カワウは、日本の河川や湖沼で群れをつくって暮らす大型の潜水採食性の水鳥です。全長80cm前後、黒い体に鉤形の嘴、全趾間に張った水かき。1分以上潜って水深10m近くの魚を追いかけ、まとめて捕らえます。名前に「河(川)」を含みますが、湖沼・河口・浅海域でも普通に見られ、環境を選ばない水鳥です。1970年代には日本国内で3,000羽以下まで減り、繁殖地は3か所に限られたとされます。その後は河川水質の回復とともに増え続け、現在は15万羽以上と推定されるまで戻りました。増えすぎたことによる糞害や樹木の枯死、2021年の紀の川の水管橋崩落など、都市部との軋轢も抱えるようになった鳥です。
分類と学名
分類階層
- 界:動物界 Animalia
- 門:脊索動物門 Chordata
- 綱:鳥綱 Aves
- 目:カツオドリ目 Suliformes
- 科:ウ科 Phalacrocoracidae
- 属:ウ属 Phalacrocorax
- 種:カワウ Phalacrocorax carbo(Linnaeus, 1758)
和名・英名
- 和名:カワウ(河鵜/川鵜)
- 英名:Great cormorant
- 日本の亜種:Phalacrocorax carbo hanedae(本州〜九州に生息、日本最小の亜種)
名前の由来
和名の「カワウ」は文字通り「河(川)に住む鵜」の意で、沿岸で暮らす近縁のウミウ(海鵜)と対をなす呼び名です。学名の属名 Phalacrocorax はギリシャ語の phalakros(禿げた)と korax(カラス)を組み合わせた「禿のカラス」の意で、繁殖期にも羽根の少ない頭部の見た目を映した命名です。種小名 carbo はラテン語で「炭」を意味し、全身の黒い羽色にちなんでいます。
大きさ・分布などの基本データ
| 大きさ | 全長 約80〜101cm/翼開長 130〜160cm/体重 約1.8〜2.8kg。日本の亜種は最小型でウミウよりやや小さめ |
|---|---|
| 分布 | ユーラシア・アフリカ・オーストラリア・ニュージーランド・北米東部沿岸・グリーンランドまで広く分布。日本では本州〜九州で繁殖し、2001年以降は北海道でも確認 |
| 生息環境 | 河川・湖沼・河口・浅海域。近年は個体数増加により山間部の上流や海上でも見られます |
| 寿命 | 野生では平均約10年、飼育下では20年以上の記録があります |
| 保全状況 | IUCN:LC(低危険種)。日本国内では過去に激減後にV字回復、現在は糞害・魚類被害の観点で管理対象となる自治体もあります |
姿と体のつくり

黒い体と鉤形の嘴
光沢のある全身黒色
成鳥は全身がほぼ黒色で、光の当たり方によっては緑や青銅色に輝きます。背と翼はやや褐色を帯び、羽の縁が細く黒く縁取られる鱗模様に見えるのが特徴です。若鳥は全体に淡褐色で、胸から腹の下面が白っぽく抜け、成鳥とは違う印象を与えます。雌雄はほぼ同色で、外見からの性別判定は難しい鳥です。
全趾間に水かきを張った足
嘴は細長く先が下向きに鉤形に曲がり、獲物を掴んで離さない形をしています。足は4本の趾すべての間に水かきを張った「全蹼足(ぜんぼくそく)」で、ペリカン目やカツオドリ目に共通します。この足で強く水を蹴り、水面すれすれを首長く伸ばして飛翔します。重々しく飛ぶ姿もよく知られています。
繁殖期の婚姻色 ―頭が白くなる
繁殖期のカワウには「婚姻色」と呼ばれる季節限定の色変化が現れます。頭部の羽が白く抜けて全体が明るく見え、腰の両側にも白い斑が浮かびます。冬の初め〜春先にとくに顕著になります。コロニーに集まる時期の姿の変化は、繁殖行動が高まっているしるしとされます。
ウミウとの見分け方

口角の形と生息域に現れる違い
2種の比較
| カワウ | ウミウ | |
|---|---|---|
| 全長 | 80〜101cm | 84〜92cm(やや大きめ) |
| 嘴の基部(口角) | 黄色い部分が丸みを帯びる | 黄色い部分が鋭くとがる |
| 主な生息地 | 河川・湖沼・河口・浅海 | 沿岸・岩礁の海域 |
| 上流域の利用 | 山間部にも進出 | ほぼ海岸に限定 |
| 学名 | Phalacrocorax carbo | Phalacrocorax capillatus(別種) |
大正まで混同されていた
両種は姿がよく似ているため、日本では大正時代よりも前は同じ「鵜」として区別されずに扱われていたとされます。図鑑類で明確に分けて記載されるようになったのは近代以降で、野外での識別には嘴の付け根の形と生息場所が手がかりとされます。海岸で見られるウのほとんどはウミウ、内陸の川や湖にいるのはほぼカワウです。
潜水採食の実力 ―1分・水深10m・1日500g

カワウはウ類らしい潜水の名手で、時に1分以上息を止めて水深10m近くまで潜り、水中を追いかけて魚を捕らえます。魚種のこだわりは少なく、山梨県での調査ではアユ・オイカワ・ウグイの順に多く確認されました。その場でもっとも数の多い魚を狙う、柔軟な捕食者とされます。1羽が1日に食べる魚は約500gと推定されており、コロニーが近い河川では地元の内水面漁業と競合する形になります。潜水後は羽の油分が少ないため水を含みやすく、翼を広げて日光で乾かす姿は「水気を切る鵜」として季節の風物詩にもなっています。
コロニー繁殖 ―数十から数千羽の集団

樹上や鉄塔に皿形の巣
春先と秋に活発化
カワウは一夫一妻で、水辺の樹上や鉄塔、崖の棚などに枯れ枝を組んだ皿形の巣を作ります。コロニーの規模は数十羽から数千羽に及び、季節を問わず繁殖可能な種ですが、春先と秋にとくに活発になります。
3〜4個の淡青色の卵
淡青色で無斑の卵を通常3〜4個産みます。雌雄が交代で24〜28日抱卵し、雛は30〜45日で巣立ちます。育雛期には親鳥が魚を巣まで運び、雛は喉の奥に顔を突っ込んで受け取る独特のスタイルで給餌を受けます。
営巣地の鳴き声
営巣地でのみよく聞こえるのが「グルルルル」「グワワワ」「ゲレレレ」といった喉を震わせる低い鳴き声で、雛は「ピューユイ、ピューユイ」の高い声で親鳥に餌をねだります。逆に営巣地から離れると声を出すことはほとんどなく、飛翔中に鳴くこともまれです。都市部の水辺では、鳴き声よりも黒い群れが低く飛ぶ姿で存在に気付くパターンが多い鳥です。
3,000羽から15万羽へ ―V字回復の歴史

1970年代に繁殖地3か所
1920年代以前、カワウは本州・四国・九州に広く生息する普通の鳥でしたが、20世紀後半に急激に減少しました。1970年代の国内の生息数は3,000羽以下まで落ち込みます。1971年時点の繁殖地はわずか3か所。愛知県の鵜の山、東京都の不忍池、大分県の沖黒島だけに絞られていたとされます。乱獲や生息地の汚染、河川改修などが複合的に影響したと考えられています。
公害規制と河川水質の改善
1980年代以降は公害規制で河川水質が回復し、餌となる魚類も増えていきました。カワウの個体数もそれに合わせて加速度的に増えていきます。1980年代に2万〜2万5,000羽まで戻り、2000年末には5万〜6万羽に達しました。2010年代以降は15万羽以上と推定されるまでに拡大し、繁殖地も全国に広がっています。水質改善に伴う個体数の回復事例として、日本の公害史とあわせて語られる鳥でもあります。
糞害と鋼材腐食 ―増えすぎた影響
コロニーの樹木が枯れる
カワウは営巣時に生木の枝を折り取って巣材にするため、大規模なコロニーが形成された森では、樹木の枯死が広範囲に進むことが知られています。加えて大量の真っ白な糞が地面を覆い、水質汚染・土壌汚染・悪臭・景観悪化を招くほか、糞が葉に付着することで植物の光合成を阻害して枯らします。
紀の川・六十谷水管橋の崩落
2021年10月には和歌山市の紀の川に架かる六十谷(むそた)水管橋が崩落し、市の大部分で大規模な断水が発生しました。市が設けた調査委員会は、鋼材の腐食が原因の一つで、その加速要因としてカワウの糞害を挙げています。都市インフラを傷める野生動物のケースとして注目された事例で、増加した集団に対する管理と、都市部の水辺のあり方が改めて議論されました。
鵜飼で使うのはウミウ
鵜飼は日本で1400年以上続く伝統漁法で、岐阜県岐阜市の長良川鵜飼がもっとも有名です。船上の鵜匠が数羽から十数羽の鵜を紐で操り、鮎などを追わせて捕らせます。平安時代の貴族から現代の観光客まで、長く愛されてきた漁法です。ここで使われる鵜は、一般に「鵜」と呼ばれるものの、本種カワウではなく近縁のウミウです。ウミウは大型で首が長く、また潜水と持久力に優れ、鵜匠が扱いやすいことから選ばれてきました。大正時代までは両種が混同されていた歴史があり、その名残で今も「鵜飼=カワウ」と誤解されることがあります。
カワウとカワウソは別の生きもの
名前がよく似ているために誤解されがちですが、カワウ(河鵜)とカワウソ(川獺)はまったく違う生きものです。カワウは鳥類のカツオドリ目ウ科に属する黒い水鳥で、飛ぶこともできる肉食の潜水採食者です。一方のカワウソは哺乳類のイタチ科カワウソ亜科の水生動物で、体長80cm前後の毛皮を持つ小型哺乳類です。日本ではニホンカワウソが1979年の目撃を最後に絶滅したとされる一方、カワウは全国で15万羽以上に増えており、対照的な経過をたどってきました。
関連する生きもの


参考
- BirdLife International. 2018. Phalacrocorax carbo. IUCN Red List of Threatened Species 2018(LC指定と亜種)
- Wikipedia (English): Great cormorant(分布・6亜種・体重差)
- Wikipedia(日本語版):カワウ(1970年代の3000羽・15万羽へのV字回復・糞害・六十谷水管橋)
- Wikipedia(日本語版):鵜飼い(長良川・平安時代から・ウミウを利用)
画像出典
- Ken Billington, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons(アイキャッチ/流木で翼を広げるカワウ)
- JJ Harrison, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons(木の枝の成鳥)
- Alchemist-hp, FAL, via Wikimedia Commons(杭に止まる姿)
- Prasan Shrestha, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons(水面から翼を広げる)
- Fernando Losada Rodríguez, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons(羽干しする3羽)
- Charles J. Sharp, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons(桟橋の群れ)


