キノボリトカゲは、琉球諸島に暮らす樹上棲のトカゲで、日本で自然分布するイグアナ下目の唯一の種として知られます。危険を感じると木の幹に沿って螺旋状に裏側へ回り込んで逃げる独特の行動をとり、鮮やかな緑色から褐色へと体色を切り替える能力を持ちます。国内他地域への外来定着や、全4亜種のうち複数が絶滅危惧種に指定されるなど、保全の話題も多い種です。
分類と学名
分類階層
- 界:動物界 Animalia
- 門:脊索動物門 Chordata
- 綱:爬虫綱 Reptilia
- 目:有鱗目 Squamata
- 科:アガマ科 Agamidae
- 亜科:トビトカゲ亜科 Draconinae
- 属:キノボリトカゲ属 Diploderma
- 種:キノボリトカゲ Diploderma polygonatum
和名・英名
- 和名:キノボリトカゲ(木登蜥蜴・攀樹蜥蜴)/別名:リュウキュウキノボリトカゲ
- 英名:Okinawa tree lizard/Ryukyu japalure
日本に自然分布する唯一のイグアナ下目
キノボリトカゲが所属するアガマ科は、イグアナ下目(Iguania)に含まれるグループで、有鱗目トカゲ亜目のなかでもニホントカゲ(スキンク科)・ニホンカナヘビ(カナヘビ科)とは大きく異なる系統です。イグアナ下目のトカゲのなかで、日本に自然分布するのはこのキノボリトカゲだけです。
2018年の分子系統研究(オンライン公表・論文発行は2019年)により、旧属 Japalura が4属に分割されました。本種は模式種としてキノボリトカゲ属 Diploderma に再分類されています。過去の文献では Japalura polygonata の学名で扱われていることも多く、両方の表記が並行して残っています。
大きさ・分布などの基本データ
| 大きさ | 基亜種オス全長 最大31cm・メス24cm。頭胴長 オス最大9.3cm/メス7.7cm |
|---|---|
| 分布 | 琉球諸島(奄美群島・沖縄諸島・八重山諸島・与那国島)と台湾北部。国内外来種として鹿児島県指宿市・宮崎県日南市・屋久島に定着 |
| 生息環境 | 亜熱帯常緑広葉樹林・二次林の樹上。民家の庭木で見かけることもある |
| 食性 | 主にアリ。ほかに双翅目・鱗翅目とその幼虫・甲虫・セミ類・クモ・ヤモリの幼体も食べる |
| 繁殖 | 卵生。基亜種は4〜8月に1回1〜4個を産卵 |
| 保全状況 | 環境省RL:オキナワ/ヨナグニは絶滅危惧II類(VU)、サキシマは準絶滅危惧(NT) |
姿と体のつくり
全長20〜30cmの細長い体

基亜種オキナワキノボリトカゲの全長はオスで最大31cm・メスで最大24cmです。ただし体の大半は長い尾が占め、頭胴長(頭から総排出腔まで)はオスで9.3cm・メスで7.7cmが最大とされます。細長い体で樹上の枝を移動する暮らしに適した形をしています。
緑と褐色を切り替える体色

基亜種オキナワキノボリトカゲは、体色を鮮やかな緑色から褐色まで大きく変化させることができます。オスの興奮時には鮮緑色になり、体側面に黄色や淡黄色の帯模様が浮き上がります。落ち着いた状態や樹皮に紛れる場面では、褐色寄りに沈みます。
メスは緑色から淡褐色まで変わり、背面に3〜5本の黒褐色の帯模様が入るのが基亜種の特徴です。個体差と地域差が大きく、亜種によって色柄の傾向がはっきり分かれます。
樹上のトカゲ ―日本で唯一の樹上棲
キノボリトカゲの最大の独自性は、その名のとおり樹上で生活する点にあります。日本のトカゲの多くは地表や低い植生を利用するのに対し、本種はほぼ完全に木の幹と枝を舞台に暮らす樹上棲の種です。
樹上棲という珍しい戦略
日陰を好む樹上生活

日中は日陰を好んで枝や幹に静止し、体色を周囲に合わせて溶け込ませます。民家近くの庭木でも見かけられることが知られており、集落の周辺の樹木も生息地として利用されます。
体色の切り替えとカモフラージュ
基亜種は体色を鮮やかな緑から褐色まで大きく変化させることができます。緑葉に紛れるときは緑寄り、樹皮に張りつくときは褐色寄りに沈み、樹上の背景色に合わせたカモフラージュとして機能します。
螺旋状の逃げ方
幹を挟んで裏側へ回り込む
危険を感じたキノボリトカゲは、木の幹の裏側へ螺旋状に回り込むように移動して隠れます。地上のトカゲには見られない、樹上棲ならではの回避行動です。
捕食者はサキシママダラなど
本種の捕食者としては、サキシママダラなどのヘビ類が記録されています。生息地の主要な脅威は森林伐採や移入捕食者ですが、自然状態でもヘビ類による捕食圧を受けていることが分かります。
主にアリを食べる
食性は動物食で、主食はアリです。加えて樹液に集まるチョウやガ(鱗翅目)・アブの仲間(双翅目)・鱗翅目の幼虫・地表に降りた甲虫・セミ類・クモ・小型のヤモリの幼体まで食べることが記録されています。樹上のさまざまな昆虫を捕らえ、機会があれば同居する爬虫類の幼体まで含む幅の広い捕食者です。
4亜種の見分け方 ―琉球と台湾

キノボリトカゲには4つの亜種があり、日本国内の3亜種と台湾北部の1亜種で構成されます。生息地の島ごとに姿や色柄が違い、亜種の分布は琉球弧の生物地理を反映する形になっています。
オキナワキノボリトカゲ ―基亜種

基亜種オキナワキノボリトカゲ(D. p. polygonatum)は奄美群島(奄美大島・喜界島など)と沖縄諸島(沖縄島・久米島・阿嘉島・座間味島・津堅島など)に分布します。オスの体色は鮮緑色、体側面に黄色や淡黄色の帯模様が入るのが特徴です。全長最大31cmと本種で最大の亜種です。与論島の個体群は絶滅したと考えられています。
サキシマキノボリトカゲ ―八重山・宮古
サキシマキノボリトカゲ(D. p. ishigakiensis)は八重山諸島(石垣島・西表島・伊良部島・小浜島など)と宮古諸島(宮古島など)に分布する亜種です。全長は18.8〜25.8cmとオキナワよりやや小型で、胴体の鱗が均一で規則的に並ぶ点で区別できます。体色は褐色を基調とし、緑色を帯びる個体もいます。
ヨナグニキノボリトカゲ ―与那国島固有
ヨナグニキノボリトカゲ(D. p. donan)は与那国島にのみ分布する亜種で、亜種小名 donan は与那国島での古い方言名に由来します。全長19.8〜23.2cmと小型で、胴体側面に大型の鱗が不規則に並び、背面に4〜5個の暗色斑が入る点で他亜種と分けられます。オスの体色は淡灰色、メスは鮮緑色というやや変わった配色です。
キグチキノボリトカゲ ―台湾北部

キグチキノボリトカゲ(D. p. xanthostomum)は台湾北部に分布する亜種で、本種のうち日本国外に分布する唯一の亜種です。琉球弧と台湾の生物相のつながりを示す種の一つでもあります。
繁殖 ―4〜8月の産卵
キノボリトカゲの繁殖様式は卵生です。基亜種オキナワキノボリトカゲでは4〜8月が繁殖期で、1回に1〜4個の卵を産みます。同じ樹上生活の場で繁殖から成長までを完結する種で、ヘビ類など天敵の捕食圧を受けながら世代を重ねています。
国内外来種としての定着
キノボリトカゲには「国内外来種」としての側面もあります。ペット目的で持ち込まれた個体などが本来の分布域を越えて定着し、島や地方の生態系に影響を与えている事例が知られています。
指宿市・日南市への定着
1988年以前からの九州本土定着
基亜種オキナワキノボリトカゲは、1988年以前から鹿児島県指宿市および宮崎県日南市に定着していることが確認されています。本来の分布域は奄美群島以南ですが、九州本土での野外個体群が長期にわたり維持されており、国内外来種として扱われます。
日南市の公園・林縁での観察
「キノボリトカゲ 宮崎」という検索が多いのはこの定着個体群を巡る話題によるもので、日南市の一部の公園・林縁ではオキナワキノボリトカゲを日常的に観察できる状況となっています。
屋久島への定着
2013年には屋久島でも基亜種オキナワキノボリトカゲの定着が確認されました。屋久島固有の樹上動物相への影響が懸念されており、モニタリングと拡散抑制が課題となっています。分布拡大は今後も続く可能性があります。
生態系への影響
キノボリトカゲは動物食で、樹上の昆虫や小型爬虫類の幼体まで食べます。本来の分布域外で個体数が増えると、地域の在来昆虫やヤモリ類の幼体への捕食圧が上がる可能性が指摘されています。国内他地域からの移動でも「外来種」となりうる代表的な事例です。
保全状況
亜種ごとの評価
種全体としてIUCNの評価はあるものの、日本の環境省レッドリストでは亜種ごとに評価が異なります。オキナワキノボリトカゲとヨナグニキノボリトカゲは絶滅危惧II類(VU)、サキシマキノボリトカゲは準絶滅危惧(NT)に指定されています。ヨナグニキノボリトカゲは与那国島のみに分布するため、生息地の変化がそのまま亜種の存続を脅かします。
森林伐採と移入捕食者
減少の主因は森林伐採や土地造成による生息地の破壊、そして人為的に移入されたイタチ・フイリマングース・インドクジャクなどによる捕食です。とくにヨナグニキノボリトカゲはインドクジャクによる捕食圧が指摘されており、外来捕食者の管理が重要とされます。
かつては1990年代までペット目的の乱獲が大きな脅威とされていましたが、以降は流通量も減少し、乱獲による脅威は当時ほどではないとされます。
関連する生きもの


参考
- Diploderma polygonatum. IUCN Red List(種別評価ページ)
- Uetz & Hošek “Diploderma polygonatum” — The Reptile Database(分類・亜種)
- Wang et al. (2019) “Multilocus phylogeny and revised classification for mountain dragons of the genus Japalura s. l.” Zoological Journal of the Linnean Society(属分割の原論文)
- ウィキペディア「キノボリトカゲ」(亜種・国内外来定着・保全評価)
画像出典
- Takaaki Hattori, CC BY 4.0, via Wikimedia Commons(アイキャッチ/枝先の全身)
- Totti, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons(緑色の枝の上)
- 陳度度, CC BY 4.0, via Wikimedia Commons(顔のクローズアップ)
- Kugel~commonswiki, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons(木の幹に張りつく姿)
- ritagu, CC0, via Wikimedia Commons(葉の上)
- karliatje, CC BY 4.0, via Wikimedia Commons(樹皮に張りつくオキナワ亜種)
- Tzu-Neng Yuan, CC BY 4.0, via Wikimedia Commons(キグチキノボリトカゲ/台湾亜種)


