ヤマカガシ

爬虫類

ヤマカガシは、日本の水辺や水田に住む中型の毒ヘビです。長らく無毒だと考えられていましたが、1974年に有毒と報告されて以来、日本国内でも重症咬傷例が繰り返し報告されてきた種でもあります。上顎奥歯の毒に加えて、餌のヒキガエルから取り込んだ毒を頸部の腺に蓄える「2種類の毒」を併せ持ち、2020年からは特定動物として愛玩目的の飼育が禁止されています。地域による体色の変異が大きく、赤・黒・青色などさまざまな色型が知られています。

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分類と学名

分類階層

  • 界:動物界 Animalia
  • 門:脊索動物門 Chordata
  • 綱:爬虫綱 Reptilia
  • 目:有鱗目 Squamata
  • 科:ナミヘビ科 Colubridae
  • 亜科:ユウダ亜科 Natricinae
  • 属:ヤマカガシ属 Rhabdophis
  • 種:ヤマカガシ Rhabdophis tigrinus

和名・英名

  • 和名:ヤマカガシ(赤楝蛇・山楝蛇)
  • 英名:Tiger keelback

名前の由来

「カガシ」は日本の古語で「蛇」を意味する言葉で、ヤマカガシは直訳すると「山の蛇」になります。ただし実際には山地よりも水辺や水田・湿地に多く、名前ほど山地性ではありません。漢字表記の「赤楝蛇(あかつづらへび)」「山楝蛇(やまつづらへび)」は、赤みを帯びた斑紋を持つ日本のツヅラヘビ(ツヅラ=つづら折れ状の模様)を指す古い呼び名から来たとされます。英名の Tiger keelback は「トラのような斑紋」と「キール(縦稜)を持つ鱗」の二つを合わせた名で、日本語名とはまったく別の観点から名づけられています。

大きさ・分布などの基本データ

大きさ全長 約60〜120cm(中型のヘビ)
分布日本(本州・四国・九州・佐渡・隠岐・壱岐・五島列島・屋久島・種子島)+中国/朝鮮半島/台湾
非分布北海道・対馬・伊豆諸島・南西諸島(トカラ列島以南)・小笠原諸島
生息環境水辺・水田・湿地とその周辺。山地よりも低地〜低山地
食性主にカエル類。ヒキガエル・トノサマガエル・モリアオガエルなど
有毒。上顎奥歯のデュベルノワ腺毒+頸腺毒(ブフォトキシン)の2系統
繁殖卵生。主に春に交尾し、7月に1回2〜43個の卵を産む
法規制2020年6月から特定動物指定・愛玩目的の飼育禁止
保全状況IUCN:LC(軽度懸念)/水田減少に伴い個体数は減少傾向

姿と体のつくり

全長60〜120cmの中型ヘビ

ヤマカガシの頭部と鱗のキール
Alexander A. Fomichev, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

全長は60〜120cmで、日本産のヘビの中では中型に位置します。アオダイショウよりは小さく、シマヘビと同程度の体格です。鱗には「キール」と呼ばれる強い縦の稜(尾根状の突起)があり、光を反射しにくくざらついた質感を持ちます。英名 Tiger keelback の keel(キール)はこの鱗の稜を指し、トラのような斑紋と並んで本種の識別要素とされています。

地域で大きく変わる体色

関東型のヤマカガシ全身
Repina Tatyana, CC BY 4.0, via Wikimedia Commons

ヤマカガシの体色は地域変異が非常に大きく、同じ種とは思えないほど姿が異なる集団が並びます。地域ごとの主な色型は次のとおりです。

関東型 ―赤と黒の交互斑

関東型ヤマカガシの全身(赤・黒・緑)
Alexander A. Fomichev, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

関東地方の個体群では、体側面に赤色と黒色の斑紋が交互に入る鮮やかな体色を示します。日本産のヘビの中でも屈指の派手さで、初めて出会った人が「熱帯の毒ヘビ」と誤解するほどです。

関西型・青色型・黒化型

関西地方では体側の斑紋が不明瞭になり、地味な色合いに寄ります。近畿地方西部から中国地方では青色型もみられ、体全体が青みを帯びる個体が確認されています。黒化型(メラニズム)の個体も知られ、素人目には他種と区別が難しくなりますが、多くの黒化個体はあごの下が黄色いという特徴で見分けられるとされます。

幼蛇は頸部の黄色い帯

ヤマカガシの頭部と頸部
Kim, Hyun-tae, CC BY 4.0, via Wikimedia Commons

幼蛇では頸部背面に鮮やかな黄色の帯が入り、細い体を目立たせます。この黄色帯は成長にともなってくすんでいき、成蛇では消える個体も多く見られます。個体差もあり、幼蛇のうちから黄色帯が現れない個体も一定数観察されます。

2種類の毒を持つヘビ

警戒姿勢を取るヤマカガシ
Kim, Hyun-tae, CC BY 4.0, via Wikimedia Commons

ヤマカガシは、日本産のヘビの中でも特に珍しい「2種類の毒」を持つ種です。ひとつは上顎奥歯にある毒腺(デュベルノワ腺)から供給される咬毒、もうひとつは頸部の皮下にある腺(頸腺)から放出される刺激毒で、それぞれ役割と性質が異なります。

上顎奥歯のデュベルノワ腺毒

短い毒牙と遅い注入

毒牙は上顎の奥歯にあり、長さは0.2cm以下と非常に短いのが特徴です。毒腺(デュベルノワ腺)を圧迫する筋肉が無いため、マムシやハブのように一瞬で毒が注入されるのではなく、噛みついた状態がある程度続かないと毒が入りにくい構造とされます。指先を軽くかまれた程度では、症状が出ない例もあります。

強い血液凝固作用

毒の主な作用は強力な血液凝固で、血液中に入るとフィブリノーゲンが大量に消費されます。続けて血小板も減少することで、逆説的に全身の止血作用が失われ、鼻粘膜・歯茎・消化管・肺などから出血が生じます。皮下出血や褐色尿も現れ、重症例では脳出血・急性腎不全・播種性血管内凝固症候群(DIC)に至ることがあります。20gマウスへのLD50は5.3マイクログラム(静脈注射)で、ニホンマムシ(19.5〜23.7μg)やハブ(34.8μg)よりも毒性そのものは強いと報告されています。

頸腺 ―ヒキガエルから借りた毒

頸部を圧迫すると毒が飛び散る

もう一つの毒は、頸部の皮下に並んだ小さな腺(頸腺)から放出されます。棒などで頸部を強く押すと毒液が飛び散り、目に入ると刺激痛・結膜炎・角膜混濁・虹彩炎などの眼障害を起こします。1989年時点で14例の眼被害が報告されており、防御用として無視できない毒とされます。

ヒキガエル由来のブフォトキシン

2007年に発表されたHutchinson et al.の研究では、この頸腺毒がヒキガエルの持つブフォトキシンに由来することが実験で示されました。ヒキガエルを食べていない個体の頸腺には毒が検出されないか、ごくわずかしか含まれない一方で、ニホンヒキガエルを与えた幼蛇の頸腺からは毒が検出されました。ヤマカガシは自ら合成した咬毒(デュベルノワ腺)と餌由来の防御毒(頸腺)を併せ持つ種として位置づけられています。

1974年に「有毒」と判明した経緯

ヤマカガシは1932年から咬傷時の出血傾向の報告が散発的にあったものの、長らく無毒種と考えられていました。有毒種として報告されたのは1974年です。症状がアフリカのブームスラング(後牙類の毒ヘビ)と一致することと、日本国内での死亡例が確認されたことが決め手となりました。血清療法は1984年の死亡例をきっかけに試作品が作られ、2001年までに11例の重症例で使用されました。以降は日本蛇族学術研究所・国立感染症研究所・杏林大学で保管される体制がとられています。

咬まれたときの症状と対応

局所症状は軽く、時間差で全身出血

ヤマカガシの咬傷は、マムシのような強い局所の痛みや腫れが直後に現れないことが多いとされます。「軽く咬まれた程度」と誤認して受診が遅れ、数時間から翌日以降に血尿・鼻血・皮下出血として全身症状が出るのが典型的な経過です。一過性の頭痛が現れた場合は毒量が多い可能性が高く、重症化の兆候とされます。

咬傷例の多くは捕獲・取扱い時

咬傷の多くは捕獲時や取扱い時に発生します。1971年の肺水腫による死亡、1982年・1984年の脳出血による死亡と、これまで複数の死亡例が報告されています。捕獲や不用意な接触がリスクを大きく上げるため、野外で見かけたときは距離を取って観察する方法が案内されています。

血清と医療対応

本種の抗毒素は2001年までに厚生省の研究班によって試作品が製造され、限られた医療機関で保管されています。市中の医療機関で常備されているものではなく、重症例では日本蛇族学術研究所(群馬県太田市)などの保管施設との連携が必要になるとされます。ヤマカガシの咬傷が疑われる場合は、噛まれた蛇の写真や特徴を可能な範囲で医療機関へ伝えることが治療の判断につながります。

生息環境と生態

水田と湿地を好む「水辺のヘビ」

水中を泳ぐヤマカガシ
Kim, Hyun-tae, CC BY 4.0, via Wikimedia Commons

ヤマカガシは「山」の名を持ちますが、実際には水田や湿地・小川の周辺など水辺を好むヘビとされています。日本の農業と水田の発達に伴い、餌となるカエル類の生息地が拡大したことで、本種も広く分布を広げたと考えられています。20世紀後半以降は水田の減少とカエルの減少に比例して個体数も減少傾向にあり、都市部で本種を見かけることは稀になりました。

分布のない地域

本州・四国・九州と主要な離島には広く分布しますが、北海道・対馬・伊豆諸島・南西諸島(トカラ列島以南)・小笠原諸島には分布していません。中国・朝鮮半島・台湾にも生息が知られており、東アジア一帯に分布するヘビでもあります。台湾の個体群(R. t. formosanus)は近年の遺伝解析で独立種とする説も提唱されました。

食性 ―カエルを主軸に

本種の主食はカエル類で、トノサマガエル・ヒキガエル・モリアオガエル・ヤマアカガエルなど幅広く捕食します。水田では土に潜ったトノサマガエルを土中に頭を入れて掘り出す様子も観察されています。カエル以外にはサンショウウオなどの有尾類・ニホンカナヘビ・ドジョウ類なども食べ、飼育下では金魚や死んだ魚類も摂食するとされます。頸腺のブフォトキシンはヒキガエルを食べることで蓄積されるため、餌のカエル相と防御毒は直接つながっています。

繁殖

繁殖形態は卵生で、主に春(4〜6月)に交尾を行い、秋にも交尾が観察されることがあります。7月に1回2〜43個の卵を産み、日本産のヘビの中では産卵数の多い部類に入ります。環境が整えば個体群を急速に維持できる産卵能力があり、水田や湿地の存続と個体数が強く結びついています。孵化した幼蛇は成蛇より鮮やかな色合いを持ち、頸部の黄色帯が明瞭に見られます。

天敵

成蛇の主な天敵は、大型のヘビであるシマヘビや、猛禽類のイヌワシ・クマタカ・サシバ・ノスリ・モズなどです。幼蛇はさらに多くの捕食者にさらされ、ガムシの幼虫やタガメによる摂食例も報告されています。頸腺のブフォトキシンや上顎の咬毒は、こうした捕食圧に対する多面的な防御と位置づけられます。

特定動物指定と法規制

日本では2019年6月の動物愛護法改正で、ヤマカガシ属(Rhabdophis)が「特定動物」に指定されました。改正は2020年6月に施行され、以降は愛玩目的での飼育が全面的に禁止されています。従来から研究・展示目的の飼育に限って許可されており、無許可での飼育は動物愛護法違反となります。捕獲や輸送についても各都道府県で規制がかかる場合があり、身近な生き物でありながら「触れない・持ち帰らない」が原則の種になっています。

似ているヘビとの見分け

マムシとの違い

もう一つの日本の毒ヘビであるマムシとは、頭の形と斑紋の型で見分けられます。マムシは頭が三角形で銭形斑(円形の斑紋)を持つのに対し、ヤマカガシは頭が三角ではなく、赤と黒の交互斑や不明瞭な斑紋を持ちます。ただし黒化型のヤマカガシは判別が難しく、あご下の黄色を含めた総合判断が必要とされます。

アオダイショウ・シマヘビとの違い

無毒のアオダイショウやシマヘビと同じ環境で見られることも多い種です。アオダイショウは全長1.5〜2mと大型で背面がオリーブ色の縦縞、シマヘビは4本の黒い縦縞が特徴で、いずれもヤマカガシとは体色と模様のパターンが大きく異なります。関東型のヤマカガシは赤・黒の派手な斑紋で見分けが容易ですが、関西や中国地方の斑紋不明瞭な個体は他種と混同されやすくなります。

保全状況

IUCNレッドリストではLC(軽度懸念)に評価されており、種として広い分布と多い個体数を持ちます。ただし日本では水田の減少とカエル類の減少に比例して個体数が減少傾向にあるとされ、20世紀後半以降は都市部で本種を見かける機会が激減しました。特定動物指定によって捕獲・飼育のルートは大きく制限されており、水田・湿地環境の保全が本種の長期的な存続を支える要因になります。

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画像出典

参考

  • Borkin, L. et al. 2021. Rhabdophis tigrinus. IUCN Red List(LC評価)
  • Hutchinson, D.A. et al. (2007) “Dietary sequestration of defensive steroids in nuchal glands of the Asian snake Rhabdophis tigrinus.” PNAS 104(4): 2265–2270(ヒキガエル由来のブフォトキシン蓄積)
  • Takeuchi, H. et al. (2012) “Extensive genetic divergence in the East Asian natricine snake, Rhabdophis tigrinus.” Biological Journal of the Linnean Society 105(2): 395–408(日本国内の遺伝的分化)
  • 堺淳・森口一・鳥羽通久「フィールドワーカーのための毒蛇咬症ガイド」『爬虫両棲類学会報』2002巻2号(日本爬虫両棲類学会・2002年)11-17頁
  • 川本文彦・熊田信夫「自ら経験したヤマカガシ頸腺毒による眼障害」『衞生動物』40巻3号(日本衛生動物学会・1989年)211-212頁
  • リチャード C. ゴリス「ヤマカガシの毒性について」『爬虫両棲類学雑誌』5巻3号(日本爬虫両棲類学会・1974年)63頁
  • 環境省「特定動物リスト」(動物の愛護と適切な管理)
  • ウィキペディア「ヤマカガシ」(分布・毒・咬傷・分類)
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