ハクセキレイ

小型陸鳥

ハクセキレイは、駐車場の白線の上を尾を振りながら歩く姿でおなじみの、全長21cmほどの白と黒の小鳥です。世界に広く分布するタイリクハクセキレイの亜種です。日本ではもともと北海道を中心とする北方の鳥でしたが、1950年代以降に南下を続け、いまでは九州まで進出しました。ガソリンスタンドやコンビニの駐車場、駅のホームでも姿を見せる、日本でもっとも都会に適応した野鳥のひとつです。属名 Motacilla は「小さな尾を動かす」の意で、歩きながら尾を上下に振る独特のしぐさが名前に刻まれています。

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分類と学名

分類階層

  • 界:動物界 Animalia
  • 門:脊索動物門 Chordata
  • 綱:鳥綱 Aves
  • 目:スズメ目 Passeriformes
  • 科:セキレイ科 Motacillidae
  • 属:セキレイ属 Motacilla
  • 種:タイリクハクセキレイ Motacilla alba
  • 亜種:ハクセキレイ Motacilla alba lugens(Gloger, 1829)

和名・英名

  • 和名:ハクセキレイ(白鶺鴒)
  • 英名:White Wagtail(総称)/Japanese Pied Wagtail、Black-backed Wagtail(本亜種を指すとき)
  • 属名 Motacilla の意:「小さな尾を動かす」

タイリクハクセキレイの日本亜種

ハクセキレイは、世界に11亜種が知られるタイリクハクセキレイ Motacilla alba のうち、日本と極東ロシア沿岸に分布する亜種 lugens として扱われるのが一般的です。近縁のタイワンハクセキレイ M. a. ocularis、ホオジロハクセキレイ M. a. leucopsis なども日本で観察されており、いずれも顔の白黒模様がわずかに異なります。日本国内では、ハクセキレイ・セグロセキレイ・キセキレイの3種を合わせて「日本のセキレイ3種」と呼ぶ扱いが定着しています。

大きさ・分布などの基本データ

大きさ全長 約21cm/体重 約23〜27g/ムクドリよりやや小さめの細身
分布ロシア極東・カムチャツカ半島・千島列島・樺太・日本・中国東北部/日本では北海道〜九州まで(20世紀後半から南下)
生息環境河川の下流・海岸・畑・水田/コンビニ駐車場・駅ホーム・工場など都市環境にも順応
寿命野生で3〜5年程度
保全状況IUCN:LC(低危険種、タイリクハクセキレイとして評価)

姿と見分け方

雄夏羽・白黒コントラストが明瞭なハクセキレイ
Alpsdake, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

白い顔と黒い過眼線

雄夏羽は上面が黒、冬羽と雌は灰色

頭・肩・背中は、雄の夏羽では黒色、雄の冬羽と雌では灰色に変わります。腹側は白く、胸部にははっきりとした黒斑が入り、雄の方が黒の面積が広くなる傾向です。嘴と脚は黒で、翼を閉じているときには黒白のコントラストが際立ちます。飛翔中は羽の白い模様が明瞭で、後述する波を描く飛び方と合わせて、遠くからでもセキレイ類と分かる姿です。

幼鳥は顔がやや黄色

幼鳥は頭から背中が全体に灰色で、顔がやや黄色みを帯びます。腹側は白く、胸の黒い部分もまだ淡いまだら状で、成鳥ほどはっきりしません。巣立ち後しばらくは親鳥と数羽で行動することが多く、成鳥より少し小柄で顔の黄色みを目印に見分けられます。

セグロセキレイとの見分け方

日本のセキレイ3種のなかでも、もっとも紛らわしいのがセグロセキレイです。両者は白と黒のツートンで背中が黒く、シルエットもほぼ同じです。決め手は目の下(頬の位置)の色で、ハクセキレイは白、セグロセキレイは黒くなります。歩き方や声もほぼ同じ雰囲気なので、この一点が現地での識別で最も頼りにされる違いです。

キセキレイと日本の3種

もう一種のキセキレイは、腹側が鮮やかな黄色で背中は灰色を帯び、白黒のハクセキレイ・セグロセキレイとは一目で区別できます。3種は基本的に棲み分けています。ハクセキレイは河川下流や海岸・都市部、セグロセキレイは河川中流を利用します。キセキレイは河川上流から山地の渓流沿いを主な生息地としています。都市化と分布拡大により、この棲み分けは現在も少しずつ変化しています。

尾を上下に振り、波を描いて飛ぶ

岩の上で尾を振るハクセキレイ
CharlesLam, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons

Motacilla の名の通り、尾を振る

ハクセキレイのもっとも印象的なしぐさは、地面を歩きながら長い尾羽を上下に振り続ける動きです。属名 Motacilla(motare「動かす」+ cilla「尾」)は、この動きそのものを言い表した名で、セキレイ属全体に共通する行動です。この動きの意味は完全には解明されていません。危険を知らせる合図・縄張りアピール・地面の虫を驚かせて捕まえやすくする作用など、複数の仮説が提示されています。

波を描く飛翔と忙しい歩き方

飛ぶときは翼を数回はばたいてからいったん閉じ、上下に大きな波を描いてから再びはばたく独特の飛び方をします。同じセキレイ科のキセキレイやセグロセキレイも同じ飛び方で、遠くから小さな鳥が波形に飛んでいれば、ほぼセキレイ類と考えて間違いありません。地上では両足を交互に忙しく出して素早く歩き、通行人を横目で見ながら斜めに移動する場面もよく観察されます。

1930年代は北海道のみ ―分布拡大の物語

屋根瓦の上のハクセキレイ・都市で見かける姿
Alpsdake, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

戦後の南下と九州上陸

約80年で北海道から九州へ

1930年代までのハクセキレイは、日本では北海道でしか繁殖が知られていない北方の鳥でした。1955年ごろに宮城県で繁殖が確認され、1980年ごろには南関東と石川まで到達しました。1985年に和歌山と広島、2010年には九州でも繁殖が確認されています。約80年で日本列島を縦断した、鳥類学のなかでも劇的なスピードの分布拡大例として知られる経路です。

関東ではセグロセキレイを圧倒

関東平野ではもともと優占していたセグロセキレイを、南下してきたハクセキレイが圧倒するほど数を増やしました。今では平野部で見かけるセキレイの大半がハクセキレイで、両種の力関係が半世紀で入れ替わった地域も少なくありません。都市化への強い適応能力の差が背景にあると考えられています。

都市の白線を歩く鳥

駐車場・ホーム・工場

拡大を可能にしたのは、他の2種にはない都市への強い適応力です。ハクセキレイは川辺や水田だけでなく、コンビニ・ガソリンスタンドの駐車場・駅のホーム・工場の脇でも普通に姿を見せます。店舗の内部にまで入り込み、人の手から餌を受けとる個体も観察されており、都市に完全に馴染んだ野鳥といえます。

壁面の蛾をホバリングで捕る

都市環境を使いこなす典型例が、工場の外壁に留まる蛾をホバリングで捕らえる採食行動です。地面の虫と壁面の獲物、どちらも同じように扱える柔軟さがあり、コンクリートに囲まれた環境を高いレベルで使いこなす鳥だとされます。壁の一点でしばらく空中停止する姿は、駐車場の白線を歩く姿とは別のハクセキレイの一面です。

ルミネ1のねぐらと集団化

秋から冬にかけて、ハクセキレイは街路樹やビルの壁面に集団ねぐらを形成します。東京・西新宿のルミネ1壁面には、毎年冬に数百羽が集まる有名なねぐらがあり、日本野鳥の会の観察報告にも登場します。都市部での糞害や鳴き声の集中が問題になる面もあり、身近さゆえの摩擦を抱える鳥でもあります。

翼を広げる求愛ダンスと繁殖

地上を歩くハクセキレイ
Alpsdake, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

春の求愛ダンス

春先の繁殖期、オスは地面で翼と尾羽をいっぱいに広げてメスに求愛します。翼を震わせながら、周囲を弧を描くように移動する独特のダンスで、河川敷や広い駐車場で観察できる季節の風物詩とされます。ダンスが成功するとメスとつがいになり、縄張り内で営巣に入ります。

建物の隙間に皿状の巣

巣は地上のくぼみ・河原の岩陰・人家の屋根裏や建物の隙間などに、枯れ草や植物の根を組んだ皿状の形で作られます。産卵は5〜7月で、1腹4〜5個の卵を産みます。抱卵は主にメスが担い、12〜15日で孵化します。雛は13〜16日で巣立ちます。寒冷地では年1回、暖地では年2回の繁殖が確認されています。巣立ち後もしばらくは親鳥と3〜4羽の家族群で行動する姿がよく見られます。

食性 ―虫を歩いて拾う

砂利の上で虫を狙うハクセキレイ
harum.koh, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons

食性は雑食で、地面を歩きながら昆虫・クモ・ミミズなどを主に捕らえます。いったん高い場所(電柱や屋根)に留まって獲物のいる場所を探し、目星をつけた地面に降りて素早く歩き回るのが基本のパターンです。都市部ではパンくずや人の食べこぼしをとり、コンビニやガソリンスタンドの駐車場で虫や食物残渣を拾う姿もよく見られます。工場の壁面に留まる蛾をホバリングで捕らえる採食例もあり、環境に応じて食べ方を切り替える柔軟な種として知られます。

「チュチン、チュチン」の鳴き声

ふだんの地鳴きは「チュチン チュチン」と表現されます。飛び立つときや飛翔中は「チチッ チチチッ」と甲高い声で鳴きます。姿を見る前に、この声で存在に気づくことが多い鳥です。巣立ち直後の幼鳥は独り言のように長めのつぶやきをすることがあり、成鳥がまれに縄張り宣伝で3秒ほどの長い節を鳴くと、透き通った柔らかな響きを持つ声で聞かせます。都市部の集団ねぐらでは数百羽の鳴き声が同時に響き、駅前や街路樹の下で騒音として認識されることもあります。

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参考

  • BirdLife International. 2019. Motacilla alba. IUCN Red List of Threatened Species(LC指定)
  • 中村一恵『日本列島におけるセキレイ属近縁2種の地理的分布の変遷』神奈川県立博物館研究報告 自然科学16号, 1985(分布拡大の歴史)
  • 日本野鳥の会 東京 研究部「今冬も健在 西新宿・ルミネ1のハクセキレイのねぐら」2016(都市ねぐら事例)
  • 内田清一郎・島崎三郎『鳥類学名辞典』東京大学出版会, 1987(属名 Motacilla の由来)
  • Wikipedia (English): White wagtail/Wikipedia(日本語版):ハクセキレイ(形態・分布拡大・生態)

画像出典

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