ウミネコは、日本列島の沿岸で最もよく見かける中型のカモメ類です。鳴き声がネコに似ていることから海猫と名づけられ、青森県の蕪島には毎年数万羽が繁殖のために集まる大規模なコロニーが知られています。
分類と学名
分類階層
- 界:動物界 Animalia
- 門:脊索動物門 Chordata
- 綱:鳥綱 Aves
- 目:チドリ目 Charadriiformes
- 科:カモメ科 Laridae
- 属:カモメ属 Larus
- 種:ウミネコ Larus crassirostris
和名・英名
- 和名:ウミネコ(海猫)
- 英名:Black-tailed Gull
別名・学名の由来
学名 Larus crassirostris の crassirostris は「太い嘴」を意味しています。近縁のセグロカモメ類と並ぶと、確かにその太さが目立つはずです。記載は1818年、フランスの博物学者ヴィエイヨによります。韓国語でも「괭이갈매기(ケンイ・カルメギ)」=直訳「猫カモメ」で、鳴き声から連想される名前が日韓で共有されている珍しい例とされます。
大きさ・分布などの基本データ
| 大きさ | 全長 44〜48cm/翼開長 120〜128cm/体重 約0.5〜0.6kg |
|---|---|
| 分布 | 繁殖:日本列島・朝鮮半島・中国東部・ロシア南東部・台湾/越冬:中国東部ほか。日本では大半が留鳥 |
| 生息環境 | 沿岸・河口・干潟・漁港・離島の岩礁。近年は都市部のビル屋上や内陸の水田でも観察される |
| 食性 | 雑食(魚類・甲殻類・貝類・昆虫・動物の死骸・人間の残飯) |
| 繁殖 | 4〜5月にコロニー営巣。1回に2〜3個の卵。抱卵24〜25日、雛は約40日で巣立ち。性成熟は3年目 |
| 寿命 | 野生で12〜13年 |
| 保全状況 | IUCNレッドリスト:LC(軽度懸念、2018年評価) |
体つきと、カモメ類との違い

日本の沿岸で見られる中型のカモメ類は、白い頭に灰色の背、黄色い足という似た装いで並んでいます。ウミネコを他のカモメ類と分ける特徴は、いくつかの決まった部位に集まっています。
体色と嘴、そして特徴的な尾
尾羽の黒い帯
成鳥は白い体に濃い灰色の背中と黒い翼先を持ちます。他のカモメ類と最も違うのは、白い尾羽の先端に太い黒い帯が1本入る点です。英名の Black-tailed Gull(黒い尾のカモメ)はこの尾羽から来ています。飛翔時に真下から見ると、尾の帯が白い体との対比ではっきり浮かびます。
黄色い足と赤黒斑の嘴
嘴は太めの黄色で、先端に赤と黒の斑が並びます。足は嘴と同じ黄色で、目のふちにはうっすら赤いアイリング(眼瞼輪)が浮かんでいます。虹彩は淡い黄色で、他のカモメ類と比べると顔つきがやや険しい印象です。
セグロカモメ・オオセグロカモメ・ユリカモメとの違い
日本の沿岸でウミネコと混同されやすいのはセグロカモメ・オオセグロカモメと、小型のユリカモメです。全長・背中の色・尾・足・嘴の色が、それぞれ独自の組み合わせで揃っています。
| 種 | 全長/背中の色/尾/足/嘴 |
|---|---|
| ウミネコ | 44〜48cm/濃い灰色/黒帯あり/黄/黄+赤黒斑 |
| セグロカモメ | 55〜67cm/淡い灰色/黒帯なし/ピンク/黄+赤斑 |
| オオセグロカモメ | 60〜65cm/濃い黒に近い灰/黒帯なし/ピンク/黄+赤斑 |
| ユリカモメ | 37〜40cm/淡い灰色/黒帯なし/赤/赤(夏羽で頭が黒) |
大きさの差
セグロカモメ類と混じっていると、ウミネコは一回り小型です。翼開長120cm前後のウミネコに対し、セグロカモメは130〜155cm・オオセグロカモメは140〜160cmで、体格差は明瞭です。足の色もセグロカモメ類がピンク・ウミネコが黄色と分かれます。
決め手となる尾羽の黒帯
飛翔時に最も分かりやすいのが尾羽の帯です。日本で普通に見られるカモメ類のうち、白い尾に太く黒い帯が入る成鳥はウミネコが主で、風で尾羽が広がった瞬間には座っている姿でも帯が見えます。
冬羽と若鳥
冬羽になると後頭部に灰褐色の斑紋が浮かび、夏羽の白一色と印象が変わります。若鳥は全身が茶褐色で、成鳥と結びつけて考えられないほど別の鳥のように見えます。成鳥の羽色になるまで4年ほどかかるとされ、コロニーには茶色い若鳥と白黒の成鳥が混じることになります。
「海の猫」と呼ばれる鳴き声

ウミネコという和名は鳴き声に由来しています。実際に聞くと「ミャーオ・ミャーオ」あるいは「ミィー・ミィー」と、明るく澄んだ高音で長く鳴きます。韓国語で「猫カモメ」と呼ばれるのも同じ発想で、東アジアの人々が同じ音を同じ動物に重ねたことになります。
場面ごとに変わる鳴き方
鳴き方は場面ごとに変わっています。コロニーで巣を守るとき・群れで飛び立つとき・餌を横取りしそうな相手を追い払うときで、それぞれ声の高さやリズムが異なるとされます。繁殖期の蕪島では、数万羽の合唱が一日中続いて島全体が声で満たされます。
首を伸ばして鳴く「長鳴き」
腹に力を入れ、首を上に伸ばし、嘴を天に向けて長く鳴く姿は「長鳴き」と呼ばれています。縄張り宣言と考えられ、他個体への威嚇と自分のペアへの合図を兼ねているとされます。繁殖地では方々からこの声が返り合うため、遠くにいても場所を確かめ合えます。
留鳥としての暮らしと季節移動

カモメ類の多くは渡り鳥ですが、ウミネコは日本の多くの地域で通年見られる留鳥です。冬になると北海道や東北で繁殖した個体の一部が本州以南へ移動し、南日本の海岸では冬に個体数が増えます。
標識調査に見る季節移動
足環による標識調査では、東北で繁殖した個体が秋に九州や沖縄まで移動する例が確認されています。ただし東南アジアへ抜けるような長距離の渡りは行わず、東アジアの沿岸内で場所を変える程度にとどまるとされます。
沿岸を外れない暮らし
外洋を長く飛び続けるアホウドリ類とは違い、ウミネコの生活は基本的に陸から数km以内の沿岸に収まります。漁港・河口・干潟・埋立地の護岸に姿を見せ、内陸奥深くまで入ることはあまりありません。近年は東北地方の減農薬水田で採餌する例も報告され、農地との関わりも新しい話題になりつつあります。
食性と採餌

雑食性で、魚類・甲殻類・貝類・昆虫・動物の死骸・人間の残飯まで、口に入るものをこなしています。海面すれすれを飛ぶ小魚に急降下して捕らえたり、干潟でカニやゴカイをついばんだりと、状況に応じて採餌の型を変えます。他の海鳥から獲物を奪う場面も観察されます。
漁船を追う
イワシやサバの漁船の後ろには、混獲魚や捨てられる小魚を狙うウミネコの群れが付きます。カモメ類に共通する採餌行動で、沿岸を離れないウミネコにとって漁業は年間を通じて重要な食料源になっています。港での水揚げ時にも同じ光景が繰り返されます。
都市で拾う残飯
港湾都市や観光地では、飲食店の残飯・釣り人が置いていったオキアミ・通行人のこぼした食べ物までが食料に加わります。ゴミ袋を破いて中身を漁る例も知られ、行政のカラス対策と同じ課題を抱えています。人間側の廃棄物量が個体数を支えている面もあります。
繁殖とコロニー

