カルガモは、日本の水辺でもっともよく見られるカモの一種です。雌雄がほぼ同じ地味な茶色の姿で、都市の池でも身近な鳥として親しまれています。1980年代に東京・大手町のビル前の池から皇居のお堀へと引っ越す親子が話題となり、「カルガモの引っ越し」として全国的に知られるようになりました。
分類と学名
分類階層
- 界:動物界 Animalia
- 門:脊索動物門 Chordata
- 綱:鳥綱 Aves
- 目:カモ目 Anseriformes
- 科:カモ科 Anatidae
- 属:マガモ属 Anas
- 種:カルガモ Anas zonorhyncha(Swinhoe, 1866)
和名・英名
- 和名:カルガモ(軽鴨)
- 英名:Eastern spot-billed duck(別名 Spot-billed duck)
名前の由来
和名の「軽鴨」は、奈良県橿原市大軽町のあたりにあったとされる「軽の池」で、夏場も含めて年中見られたカモにちなむ名だと考えられています。英名 Spot-billed duck は、嘴の先端に黄色い斑点があることに由来する呼び名です。日本語では暮らしぶりから、英語では見た目の特徴から名前がついた、対照的な命名の例だといえます。
大きさ・分布などの基本データ
| 大きさ | 全長 約61cm、翼開長 約85〜100cm。体重 約1kg前後 |
|---|---|
| 分布 | 中国・日本・朝鮮半島・アムール地方。日本ではほぼ全国に分布し、本州以南は留鳥 |
| 生息環境 | 河川・湖沼・湿地・干潟・水田。都市の池にも進出 |
| 寿命 | 野生でおよそ10年前後 |
| 保全状況 | IUCN:LC(低懸念) |
姿と体のつくり
雌雄同色の地味な茶色
オスもメスも同じ姿
カルガモは、日本のカモのなかでも珍しく、オスとメスが同じような茶色の体色をしています。頭は淡い茶色、顔には黒い過眼線が入り、体全体は暗い褐色に細かな鱗のような模様が入る地味な姿です。近縁のマガモはオスが緑色の頭に白い首輪という華やかな装いをしていますが、カルガモは季節を問わずいつも同じ地味な姿で暮らします。
翼の青緑色の翼鏡
地味な体色のなかで唯一の彩りは、翼の後ろに入る「翼鏡(よくきょう)」と呼ばれる部分です。ここは青緑色から紫がかった色の羽が並び、飛翔中に光を反射して鮮やかに輝きます。地上や水面では見えにくく、羽ばたいたときにだけ光るこの色は、カモの仲間らしい特徴のひとつです。
嘴の先端にある黄色い斑点
もう一つ、カルガモの分かりやすい特徴が嘴の色です。基本は黒っぽい嘴の先端に、はっきりとした黄色の斑点があります。英名 Spot-billed duck はここに由来する名で、他のカモ類と見分けるときの決定的な目印にもなっています。水草をついばむときに、この黄色の先端が水面から突き出す姿はカルガモならではの光景です。

マガモとの違い

色と嘴で見分けが利く
同じマガモ属のマガモとカルガモは、遠くから見るとどちらも大型のカモで似た印象を与えます。しかし、実際には見分けやすい違いがいくつもあります。
| カルガモ | マガモ | |
| オスとメス | 雌雄同色(同じ地味な茶色) | オスは緑頭・白い首輪、メスは茶色 |
| 嘴 | 黒っぽく、先端に黄色い斑点 | オスは黄色、メスは橙色に黒斑 |
| 日本での暮らし | 本州以南は留鳥(一年中いる) | 大部分は冬鳥(冬にやってくる) |
| 生息場所 | 水田・小川・都市の池でも見られる | 広い湖沼・河川を好む |
混ざり合う二つの種
マガモとカルガモは近縁で、日本ではしばしば交雑した個体が観察されます。加えて、カルガモとアヒルやアイガモとの交雑も広く報告されており、都市部の公園ではその中間的な姿の個体を目にすることが少なくありません。人を恐れない都市のカルガモは、こうしたアヒル由来の遺伝子の影響を受けている個体だと考えられています。
日本の水辺の常連

全国に見られる留鳥
日本にいるカモの多くは冬に大陸から渡ってくる冬鳥です。カルガモは例外で、本州以南では一年中同じ場所に暮らす留鳥として観察されます。北方の個体は冬に南下することもありますが、九州のカルガモが北海道へ夏に渡るような大移動はしないため、季節による姿の入れ替えが少ない身近な鳥だといえます。
都市の池でも見られる
河川・湖沼・水田といった典型的な水辺だけでなく、都市の公園の池やビルの脇の水場でもカルガモは見つかります。人の近くで暮らすのは慣れの結果でもあり、餌付けやアヒルとの交雑によって警戒心が下がった個体が都市に定着していったと考えられています。おかげで、東京の皇居や大阪の中之島など、日本中の街の水辺でカルガモが暮らす光景が広がっています。
繁殖と子育て

