アルゲンタビスは、およそ900万年前の南米に住んでいた大型の鳥です。翼を広げた幅は5〜6メートルと見積もられ、体重70キログラム前後は飛べる鳥としていまも最大の記録とされます。日本語ではアルゲンタヴィスとも表記されます。
分類と学名
分類階層
- 界:動物界 Animalia
- 門:脊索動物門 Chordata
- 綱:鳥綱 Aves
- 目:タカ目 Accipitriformes
- 科:†テラトルニス科 Teratornithidae
- 属:†アルゲンタビス属 Argentavis
- 種:アルゲンタビス Argentavis magnificens
和名・英名
- 和名:アルゲンタビス(アルゲンタヴィス)
- 英名:Argentavis/giant teratorn
学名の由来
属名の Argentavis は、ラテン語の argentum(銀)と avis(鳥)を組み合わせた言葉です。銀を意味する argentum は、化石が見つかった国アルゼンチンの名にもつながります。種小名の magnificens は「壮大な」を意味します。命名したのは、1980年に本種を記載したケネス・キャンベルとエドゥアルド・トンニの2人でした。
大きさ・分布などの基本データ
| 翼開長 | 約5.1〜6.1m(推定・研究により幅がある) |
|---|---|
| 体重 | 約70〜72kg(推定) |
| 全長 | くちばしの先から尾羽の先まで約3.5m |
| 立ったときの背丈 | 約1.5〜1.8m |
| 生息年代 | 新第三紀 中新世後期(約900万〜680万年前) |
| 分布 | アルゼンチン中央部および北西部 |
| 生息環境 | 草原と山地の縁にあたる開けた土地 |
| 食性 | 動物の死骸が中心だったとされる |
| 記載 | 1980年(Campbell & Tonni) |
翼開長5〜6メートルという体の大きさ
40年で下方修正され続けた推定値
アルゲンタビスの大きさは、発見からの40年余りで下方修正が重ねられてきました。骨が部分的にしか残っておらず、翼の長さも体重も現生の鳥から換算するほかないためです。

翼開長7.5メートルという最初の推定
1980年の記載では、近縁のテラトルニスと比べる形で翼開長6.5〜7.5メートルという数字が示されました。1983年にはカリフォルニアコンドルを拡大する方法で計算し直され、最大8.3メートルという値まで出ています。体重の初期推定は120キログラムでした。
ただし8.3メートルという値は、2024年の検討で外れ値として扱われています。骨の一部から全身を復元する作業には、それだけ大きな不確かさがともないます。
5.1〜6.1メートルに落ち着いた現在の値
2014年に発表された計算では、翼開長は回帰分析で5.09〜5.57メートル、カリフォルニアコンドルとの比較で5.70〜6.07メートルとされました。体重も80キログラム、続いて70〜72キログラムへと下がっています。7メートルに届いていたかどうかは現在も決着していません。
それでも小さな鳥になったわけではありません。地上に立った背丈は1.5〜1.8メートルで、人の身長とほぼ並びます。上腕骨1本の長さが、人間の腕全体よりわずかに長かったと報告されています。
翼開長で抜かれ、体重で保つ首位
翼の幅という一点ではアルゲンタビスはすでに首位ではありません。2014年に記載された海鳥ペラゴルニス・サンデルシの翼開長が6.06〜7.38メートルと見積もられ、アルゲンタビスを2割ほど上回ったためです。
一方で体重を基準にすると順位が入れ替わります。ペラゴルニスは22〜40キログラムと軽く、70キログラム級のアルゲンタビスには遠く及びません。飛べる鳥として最も重い記録は、いまもアルゲンタビスが大差で保っています。現生で最大級のワタリアホウドリでも平均8.5キログラム、アンデスコンドルで平均11.3キログラムほどです。
モア・エピオルニスとの区別
「史上最大の鳥」という言い方には、飛べる鳥と飛べない鳥が混ざりがちです。体重そのものではニュージーランドのジャイアントモアやマダガスカルのエピオルニスがはるかに上で、200キログラムを超えたと考えられています。
これらは翼が退化し、地上を歩く暮らしに移った鳥でした。アルゲンタビスの記録は「空を飛ぶ鳥のなかで」という条件つきになります。
上昇気流に頼った空での暮らし
羽ばたかない飛び方
アルゲンタビスは、羽ばたきをほとんど使わずに飛んでいたと考えられています。翼の大きさと形、そして骨に残された筋肉の付き方が、その根拠になっています。

長い羽ばたきを支えない胸の筋肉
骨格から復元される胸の筋肉は、長時間の羽ばたきを支えるには足りなかったとされます。羽ばたきは短い時間に限られ、飛行の大半は滑空でまかなわれていたという見方です。大型の滑空鳥はもともと羽ばたく時間が短く、この点は現生のコンドル類の観察とも矛盾しません。
上昇気流を使う旋回
風を使った滑空はソアリングと呼ばれ、大きく2種類に分かれます。地面が温められて生じる上昇気流のなかを旋回して高度を稼ぐサーマルソアリングと、海面付近の風速差を利用するダイナミックソアリングです。ワシ類やコンドル類が日常的に使うのは前者にあたります。
2022年に発表された航空力学のモデル計算では、絶滅した巨大な飛行動物4種の性能が現生鳥類と比較されました。アルゲンタビスはサーマルソアリングを使っていたとする従来の見方が、この計算でも裏づけられています。中新世後期のアンデス山麓は現在より温暖で乾燥しており、上昇気流の発生には有利な環境でした。
風と斜面に頼った離陸
飛び立つ場面では体の大きさがそのまま不利にはたらきます。脚は助走や跳躍に耐えるだけの強さを備えていましたが、翼が長すぎて、ある程度の高さを得るまで有効に振れなかったと考えられています。
そのため離陸は風頼みでした。山の斜面や向かい風を利用すれば、なだらかな地形からでも大きな労力なしに飛び立てたと見積もられています。飛び続けるのに必要な速度は秒速11メートル、時速に直すと約40キロメートルという計算があります。
500平方キロメートルの行動圏
1羽が見回った範囲は500平方キロメートルを超えていたと推定されています。東京23区の面積が約620平方キロメートルですから、それに近い広さを1羽で見張っていた計算になります。
飛ぶ方向にも偏りがあったと考えられており、逆風で速度を落とさないよう南北に往復していたとする見方が出されています。
腐肉をあさる食性と、恐鳥からの横取り
捕食者ではなく腐肉食という見方
大きな翼と鉤(かぎ)状のくちばしを備えていましたが、研究の主流は腐肉食に傾いています。

骨から読み取られた食性
アルゲンタビスの体つきは、同じテラトルニス科の他種と比べても、獲物を追って捕らえる飛び方に向いていません。広い範囲を低い労力で流し見て、倒れた動物を探す暮らしのほうが理にかなうとされます。くちばしは大きく細長く、先が鉤状に曲がっていました。大きく開く口は死骸から肉を引きはがすのに適した形です。
2024年の脳の形からの推定
2024年には、頭骨の内側の型から脳の形を推定する研究が発表されました。そこから導かれたのも、植生の乏しい開けた土地で腐肉をあさる、あるいは他者の獲物を横取りする暮らしという像です。脳の形態という別の角度からも、同じ結論が支持されたことになります。
350キロの恐鳥からの横取り
当時の南米で最も大きな陸上の捕食者は、恐鳥と呼ばれるフォルスラコス科の鳥たちでした。アルゲンタビスと同じ時代にいたデヴィンケンツィアは体重350キログラムに達したとされます。空を飛べないかわりに、走って獲物を仕留める鳥です。
アルゲンタビスは、翼を広げた大きさで有袋類に近い哺乳類や小型の恐鳥を威嚇し、その獲物を奪ったのではないかと考えられています。自分で狩るより、他者が仕留めたものを取り上げるほうが割に合ったという見立てです。
2年に一度の繁殖と、12年かかる成熟
1キロの卵を2年に一度
現生の鳥との比較から、アルゲンタビスは2年に一度、1〜2個の卵を産んだと推定されています。卵1個の重さは1キログラム前後とされ、ダチョウの卵に近い重さです。

当時の気候を踏まえると、抱卵は冬に行われた可能性が高いとされます。つがいは数日おきに役割を交代し、片方が卵を温める間に、もう片方が餌を探しに出たと考えられています。
16か月で独立し、12歳で成熟
ひなが親から離れて自立するまでには16か月ほどかかり、完全に成熟するのは12歳前後と見積もられています。鳥としては際立って遅い成長です。
繁殖の間隔が長く、成熟も遅いため、個体群を保つには年間の死亡率が2パーセントを超えてはならなかったと計算されています。裏を返せば、その低い死亡率が成り立つほど安全な立場にありました。体が大きく空を飛べる以上、襲われることはほとんどなく、死因の多くは老いと病だったと考えられています。
頭骨と方形骨から始まった研究史
1980年の記載を支えた頭骨と方形骨
最初の化石は、アルゼンチンのラ・パンパ州にあるサリナス・グランデス・デ・イダルゴで、ラ・プラタ博物館の調査によって見つかりました。頭骨の一部と右の方形骨、脚と翼の断片がひとまとまりで出土しています。

骨はひどく割れており、頭以外の部分は種を見分ける手がかりを失っていました。新種と判断する決め手になったのは頭骨と方形骨だけです。この標本をもとに1980年の記載論文が書かれ、テラトルニス科としては3番目の属、北米以外では最初の発見となりました。
1995年の追加標本と、2012年の再同定
1995年には、博物館の収蔵品を調べ直す作業から3点の標本が追加報告されました。そのうちの鉤爪については、2012年の再検討で恐鳥のものと判断が改められています。大きさだけを根拠に同定すると誤りが生じる、という例になりました。
残る2点は、タイプ産地から1200キロメートルほど離れたサンタ・マリア谷から出ています。年代測定によって、およそ600万〜670万年前という値が得られました。
6属7種からなるテラトルニス科
テラトルニス科は、漸新世後期から更新世後期にかけて南北アメリカにいた大型の鳥のグループで、現在6属7種が知られています。アルゲンタビスはそのなかで2番目に古い種にあたります。
最も古い2種がどちらも南米から出ていることから、この一族は南米で生まれ、新生代の後半になって北米へ渡ったと考えられています。北米で見つかるテラトルニスは、ロサンゼルスのラ・ブレア・タールピットから多数の骨が出ていることで知られます。現生でこの一族に最も近いのは、コンドルを含む新世界ハゲワシの仲間とされます。
ゲームを通じて広まった名前
ARKを入口にした検索
日本語でアルゲンタビスが検索される場面の多くは、サバイバルゲーム『ARK: Survival Evolved』を入口にしています。作中に飛行生物として登場するため、テイムや騎乗にかかわる語と組み合わせて調べられることが目立ちます。
掴んで運ぶ能力と、体色という違い
ゲームのアルゲンタビスは人や動物をつかんで運ぶ能力を持ちます。化石から復元される姿はこれと異なり、獲物を抱えて飛ぶ力は乏しかったとされます。自力の羽ばたきで高度を保つことすら難しく、飛行は上昇気流に支えられていました。
体色も同じく化石からは分かりません。復元画に見られる褐色や灰色は、近縁のコンドル類から類推した色であり、確かめられた事実ではありません。
関連ページ




参考
- English Wikipedia「Argentavis」(Size/Paleobiology/History of discovery 各節。翼開長と体重の推定値の変遷・生活史・飛行・食性)
- Goto Y., Yoda K., Weimerskirch H., Sato K. (2022) How did extinct giant birds and pterosaurs fly? PNAS Nexus, pgac023(絶滅した巨大飛行動物のソアリング性能を航空力学モデルで比較)
- 名古屋大学 研究成果情報「巨大翼竜はほとんど飛ばなかった」2022年5月(上記論文の日本語解説。サーマルソアリングとダイナミックソアリングの定義)
- 日本語版Wikipedia「アルゲンタヴィス」(全長・背丈・上腕骨の記述)
画像出典
- Trost1702, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons(アイキャッチ)
- Berria, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
- Yusuke Goto, Ken Yoda, Henri Weimerskirch, Katsufumi Sato, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
- Arcovenator, Public domain, via Wikimedia Commons
- Connor Ashbridge, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
- Rique, Public domain, via Wikimedia Commons