ウミネコは大規模なコロニーで集団繁殖しています。4月ごろに雌雄のペアが繁殖地に集まり、5月に2〜3個の卵を産みます。抱卵はおよそ24〜25日で、雛は孵化後およそ40日で飛び立つとされます。性成熟は3年目で、若鳥は茶褐色の羽色のまま数年を過ごします。
蕪島(青森県八戸市)
天然記念物としての蕪島
日本で最も知られたコロニーが青森県八戸市の蕪島です。面積は約1.8ヘクタール。島全体が繁殖地となっており、1922年に「蕪島ウミネコ繁殖地」として国の天然記念物に指定されました。島の頂上に建つ蕪嶋神社が繁殖期には無数のウミネコに囲まれる光景で知られています。
3〜4万羽の合唱
ピーク時の蕪島には毎年およそ3〜4万羽が集まるとされます。訪れた人の頭上を無数のウミネコが飛び交い、島全体が鳴き声で満たされる光景は他ではなかなか見られません。フン害を「福運」と読み替える案内板があるほど、地域で親しまれている繁殖地です。
蕪島以外の主要コロニー
ウミネコの繁殖地で国の天然記念物に指定されている場所は、日本各地に点在します。
- 経島(島根県出雲市)… 日御碕神社の神域。1922年指定
- 椿島(岩手県陸前高田市)… 三陸沿岸の小島。1935年指定
- 江島(宮城県女川町)… 東北の代表的な繁殖地の一つ
- 飛島(山形県酒田市)… 日本海側の主要繁殖地
いずれも人の立ち入りにくい離れ小島で、地上性の天敵が少ないことが大規模コロニーの成立を支えています。
都市部でも繁殖する
近年、東京都台東区や品川区、川崎市などのビル屋上で繁殖する事例が報告されています。地上性の天敵がおらず、周囲より一段高い平坦な場所という条件は、離れ小島に似ているためと考えられます。羽田空港では、離着陸の航空機とウミネコが接触する鳥衝突(バードストライク)の主な対象種にもなっており、空港側は追い払いや巣の撤去で対応しています。都心のオフィス街でネコに似た鳴き声を聞き、通行人が空を見上げる光景もあります。
天敵と保全

IUCNレッドリストではLC(軽度懸念)で、種としての絶滅の危険は今のところ低いとされます。ただし個々のコロニーは天敵や環境の変化に敏感で、局地的な減少が起きることがあります。
雛や卵を狙う天敵
雛や卵はハシブトガラス・猛禽類・キツネ・テンなどに狙われます。かつては人によって卵が採取される時代もありましたが、天然記念物指定などで抑えられました。コロニー内では、他のペアの雛が近づいてきた際に成鳥同士がつつき合うこともあり、外敵だけが減少要因ではありません。
気候変動と餌不足
沿岸に依存する暮らしは、海洋環境や漁業資源の変動の影響を直接受けます。餌となるイワシ類の資源量の変動により、繁殖成功率が上下するとされます。プラスチックごみの誤飲や漁具への絡まりといった人為的な影響も、他の海鳥類と同様に無視できません。
関連ページ

参考
- ja.wikipedia.org「ウミネコ」(分類・体サイズ・分布・繁殖・鳴き声・天然記念物指定コロニー)
- en.wikipedia.org「Black-tailed Gull」(学名記載・コロニー規模・韓国での呼称・都市繁殖・空港での事例)
- 環境省「国指定文化財等データベース」蕪島ウミネコ繁殖地/経島ウミネコ繁殖地の指定情報
- BirdLife International Species Factsheet: Larus crassirostris(IUCN Red List LC評価の根拠)
画像出典
- Angie from Sawara, Chiba-ken, Japan, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons
- me, Bamse, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons
- Alpsdake, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
- Alastair Rae from London, United Kingdom, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons
- