スルメイカ

スルメイカ・干し風景 イカ・タコ類(頭足類)

スルメイカは、日本の食卓でいちばん馴染み深いイカです。北の海を大群で回遊し、寿命はわずか1年。刺身・塩辛・するめの原料として古くから親しまれてきました。近年は不漁が続き、資源管理の対象にもなっています。

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分類と学名

分類階層

  • 界:動物界 Animalia
  • 門:軟体動物門 Mollusca
  • 綱:頭足綱 Cephalopoda
  • 亜綱:鞘形亜綱 Coleoidea
  • 上目:十腕形上目 Decapodiformes
  • 目:開眼目 Oegopsida
  • 科:アカイカ科 Ommastrephidae
  • 亜科:スルメイカ亜科 Todarodinae
  • 属:スルメイカ属 Todarodes
  • 種:スルメイカ Todarodes pacificus(Steenstrup, 1880)

和名・英名

  • 和名:スルメイカ(鯣烏賊)
  • 英名:Japanese flying squid/Japanese common squid/Pacific flying squid

別名・呼び名の由来

もともとは加工した干物を「するめ」と呼び、その原料を「スルメイカ」と呼び分けるようになったと考えられています。旬の夏に獲れるものは「夏イカ」と呼ばれ、成長段階でも名前が変わります。関東で春〜初夏に獲れる小型の若齢個体は「バライカ」や「ムギイカ」と呼ばれます。地域によって真イカ・マツイカ・トンキュウ・シマメイカなど方言も豊富です。

大きさ・分布などの基本データ

大きさ外套長 約27〜30cm(メスが大きく、最大約50cm)/体重 最大約0.5kg
分布北太平洋の日本近海が中心/千島列島〜日本列島〜朝鮮半島。近年はアラスカ・カナダ、南はベトナム沿岸にも拡大
生息環境表層から水深100m前後の中層。最大500mまで潜る。適水温は5〜27℃
寿命約1年(産卵後に死亡)
食べ物幼生はプランクトン/成体は小魚・甲殻類。共食いもする
産卵数1匹あたり300〜4,000個
保全状況IUCN: LC(軽度懸念/2014年評価)

スルメイカとは

細長い胴と菱形のヒレ

スルメイカは細長い円筒形の胴を持ち、外套の先端に三角形のヒレ(エンペラ)が対になって菱形をつくります。生きているときの体色は半透明ですが、興奮すると全体が赤褐色に染まります。ツツイカ目の共通形質として、体内には退化した細長い軟甲が残っています。

スルメイカ(背側の姿)
self, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

「足10本」は8本の腕+2本の触腕

イカの「足10本」は正確には8本の腕と2本の触腕からなります。触腕は普段はしまい込まれ、獲物を捕えるときにだけ勢いよく伸ばして絡め取ります。腕にも触腕にも吸盤が並び、触腕の先には「クラブ」と呼ばれる吸盤の集まりがあります。

スルメイカの腕(8本のうちの1本)
A. Pollock, Public domain, via Wikimedia Commons
スルメイカの触腕先端(クラブ部)
A. Pollock, Public domain, via Wikimedia Commons

心臓が3つ・カラストンビの口

スルメイカを含む頭足類は心臓を3つ持ちます。全身に血液を送るメインの心臓が1つと、両側のえらに血液を送る「えら心臓」が左右に1つずつです。腕の付け根には「カラストンビ」と呼ばれる硬いくちばしがあり、その内側で「歯舌」という舌状の器官がヤスリのように動きます。カニの甲羅も割ってしまう強い口です。

1年で終わる短い一生

3つの系群と大回遊

日本近海のスルメイカは、生まれる時期で3つのグループに分かれます。秋生まれ(9〜11月・東シナ海北部〜日本海南西部)、冬生まれ(12〜3月・東シナ海〜九州北部)、春〜夏生まれ(4〜8月・日本海本州沿岸〜九州沿岸)です。幼生は体長1mmほどで対馬暖流に乗って北へ運ばれ、成長しながら日本海や太平洋を大回遊します。

スルメイカの分布図(北太平洋)
Xcomik, CC0, via Wikimedia Commons

産卵と死

寿命は約1年で、産卵を終えた個体はそのまま死んでしまいます。オスが先に成熟してメスに精子の袋(精莢)を渡し、メスは南下しながら成熟して300〜4,000個の卵を産みます。卵は水温にもよりますが100〜113時間、およそ5日ほどで幼生に孵化します。世代がまるごと入れ替わる短い一生です。

アカイカ科の「飛翔」とスルメイカ

英名の「Japanese flying squid」が示す通り、アカイカ科のイカは海面から飛び出して滑空することが知られています。漏斗から勢いよく水を噴き出し、腕を広げて空中を30mほど移動した例も報告されています。ただしスルメイカ自体は腕に滑空用の膜が発達していないため、同じ科のトビイカのような本格的な滑空ができるかは慎重な見方もあります。

スルメイカを支える生態系

俊敏な捕食者

成体のスルメイカは小魚や甲殻類を主な獲物にします。腕と触腕でしっかり捕らえ、カラストンビで肉を切り取って食べます。網に一緒に捕らえられると仲間を襲う共食いも観察されており、密度の高い環境では冷静さを保てないようです。

多くの動物の食料源

スルメイカは同時に、多くの動物を支える基幹的な餌でもあります。マッコウクジラ・イルカ類・ヒゲクジラ・アザラシ・海鳥類などがスルメイカを主な獲物にしています。世界の海ではオキアミに次ぐ規模の生物資源となっており、食物網の中間層で重要な位置を占めています。

日本人と食文化

「するめ」の名の由来

もともと「するめ」は加工品と生体の両方を指しました。後に呼び分けが必要になり、加工前を「スルメイカ」、乾物を「するめ」と分けるようになったと考えられています。平安時代の辞書『和名類聚抄』では「するめ」が別の意味で使われた記録もあり、古くから日本語に根付いた呼び名です。

一番するめ・二番するめ

乾物の「するめ」の等級では、スルメイカは主役ではありません。高級とされるケンサキイカやヤリイカのものを「一番するめ」、スルメイカのものを「二番するめ」と呼び分けます。名前に「スルメ」と付いていても、加工品の格では上位ではない位置づけです。

スルメイカを焼いた干物(干イカ焼き)
EBS, KOGL Type 1, via Wikimedia Commons

刺身・塩辛・イカ飯まで

スルメイカは日本で最も安価に手に入るイカで、刺身・寿司・焼き物・煮物・天ぷらとほぼあらゆる調理に使われます。内臓を活かした塩辛や、丸ごと味を含ませるイカ飯・イカそうめんも定番です。能登の魚醤「いしる」の材料にも、スルメイカの内臓が用いられます。

スルメイカの寿司
RuinDig/Yuki Uchida, CC BY 4.0, via Wikimedia Commons

神饌としてのするめ

スルメは古代から朝廷への貢ぎ物とされ、神道の祭儀では今も神饌として重んじられています。室町時代の日明貿易以降は中国・東南アジア向けの重要な輸出品となり、明治・大正まで続きました。長い保存が利く干物として、日本の食文化と交易史の両方に深く関わってきた食材です。

集魚灯で釣り上げる「イカ釣り」

夜の海に灯る漁り火

スルメイカ漁の主役は、夜に集魚灯を焚いて船に呼び寄せる「イカ釣り漁」です。強い光に集まる習性を利用し、擬似餌(角)を上下させて釣り上げます。北海道や日本海の夜、水平線に並ぶ漁り火の列は季節の風物詩となっています。定置網や追い込み漁でも獲られます。

1993年ロシアの切手に描かれたスルメイカ
Почта России, Public domain, via Wikimedia Commons

記録的な不漁と資源管理

2000年代には年15〜30万トン獲れていた水揚げが、2015年ごろから急激に落ち込みました。2019年4〜12月末の水揚げは2.1万トンで、1951年以降最低の値を記録しています。日本では1998年からTAC(漁獲可能量)魚種に指定され、資源を守る対象となっています。海水温の変化や海外漁船の影響など、複数の要因が指摘されているところです。

近縁のイカとの比較

よく似たイカとの違い

市場や寿司ネタで並ぶ主なイカは、産地・季節・体型で見分けがつきます。スルメイカは日本近海で最もありふれた種で、他のイカと比べると細長い胴と大群で回遊する行動が特徴です。

アオリイカとの違い

アオリイカはヤリイカ科の別属で、胴が丸みを帯びて肉厚。ヒレは胴の全長にまで広がり、菱形ではなく胴を縁取る楕円形をつくります。分布は暖海寄りで、味の点でも「高級ネタ」の位置づけになるイカです。細長い胴と菱形ヒレのスルメイカとは、見た目でほぼ区別がつきます。

アオリイカ
アオリイカは、胴長40〜50cmに達する日本沿岸最大級のイカで、胴の縁を1周する半円形の大きなひれが目立ちます。春から夏にかけて沿岸の海藻の陰に卵鞘を産みつけ、寿命は約1年。エギング釣りの代表的な対象魚で、遊離アミノ酸が国産イカの最高水準に...

ヤリイカとの違い

ヤリイカは名前どおり槍のように細長く、胴の先端が鋭くとがります。旬は冬〜春で、スルメイカ(夏〜秋)と季節がずれます。冬の刺身では上品な甘みで珍重され、乾物にすると「一番するめ」と呼ばれます。スルメイカより小型で、より上位の格として扱われるイカです。

ケンサキイカとの違い

ケンサキイカは剣のように尖った胴を持つ、九州以南の温海に多いイカです。地域によって白イカ・アカイカ・ゴトウイカとも呼ばれ、刺身では最高級の一つに数えられます。ヤリイカと並ぶ「一番するめ」の原料でもあり、北の海の量産種であるスルメイカとは棲みかも扱いも対照的です。

スルメイカらしい特徴

細長い胴と後端の菱形ヒレ

スルメイカの外套は円筒状に細長く伸び、先端に対のヒレが菱形を作ります。ヒレが胴の後端だけに限られる点はアオリイカとの一番の差です。半透明の身に、興奮すると走る赤褐色のまだら模様も、生きた個体の特徴になります。

大群で夜の光に集まる

スルメイカは同じ大きさの個体が数百・数千の大群を作って回遊します。夜には強い光に集まる走光性が強く、集魚灯を焚くと船の周りにびっしり集まってきます。この行動があるからこそ、集魚灯漁が漁業の主軸として成り立っています。

短命だが大量に生まれる

寿命1年で数十万トンの水揚げを支えているのは、1匹あたり数千個の卵を産む繁殖力です。1世代でごっそり入れ替わる短命型の生活史は、他の食用イカと比べても際立った特徴になります。豊漁と不漁の振れ幅が大きくなりやすいのも、この短命型の生活史ゆえです。

参考

画像出典

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