セグロセキレイ

小型陸鳥

セグロセキレイは、日本の水辺で普通に見られるセキレイ科の小鳥で、ほぼ日本だけに生息する固有種です。ハクセキレイに似ますが、顔から背中まで黒い帯がつながる点と、地鳴きが濁る点で見分けられます。近年はハクセキレイの分布拡大に押される形で生息地を狭めており、水辺の環境変化を映す種でもあります。

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分類と学名

分類階層

  • 界:動物界 Animalia
  • 門:脊索動物門 Chordata
  • 綱:鳥綱 Aves
  • 目:スズメ目 Passeriformes
  • 科:セキレイ科 Motacillidae
  • 属:セキレイ属 Motacilla
  • 種:セグロセキレイ Motacilla grandis

和名・英名

  • 和名:セグロセキレイ(背黒鶺鴒)
  • 英名:Japanese Wagtail

学名と英名の由来

1885年に Richard Bowdler Sharpe によって記載されました。種小名 grandis はラテン語で「大きい・堂々とした」の意で、同属のなかで比較的大柄で存在感のある姿を評価した命名です。英名の Japanese Wagtail は「日本のセキレイ」を意味し、ほぼ日本にしかいない固有種であることを反映しています。

和名の「セグロセキレイ(背黒鶺鴒)」は、頭から背にかけての黒色部分に由来します。同じセキレイ属のハクセキレイやキセキレイと並べたとき、背中の色の違いは明確な識別点となります。

大きさ・分布などの基本データ

大きさ全長 20〜22cm/翼開長 約30cm/体重 26〜35g(ハクセキレイとほぼ同大)
分布日本(北海道〜九州)の固有種。朝鮮半島の一部で繁殖記録あり/ロシア沿海地方・台湾・中国北部沿岸などで観察例
生息環境河川の中流域を中心とした水辺。海岸の堤防・干潟・砂浜。畑や市街地は少なめ
食性雑食。昆虫・クモ・小さな水生動物などが中心
繁殖3〜7月に川岸や崖の陰で椀状の巣を作り、4〜6卵。抱卵11〜13日/巣立ちまで約14日
保全状況IUCN:LC(低危険種)/環境省RLでは指定なし

姿と体のつくり

20〜22cmのセキレイ属

直立したセグロセキレイの全身
nubobo from Iwata, Shizuoka, Japan, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons

全長は20〜22cmで、スズメより一回り大きく、細身で尾が長い体形です。翼開長は約30cm、体重は26〜35gで、姿の大きさはハクセキレイとほぼ同じです。地上を軽やかに走り、尾羽を絶えず上下に振る動作は、セキレイ科に共通する特徴です。

頭・肩・背まで続く黒

横向きのセグロセキレイ・頭から背にかけての黒
Materialscientist, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

頭から後頸・肩・背中までが濃い黒色で、腹部は真っ白・胸部は黒く広がります。眼を横切る過眼線と頬・肩・背の黒が連続してつながるのが最大の特徴で、顔の下半分と体の上半分がまとまった黒い面を作ります。翼は黒地に白い横帯が入り、飛翔時にも判別しやすい姿です。

メスと幼鳥の色

灰色の羽色をもつセグロセキレイの幼鳥
Alpsdake, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

雌雄はほぼ同色ですが、メスは背中の黒色がやや灰色みを帯びるとされます。幼鳥は頭から背まで灰色で、腹の白との対比がはっきりしません。成鳥の黒々とした姿を見慣れていると、灰色の幼鳥は別種のように見えることがあります。

ハクセキレイには亜種や部分白化個体が多く、なかにはセグロセキレイに似た羽色を示す例も報告されています。羽色だけの判別には限界があり、後述する顔の黒帯の連続性や鳴き声で合わせて確認するのが確実です。

ハクセキレイとの識別

セグロセキレイの識別で最も注意が必要なのがハクセキレイです。同じ水辺に暮らすことも多く、両種の識別点は次の3点に集約されます。

顔の黒帯 ―眼を通って背までつながるか

セグロセキレイ ―眼から背まで黒がつながる

セグロセキレイは、眼を横切る過眼線から頬・肩・背中までが1枚の黒として連続します。顔の下半分と体の上半分にまとまった黒い領域が広がるため、正面から見ると「黒い覆面をした鳥」に見えます。この黒帯の広がりが、種名「背黒」の由来でもあります。

ハクセキレイ ―眼の下は白い

ハクセキレイは、頭上と背が黒または灰色です。ただし頬と喉が白く、顔の下半分は白い面が広がります。眼を横切る過眼線は入りますが、その下は白いままで、顔と胴の黒がひと続きの帯にはなりません。顔正面の白と黒の広がりだけで、両種は判別できる差です。

鳴き声 ―濁るか濁らないか

セグロセキレイの濁った地鳴き

地鳴きの音質も明確な違いです。セグロセキレイは「ジュジュッ、ジュジュッ」あるいは「ジュビッ、ジュビッ」と少し濁った声を出します。飛翔中の鳴き声も同じく濁って聞こえます。

ハクセキレイの澄んだ声

対してハクセキレイは「チュチュッ、チュチュッ」と澄んだ声で鳴きます。地鳴きの音質は、姿が見えにくい環境での主要な識別指標となります(濁音=セグロセキレイ/清音=ハクセキレイ)。

生息環境 ―水辺への依存度

セグロセキレイは水辺離れず

暮らす場所にも違いが出ます。セグロセキレイは水辺への依存度が高く、河川の中流域や海岸の堤防、干潟・砂浜などで見かけます。畑や市街地の中央部で採食する姿はまれです。

ハクセキレイは市街地にも進出

ハクセキレイは水辺に加えて畑や公園、駅前のロータリーまで進出してきており、都市部で見かけるセキレイの多くは近年ハクセキレイです。乾いた場所での採食に慣れており、コンクリートの多い環境にも適応しています。

セキレイの仲間 ―日本の代表種

日本のセキレイ属で普通に見られるのは、セグロセキレイ・ハクセキレイ・キセキレイの3種です。姿と生息環境で3種の性格が分かれます。

セグロセキレイ顔の黒が連続。腹白/胸黒/地鳴きが濁る/水辺依存。日本固有種
ハクセキレイ頬が白い(黒帯が眼下に至らない)。腹白/地鳴きが澄む/畑・市街地にも進出
キセキレイ腹面が鮮やかな黄色/背は灰緑/山地の渓流を好む

生態と暮らし

水辺依存の暮らし

川の中を歩くセグロセキレイ
KKPCW, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

セグロセキレイは、名前どおり水辺を離れずに暮らします。河川の中流域を中心に、川原の石の上・堤防・河口の干潟や砂浜などで見かけます。瀬戸内海のように大きな河川が少ない地域では、海岸の波消しブロックや石積み護岸で採食する姿も観察されます。乾いた畑や市街地の中央部での採食行動はほとんど見られません。

強い縄張り意識

一年を通じて単独または番いで縄張りを構え、縄張り意識はセキレイ属のなかでも特に強い部類です。同種はもちろん、ハクセキレイやキセキレイが縄張りに入ってくると、追いかけ回して押し出す争いがよく観察されます。競合時にはセグロセキレイのほうが強い傾向にあるとされ、水辺の適地では優位に立つ場面が多く見られます。

尾羽を上下に振る動作

電線に止まるセグロセキレイ
Alpsdake, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

セキレイ科に共通する特徴として、静止時に尾羽を絶えず上下に振ります。水辺の岩陰にいる昆虫を驚かせて追い出す・体の平衡を保つ・姿を目立たせて縄張りを示すなど、複数の機能が仮説として提示されています。ただし決定的な結論は出ていません。英名の Wagtail(尾振り)はこの動作に由来します。

食性 ―雑食

食性は雑食で、地表や水辺で昆虫・クモ・小さな水生動物などを拾って食べます。地面を素早く歩きながら獲物を見つけると、瞬時に嘴で挟み取ります。ハクセキレイと採食方法は似ますが、乾いた場所での採食が少ない点で棲み分けている傾向が強く現れます。

繁殖 ―椀状の巣と4〜6個の卵

川岸の椀状の巣と抱卵

雛に餌を運ぶセグロセキレイの親鳥
Alpsdake, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

繁殖期は3〜7月で、通常は年に1回、条件が良ければ年2回繁殖します。川岸の植物の茂みや岩の下、崖地の陰などに、枯草を組み合わせた椀状の巣を作ります。1回の産卵数は4〜6個で、抱卵は主にメスが行い、期間は11〜13日です。雛は約14日で巣立ちます。

営巣条件の厳しさ

営巣場所は水辺のごく近くに限られ、都市化で川岸が護岸されて茂みや岩陰が失われると、それだけで繁殖できなくなります。ハクセキレイに比べて営巣に必要な条件が細かく、環境変化の影響を受けやすい種といえます。

ハクセキレイに押される日本固有種

セグロセキレイは長らく、地理的に分離された日本列島の固有種と考えられてきました。近年、大陸から広がってきたハクセキレイ(M. alba lugens)とホオジロハクセキレイ(M. a. leucopsis)が日本での分布を拡大するのに対し、セグロセキレイの分布は逆に縮小しているという指摘があります。

1980年の全国調査

この傾向を受け、日本野鳥の会は1980年に全国調査を実施しました。結果、ハクセキレイの分布拡大とセグロセキレイの分布縮小がはっきりと記録されました。都市化した環境にも適応できるハクセキレイに対し、水辺依存のセグロセキレイは川岸の護岸化・改修工事の影響を受けやすいと考えられています。

離島での競合

本州や九州の水辺ではセグロセキレイのほうが優位ですが、離島などの隔離環境ではハクセキレイの侵入によりセグロセキレイが姿を消した例も指摘されています。両種は今のところほとんど交雑せずに棲み分けており、生息地の質と競合状況によって勢力が入れ替わる関係にあります。

自治体の鳥として

セグロセキレイは、複数の自治体で「市の鳥」「町の鳥」に指定されています。青森県黒石市・栃木県小山市・兵庫県宝塚市・広島県三次市・高知県高知市のほか、神奈川県松田町、和歌山県紀美野町などで指定されています。水辺の身近な鳥として、地域の生活に溶け込んでいる例です。

保全状況

IUCNレッドリストではLC(低危険種)で、種としての絶滅懸念はありません。日本の環境省レッドリストにも指定はなく、河川の周辺で普通に観察できる種にとどまっています。ただしハクセキレイの分布拡大と河川改修による生息環境の変化は継続的な観察課題として指摘されており、地域個体群単位の動向には注意が必要とされます。

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参考

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