ラブカは、駿河湾などの深海で暮らすサメです。ウナギのような細長い体と、三又に分かれた300本ほどの歯を持ちます。妊娠期間は少なくとも3年半におよぶとされ、脊椎動物のなかで最も長い部類に入ります。
分類と学名
分類階層
- 界:動物界 Animalia
- 門:脊索動物門 Chordata
- 綱:軟骨魚綱 Chondrichthyes
- 目:カグラザメ目 Hexanchiformes
- 科:ラブカ科 Chlamydoselachidae
- 属:ラブカ属 Chlamydoselachus
- 種:ラブカ Chlamydoselachus anguineus
和名・英名
- 和名:ラブカ(漢字表記:羅鱶)
- 英名:Frilled shark
名前の由来
和名ラブカの由来は、はっきりしていません。皮膚がなめらかで羅紗という毛織物を思わせることから付いた、という説があります。漢字では羅鱶と書きます。
英名の Frilled shark は「フリルのあるサメ」という意味です。えらのふちが襟飾りのように広がって見えることから来ています。
学名の Chlamydoselachus も、えらの見た目から付いた名前です。古代ギリシア語の chlamys(外套)と selachus(サメ)を合わせています。種小名の anguineus は、ラテン語で「ウナギのような」という意味です。
大きさ・分布などの基本データ
| 大きさ | 全長 オス 最大約165cm/メス 最大約196cm(メスのほうが大きい) |
|---|---|
| 分布 | 大西洋・太平洋の各地(まとまらず、とびとびに記録される) |
| 生息深度 | おもに120〜1,280m(駿河湾では50〜200mでも見られる) |
| 食べもの | イカ(駿河湾では餌の約6割)・小型のサメ・硬骨魚 |
| 繁殖 | 妊娠 少なくとも約3年半/1腹あたり2〜10(平均6)/生まれたときの全長40〜60cm |
| 近い仲間 | ラブカ科の現生種はラブカとミナミアフリカラブカの2種 |
| 保全状況 | IUCN:LC(軽度懸念) |

ウナギのような体と、6対のえら
サメらしくない体つき
細長い体と、後ろに寄ったひれ
ラブカの体は細長い円筒形です。背びれは1つだけで小さく、しかも体のかなり後ろに付いています。腹びれと尻びれ(臀びれ)は大きく幅広く、尾びれは非常に長く伸びています。
ひれが後方に集まったこの形は、多くのサメには見られません。泳ぎ方も独特で、体を左右に波打たせて進みます。ウナギやウミヘビの動きに近く、学名の anguineus もこの体つきを指しています。
5対でなく6対の鰓裂
多くのサメのえらの穴(鰓裂)は5対です。ラブカには6対あります。ラブカが属するカグラザメ目のサメは6対か7対を持ち、5対より多いことがこの仲間の特徴です。原始的な形質と考えられています。
さらに1番目の鰓裂は、のどの下で左右がつながっています。えらのふちにはひだ状の膜が発達し、全体が襟のように見えます。襟に見えるこの部分が、英名 Frilled shark のもとです。
大きな目と、瞬膜のない顔
目は比較的大きく、楕円形をしています。ラブカが多くいる水深数百mには、太陽の光がほとんど届きません。わずかな明かりしかない場所では、光を多く取りこめる大きな目が有利になると考えられています。
イタチザメなどメジロザメ目のサメは、獲物に噛みつく瞬間に瞬膜という膜で目を守ります。ラブカにこの瞬膜はありません。口は頭の先端近くで大きく開き、下から見ると幅の広い顔つきに見えます。

300本の三又の歯
引っかけて逃がさない歯
三又に分かれた形
ラブカの歯は1本1本が三又に分かれています。細い尖頭が3つ並び、その間に小さな突起もあります。この歯が上あごに19〜28列、下あごに21〜29列並びます。
合計すると、口の中には300本ほどの歯が入っています。ホホジロザメの歯が肉を切り取る刃物だとすれば、ラブカの歯は逃がさないための釘に近い形です。獲物を切るのではなく、引っかけて留めます。
イカが6割の食事
駿河湾で調べられた胃の中身では、餌の約6割をイカが占めていました。針のような歯は、柔らかいイカの体に食いこんで離さないのに向いています。
食べていたイカの顔ぶれは、動きの遅いユウレイイカやクラゲイカだけではありません。速く泳ぐツメイカ・トビイカ・スルメイカも含まれます。自分より小さなサメや硬骨魚も食べます。動きの鈍い深海魚が、なぜ速いイカを捕らえられるのかは、まだよく分かっていません。
蛇のような襲い方という見方
ラブカが体をくねらせ、蛇のように跳びかかって獲物に食らいつく、という見方があります。細長い体と後方に寄ったひれは、瞬間的に前へ突き出す動きに向いているためです。
ただし、これは体の形からの推測にとどまります。深海で狩りをする場面はほとんど観察されていません。海面近くに現れた細長い姿が、海の大蛇(シーサーペント)の目撃談の一部を説明するという見方も出ています。
3年半の妊娠
脊椎動物で最も長いとされる記録
駿河湾産の標本の調査
ラブカの妊娠期間は、少なくとも3年半におよぶと考えられています。1990年に発表された駿河湾産のラブカの研究による推定です。人の妊娠期間の4倍を超える長さで、これほど長い妊娠は他の脊椎動物にほとんど例がありません。
推定の根拠は、胎仔の成長の遅さです。卵殻に包まれた胎仔を海水中で育てた観察では、1か月に10〜17mmしか伸びませんでした。生まれるまでに全長40〜60cmへ達することから、逆算して3年半以上という数字が出ています。
卵黄だけで育つ子
ラブカは卵ではなく子どもを産みます。ただし哺乳類のような胎盤はなく、胎仔は卵黄だけを栄養にして母親の体内で育ちます。無胎盤性胎生と呼ばれる方式です。
1回に生まれるのは2〜10匹で、平均は6匹ほどです。決まった繁殖の季節はないとみられています。深海には季節の変化がほとんど届かないためと考えられています。オスは全長97〜117cm、メスは135〜150cmで大人になります。

駿河湾と、水族館のラブカ
日本の海での記録
深海が陸に迫る湾
ラブカは世界の海にとびとびに分布しますが、まとまって見つかる海は限られます。日本の相模湾と駿河湾は、比較的よく捕獲される場所です。1884年に新種として記載されたときのタイプ標本も、相模湾でとれた全長1.5mのメスでした。
駿河湾は最も深い地点で水深2,500mに達する、日本一深い湾です。湾の最奥部では、海岸からわずか2kmほどで水深500mになります。深海が陸のすぐそばまで入りこんでいるため、沿岸の漁の網に深海の生き物が入りやすくなっています。
刺し網とサクラエビ漁での混獲
ラブカが網に入るのは、タイやムツを狙う刺し網や、水深80mのサクラエビ漁です。狙って獲る漁はなく、いずれも混獲です。深海の魚でありながら、駿河湾では50〜200mという浅い層にも現れます。
飼育が続かない理由
網から生きて揚がったラブカが水族館へ運ばれることもあります。ただし、そのまま長く飼うことはできていません。水圧のない環境では肝臓の働きが損なわれ、成体は数日以内に死ぬ例がほとんどです。
2025年の時点で、ラブカを飼育している施設はありません。水族館で見られるのは、標本か映像が中心です。
世界初の胎仔の展示
2016年に始まった共同研究
東海大学海洋科学博物館とアクアマリンふくしまは、2016年4月に「ラブカ研究プロジェクト」を始めました。長期飼育と展示を目標にした共同研究です。
361日の保育と、2017年の同時展示
2016年5月、母親の子宮から取り出した受精卵3個の人工保育が試みられました。このうち1個体は2016年5月20日から361日にわたって育ち、全長120mmまで成長しました。
2017年5月17日に人工保育を始めた胎仔は、同年6月9日に両館で同時に展示されました。生きたラブカの胎仔が公開されたのは、これが世界で初めてでした。

生きた化石と呼ばれる理由
ラブカは「生きた化石」と呼ばれます。6対の鰓裂・三又の歯・細長い体といった特徴が、古いサメの姿をよく残しているためです。ラブカ属の化石は、白亜紀後期の約9,500万年前の地層から見つかっています。ジュラ紀後期、約1億5,000万年前のものとされる化石の報告もあります。
ただし、今のラブカが当時のまま変わらずに生きてきたという意味ではありません。姿の似た仲間が長く続いてきた、という言い方が正確です。同じ呼び名を持つシーラカンスと違い、ラブカは1884年に記載された時点から生きている種として知られてきました。深海にいて姿を見せないだけで、絶滅したと思われていたわけではありません。
現生のラブカ科は、ラブカとミナミアフリカラブカの2種だけです。
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参考
- 田中彰ほか「駿河湾産ラブカの生殖」魚類学雑誌 37巻3号 273-291(1990年)(妊娠期間・胎仔数・成長率の一次資料)
- アクアマリンふくしま「東海大学海洋科学博物館×アクアマリンふくしま ラブカ研究プロジェクト」(人工保育361日・世界初の胎仔展示・飼育の難しさ)
- IUCN Red List「Chlamydoselachus anguineus」(LC=軽度懸念)
- ウィキペディア「ラブカ」(分類・形態・食性・分布)
画像出典
- Citron, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons(パリ・ポルトドレ宮水族館の剥製)(アイキャッチ)
- Citron, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons(パリ・ポルトドレ宮水族館の剥製)
- saname777, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons(新江ノ島水族館の標本)
- NOAA, Public domain, via Wikimedia Commons(自然の生息環境で撮影された世界初の映像より)
- Samuel Garman, Public domain, via Wikimedia Commons(1884年の種の記載に添えられた図)


