タテゴトアザラシは北大西洋と北極海の流氷の上で子を産むアザラシです。生まれた子は真っ白な毛に包まれますが、母親の授乳は12日ほどで終わり、その後は氷の上に置いていかれます。和名は背中の黒い模様が竪琴に見えることから付きました。
分類と学名
分類階層
- 界:動物界 Animalia
- 門:脊索動物門 Chordata
- 綱:哺乳綱 Mammalia
- 目:食肉目 Carnivora
- 科:アザラシ科 Phocidae
- 属:タテゴトアザラシ属 Pagophilus
- 種:タテゴトアザラシ Pagophilus groenlandicus
和名・英名
- 和名:タテゴトアザラシ(竪琴海豹)
- 英名:Harp seal(Saddleback seal、Greenland seal とも呼ばれます)
学名は「氷を愛するもの」
属名の Pagophilus はギリシャ語で「氷を愛するもの」を意味します。種小名の groenlandicus は「グリーンランドの」です。氷の上で子を産む暮らしが、そのまま名前になっています。
もとはゴマフアザラシなどと同じ Phoca 属に置かれていました。1844年に、この1種だけで構成される Pagophilus 属へ移されています。

大きさ・分布などの基本データ
| 大きさ | 体長 約1.7〜2.0m・体重 約115〜140kg(オスがわずかに大きい) |
|---|---|
| 分布 | 北大西洋の北部と北極海。日本の自然分布には入りません |
| 生息環境 | 冬から春は流氷の上、それ以外の時期は海 |
| 食べもの | タラ類・カラフトシシャモ・ニシン・オキアミなど数十種 |
| 繁殖 | 2月中旬〜4月に流氷の上で1頭を出産。授乳は約12日 |
| 天敵 | ホッキョクグマ、シャチ、ニシオンデンザメ |
| 寿命 | 野生で30年以上 |
| 保全状況 | IUCN: NT(準絶滅危惧・2025年10月に低懸念から変更) |
背中の竪琴模様は大人になってから出てくる
生まれてすぐは全身が真っ白

生まれた子の体は真っ白な産毛に覆われています。この毛は生後2〜3週間だけのもので、最初の換毛で黒い斑点のある銀灰色に変わります。
白い毛は毛と毛の間に空気の層を閉じ込めて体温を保ちます。ただし水の中では役に立ちません。海へ出るまでの、氷の上だけの装備といえます。
模様は繁殖できる体に近づいてから現れる

特徴的な模様は繁殖できる体に近づいてから現れます。灰色の体に、黒いU字型の模様が背中へ浮かび上がります。オスでは切り替わりが急で、メスでは何年もかけてゆっくり進みます。
一生模様が出ないメスもいる
メスの中には斑点が最後まで消えない個体や、竪琴の模様が完全には出ない個体もいます。
生後13〜14か月ごろの換毛で「ベドラマー」と呼ばれる段階に入り、その後も何度か換毛を繰り返します。大人の模様がそろうまでには数年かかります。
授乳12日で、母は子を氷の上に置いて去る

母は狩りをせず、1日3kg痩せる
出産は2月中旬から4月にかけてです。記録には15秒で終わった出産もあります。生まれた子は体重11kg、体長80〜85cmほどです。
授乳の期間はおよそ12日です。その間、母親は狩りに出ず1日に最大3kg体重を落とします。
乳の脂肪は25%から40%へ上がる
乳の脂肪は最初25%で、母親が絶食を続けるうちに離乳時には40%へ上がります。牛乳の乳脂肪分がおよそ3.5%なので、その10倍を超える濃さです。
子は1日に2.2kg以上増え、皮下脂肪を一気に厚くします。12日で体重は11kgから36kgへ、3倍以上になります。
離乳は突然で、母はそのまま交尾へ向かう
離乳は前触れなく訪れます。母親は授乳をやめるとそのまま交尾に向かい、子を氷の上に残していきます。
授乳中の母親は時間の8割を水の中で過ごしています。氷の上にいるのは残りの2割です。体力を節約し、厳しい環境を避けながら子のそばにいるための行動と考えられています。
白い毛が抜け、半分痩せ、3割が1年目に死ぬ

数日で白い毛が抜ける
置いていかれた子は脂肪を使い切らないようにほとんど動かなくなります。数日のうちに白い毛が抜け、「ビーター」と呼ばれる段階に入ります。
この呼び名は泳ぎを覚える途中の子が尾で水面をたたく音から来ています。
生後4週から自分で食べ始める
生後4週ごろから自分で食べ始めます。それでもしばらくは体に蓄えた分に頼り、皮下脂肪より先に体の中心の蓄えを使います。この絶食で、体重が半分まで落ちることもあります。
褐色脂肪が血液を温め、エネルギーにもなる
体には褐色脂肪という組織があり、体の表面から戻ってくる血液を温めます。エネルギー源にもなり、乳離れしたばかりの子にはとくに重要とされます。
皮下脂肪がそろうまでには1年かかる
皮下脂肪が十分に育つまでには1年かかります。大人は主に皮下脂肪で断熱しますが、乳離れしたばかりの子はまだその備えが整っていません。
1年目に最大3割が死ぬ
1年目に死ぬ子は多いときで3割にのぼります。氷の上でほとんど動けない時期があることが理由の一つです。
ちょうどその時期に氷は溶け始めます。ホッキョクグマやシャチ、ニシオンデンザメに狙われやすくなります。


