ツバメ

小型陸鳥

ツバメは、日本で暮らす人にもっとも身近な渡り鳥のひとつです。春に東南アジアから飛来して家屋の軒先に泥と枯草の椀形の巣を作り、盛夏まで雛を育てて秋には南へ帰っていきます。飛行しながら虫を捕らえる高い飛翔能力を持ち、日本では水田の害虫を食べる益鳥、家に巣を作る縁起物として古くから親しまれてきました。世界的にはヨーロッパの個体群がアフリカ南部まで8000kmを渡ることが知られ、佐々木小次郎の「燕返し」の由来にも数えられる、飛翔と旅の代表格の鳥です。

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分類と学名

分類階層

  • 界:動物界 Animalia
  • 門:脊索動物門 Chordata
  • 綱:鳥綱 Aves
  • 目:スズメ目 Passeriformes
  • 科:ツバメ科 Hirundinidae
  • 属:ツバメ属 Hirundo
  • 種:ツバメ Hirundo rustica(Linnaeus, 1758)

和名・英名

  • 和名:ツバメ(燕)
  • 英名:Barn swallow
  • 別名:ツバクロ、ツバクラメ
  • 日本の亜種:Hirundo rustica gutturalis(下腹部が白っぽく胸帯が途切れる東アジア亜種)

名前の由来

和名「ツバメ」の「メ」は、カモメやスズメと同じように群れる小鳥を指すとされます。前半の「ツバ」については、光沢のある見た目や鳴き声、あるいは巣作りで泥を咥える様子を「土を食む」に見立てた説など複数の説があります。奈良時代の文献にすでに「つばめ」「つばくらめ」の形が登場する古い呼び名です。漢字の「燕」は、中国神話にある簡狄の受胎伝説とつながる縁起の良い文字で、中国では「宴」「安」に通じる音として親しまれてきました。

大きさ・分布などの基本データ

大きさ全長 約17〜19cm/翼開長 約32〜35cm/体重 約17〜20g
分布ほぼ全世界的(インドを含むユーラシア・アフリカ・南北アメリカ・オーストラリアなど)。8亜種があり、日本の繁殖個体は東アジア亜種 gutturalis
生息環境市街地・農地・湿地など人の生活圏に隣接する開けた場所
寿命野生では平均3〜4年、最長で10年以上の記録があります
保全状況IUCN:LC(低危険種)。世界規模では健全な個体数を保ちつつも、日本国内では減少傾向が報告されています

姿と体のつくり

枝先に止まるツバメの成鳥
Charles J. Sharp, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

燕尾と光沢のある背中

金属光沢の紺青と赤い喉

成鳥は背中と頭のてっぺんが金属光沢を帯びた紺青色で、光の当たり方によって黒く見えたり青く輝いたりします。額と喉は赤茶色〜栗色で、その下に胸の黒帯が横に走ります。腹は白く、東アジア亜種では白っぽさが強めなのが特徴です。細く尖った長い尾羽が伸び、燕尾服の名前の由来にもなった「二股の尾」を作ります。

雌雄と若鳥

オスとメスの見分けは尾の外側の羽の長さで、外尾羽の長いオスほど繁殖でメスに選ばれやすいと考えられています。若鳥は喉の色が薄く、尾も短いのが特徴で、この時期は「ツバクロ」と呼ばれる幼鳥期の姿にあたります。

飛行に特化した体

体は流線形で、翼は長く先が尖った鎌形をしています。この形は素早い羽ばたきと急な方向転換の両立に適しており、地面に降りることはほとんどありません。休むときは電線や木の枝、屋根の縁にとまります。地上を歩くのは巣材の泥を集めるときなどに限られる、空を主な生活場所とする鳥です。

南北の空を旅する渡り鳥

日本のツバメは東南アジアで越冬

日本で繁殖する個体群は、秋になるとフィリピン・ベトナム・マレー半島など東南アジアへ渡って越冬します。関東近郊では3月中旬から少数が姿を見せはじめ、4月以降に大きく増えるのが観察例からわかっています。2000年代の記録は、1960年代に比べて春の飛来がやや早まっているものの、秋の南下時期には目立った変化がない傾向にあります。

アフリカ南部まで8000kmの記録

ヨーロッパの個体群のなかにはアフリカ南部まで8000kmを移動するものがおり、追跡調査では年間で最長11,660kmを渡った個体が記録されています。長距離を移動できる背景には、飛行しながら虫を捕まえられる採餌スタイルと水面すれすれを飛んで水を飲める飛行技術、そして精度の高い方向感覚があると考えられています。

泥と枯草で作る椀形の巣

巣に給餌するツバメの親鳥と雛
Michael Gäbler, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

1時間に30回の泥運びで10日間

縦8cmの小さな椀

ツバメの巣は、泥と枯草を口で捏ねて壁に押し付けた椀形の構造物です。大きさは縦8cm・横10cm・深さ3cmほどの小さなもので、大人の握りこぶしとほぼ同じサイズにおさまります。親鳥は午前中を中心に1時間に30回近く泥や枯草を運搬し、およそ10日間で完成させます。古い巣を修復して使う場合、新しく作った部分の方が旧巣より少し小さくなる観察例も知られています。

4〜7月に3〜5個の卵

産卵期は4月から7月で、ピークは4月下旬から5月中旬にあります。1回の産卵で3〜5個ほどの卵を産み、多くは早朝に産まれます。産卵と抱卵は主にメスが担当し、雛は約2週間で孵化して、さらに3週間ほどで巣立ちを迎えます。条件が良ければ夏の間に2回繁殖する個体もあり、同じ巣を使いまわす例が多く観察されています。

なぜ人家に巣を作るのか

ツバメは自然の岩壁ではなく、家屋の軒先や商店の看板の裏・駅舎・駐車場など、極端に人の暮らしに寄り添った場所に巣を作ります。これはカラス・猛禽類・ヘビといった天敵が人のいる場所を避ける習性を、逆手に取った戦略だと考えられています。人が出入りする建物が減る過疎地域では営巣数も顕著に減ることが日本野鳥の会の調査から示されています。

空中でひたすら虫を狩る

水面すれすれを飛ぶツバメ
Prasan Shrestha, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

飛翔採餌のプロ

ツバメの主食は昆虫で、狩りはすべて飛行中に行います。カ・アブ・ハエ・小型のガなど飛んでいる虫を空中で捕らえるだけでなく、水田や河原の上を低く飛んで水面近くの虫を撫でるように捕食します。空中で体をひねり、急旋回や急上昇を繰り返す飛翔能力は、地上を歩く時間を最小限に抑える暮らしと表裏一体の適応です。

「ツバメが低く飛ぶと雨」の理屈

「ツバメが低く飛ぶと雨が降る」という言い伝えは、湿度と昆虫の高度からしばしば説明されます。降雨前に湿度が高くなると小型の飛翔昆虫が低い高度に集中するため、それを追うツバメの飛行高度も下がるという仕組みです。ただし地方によっては逆に「高いところを飛ぶと雨」と伝える例もあり、湿度と虫の関係が地域の気候によって異なる可能性が指摘されています。

子育ての知られざる側面

巣で餌をねだるツバメの雛たち
Alvesgaspar, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

親が欠けたときの雛殺し

ツバメの子育てには、静かな側面ばかりでない場面も観察されています。雛を育てている途中でオスかメスのどちらか一方が失われると、つがい外のツバメがやってきて既存の雛を巣から落とし、殺す行動が知られています。生き残ったつがい相手と自分の子を残そうとする戦略と解釈されており、鳥類の繁殖行動でしばしば見られる現象でもあります。

メスが欠けたつがいには新しい相手

一方で、メスが欠けたつがいのオスのもとには、どこからともなく複数の別のツバメが集まる場面もあります。その中から選ばれるようにして新しいメスがつがい相手となり、子育てを続ける様子が観察されています。長距離渡りをする本種で、限られた繁殖期の中で子を残すための行動として理解されています。

集団塒とハヤブサ

電線に集まるツバメの群れ
Ken Billington, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

数千〜数万羽のヨシ原塒

子育てを終えた夏の終わりから南下の直前にかけて、ツバメは河川敷のヨシ原などに集まり、数千から数万羽の集団塒(ねぐら)を作ります。石川県などでの観察では、広いヨシ原の中でも特に決まった一角に集中する傾向があり、季節が進むと塒の位置がずれる例も報告されています。夕暮れどきに空を舞う大群の姿は、南下前の情景として各地の野鳥愛好家に親しまれてきました。

日没前後のハヤブサ襲撃

この集団塒はハヤブサなど猛禽類の狩り場でもあります。ハヤブサはヨシ原に集まったツバメの群れを日没前後の薄明の時間に襲うことが多く、視界の悪くなる時間帯を突いて群れの端の個体を捕らえる例が観察されています。人家の軒先で天敵を避けているツバメも、集団塒では猛禽の狩りに晒される時期を持つ生きものです。

益鳥・縁起物としての文化

水田の害虫を食べる益鳥

日本では稲作文化のなかで、ツバメは水田の上を飛び回って害虫を食べ、イネそのものを食害しない鳥として益鳥に位置づけられてきました。巣を掛けられた家は縁起が良い、商売繁盛の兆しとみなす言い伝えが各地に残り、巣立ち後の巣を大切に残す風習も長く伝わっています。

燕返しから幸福の王子まで

佐々木小次郎の「燕返し」

ツバメの飛翔能力は、剣豪佐々木小次郎の必殺技「燕返し」の名前の由来としても知られています。急旋回して敵の斜め上から斬りつける剣技を、空中で身をひねるツバメの動きに重ねた命名で、飛行の巧みさが江戸期の人々にも強く意識されていたことがうかがえます。

「幸福の王子」とスズメの寓話

海外に目を向けると、アンデルセンの「親指姫」やオスカー・ワイルドの「幸福の王子」でも、ツバメは主人公に助言し遠くへ運ぶ役割で描かれる象徴的な鳥です。中華文化圏には、スズメが親孝行な代わりに五穀を食べられるようになり、ツバメは冷たかったため虫しか食べられなくなったという寓話も伝えられています。

中華料理の「燕の巣」は別の鳥

中華料理の高級食材「燕窩(えんか)」は、狭義のツバメの巣ではありません。素材となるのはアマツバメ目のアナツバメの一群で、唾液腺から出す粘液を固めて岩壁に取り付けた白い巣です。名前に「ツバメ」がつくものの、系統的にはスズメ目のツバメと近縁ではありません。泥と枯草で作る本種の巣を食材とみなす文化はなく、混同されがちな別グループの鳥の産物です。

減少と保全

世界ではLC・国内は減少傾向

IUCNレッドリストではツバメは低危険種(LC)に評価されており、世界規模では健全な個体数を保っています。ただし世界の推定生息数は減少傾向にあると付記されており、地域単位で見ると事情が異なります。国内では環境省レッドリストには掲載されていない一方、神奈川県のレッドリストでは「減少種」に位置づけられており、地域ごとに営巣数の落ち込みが観察されています。

日本野鳥の会の子育て状況調査

1巣あたり平均4羽・巣立ち率46%

日本野鳥の会は2013年から「ツバメの子育て状況調査」を全国規模で続けており、2020年までの8年間で延べ1万586カ所の巣について報告が集まりました。そのうち巣立ちに成功したのは46%で、1つの巣あたり平均で4羽の雛が巣立った計算です。都市部と地方で成功率に差があり、地域ごとの傾向が可視化される調査となっています。

家屋構造の変化と過疎化

巣立ちに至らなかった原因としては、天敵による捕食・巣の落下・親による放棄・人による撤去が挙げられています。家屋構造の変化と過疎化がツバメの営巣機会を狭めている点も指摘されており、シャッター付きの車庫や樹脂系の外壁など、泥がつきにくい建材の普及が営巣数の減少に影響しているとみられます。

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参考

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