ナンヨウマンタ

軟骨魚類

ナンヨウマンタは、太平洋やインド洋の熱帯・亜熱帯のサンゴ礁で暮らす、体盤幅3〜3.5mの大型のエイです。日本の水族館で「マンタ」として展示されているのは多くの場合この種で、沖縄の八重山諸島でもダイビングで出会える機会の多い、南の海を代表するエイの一つとして知られています。

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分類と学名

分類階層

  • 界:動物界 Animalia
  • 門:脊索動物門 Chordata
  • 綱:軟骨魚綱 Chondrichthyes
  • 目:トビエイ目 Myliobatiformes
  • 科:イトマキエイ科 Mobulidae
  • 属:イトマキエイ属 Mobula
  • 種:ナンヨウマンタ Mobula alfredi(Krefft, 1868)

和名・英名

  • 和名:ナンヨウマンタ(南洋マンタ)
  • 英名:Reef manta ray(別名 Alfred manta、coastal manta ray)

「マンタ」が2種に分かれた歴史

もともと日本で「マンタ」といえばオニイトマキエイ(Mobula birostris)1種と考えられていました。ところが2009年、それまで同種扱いだった個体群が形態や遺伝的に異なる2種に分けられ、新たな種に Manta alfredi(当時)の学名が与えられます。日本の水族館で飼育されていた「マンタ」は、この新しく分けられた側だと調査で判明し、標準和名として「ナンヨウマンタ」が採用されました。

さらに2017年、ミトコンドリアDNAの解析からオニイトマキエイ属(Manta)はイトマキエイ属(Mobula)へ統合され、有効な学名が現在の Mobula alfredi に改められました。旧学名 Manta alfredi は現在ではシノニム(同物異名)です。

大きさ・分布などの基本データ

大きさ体盤幅 平均3〜3.5m、最大5.5m。エイ類のなかで世界3番目に大きい種
分布インド洋・太平洋の熱帯・亜熱帯。日本では八重山諸島・沖縄などで観察される
生息環境サンゴ礁の周辺。沿岸寄りの海域を好む
寿命40年前後、50年以上生きる説もある
保全状況IUCN:VU(危急種)/ワシントン条約 附属書II
ナンヨウマンタの世界分布図
ナンヨウマンタの分布域(青)。Стефанко1982, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

姿と体のつくり

三角形の胸鰭と巻いた頭鰭

翼のように広がる体盤

ナンヨウマンタの体は、頭から胸鰭までが一枚の大きな三角形の板のようにつながっています。この板状の部分を体盤(たいばん)と呼び、大きな胸鰭を左右にゆったりと羽ばたかせて泳ぐ姿はまるで海の中を舞う鳥のようです。体盤は背腹方向に平たく、上から見た輪郭がひし形に近い形をしています。

海中を悠然と泳ぐナンヨウマンタの側面
Rickard Zerpe, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons

頭の左右にある「角」の正体

顔の左右から前に伸びる一対の角のような突起は「頭鰭(とうき)」と呼ばれ、胸鰭が分かれてできたものです。ふだん泳いでいるときは小さく巻き上げてしまわれ、餌を食べるときには広げて水流を口に送り込む役割を果たします。目と鼻孔は頭部の側面、5対のエラは腹側にあり、腹側から見るとエイらしい形がよく分かります。

海中を泳ぐナンヨウマンタの側面
Rickard Zerpe, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons

マンタとエイの違い

マンタは大きく「エイの仲間」ですが、日本でよく食べられるアカエイなどとは体のつくりがだいぶ違います。とくに分かりやすい違いは次のとおりです。

ナンヨウマンタアカエイなどの一般的なエイ
大きさ体盤幅 3〜5m台1m前後が多い
食性プランクトン食(吸い込み)貝や小魚を底で食べる
長い鞭状。毒棘なし尾に鋭い毒棘をもつ種が多い
生活の場中層を泳いで暮らす海底付近で暮らす
頭鰭(角)がある頭鰭なし

ナンヨウマンタの尾にはアカエイのような毒のトゲはなく、人を襲うこともありません。ダイバーがそばを泳いでも危険がほぼないため、ダイバーに親しまれる存在です。

サンゴ礁の上を泳ぐナンヨウマンタ
Elias Levy, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons

頭のいいエイ

魚類最大級の脳

ナンヨウマンタは、体重に対する脳の重さの比(脳化指数)が魚類のなかでも最大級で、変温動物のなかで見てもかなり高い部類に入ります。目や記憶に関わる部分が特に発達しており、視覚に頼った複雑な行動が可能な体のつくりだと考えられています。

友達をつくり、群れで暮らす

知っている個体と集まる

インドネシアのラジャ・アンパット海洋公園で行われた追跡調査によると、ナンヨウマンタの群れは偶然出くわした個体の寄せ集めではなく、以前から知っている個体どうしで作られる長期的なつながりを持つ集団だと分かってきました。特定の個体との組み合わせが繰り返し観察され、魚類のなかでは特異な社会性を持つと考えられています。

ダイバーに助けを求めた記録

オーストラリア沖では、目の下に釣り針が刺さったナンヨウマンタが、なじみのダイバーの前で動きを止めて針を取ってもらったという報告があります。相手を「助けてくれそうな存在」として認識しているような行動で、脳化指数の高さを裏づけるエピソードのひとつとして紹介されています。

モルディブの海でゆっくり泳ぐナンヨウマンタ
TANAKA Juuyoh, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons

プランクトンを漉し取るハンター

頭鰭で水流をつくって吸い込む

大きな体を支える食事は、体格に比べてかなり小さな相手です。ナンヨウマンタの主食は動物プランクトンで、頭鰭を広げて水流を口に集め、エラのフィルターで濾し取って食べます。餌の多い海域では、宙返りをしながら同じ場所で回転するように泳ぎ、プランクトンの塊を効率よく口に運ぶ「バレルロール摂食」と呼ばれる行動が観察されています。

頭鰭を広げてプランクトンを漉し取るナンヨウマンタ
頭鰭を広げて水流を口に送り込むラム摂食。Jaine FRA et al. 2012, CC BY-SA 2.5, via Wikimedia Commons

掃除魚を従える

ナンヨウマンタは体の掃除も欠かしません。体表の汚れ・食べ残し・寄生虫を食べてくれる小魚として、ホンソメワケベラやコバンザメ、ブリモドキなどが常についてまわります。掃除を受ける定位置は「クリーニングステーション」と呼ばれ、同じ場所へマンタが繰り返し訪れる姿がダイバーの観光ポイントにもなっています。

繁殖と成長

子宮ミルクで育つ卵胎生

ナンヨウマンタは卵ではなく子を生きたまま産む卵胎生の魚です。妊娠期間はおよそ12か月で、一度に1〜2尾の子を産みます。子は母親の子宮のなかで、未受精卵や「子宮ミルク」と呼ばれる栄養液を摂って育ちます。生まれるときにはすでに体盤幅1mを超え、沖縄美ら海水族館で生まれた第1仔は約1.9mだった記録もあります。

沖縄美ら海水族館の世界初繁殖

2007年の第1仔から複数世代へ

沖縄美ら海水族館は2007年、飼育下で世界初となるナンヨウマンタの出産に成功しました。第1仔はメスで、その後も同水族館で複数回の出産が記録されています。ただし飼育環境でのマンタの出産にはリスクも多く、母子ともに事故で失われた事例もあり、大きな体の海洋生物を飼育下で殖やすことの難しさを浮かび上がらせてきました。

ブラックマンタの繁殖にも成功

2024年には、同水族館で飼育されていた黒化個体(体色が全体的に黒い個体)が出産し、生まれた子も母親と同じ黒化個体でした。ブラックマンタと呼ばれるこの珍しいタイプの繁殖は世界初の記録で、遺伝的な仕組みの研究にもつながる出来事だと注目されています。

オニイトマキエイとの見分け方

大きさと生息場所の違い

ナンヨウマンタとよく似ている同属のオニイトマキエイ(Mobula birostris)は、体盤幅が最大7mにもなる世界最大のエイで、外洋を回遊するライフスタイルを送ります。ナンヨウマンタは3.5m前後で、サンゴ礁のある沿岸寄りの海に暮らす種です。「大きくて外洋にいる方がオニイトマキエイ、少し小さくてサンゴ礁で会える方がナンヨウマンタ」と整理できます。

体色と模様の違い

細かい見分け方としては、口の周りの色と、腹側の斑点模様の位置に違いが見られます。オニイトマキエイは口周りが黒っぽく、腹側の斑点は胸鰭のあたりに散らばります。ナンヨウマンタは口の周りが白っぽく、腹側の斑点は主にお腹の中央に集まる傾向があります。個体差はありますが、写真同定でも重要な手がかりとして使われています。

保全と人との関わり

IUCN危急種としての現状

IUCNレッドリストではナンヨウマンタを危急種(VU)に分類しており、2013年からはワシントン条約の附属書IIにも掲載されています。妊娠期間が長く一度に産む子も少ないため、乱獲や混獲、生息地の破壊が起きると個体数の回復が難しい種です。加えて船との衝突や海洋汚染、気候変動によるサンゴ礁の劣化も、生息環境への脅威になっています。

石垣島や沖縄で会えるマンタ

日本では、八重山諸島の石垣島周辺がナンヨウマンタの世界的なダイビングスポットとして知られています。「マンタスクランブル」と呼ばれるクリーニングステーションでは、同じ個体が繰り返し姿を現すことで、写真による個体識別も進められています。水族館では沖縄美ら海水族館の巨大水槽が特に有名で、飼育下のマンタを間近に観察できる貴重な機会になっています。

モルディブの海を舞うナンヨウマンタ
Ahmed Abdul Rahman, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

関連する生きもの

同じくプランクトンを漉し取って食べる、世界最大の魚として知られるジンベエザメも、南の海の巨大な軟骨魚です。ナンヨウマンタと同じサンゴ礁で暮らすサメでは、日中は洞窟で横たわって休むネムリブカも紹介しています。

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参考

  • Marshall, A. ほか 2022. Mobula alfredi. The IUCN Red List of Threatened Species 2022(危急種指定の根拠と個体数動向)
  • Marshall, A.D., Compagno, L.J.V., Bennett, M.B. 2009. “Redescription of the genus Manta with resurrection of Manta alfrediZootaxa 2301(マンタが2種に分けられた原著論文)
  • 本村浩之 2020. 「日本産軟骨魚類目録」鹿児島大学(和名・分類の整理)
  • 沖縄美ら海水族館 公式サイト「ナンヨウマンタ」(世界初出産と飼育記録の一次情報)

画像出典

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