数千頭で氷に集まり、交尾は水中、子は匂いで見分ける

出産と交尾の時期は数千頭の群れになる
陸に上がることはほとんどなく、多くの時間を海で過ごします。群れを作る動物で、出産と交尾の時期には数千頭が集まります。
大きな群れの中にはそれぞれ順位を持つ小さな集団ができます。
交尾は水中でしか成立しない
求愛は氷の上で始まりますが、交尾は水中で行われます。オスは水中で泡を出し、声を上げ、前肢を動かしてメスに求愛します。
メスは氷の上にいる間、交尾に応じません。水中でなければ受け入れないとされます。
母は匂いで自分の子を見分ける
母親は匂いで自分の子を見分けます。この嗅覚は近づく捕食者に気づく役にも立つとされます。
声もよく使います。子は母を呼んで叫び、ほかの子と遊ぶときにはつぶやくような声を出します。水中では、求愛と交尾の間に19種類を超える声が記録されています。
4,000kmを泳ぎ、ときに分布の外へあふれる
記録に残る最長は4,640km
北西大西洋の個体群(同じ海域で繁殖する集団)は、繁殖期が終わると北東へ最大4,000km移動します。標識を付けた場所から4,640km離れたノルウェー北岸で見つかった個体もいます。それだけ動いても方角を外さず、目のよさがその一因とされています。
暖かい浜に迷い着くことがある

分布の南の外へ迷い出ることもあります。イギリスでは1800年から1988年までに31頭の記録があります。
大西洋岸に打ち上がることもあり、暖かい時期に多くなります。脱水と寄生虫が原因とされます。この種は水分をとるために雪を食べるので、冬が暖かいと雪が足りなくなるためです。
1987年、3万頭がノルウェーのフィヨルドへ
1987年の初めにはノルウェー沿岸へ大量に移動しました。2月半ばまでに24,000頭が漁網にかかって溺れています。
オスロの近くまで入りこんだ個体は約3万頭で、当時の世界の個体数のおよそ1割にあたります。移動してきた個体はどれも痩せており、商業漁業が餌を奪ったためとみられています。
日本にはいないが「うみまる」はこの種
繁殖地は3か所に分かれる

繁殖地は3つに分かれます。カナダ東岸のニューファンドランドとセントローレンス湾、グリーンランド東の「西氷」、そしてロシアの白海です。
3つの個体群は行き来せず、交わりません。日本の自然分布には入りません。
海上保安庁のマスコットになっている
海上保安庁のマスコット「うみまる」は、タテゴトアザラシの子どもがモチーフです。1998年4月10日を誕生日とし、二等海上保安正という階級が設定されています。
設定上の身長は約2m、体重は約100kgです。子どもがモチーフとされていますが、この数字は大人のタテゴトアザラシとほぼ同じ大きさにあたります。
海氷の減少と猟の歴史、2025年の準絶滅危惧入り
3種まとめて区分が引き上げられた
2025年10月10日、国際自然保護連合(IUCN)が北極に住むアザラシ3種の区分を引き上げました。
- タテゴトアザラシ:低懸念(LC)から準絶滅危惧(NT)へ
- アゴヒゲアザラシ:低懸念(LC)から準絶滅危惧(NT)へ
- ズキンアザラシ:危急(VU)から絶滅危惧(EN)へ
北極の温暖化はほかの地域の4倍の速さ
理由は海氷の減少です。IUCNは北極の温暖化がほかの地域の4倍の速さで進んでいると指摘しています。氷は出産や換毛、休息、餌場への行き来に使われます。
※ IUCNレッドリストとは、世界の野生生物の絶滅のおそれを評価した国際的なリストです。準絶滅危惧(NT)は今すぐ絶滅の危険が高い区分ではありません。ただし条件が変われば、危険な区分へ移りうる段階にあたります。


150年で900万頭から100万頭まで振れた
過去150年で、個体数は900万頭を超えた時期から100万頭ほどまで振れています。多い時期と少ない時期では9倍近い開きがあります。現在は約450万頭と見積もられています。
北西大西洋の個体群は1952年から1970年にかけて少なくとも半分に減りました。その後は猟の割当などの制限で、いくらか回復しています。
白い毛の子の猟は1987年から禁止
3つの個体群はいずれも猟の対象で、カナダ・ノルウェー・ロシア・グリーンランドで行われています。
カナダでは1987年から、白い毛の子を獲ることが禁止されています。2000年以降は1歳に満たないビーターの段階の個体が大半を占めています。
参考
- IUCN Red List: Pagophilus groenlandicus(NT・2025評価)
- IUCN「Arctic seals threatened by climate change, birds decline globally – IUCN Red List」2025年10月10日
- 海上保安庁 うみまる
- 日本乳業協会「乳と乳製品のQ&A」
- Wikipedia(英語)「Harp seal」
- Wikipedia「タテゴトアザラシ」
画像出典
- Brian Gratwicke from DC, USA, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons
- Matthieu Godbout, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons
- Brian Gratwicke from DC, USA, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons
- Hotel Kaesong, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons
- Doug Suitor (dougsuitor), CC BY 4.0, via Wikimedia Commons
- Brian Gratwicke from DC, USA, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons
- Joshua Liverman (joshl), CC BY 4.0, via Wikimedia Commons
- Cephas, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons


