ハゲワシは、動物の死骸を食べて片づける、大型の猛禽の仲間です。頭や首の羽が薄く、地肌がむき出しになっているものが多く、「掃除屋」として自然のなかで大切な役割を担っています。アフリカやアジア、ヨーロッパの空を舞い、遠くの死骸を見つけて集まります。日本にはほとんど生息していませんが、世界では今、大きく数を減らしていることで注目されています。
分類と学名
分類階層
- 界:動物界 Animalia
- 門:脊索動物門 Chordata
- 綱:鳥綱 Aves
- 目:タカ目 Accipitriformes
- 科:タカ科 Accipitridae
- (旧世界ハゲワシの仲間:9属16種ほど)
和名・英名
- 和名:ハゲワシ(禿鷲)
- 英名:Old World vulture
「ハゲワシ」と「コンドル」は別の仲間
ここで紹介するハゲワシは、タカやワシと同じタカ科に属する「旧世界ハゲワシ」です。よく似た姿の鳥に、南北アメリカで暮らすコンドル(新世界ハゲワシ)がいますが、この二つは科のレベルで別の系統です。死骸を食べる似た暮らしのなかで、それぞれ別々に今の姿へと進化したと考えられています。見た目が似ていても、たどってきた道すじは大きく違います。これは、別々の生き物が似た姿へと進化する「収斂進化」の一例です。
大きさ・分布などの基本データ
| 大きさ | 種により全長 約60〜120cm/翼を広げた幅 約1.5〜3m |
|---|---|
| 仲間の数 | 旧世界ハゲワシで9属16種ほど |
| 分布 | アフリカ・ヨーロッパ南部・アジア |
| 生息環境 | 草原・サバンナ・山岳・半砂漠など、見通しのよい土地 |
| 食べ物 | おもに動物の死骸(腐肉) |
| 寿命 | 大型の種で野生20〜40年ほどとされる |
| 保全状況 | IUCN:多くの種が危急〜絶滅危惧(半数以上が絶滅の危機) |

死肉を食べる「空の掃除屋」
高い空から死骸を見つける
ハゲワシは、自分で獲物をとらえることはあまりせず、すでに死んだ動物を食べます。日中、上昇気流に乗って高い空を輪を描いて舞い、鋭い目で地上の死骸を探します。あるハゲワシが死骸を見つけて舞いおりると、それを見た遠くの仲間も次々に集まってきます。一頭の大きな死骸に、何十羽ものハゲワシが群がることも珍しくありません。ハゲワシがえさを探すのに、においではなく目を使うことは、においも手がかりにする新世界のコンドルとは異なる点です。
群れで骨の近くまで片づける
集まったハゲワシは、鋭いくちばしで死骸を引き裂き、肉を貪り食べます。大きな体と力強いくちばしをもつ種が、硬い皮を破る役目を担うこともあります。何十羽もが競い合って食べるため、大きな死骸でも短い時間でほとんど残さず片づけてしまいます。あとには骨と皮がわずかに残るだけ、ということも少なくありません。
強い胃で病原体に負けない
腐りはじめた死骸には、病気のもとになる菌が多くひそんでいます。ハゲワシの胃は非常に強い酸をもち、そうした菌の多くを溶かしてしまうとされます。だからこそ、ほかの動物なら中毒を起こすような死骸を食べても、平気でいられます。死骸を素早く片づけ、菌もろとも消してしまうことが、自然のなかで病気の広がりを抑える働きにつながっています。

頭がハゲている理由
体温を調節するためという説
ハゲワシの頭や首に羽が少ないのには、いくつかの説があります。近年有力とされるのが、体温を調節するためという考えです。暑いときには地肌を外に出して熱を逃がし、寒いときには首を縮めて羽のなかに埋めることで、体温をうまく保っているとされます。開けた暑い土地で暮らす鳥にとって、頭の熱を逃がせることは大きな利点です。
汚れを防ぐためという説
古くから言われてきたのが、死骸を食べるときの汚れを防ぐためという説です。頭を死骸の内部に突っこんで食べても、羽がなければ血や肉がこびりつきにくく清潔を保ちやすい、という考え方です。ただし、羽のない頭が本当に衛生のためかどうかは、はっきり分かっていません。どちらか一つというより、複数の理由が重なっているのかもしれません。

いろいろなハゲワシ
大きなクロハゲワシとシロエリハゲワシ
ハゲワシの仲間には、さまざまな種がいます。クロハゲワシは、翼を広げると3メートル近くにもなる、世界最大級の飛ぶ鳥の一つです。シロエリハゲワシは、首のまわりに白いえり巻きのような羽をもち、群れで死骸に集まる姿でよく知られます。どちらもユーラシアの山岳や草原で暮らし、大きな体で死骸の処理役を担っています。
骨を食べるヒゲワシ
ヒゲワシは、ハゲワシの仲間のなかでも変わった食べ方をします。えさのほとんどが骨で、ほかの動物が食べ残した骨を丸のみにします。大きな骨は、空高くから岩場に落として割り、なかの髄を食べることで知られます。頭に羽が残り、口元のひげのような黒い羽が名前の由来になっています。ヨーロッパやアジアの高い山で暮らす、大型のハゲワシの一種です。
道具を使うエジプトハゲワシ
エジプトハゲワシは、白っぽい体をした小型のハゲワシです。硬いダチョウの卵を食べるとき、くわえた石を打ちつけて割ることが知られ、道具を使う数少ない鳥の一つとされます。動物の死骸だけでなく、ふんや生ゴミなども食べる、幅広い食性をもちます。
コンドルとの違い
新世界のコンドル、旧世界のハゲワシ
ハゲワシとコンドルは、どちらも死骸を食べる大きな鳥で、姿もよく似ています。しかし、ハゲワシがアフリカ・ヨーロッパ・アジアの旧世界で暮らすのに対し、コンドルは南北アメリカの新世界で暮らします。分類のうえでも別の系統で、コンドルはタカ科ではありません。えさの探し方にも違いがあり、多くのコンドルはにおいでも死骸を探せますが、ハゲワシはおもに目にたよります。よく似た二つの鳥は、遠く離れた土地で、それぞれに死骸を食べる暮らしへとたどりつきました。

世界で激減するハゲワシ
家畜の薬による中毒
ハゲワシは今、世界的に数を大きく減らしています。とりわけ深刻だったのが、南アジアでの激減です。家畜に使われた鎮痛剤ジクロフェナクが原因で、その薬を投与された牛の死骸を食べたハゲワシが腎臓をやられ、次々に命を落としました。インドやパキスタンでは、一部の種が二十年ほどの間に九割以上も減ったと報告されています。アフリカでも、毒による被害や、体の一部を目当てにした密猟が数を大きく脅かしています。
※ ジクロフェナクとは、家畜などに使われる鎮痛・消炎剤です。これが残った死骸を食べたハゲワシに腎不全を起こし、南アジアの激減の大きな原因になりました。
掃除屋が消えた後の世界
ハゲワシが減ると、片づけられない死骸が野外に増えます。その隙間を埋めるように、野犬やネズミが増え、それにともなって狂犬病などの病気が広がりやすくなることが心配されています。実際に南アジアでは、ハゲワシの激減と前後して、野犬の増加や病気の広がりが指摘されました。死骸を静かに片づけるハゲワシの働きは、人の暮らしの衛生とも深くつながっています。

日本とハゲワシ
まれに来るクロハゲワシと、動物園
日本には、ハゲワシが定着していません。ただし冬などに、大陸からはぐれたクロハゲワシが、まれに飛来した記録があります。ほとんどが若い個体で、しばらく各地にとどまったのち、姿を消すことが多いようです。野生で会うのは難しいですが、いくつかの動物園ではハゲワシが飼育されており、その大きさや羽のない頭を間近で観察できます。
ハゲワシの豆知識
「ハゲタカ」という呼び名
ハゲワシは、「ハゲタカ」とも呼ばれます。ハゲタカという名前の生き物が別にいるわけではなく、ハゲワシやコンドルをまとめて指す俗称です。弱ったものに群がるイメージから、他人の困りごとにつけこむ人のたとえに使われることもあります。しかし実際のハゲワシは、死骸を片づけて病気の広がりを防ぐ、自然にとって欠かせない役割を担っています。見た目や俗称から受けるイメージと、その実際の働きは、大きく異なります。




参考
- English Wikipedia「Old World vulture」(分類・生態・保全・ジクロフェナク問題)
- ウィキペディア「ハゲワシ」(旧世界ハゲワシの分類・種類・日本への飛来)
- IUCN Red List(ハゲワシ各種の保全状況)
画像の出典
- アイキャッチ(クロハゲワシの頭部):Matěj Baťha, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons
- 死骸のそばのクロハゲワシ:Juan Lacruz, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons
- シロエリハゲワシ:H. Zell, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons
- ヒゲワシ:Richard Bartz, CC BY-SA 2.5, via Wikimedia Commons
- アジアのクロハゲワシ:Tisha Mukherjee, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
- とまるクロハゲワシ:Tisha Mukherjee, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons


