アカハライモリ

両生類

アカハライモリは、背が黒く腹が赤い日本固有のイモリです。本州・四国・九州の水田や池でよく見られ、腹の赤は毒をもつことを敵に知らせるサインだと考えられています。よくヤモリと混同されますが、両生類に分類されます。失った手足や尾を丸ごと作り直す再生能力や雄のフェロモン「ソデフリン」の発見など、研究対象としても長く注目されてきました。

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分類と学名

分類階層

  • 界:動物界 Animalia
  • 門:脊索動物門 Chordata
  • 綱:両生綱 Amphibia
  • 目:有尾目 Urodela
  • 科:イモリ科 Salamandridae
  • 属:イモリ属 Cynops
  • 種:アカハライモリ Cynops pyrrhogaster(Boie, 1826)

和名・英名

  • 和名:アカハライモリ(赤腹井守)
  • 英名:Japanese fire-bellied newt
  • 別名:ニホンイモリ、単に「イモリ」と呼ぶ場合は本種を指します

名前の由来

和名の「井守」には二つの説があります。井戸のなかにも住むので「井戸を守る」に由来するという説と、田んぼ(井)に生息するので「田を守る」に由来するという説です。学名の種小名 pyrrhogaster は、ギリシャ語の purrhos(火)と gastēr(腹)を組み合わせた語で、腹の鮮やかな赤を火にたとえた名前です。1826年にドイツの動物学者ハインリヒ・ボイエが記載しました。

大きさ・分布などの基本データ

大きさ全長 約8〜15cm(雌の方がやや大きい)
分布日本固有種。本州(青森県むつ市以南)・四国・九州とその周囲の島嶼(対馬を除く)
生息環境水田・池・川の淀みなど、流れの少ない淡水域と周辺の林や草地
寿命野生で23年に達した記録があります
保全状況IUCN:NT(準絶滅危惧)/環境省レッドリスト:準絶滅危惧(NT)

姿と体のつくり

歩くアカハライモリを真上から
Alpsdake, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

黒い背中と赤い腹

ざらついた皮膚と鮮やかな腹

上半身は黒〜暗褐色で、皮膚はイボ状の突起に覆われてざらざらしています。腹と尾の裏側は明るい赤色で、そこに黒い斑点が散らばります。幼体の腹はクリーム色で、成長するにつれて赤みが強くなります。島嶼部の個体では斑点が非常に小さいか、まったく無いことも知られています。

雌雄の特徴

雄は雌よりも斑点が少なめで、尾が平たく幅広いのが特徴です。繁殖期の雄は腹周りが膨らみ、青紫色の婚姻色を帯びます。雌は体がひとまわり大きく、雄より長生きする傾向があります。全長は雄で4.3〜6.4cm、雌で4.9〜7.5cmが目安とされています。

地域による色と大きさの違い

北の個体は大型化する

北の地域や標高の高い場所に住む個体群は、南や低地の個体群と比べて体が大きめです。高標高の雄は成熟後に長生きしやすいこともわかっており、暮らす場所の気候と体格・寿命がゆるやかにつながっている姿がうかがえます。

背中まで真っ赤な変異個体

まれに背中まで完全に赤い個体が現れるのも本種の特徴です。遺伝的には劣性形質と考えられており、特定の地域に限って現れるわけではありませんが、西日本の個体群でよく見つかる型と言えます。飼育下では「腹赤モルフ」として珍重されることもあります。

イモリとヤモリの違い

両生類か爬虫類か

名前も見た目も似ているため、イモリとヤモリはよく混同されます。しかし両者は分類の大きなグループから違います。イモリは両生類で皮膚が湿っており、生まれてしばらくは水中でエラ呼吸をしたのち、変態を経て成体になります。一方のヤモリは爬虫類で皮膚が乾いており、卵から出た時点で親と同じ姿をしていて、水中に入ることはほとんどありません。

暮らす場所も違う

イモリは名前のとおり水辺の生きもので、田んぼや池のそばで見つかります。ヤモリは家屋の外壁やその周辺で暮らし、灯りに集まる虫を食べます。名前も、「井(井戸や田んぼ)を守る」イモリと「家を守る」ヤモリで対になっています。赤い腹があればイモリ、腹まで背中と同じ肌色ならヤモリ、というのが両者の外見上の対比です。

水辺の暮らし

水草に隠れるアカハライモリの雌
Wuchthans, Public domain, via Wikimedia Commons

水田と池を選ぶ

アカハライモリは標高30〜2,020mの広い範囲に住み、水田・池・川の淀みなど流れの少ない淡水域が主な棲みかです。繁殖期以外も水中で過ごす個体が多く、雨の日にはあぜ道を歩いて移動する姿も見られます。冬は水路の落ち葉の下や水辺の石の下で冬眠に入る生活を送っています。

幅広い食性と共食い

成体は昆虫と両生類の卵

成体はトンボの幼虫(ヤゴ)・ハエ・甲虫・アリなど多くの種類の昆虫を食べ、モリアオガエルのオタマジャクシや卵まで飲み込みます。福島の吾妻連峰の湿原では生きた獲物と死肉の両方を好むことが確認されており、水辺のわずかな動きを見逃さないハンターです。同種の卵を食べることも珍しくなく、口に入りそうな動くものには見境なく食いつくため、飼育下では共食いが起こる例もあります。

幼体は土壌の小動物を食べる

変態して陸に上がった幼体は森林の土壌で暮らし、トビムシ・ダニ・小型のミミズなどを食べます。飼育下ではボウフラ(蚊の幼虫)・ブラインシュリンプ・イトミミズが定番の餌です。生息地では小さな両生類の卵や幼生を大量に食べるため、モリアオガエルやアベサンショウウオなど希少種の生息地では、保全上の障害となる例も報告されています。

テトロドトキシンの毒 ―腹の赤の意味

フグと同じ神経毒を持つ

アカハライモリの体には、フグの毒として知られるテトロドトキシン(TTX)が高い濃度で含まれています。ナトリウムチャネルの働きを止める強力な神経毒で、鳥や哺乳類に食べられるのを防ぐ仕組みです。腹の鮮やかな赤は、この毒の存在を敵に伝える警告のサイン(警告色)だと考えられており、誤って口に入れば重い中毒を引き起こします。

毒は食事から取り込んでいる

この毒はイモリ自身が作るのではなく、食事から取り込むタイプです。TTXを含まない餌で育てた幼体からはTTXがほぼ検出されず、逆にTTX入りの餌を与えると平然と食べて体内に毒が蓄積したという実験結果もあります。野生ではプランクトンや昆虫を通じて取り込んでいると推定される一方、供給源となる生物ははっきり特定されていない状態です。

地域で違う敵への構え方

腹の赤を反らして見せるアカハライモリ
Alpsdake, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

島の個体は赤い腹を見せる

敵に襲われそうになると、体を反らして腹の赤を見せる姿勢を取ります。この行動は「ウンケン反射(unken reflex)」と呼ばれ、赤色を識別できる鳥類に対して「毒があるぞ」と伝える有効な信号です。長崎県五島列島の福江島など、主な天敵が鳥である小さな島の個体群ほど、この姿勢を頻繁に見せます。

本州の個体は逃げる、または尾を振る

本州の個体群は事情が違います。哺乳類(イタチやアナグマなど)が天敵に加わりますが、哺乳類は鳥ほど色を見分けられないため、赤を見せても効きません。むしろ動きを止めれば命を落としかねないので、本州の個体はウンケン反射をあまり使わず、素早く逃げる行動を選びます。またヘビに対しては、福江島の個体は「尾振り」で頭でなく切り離せる尾に注意を向けさせる一方、本州の個体はやはり逃走を選ぶことが観察されています。住む場所の敵の顔ぶれに合わせて、防御の作戦が地域ごとに異なります。

求愛と繁殖 ―ソデフリンとアイモリン

池で寄り合うアカハライモリ
Alpsdake, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

雄のフェロモン「ソデフリン」

脊椎動物で初めて発見されたペプチドフェロモン

繁殖期になると、雄は総排出腔から「ソデフリン(sodefrin)」と呼ばれる10個のアミノ酸からなるペプチドを分泌します。これは脊椎動物で初めて構造が明らかにされたペプチドフェロモンで、雌の嗅覚を刺激して引き寄せます。名前は額田王の万葉歌「あかねさす紫野行き標野行き野守は見ずや君が袖振る」に由来し、雄が雌に「袖を振る」ように誘うことにちなんで命名されました。

雌のフェロモン「アイモリン」

雌もまた「アイモリン(imorin)」というペプチドフェロモンを出すことが分かっています。「妹(いも)」は古語で「愛する女性」を意味し、それにちなんで名づけられました。アイモリンは脊椎動物の雌から報告された最初のペプチドフェロモンです。

青紫の婚姻色と精莢の受け渡し

求愛の際、雄は雌の前に回り込み、青紫色に染まった尾をS字に曲げて小刻みに震わせます。雌が近づくと、雄はゆっくり離れながら精子の入った袋(精莢)を地面に置き、雌が総排出腔で拾い上げます。雌は寒天質に包まれた受精卵を、水草の葉や沈んだ草の根に1つずつ産み付けます。1回の産卵で最大40個、繁殖期全体では100〜400個におよぶのが目安です。孵化までは約3週間、そこから5〜6ヶ月で幼生から幼体へと変態していきます。

傑出した再生能力

手足も尾も骨まで作り直す

アカハライモリは、失った体の部位を丸ごと作り直す能力で知られています。尾を切っても骨まで完全に再生し、四肢を肩の関節より先で切っても指先まで再現される点が特徴です。目の水晶体(レンズ)まで再生でき、幼生では30日ほど、成体でも80日ほどで元通りになるとされています。トカゲの自切とは違い、失われた骨まで再構築される点が独特で、脊椎動物のなかでも群を抜く再生力の持ち主です。

宇宙にも行った「実験動物」

シュペーマンの実験からスペースシャトルまで

その強い再生力と、透明な寒天に包まれて観察しやすい卵は、発生学・再生生物学の実験に長く利用されてきました。20世紀前半にはドイツの生物学者シュペーマンが本種を含むイモリ類を使い、胚のごく一部が周囲の細胞の運命を決める「形成体」を発見しています。1994年には向井千秋氏とともにスペースシャトル・コロンビア号に搭乗し、微小重力下での産卵と発生が観察されました。人の皮膚治療など再生医学への応用を目指した基礎研究にも使われています。

マーキングが効かないほどの再生力

この再生能力は、野外調査では逆に厄介な性質でもあります。小型の両生類や爬虫類の個体識別では足指を切って印をつける「トウクリッピング」が使われますが、イモリの場合は切れ込みがすぐに再生してしまい印が残りません。尾に切れ目を入れても、札を縫い付けても、傷が浅ければ短期間で癒えてしまいます。

保全と飼育

1つの種として異例な4系統

アカハライモリは、遺伝的に「東日本」「中部日本」「西日本」「南日本」の4系統に分かれます。同じ種としては異例なほど遺伝的差異が大きく、研究者のなかには「別種と扱えるほど違う」と指摘する声もあります。系統ごとに求愛行動の細かな違いもあり、産地の異なる個体どうしでは交配が成立しにくい傾向があります。飼育や放流で人為的に系統を混ぜてしまうと、地域ごとに保たれてきた遺伝的多様性が薄まる懸念があります。

減少する野生個体群

IUCNレッドリストでは準絶滅危惧(NT)、環境省レッドリストでも準絶滅危惧(NT)に指定されています。水田の減少・農薬・両生類のラナウイルス病の流行・ペット目的の乱獲などが減少要因として挙げられています。北海道や八丈島には人為的に放された個体が定着しており、こちらは在来の生態系への影響が懸念されています。

ペットとしての姿

アカハライモリは飼育しやすい両生類として古くから人気があり、陸地と水場を組み合わせた「イモリウム」の主役としても親しまれる存在です。水温20℃前後・水深10cm程度の淡水環境で飼育されるのが一般的で、餌にはイトミミズやアカムシ、専用の人工餌が用いられます。壁面を登る力が強く、飼育下では脱走事故もたびたび報告されてきました。ペット由来の逸出個体は北海道や八丈島の在来生態系に定着しており、系統の異なる個体の混入が自然分布の遺伝的多様性を薄める要因としても知られています。

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参考

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