ニホンザルは、日本にだけ住む固有のサルです。世界で最も北に住むサルとして知られ、雪の中で温泉に入る姿は海外でも人気を集めています。メスを中心とした群れで暮らし、毛づくろいで仲間との絆を深めます。顔とお尻が赤く、寒さに強い厚い毛をまとった、日本を代表する野生動物です。
分類と学名
分類階層
- 界:動物界 Animalia
- 門:脊索動物門 Chordata
- 綱:哺乳綱 Mammalia
- 目:霊長目 Primates
- 科:オナガザル科 Cercopithecidae
- 属:マカク属 Macaca
- 種:ニホンザル Macaca fuscata
和名・英名
- 和名:ニホンザル
- 英名:Japanese macaque(Snow monkey)
別名・亜種
雪の中で暮らす姿から、英語では「スノーモンキー(雪ザル)」とも呼ばれます。屋久島には、体がやや小さい亜種のヤクシマザルが住んでいます。日本人にとって古くから身近なサルで、単に「サル」といえばこの種を指すことがほとんどです。昔話の「桃太郎」や十二支の「申(さる)」にも登場します。
大きさ・分布などの基本データ
| 大きさ | 体長 約50〜60cm・体重 約8〜11kg(オスが大きい) |
|---|---|
| 分布 | 日本の本州・四国・九州・屋久島(固有種) |
| 生息環境 | 森林(山地から海に近い林まで) |
| 食べもの | 雑食(木の実・果実・葉・芽・樹皮・昆虫など) |
| 寿命 | 野生でおよそ20〜30年 |
| 保全状況 | IUCN: 軽度懸念(LC) |
世界で最も北に住むサル

雪とともに暮らす
ニホンザルは、野生のサルのなかで世界で最も北まで分布します。北限は、青森県の下北半島。冬には雪に覆われ、氷点下まで冷えこむ土地です。全身を覆う厚い冬毛が、この厳しい寒さから体を守ります。春から夏には毛が生えかわり、暑い季節にも合わせて姿を変えます。おとなになると顔とお尻が赤みを帯びるのも、この種の特徴です。
温泉に入るサル
地獄谷の温泉ザル
長野県の地獄谷野猿公苑では、温泉につかるニホンザルが見られます。雪の降るなか、サルたちは湯気の立つ湯にゆっくりとつかります。この光景は、海外でも「スノーモンキー」として広く知られています。もとは一頭のサルが露天風呂に入ったのがきっかけで、この行動が群れへ広まったと伝えられています。今では冬の名物として、多くの人が足を運ぶ観光名所になっています。
なぜ温泉に入るのか
温泉に入る理由は、冷えた体を温めるためだと考えられています。ある研究では、温泉に入るサルはストレスが低い状態にあると報告されました。湯を独り占めできるのは、順位の高いメスだとする観察もあります。ただし、すべてのニホンザルが温泉に入るわけではありません。温泉のある土地の、限られた群れだけに見られる特別な習慣です。
群れの暮らし

メスを中心とした群れ
血縁でつながる順位
ニホンザルは、数十頭ほどの群れをつくって暮らします。群れの中心になるのはメスで、生まれた群れに一生とどまります。一方、オスは大人になると生まれた群れを離れ、別の群れへ移っていきます。群れには順位があり、その地位は母から子へと受け継がれるとされます。年下のメスが、姉より高い順位につくことさえあるほどです。
毛づくろいで深める絆
仲間どうしで行う毛づくろいは、群れの暮らしに欠かせません。相手の毛をかき分け、皮膚の汚れや寄生虫をていねいに取り除きます。その役目は、体を清潔に保つことだけではありません。仲間との絆を確かめ合う、大切な時間でもあります。季節や天気に関わらず、一日の多くがこれにあてられます。
雑食で頬袋にためる
ニホンザルは、植物も動物も食べる雑食です。木の実や果実、葉や芽を主に食べ、昆虫や小動物も口にします。餌の乏しい冬には、木の皮や冬芽を食べてしのぐこともあります。口の中には頬袋があり、見つけた食べものを一時的にためて運べます。頬袋は、落ち着いて食べるための小さな貯蔵庫です。
賢さと、受け継がれる文化
芋を洗うサル
幸島のイモ洗い
宮崎県の幸島では、サツマイモを水で洗って食べるニホンザルが知られています。その始まりは、1950年代にさかのぼります。「イモ」と名づけられた一頭の若いメスが、砂のついた芋を水で洗い始めました。この行動はやがて仲間へ伝わり、群れ全体に広まっていきます。人以外の動物にも文化が伝わることを示す、貴重な例とされます。世界の研究者から大きな注目を集めました。
海水で味つけ
やがてサルたちは、真水ではなく海水で芋を洗うようになりました。塩味がつくのを好んだためと考えられていますが、はっきりとは分かっていません。なかには、芋を一口かじっては海水にひたす個体も見られます。道具を使わずとも、新しいやり方を生み出し、仲間へと伝えていきます。
赤ちゃんと子育て

ニホンザルは、春から初夏にかけて子を産みます。生まれたばかりの赤ちゃんは、母親のお腹にしがみついて運ばれるのがふつうです。母ザルが子の世話をする期間は、独り立ちまで一年以上に及びます。群れの中で育つ子は、遊びを通して仲間との付き合い方を学びます。じゃれ合いや追いかけ合いも、大切な学びの時間です。
人とのかかわり
少なくなった天敵
かつてニホンザルの天敵は、ニホンオオカミや大型の猛禽でした。しかしニホンオオカミは、明治時代に絶滅してしまいました。大きな天敵がいなくなったことは、サルが数を増やした一因とされます。今では、大人のサルを襲う野生動物はほとんどいません。まれに、子ザルがタカなどに狙われる程度です。

畑を荒らす問題
数が増えたニホンザルは、農作物を荒らす問題を各地で起こしています。畑のイモや果物、野菜を狙い、群れで押しよせることもあります。人里に慣れたサルが、住宅地に現れる例も報告されています。賢いだけに、追い払うのは簡単ではありません。各地では、柵を設けるなどして畑を守る取り組みが進められています。
関連記事
参考
- Wikipedia(英語版)「Japanese macaque」― 分布・形態・社会・温泉・文化・保全の各節
- IUCN レッドリスト「Macaca fuscata」― 分布・保全状況(軽度懸念)
- 京都大学 霊長類研究所ほか 幸島観察の解説― 芋洗い行動の文化的伝播
画像出典
サムネイル画像: Daisuke tashiro from Japan, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons


