トキは、白い体と淡い紅色の羽をもつ、日本を代表する鳥です。かつては日本各地の里山にいましたが、乱獲や環境の変化で数を減らし、日本の野生のトキは一度いなくなりました。学名は Nipponia nippon といい、属名も種小名も「日本」を指す、珍しい鳥です。
分類と学名
分類階層
- 界:動物界 Animalia
- 門:脊索動物門 Chordata
- 綱:鳥綱 Aves
- 目:ペリカン目 Pelecaniformes
- 科:トキ科 Threskiornithidae
- 属:トキ属 Nipponia
- 種:トキ Nipponia nippon
和名・英名
- 和名:トキ(朱鷺・鴇)
- 英名:Japanese crested ibis / Asian crested ibis
名前の由来と学名
トキは漢字で「朱鷺」や「鴇」と書く鳥です。羽の色が朱色を帯びていることから、「朱(あか)いサギ」という意味で朱鷺の字が当てられました。学名の Nipponia nippon は、属名も種小名もどちらも「日本」を指します。属名と種小名の両方に国名が入る学名は珍しく、トキが日本を象徴する鳥として世界に知られてきたことがうかがえます。トキ属にはこの一種しか含まれません。
大きさ・分布などの基本データ
| 大きさ | 全長 約75cm/翼を広げると約130〜140cm |
|---|---|
| 分布 | かつて東アジア一帯。現在は中国と、再導入された日本(佐渡)など |
| 生息環境 | 里山の水田・湿地・川辺と、営巣する山林 |
| 食べもの | ドジョウ・カエル・サワガニ・水生昆虫など(動物食) |
| 保全状況 | IUCN: EN(絶滅危惧)。日本では特別天然記念物・国際保護鳥 |
トキとはどんな鳥
白い体と「朱鷺色」
顔と黒いくちばし
トキは、全身がほぼ白い羽で覆われた大きな鳥です。顔には羽がなく、赤い皮膚がむき出しになっています。くちばしは黒く長く、先が下に曲がっていて、先端だけが赤みを帯びます。後頭部には冠羽(かんう)と呼ばれる長い羽があり、興奮すると立ちます。脚も赤く、白い体と赤い顔や脚の取り合わせが、遠くからでもよく目立ちます。オスとメスの見た目はほとんど同じで、外見での区別は難しいとされます。
翼の下の朱鷺色
トキの体は白く見えますが、翼や尾を広げると、その下側が淡い紅色に染まっています。この色は「朱鷺色(ときいろ)」と呼ばれ、日本の伝統的な色の名前にもなりました。飛び立ったときに見える薄紅色は、トキ特有の美しさとして古くから親しまれてきました。空を舞う姿から、その色を知った人も多いとされます。
繁殖期に色が変わる
トキは、繁殖の季節になると体の色が灰黒色に変わります。これは羽が生えかわるのではなく、首のあたりから出る黒い分泌物を、自分でこすりつけて羽を染めるためだと考えられています。鳥が自分の分泌物で体の色を変えるのは珍しく、トキの目立つ習性の一つです。子育ての時期に体を暗い色にすることで、巣で目立ちにくくなるとする見方もあります。黒くなる程度には個体差があり、灰色がかる程度でとどまる個体もいます。

里山の水辺で生きる
水田でエサをとる
下を向いたくちばしで泥を探る
トキは、水田や湿地、川辺の浅い水の中でエサを探します。下に曲がった長いくちばしを泥の中に差しこみ、感覚をたよりに獲物を探り当てます。おもな食べものは、ドジョウ・カエル・サワガニ・タニシ・水生昆虫などです。目で見て捕るというより、くちばしの感触で泥の中の獲物を見つける鳥だとされています。

水田と結びついた暮らし
トキが好むエサ場は、人が米をつくる水田と深く結びついています。水をはった田や、あぜのわきの水路は、ドジョウやカエルの住みかです。トキは人里近くの里山で、農作業とともにある水辺を利用してきました。このため、水田のあり方が変わると、トキの暮らしも大きな影響を受けます。人の営みと近い場所で生きてきたことが、後の運命にも関わっていきます。

春の子育て
トキは春になると、山林の松やスギなど高い木の上に巣をつくる鳥です。卵はふつう2〜4個ほどで、オスとメスが交代であたためます。ヒナがかえると、親は水田でとったエサを口移しで運び、協力して育てます。巣立ちまでには、ひと月あまりかかるとされます。子育てに水辺のエサ場が欠かせないため、営巣する森と、エサをとる水田の両方がそろう里山が必要になります。
日本の空から消えるまで
乱獲と環境の変化
羽と肉のための狩猟
江戸時代まで、トキは各地でごく普通に見られる鳥でした。明治に入って狩猟が広く許されると、美しい羽や肉を目当てに、多くのトキが撃たれました。飾りや矢羽根に使う羽は高く売れ、乱獲に拍車がかかったとされます。人をあまり恐れず、里の水田に降りる習性も、狩る側にとっては都合がよいものでした。
餌場と里山の消失
数を減らしたトキに、環境の変化が追い打ちをかけます。田をつくりかえる工事や、農薬の広まりによって、エサとなるドジョウやカエルが激減しました。エサ場だった水辺が失われ、巣をかける大きな木のある山林も減っていきます。狩猟と環境の悪化が重なり、トキは日本の各地から次々と姿を消していきました。
最後の5羽と「キン」
昭和の終わりごろには、日本の野生のトキは新潟県の佐渡島に、わずかしか残っていませんでした。1981年、国は佐渡に残った最後の野生5羽をすべて捕まえ、保護のもとで殖やす道を選びます。しかし人の手での繁殖は簡単ではなく、日本生まれのトキは1羽ずつ減っていきました。2003年、日本で生まれた最後のトキ「キン」が死に、日本の血をひくトキは絶えました。こうしてトキは、いったん日本の空から姿を消しました。
人の乱獲によって二度と戻らなかった鳥の一つが、オオウミガラスです。

よみがえりへの歩み
中国で見つかった7羽
トキは、日本だけでなく中国や朝鮮半島にも広く暮らしていた鳥です。世界のどこでも絶滅したと思われていましたが、1981年に中国の陝西省洋県の山あいで、野生のトキ7羽が見つかりました。日本で最後の5羽が捕獲されたのと同じ年のことです。この7羽をもとに、中国では手厚い保護がすすめられ、少しずつ数が回復していきました。その後も保護は続き、中国のトキは数千羽にまで増えたとされます。日本のトキが復活できたのも、この中国のトキがいたおかげです。
佐渡での放鳥
日本は、中国から贈られたトキをもとに、佐渡島で人工的な繁殖に取り組みました。少しずつヒナが育ち、2008年9月、佐渡ではじめて10羽のトキが大空へ放されます。2012年には、野生にかえったトキの間で、36年ぶりに自然界でヒナが巣立ちました。その後も数は増え、2022年ごろには佐渡でおよそ500羽が暮らすまでになっています。放鳥は現在も続けられ、佐渡は日本のトキ再導入の中心地になっています。
「国鳥」ではないトキ
日本を代表する鳥というイメージから、トキを日本の国鳥だと思う人は少なくありません。しかし、日本の国鳥はキジであり、トキは国鳥ではありません。とはいえトキは、新潟県の県鳥に選ばれ、世界的にも保護すべき「国際保護鳥」に指定されてきました。1952年には特別天然記念物にも指定されています。国鳥ではないものの、日本の自然を象徴する鳥として、長く大切にされてきた鳥です。
現在の生息地
現在、日本でトキがおもに暮らすのは、新潟県の佐渡島です。佐渡島の「トキの森公園」では、飼育されているトキが間近で公開されています。施設のガラス越しには、羽づくろいやエサをついばむ、ふだんのトキの姿が展示されています。園の周りの水田には、放鳥されて野生に暮らすトキが、田におりることもあります。近年は本州でも、トキをふたたび放すための準備が各地で進められています。再導入によって、トキが暮らす地域は少しずつ広がっています。

参考
- 環境省「トキ」(学名・保護増殖・佐渡放鳥)https://www.env.go.jp/nature/kisho/hogozoushoku/toki.html
- Wikipedia「Crested ibis」(分類・形態・生態・分布・IUCN)https://en.wikipedia.org/wiki/Crested_ibis
- 石川県「トキの歴史について」(日本の野生絶滅・キン・中国での再発見)https://www.pref.ishikawa.lg.jp/sizen/toki/toki-quiz-rekisi.html
画像出典
- アイキャッチ(岩の上のトキ):Danielinblue, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons(Zhuhuan2 xi’an.jpg)
- 飛ぶトキ(朱鷺色):Ron Knight, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons(Crested Ibis (Nipponia nippon).jpg)
- 繁殖期のトキ・佐渡の飼育個体:Totti, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons(Nipponia nippon Sado Toki Hogo Center)
- 水田のトキ:belvedere04, CC BY 4.0, via Wikimedia Commons(Nipponia nippon 77371852.jpg)


