaglio(CC BY-SA 3.0)

指の裏のしくみ

細かい毛が生む力

ヤモリの指の裏には、ひだのようなならびがあります。そのひだの表面には、目に見えないほど細かい毛が密に生えています。一本の毛は髪の毛よりはるかに細く、その数は指全体で何十万本にもなります。この毛の先が、壁の表面にごく近づくと、分子どうしが引き合うわずかな力が生まれます。一本ずつの力は小さくても、無数に集まることで体を支えられるとされます。

ガラスの壁も登る

この力は、でこぼこのない、つるつるした面でもはたらきます。ガラス窓や、みがかれたタイルを登れるのはそのためです。指を紙をはがすようにめくって離すので、素早く歩けます。近年は、このしくみをまねた、はがせるテープの研究も進んでいます。

網戸に張りつくニホンヤモリ
網戸に張りつくニホンヤモリ。指を大きく開いて体を支えます。撮影:おむこさん志望(CC BY 2.5)

ヤモリとイモリの違い

家守と井守

名前がよく似た「イモリ」とは、まったく別の生きものです。ヤモリは爬虫類で、体はかさかさしたうろこにおおわれ、陸の上で暮らします。いっぽうイモリは両生類で、しっとりした皮膚をもち、水の中や水辺で過ごします。漢字で書くと、ヤモリは家を守る「家守」、イモリは井戸を守る「井守」。住む場所の違いが、そのまま名前に表れています。姿の違いは、指と腹にはっきり出ます。ヤモリの指には張りつくためのひだがあり、イモリの腹は赤やだいだい色をしています。

夜の狩人

明かりに集まる虫を狙う

ニホンヤモリは夜行性で、日中はすきまにひそんでいます。暗くなると出てきて、家の明かりのそばでじっと待ちます。明かりに引きよせられたガや小さな虫が、そのまま獲物になるからです。人の暮らしが生んだ明かりを、うまく利用している狩人といえます。同じ場所に毎晩現れることも多く、決まった持ち場のように使っているようです。気温が下がる冬のあいだは、家のすきまなどにこもって春を待ちます。

こけの上のニホンヤモリ
家のまわりだけでなく、木や石のすきまでも見られます。撮影:heikindai_87(CC0)

まぶたのない目

ニホンヤモリを含む多くのヤモリには、動くまぶたがありません。目の表面は、透明なうろこのような膜におおわれています。そのため、まばたきをせず、いつも目を開けたままに見えます。瞳は縦に細長く、暗い夜でもよく見えるつくりです。

同じヤモリの仲間でも、トカゲモドキのようにまぶたを持つ種類もいます。

ヒョウモントカゲモドキ
ヒョウモントカゲモドキは、中東から南アジアの乾いた土地に住むヤモリの仲間です。ヒョウのような斑点と、動くまぶたを持つことで知られます。丈夫で飼いやすく、「レオパ」の愛称で世界じゅうにファンがいます。壁を登れない足や、脂肪を蓄える太い尾など、...

舌で目をなめる

まぶたがないので、まばたきで目をきれいにできません。そのかわりヤモリは、長い舌をのばして、自分の目をなめて汚れを落とします。目をなめるしぐさは、まぶたを持たないヤモリの仲間に共通します。ほこりや水滴も、この方法で取りのぞきます。

尾を切って逃げる

自切と再生

敵におそわれると、自分から尾を切り離します。「自切(じせつ)」と呼ばれる行動です。切れた尾はしばらく動き続け、敵の注意をそちらに引きつけます。そのすきに本体は逃げます。切れた尾はやがて生えます。ただし、もとどおりの形や色にはなりません。尾には脂肪がたくわえられているため、切り離すことは体にとって大きな損でもあります。むやみに切るわけではなく、危険がせまったときの最後の手段です。

鳴く爬虫類と卵

オスが出す声

多くのトカゲはほとんど鳴きませんが、ヤモリの仲間は声を出します。ニホンヤモリのオスも、「キュッ」という小さな声を出すことが知られています。軒下などでの鳴き交わしは、研究の対象にもなってきました。仲間との合図に使っているものと見られています。夜、天井裏や軒下から聞こえる小さな声は、ヤモリのものであることがあります。

すきまに産む卵

メスは、壁や板のすきまに、1〜2個の卵を産みつけます。卵は白く丸い形。産みつけられたあとに固まり、その場所にくっつきます。ふ化までおよそ50日。生まれた子は親を小さくしたような姿で、はじめから自分で虫をとって暮らします。同じすきまに、何匹ものメスがくり返し卵を産みつけることもあります。

「ニホン」の名と、大陸の起源

人とともに渡ってきた

「ニホン」の名がつくものの、この種のもともとの分布は中国東部や朝鮮半島だと考えられています。日本へは、大昔に船の荷物などにまぎれて入ってきたという見方が有力です。人の暮らしのそばで増える性質が、その広がりを助けたとみられます。学名の japonicus も、日本で最初に記録されたことに由来します。同じように人の移動とともに広がったヤモリは、世界各地で知られています。

飼い方

生き餌と湿り気

何を食べるか

ニホンヤモリは生きた虫しか食べないため、飼うにはコオロギなどの生き餌が必要です。動かないものには、ほとんど反応を示しません。虫が手に入らない季節をどうするかが、飼育でいちばんの課題になります。小さな体のわりに、世話に手のかかる生きものです。野外でつかまえた個体は、環境になれるまで餌を口にしないこともあります。

隠れ家と水

昼間にひそめる隠れ家と、適度な湿り気も欠かせません。水は、皿にためるより、壁についた水滴をなめて飲むことが多い生きものです。そのため、霧ふきで容器の内側をぬらす方法がとられます。夜行性なので、強い照明は必要としません。

どこで会えるか

姿が見られるのは、主に夏の夜です。家の外灯や自動販売機の明かりのそばに、虫を待つ姿が現れます。玄関灯やベランダの窓にも、よく現れます。冬から春先にかけては姿を見せず、暖かくなるとまた現れます。明かりのそばの壁が、この種のもっとも見つけやすい場所です。

石やこけの上のニホンヤモリ
夜、物かげから出てきたニホンヤモリ。撮影:heikindai_87(CC0)

参考

  • Wikipedia「ニホンヤモリ」「Gekko japonicus」
  • Gekko japonicus のゲノム研究(接着する指・尾の再生/Nature Communications ほか)
  • ニホンヤモリの音声行動に関する研究 ほか

画像出典

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