皿状の巣と10〜14個の卵
繁殖期は春から夏です。カルガモは草本や枯れ草、ササなどを組み合わせた、直径22〜30cmほどの皿状の巣を地面や草むらに作ります。1回に産む卵の数は10〜14個と多く、抱卵はメスだけがおこないます。抱卵期間は26〜28日で、雛はふ化するとすぐに巣を離れ、水面へと歩き出すとされます。
親子の水面デビュー
雛は生まれてすぐ歩き出す
孵化した雛は羽毛におおわれ、自分で歩ける状態で生まれてきます。母親のあとを一列に連なって歩く子ガモの姿は、日本の初夏の風物詩となっており、写真や映像でよく紹介されます。母親は雛たちを引き連れ、餌の豊富な水辺や安全な池を渡り歩きながら育てます。

繁殖期のメスは攻撃的にもなる
集団繁殖地ができるほど密集した場所では、他の親子の雛を殺してしまう例も報告されており、繁殖期のメスは攻撃的な一面ももつとされます。優しく雛を守る母親のイメージと、縄張りを守るために他個体の雛を排除する行動が同居する、複雑な子育て行動を持つ鳥です。
「カルガモの引っ越し」ブーム
三井物産ビルの池から皇居のお堀へ
1984年の初報道と全国区の話題に
「カルガモの引っ越し」は、東京都千代田区大手町の三井物産ビルにあった「プラザ池」から皇居の和田倉堀までカルガモの親子が道路を横断して移動する様子を、1984年にメディアが取り上げたことから広まりました。ビル前の池で生まれた雛たちが母親に導かれてぞろぞろと大都会のオフィス街を歩き、皇居のお堀に降り立つ姿は、多くの人に強い印象を与える出来事でした。
「カルガモレディ」の観察記録
ビルの持ち主である三井物産では、1998年から2013年まで「カルガモレディ」と呼ばれる女性社員が同池に営巣するカルガモを観察し、記録を続けていました。プラザ池はビルの再開発で2013年に閉鎖されましたが、その後も同社では新しい池の整備が進められました。都市のなかで水鳥が繁殖できる小さな環境を守っていく取り組みの、日本を代表する事例のひとつになっています。
なぜカルガモは引っ越すのか
カルガモの親子が生まれた池から別の水域へ移動するのは、雛の成長に必要な餌が孵化池だけでは足りない場合や、より広く安全な水辺を求めての行動だと考えられています。都市に暮らすカルガモには、狭いビジネスビルの人工池で産卵し雛を連れて周囲の広い水辺(皇居のお堀・河川・公園の池など)へ歩いて移動する個体が多いとされ、あの独特の「引っ越し」の光景が生まれます。
人との関わり
狩猟鳥としてのカルガモ
日本では古くから狩猟の対象になっており、毎年20数万羽が捕獲されているとされる主要な猟鳥のひとつです。マガモに比べるとタニシなど動物質を多く食べるためやや獣臭がつきやすく、料理としてはマガモに一歩譲るとされることが多いようですが、植物質を主に食べていた時期のカルガモの肉はマガモに並ぶ美味だと評価されています。
アヒルとの交雑
都市部では放し飼いのアヒルやアイガモとの交雑個体が広く見られるようになり、遺伝子汚染としても指摘されています。アヒルの原種はマガモで、カルガモとアヒルの雑種は数世代のうちに野生化する能力を取り戻すこともあります。都市に定着したカルガモの多くがこうした雑種を含むと考えられ、警戒心の弱さや外形の変化として現れています。
関連する生きもの
日本のカモの仲間全体は、本サイトの「カモ【総合】」ページに詳しくまとめられています。マガモ・オシドリなど他の種との比較や、渡り鳥としての生態もあわせてご参照ください。
参考
- BirdLife International 2016. Anas zonorhyncha. The IUCN Red List of Threatened Species 2016(低懸念指定と分布の解説)
- 今村知子・杉森文夫「羽色に基づく繁殖期のカルガモの雌雄判別」『山階鳥類研究所研究報告』21(2)、1989年(雌雄同色ながら区別のつく特徴の一次資料)
- 叶内拓哉ほか『日本の野鳥』新版・山と溪谷社、2014年(識別と鳴き声の解説)
- 三井物産「カルガモの記録」(1998〜2013年のカルガモレディによる観察日誌)


