ダチョウ

大型陸鳥

ダチョウは、現在の地球で最も大きく、最も重い鳥です。空を飛べないかわりに、時速70kmで走る地上最速の鳥として知られます。鶏の卵の20個ぶんもある巨大な卵を産み、脳よりも大きな目を持ちます。「頭が悪い鳥」というイメージで語られることも多い一方、その体には砂漠を生き抜くための工夫が詰まっています。アフリカのサバンナに群れで暮らし、強い脚の一蹴りは大型の肉食獣さえ退けます。

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分類と学名

分類階層

  • 界:動物界 Animalia
  • 門:脊索動物門 Chordata
  • 綱:鳥綱 Aves
  • 目:ダチョウ目 Struthioniformes
  • 科:ダチョウ科 Struthionidae
  • 属:ダチョウ属 Struthio
  • 種:ダチョウ Struthio camelus

和名・英名

  • 和名:ダチョウ(駝鳥)
  • 英名:Common ostrich

名前の由来と、走鳥類の仲間

漢字の「駝鳥」は、ラクダのような鳥という意味です。長い首と脚、乾いた土地で生きる姿を、ラクダになぞらえた名だと言われます。ダチョウは、飛ぶ力を失って地上で暮らす「走鳥類」というグループに入ります。同じ仲間には、オーストラリアのエミューやヒクイドリ、南米のレアがいます。

走鳥類は、もともと飛べなかった原始的な鳥ではありません。飛べた祖先から、天敵の少ない環境でそれぞれに飛ぶ力を手放したと考えられています。かつてはニュージーランドのモアや、マダガスカルのエピオルニスも走鳥類の仲間でしたが、人の影響で姿を消しました。鳥は恐竜から進化した動物で、現生最大の鳥であるダチョウは、いわば地上に残る最大の恐竜の子孫でもあります。

亜種と、別種になったソマリダチョウ

ダチョウには、アフリカの各地に暮らす複数の亜種が知られています。北アフリカのキタアフリカダチョウ、南部のミナミアフリカダチョウ、東部のマサイダチョウが代表です。かつてアラビア半島にいたアラビアダチョウは、1960年代に絶滅したとされます。首や脚が青みを帯びるソマリダチョウは、遺伝子の研究から今では別種として扱われるようになりました。東アフリカの大地溝帯によって、およそ400万年前に分かれた仲間だと考えられています。

大きさ・分布などの基本データ

大きさ高さ 最大約2.7m・体重 約100〜130kg(最大156kg・オスが大きい)
分布アフリカのサバンナや半砂漠(世界各地で家畜として飼育)
生息環境開けた草原や乾いた土地
食べものおもに植物(種・草・果実など/昆虫も少し)
走る速さ時速55〜70km(瞬間的に80kmの記録も)
寿命野生でおよそ40年(飼育下で50〜60年、最長62年の例も)

世界最大の飛べない鳥

草原を走るダチョウ
Charles J. Sharp, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

なぜ飛べないのか

飛ぶための骨がない

飛ぶ鳥の胸には、翼を動かす筋肉がつく「竜骨突起」という出っぱりがあります。ダチョウの胸の骨は平らで、この突起を持ちません。大きな翼を羽ばたかせる強い筋肉がなく、その重い体は空には浮かびません。飛ぶことをやめ、地上を走る道へ進化した鳥です。

翼はバランスと求愛に使う

飛べないダチョウにも、羽に覆われた翼が残っています。走るときには、翼を広げて体のバランスを取り、急な方向転換や急ブレーキを助けます。オスは黒と白の翼を大きく広げ、メスへの求愛の踊りにも使います。強い日ざしの下では、翼を日よけにしてひなを暑さから守ります。

走ることに特化した体

足の指はたった2本

多くの鳥の足には指が4本ありますが、ダチョウの足の指は2本だけです。これは、鳥のなかでもダチョウだけに見られる変わった特徴です。太い内側の指にはひづめのような大きな爪があり、地面をしっかりとらえて前へ蹴り出します。指を減らして足先を軽く保つことが、速く走るのに役立っています。

バネのように働く腱

ダチョウの脚には、バネのように働く長い腱がそなわっています。着地のときに縮んでエネルギーをため、蹴り出すときにその力を返します。このしくみのおかげで、少ない力で長い距離を走り続けられます。脛の骨は現生の鳥で最も長く、大きな歩幅を生み出します。

時速70kmで駆ける

ダチョウは、二本足で歩く動物のなかで世界最速とされます。短い距離なら時速70km、瞬間的には80kmに達したという記録もあります。長い距離でも時速55kmほどで走り続け、ひとまたぎの歩幅は5mにもなります。草原の狩人のなかで、この速さに追いつけるのはチーターくらいだといわれます。

「ダチョウは馬鹿」は本当か

ダチョウの顔と大きな目
H. Zell, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

脳より大きい目

ダチョウの目は直径5cmほどで、陸に暮らす動物のなかで最も大きい目です。いっぽうで脳はとても小さく、その重さは40gに満たないとされます。片方の目玉のほうが脳より大きいという、変わったつり合いの頭をしています。ダチョウが「頭が悪い」と言われる背景には、この小さな脳のイメージがあります。

「砂に頭を埋める」の誤解

ダチョウは、危険が近づくと砂に頭を埋めて隠れる、という話をよく耳にします。しかし、これは事実ではありません。実際には、首と頭を地面にぴったり伏せ、遠くから土のかたまりのように見せて身を隠します。地面の卵を返したり、砂利を拾って食べたりする姿も、頭を埋めているように見えるだけです。この誤解が、頭を隠せば安心する愚かな鳥という印象を広めてきました。

パニックと物忘れの逸話

ダチョウには、驚くと同じ場所をぐるぐる走り回る、といった逸話がついて回ります。飼い主の顔を一晩で忘れる、数歩あるくと今の出来事を忘れる、といった話も語られてきました。ただし、これらの多くは面白おかしく広まった俗説で、確かな裏づけがあるわけではありません。パニックのときに走り回る行動も、体の熱を逃がしたり敵をかわしたりするための動きだと見る研究者もいます。

本当に頭が悪いのか

脳が小さいことは確かですが、それだけで賢さのすべては決まりません。ダチョウは広い草原を見渡す目で危険を察し、素早く逃げることに特化して生き延びてきました。飼育下では世話をする人になつき、人を仲間とみなして求愛の踊りを見せる個体も知られています。カラスのような道具を使う賢さとは違っても、生きる場所に合った力を備えた鳥だと言えます。

砂漠を生きる体

カラハリ砂漠のダチョウ
Giles Laurent, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

羽で暑さと寒さをしのぐ

ダチョウの羽は、飛ぶ鳥のように羽どうしをつなぐ小さなかぎを持ちません。かわりに、柔らかくふくらんだ羽が、断熱材のように体を包みます。寒いときは翼を体に当てて裸の皮膚を覆い、暑いときは翼を離して熱を逃がします。それでも暑さが増すと、口を開けて浅い呼吸をくり返し、体の熱をさましてしのぎます。

石を飲み、水なしで生きる

ダチョウには、食べたものをかみくだく歯がありません。かわりに小石を飲みこみ、胃の中で硬い種や草をすりつぶします。飲みこんだ石は「胃石」と呼ばれ、胃の中身の半分近くを占めることもあります。水場が遠くても、餌の草から水分を得て、体重の4分の1を失うほどの渇きにも耐えられます。

世界一大きな卵と子育て

ダチョウの巨大な卵
Roger Culos, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

1.4kgの巨大な卵

鶏の卵の20個ぶん

ダチョウの卵は、いまの地球でいちばん大きな卵です。長さは15cmほど、重さは1.4kgにもなり、鶏の卵の20個ぶんをこえます。殻はとても厚くて硬く、大人が乗ってもなかなか割れないほどです。ゆで卵にするには、40分以上もじっくり火を通す必要があります。

共同の巣に産む

ダチョウは、地面をくぼませただけの簡単な巣に卵を産みます。一つの巣には、群れの複数のメスがまとめて卵を産みつけます。中心となる優位なメスの卵が大切にされ、外側の余った卵は取り除かれることもあります。一つの巣に集まる卵は、ときに数十個にもおよぶ大所帯です。

昼はメス、夜はオスが抱く

卵をあたためる役目は、オスとメスで時間を分け合います。地味な茶色いメスが昼を担い、黒いオスが夜を受け持ちます。それぞれの体の色が、昼と夜の景色に溶けこんで目立ちにくいためです。走鳥類のなかでは短い、およそ42日で卵はかえります。

集団で守られる雛

ひなを連れたダチョウ
Bernard DUPONT, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons

生まれたばかりのひなでも、鶏ほどの大きさがあります。目を開けてすぐに歩き回れ、ひと月で25cmほども背が伸びていきます。半年で親と同じくらいの高さに育ちますが、体重がそろうのはさらに先です。複数の家族のひなが集まって群れをつくり、何羽ものおとなが力を合わせて守ります。

それでも、外の世界は危険に満ちています。巣の9割は卵のうちに天敵に狙われ、かえったひなが1歳まで生き残る割合もごくわずかです。敵が近づくと、親はわざと傷ついたふりをして、天敵を巣から遠ざけようとします。多くの子を残し、群れで守り合うことが、この過酷な草原で命をつなぐ工夫です。

強い脚と群れの暮らし

2本指のダチョウの足
Tamar Assaf, Public domain, via Wikimedia Commons

ライオンも倒す蹴り

ダチョウの脚は、走るためだけの脚ではありません。追いつめられると前に向かって鋭く蹴り出し、大きな爪で相手を切り裂きます。その一撃は2000ニュートンをこえるとされ、ライオンやハイエナ、ときには人の命さえ奪うことがあります。蹴りは前にしか出せませんが、その力は油断できません。ただし、ふだんは戦うより走って逃げる道を選びます。

群れで見張り合う

ダチョウは、数羽から数十羽ほどの群れで、草原を移動しながら暮らします。多くの目で見張るため、忍び寄る天敵にもいち早く気づけるのが強みです。シマウマやレイヨウの群れに混じり、互いの用心深さを頼りにする姿もよく見られます。おとなの天敵はチーターやライオンなどに限られ、卵やひなはジャッカルや猛禽に狙われます。なかにはエジプトハゲワシのように、石を投げて硬い卵を割る鳥も知られています。

オスの求愛ダンス

繁殖の季節になると、オスは首をふくらませて「ブーン」と低くとどろく声で鳴きます。メスの前では地面にひざをつき、左右の翼をかわるがわる大きく振る踊りを見せます。首を大きく揺らして見せるこの求愛は、走鳥類ならではの光景です。一羽のオスが数羽のメスとつがい、群れで卵と子を育てます。

人とのかかわり

羽根がダイヤ並みだった時代

ダチョウの柔らかな羽根は、古くから装飾品として珍重されてきました。古代エジプトでは、左右のそろった羽根が真実と公正の象徴とされました。1900年ごろには羽根の飾りが大流行し、その値は金やダイヤモンドに迫ったとも言われます。豪華客船タイタニックの積荷でもっとも高価だったのも、大量のダチョウの羽根だったと伝えられています。

羽根ブームは1914年ごろに急に終わりますが、ダチョウと人の関わりはその後も続きました。じょうぶな皮は高級な革製品に、赤身で脂肪の少ない肉は食材として広まっています。大きな卵の殻は、大昔から水入れや器としても使われてきました。宝塚歌劇団のきらびやかな羽飾りにも、今なおダチョウの羽が使われています。

肉・皮、そして乗る鳥

ダチョウの家畜化は、19世紀の南アフリカで羽根を目当てに始まりました。今では世界各地に牧場が広がり、肉や皮、羽が生産されています。力の強いダチョウは、一部の地域で背に乗るレースにも使われてきました。ただし体を支えられる重さには限りがあり、気性も荒いため、だれもが乗れるわけではありません。

ダチョウ抗体という日本の技術

近年、日本ではダチョウの卵から抗体を取り出す研究が注目されています。京都府立大学の塚本康浩らは、大きな卵を利用して抗体を安く大量につくる方法を編み出しました。卵一つからおよそ4gの抗体が得られ、マスク数万枚ぶんに相当するとされます。インフルエンザや、にきびの原因菌に対する抗体は、マスクや化粧品にも応用されてきました。日本には1988年ごろにダチョウが産業用として持ち込まれ、各地の牧場で飼われています。

参考

  • Wikipedia(英語版)「Common ostrich」― 形態・走行・体温調節・繁殖・亜種・利用の各節
  • Wikipedia(日本語版)「ダチョウ」ほか― 知能・俗説・日本での飼育・ダチョウ抗体
  • IUCN レッドリスト「Struthio camelus」ほか― 分布・亜種・保全状況
  • ダチョウ抗体・南アフリカのダチョウ産業に関する各種解説― 抗体の応用と羽根貿易の歴史

画像出典

サムネイル画像: Diego Delso, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

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