シロウミウシ

シロウミウシの正面顔・白地に黒斑と橙縁 ウミウシ類

シロウミウシは、体長約2〜3cmの日本近海の裸鰓類です。純白の外套膜に大きな黒斑が並び、外套膜の縁と足の縁を橙黄色が縁取る、日本のダイビングで最もよく見つかる定番種のイロウミウシです。学名は Chromodoris orientalis。1983年、オーストラリアの裸鰓類研究者ウィリアム・B・ルドマン(William B. Rudman)が香港産の個体をもとに新種として記載し、種小名 orientalis はラテン語で「東方の」を意味する日本〜中国の東アジア分布に由来する命名です。日本近海では本州から沖縄まで温帯〜亜熱帯の岩礁で通年観察でき、日本の裸鰓類の中でもっとも観察頻度の高い普通種の1つに数えられます。

スポンサーリンク

分類と学名

分類階層

  • 界:動物界 Animalia
  • 門:軟体動物門 Mollusca
  • 綱:腹足綱 Gastropoda
  • 目:裸鰓目 Nudibranchia
  • 下目:ドーリス下目 Doridoidei
  • 科:イロウミウシ科 Chromodorididae
  • 属:ミスジアオイロウミウシ属 Chromodoris
  • 種:シロウミウシ Chromodoris orientalis

和名・英名

  • 和名:シロウミウシ(白海牛)
  • 英名:Oriental Chromodoris
  • 異名(旧同定):Glossodoris pallescens(Bergh, タヒチ産の別種として長年誤同定)

別名と名前の由来

和名の「シロ(白)」は、純白の外套膜がもっとも目立つ体色的特徴に由来する平易な命名です。学名の種小名 orientalis はラテン語で「東方の・東洋の」を意味し、本種の分布が日本から中国東シナ海・南シナ海の東アジア域に限られる点を反映した命名です。属名 Chromodoris はギリシャ語の chroma(色)と doris(海の女神)を組み合わせた語で「彩り豊かなドーリス」の意、イロウミウシ科の代表的な属になります。1983年、オーストラリアの裸鰓類研究者ウィリアム・B・ルドマンが香港(タイプ産地)で採集された個体をもとに新種として記載しました。それ以前は日本近海の個体はタヒチ産の Glossodoris pallescens と誤同定されていましたが、Rudman の再検討により別種として分離されました。

大きさ・生息などの基本データ

大きさ体長 約2〜3cm(20〜30mm)
体色純白の外套膜地色/背面の正中線の両側に大きな黒色斑が並ぶ/大型個体では暗色寄りになり黒斑が不規則な4列まで増える
縁取り外套膜の縁と足の縁が橙黄色で縁取られる/二次鰓の外縁と触角のクラブも橙
触角・鰓触角(rhinophore)は白い柄に橙のクラブ/二次鰓は半透明の白色で外縁が橙
分布東アジア域/日本(北海道南部〜琉球列島)/中国(東シナ海・南シナ海)/香港(タイプ産地)/台湾/韓国
生息環境岩礁の礁縁や礁斜面/水深5〜20m前後/通年観察可能
食性カイメン食(イロウミウシ科の一般的な食性)
寿命数か月〜約1年(イロウミウシ科全般)
保全状況IUCN未評価。日本近海に広く分布し、個体数は安定と見られる
シロウミウシ(香港・タイプ産地)
Eugene Lim, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons(香港・タイプ産地)

純白に大きな黒斑、縁は橙黄色

正中線の両側に並ぶ黒斑

純白の外套膜に散る大きな黒斑

シロウミウシの背面は純白の地色に、大きな黒色の斑点が正中線(体の中央線)の両側に規則的に並びます。斑の大きさは背面直径の1〜2割ほどで、小型個体では左右に2〜3個ずつ、大型個体では不規則な4列まで増えることが知られています。白と黒のコントラストがはっきりして遠くからでも識別しやすい配色です。

大型個体は暗色に褪せることがある

成長した大型個体では、外套膜が縁に向かって白色に褪せる代わりに中央部が灰色〜淡青色を帯びることがあります。この暗色型は黒斑がやや目立ちにくくなりますが、外套膜の縁の橙黄色は変わらず、種の識別ポイントとして機能します。若い個体は純白型が多く、成長段階で色調が変化する種です。

外套膜と足の縁を橙黄色が縁取る

外套膜外周と足縁を走る橙黄色の帯

外套膜の最外周には橙色から黄色の細い帯が走り、体全体の輪郭を鮮やかに縁取ります。足の縁にも同じ橙黄色が入り、上から見ても側面から見ても橙の枠がくっきりと浮かび上がります。この縁取りは白と黒のモノトーンの体色に唯一の色味を加える要素で、水中でも遠くから視認できる識別特徴になります。

触角と二次鰓の橙色クラブ

頭部から立ち上がる1対の触角(rhinophore)は白い柄の先端が橙色のクラブになり、外套膜の橙縁と呼応します。体の後方に開く二次鰓(gill)は半透明の白色で、外縁が橙色に色づく羽状の構造です。危険を感じるとすばやく体内に引き込める構造で、触角と鰓の橙が本種の識別ポイントを分散して配置しています。

シロウミウシの二次鰓アップ・橙縁の羽状
RYO SATO, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons(二次鰓アップ)

タヒチ産と誤同定された歴史

Bergh記載のGlossodoris pallescensとの混同

1874年ベルクのタヒチ標本と長年混同

本種が Chromodoris orientalis として独立した学名を得たのは1983年で、それ以前の日本近海の個体はデンマークの裸鰓類学者ルドルフ・ベルクが1874年にタヒチで記載した Glossodoris pallescens として長年扱われていました。地理的にはるか離れたタヒチ産の個体と混同されていた背景には、当時の写真・標本の限界があったと考えられます。

1983年ルドマンの再検討で新種分離

1983年、オーストラリアのウィリアム・B・ルドマンが両者を再検討し、日本〜東シナ海の個体は pallescens とは異なる新種として本種を記載しました。約100年にわたる誤同定が解消された事例として、日本の裸鰓類分類史でも重要な種となっています。

白+黒+橙の3色でChromodoris属では最もシンプル

Chromodoris 属(ミスジアオイロウミウシ属)はインド太平洋を中心に約20種が知られ、いずれも派手な体色を持つイロウミウシ科の代表的な属です。日本近海には本種のほかにアオウミウシ Hypselodoris festiva、シライトウミウシ Chromodoris magnifica、アンナウミウシ Chromodoris annae などが分布します。シロウミウシは白+黒+橙の3色のシンプルな配色で、他の派手な同属種とは対照的な位置づけを持つ種です。

シロウミウシの側面全身
Bernard Picton, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

アオウミウシと並ぶ通年観察できる普通種

本種はアオウミウシ Hypselodoris festiva と並んで日本のダイビングで観察頻度が高い裸鰓類の1つで、日本の裸鰓類観察でよく取り上げられる種として知られています。両者は伊豆半島や紀伊半島など温帯域のダイビングポイントでほぼ通年観察でき、体長20〜30mmと目立つ配色を持つ点で共通します。アオウミウシは青地に黄斑と黒縦線、シロウミウシは白地に黒斑と橙縁と、色調の対比が明確で並べて見ても識別しやすい組み合わせです。

シロウミウシ(静岡県大瀬崎の観察例)
Izuzuki Diver, CC BY-SA 2.5, via Wikimedia Commons(静岡県大瀬崎)

カイメン食のイロウミウシ科

シロウミウシはイロウミウシ科の一員として、岩礁のカイメン(海綿)を食べて暮らします。餌のカイメンから取り込んだ二次代謝物質を体内に蓄え、東アジア沿岸で通年観察できるほど個体数が多いのは、この化学防御が捕食圧を大きく下げているためと考えられています。白地に黒斑と橙縁の配色は、この化学防御を捕食者に知らせる警戒色の一種と見られる色使いで、色鮮やかなイロウミウシに共通する戦略に沿った配色です。水深5〜20mの岩礁の礁縁で、餌のカイメンが張り付く岩の側面などで観察されます。

雌雄同体で白い螺旋卵塊を産む

裸鰓類の例にもれず、シロウミウシも雌雄同体で、2個体が出会うと互いに精子を交換して両方が卵を産む種です。産卵時には北海道南部〜琉球列島の通年観察できる岩礁に白いリボン状の卵塊を貼り付け、東アジア沿岸で最も目にする機会が多い産卵光景の1つになっています。孵化したベリジャー幼生は数週間の浮遊期を経て東アジア沿岸のカイメン付着岩礁に着底し、稚ウミウシは黒斑がまだ2列に留まり、成長にしたがって不規則な4列へと広がっていきます。寿命は短いものの東アジア沿岸で通年観察されるのは、季節ごとに世代が入れ替わりながら常に成体が存在する状態を保っているためで、シロウミウシが日本のダイバーに最も馴染み深い1種になっている理由でもあります。

本州から沖縄まで通年観察できる普通種

北海道南部から琉球列島まで日本沿岸に広く

日本近海では北海道南部から本州太平洋・日本海沿岸/紀伊半島/四国/九州/奄美大島/沖縄本島/八重山諸島まで、温帯〜亜熱帯の岩礁域に広く分布します。伊豆半島(大瀬崎・IOP)や紀伊半島(串本)などの主要ダイビングポイントでは通年観察が可能で、水温変化に強く1年を通じて観察例が報告される種類です。日本の裸鰓類観察の入り口として位置づけられることの多い普通種です。

東アジア限定分布・インド太平洋には広がらない

海外分布は東アジア域に限られ、香港(タイプ産地)・台湾・韓国・中国東シナ海と南シナ海に分布します。他のイロウミウシ科がインド太平洋の広範囲に分布する種が多い中、本種は東アジア固有種に近い分布パターンを持つ点でも特徴的です。日本の裸鰓類の中では観察頻度が最も高い部類の種として位置づけられます。

関連

ウミウシ【総合】
貝殻を失った巻貝の仲間で「海の宝石」とも呼ばれるウミウシ。世界に2000〜3000種以上、色とりどりの姿・多様な食性・雌雄同体の繁殖など、ウミウシの全体像と代表的な種をまとめた総合ページです。
アオウミウシ
アオウミウシは、日本の海の浅い岩場に多い、青色のウミウシです。カニやエビとは違い、貝の仲間で、殻を持たない軟体動物です。あざやかな青の体に黄色い線、オレンジ色の触角(しょっかく)とえらを持ち、ダイバーに人気のある美しい種として知られています...

参考

画像出典

タイトルとURLをコピーしました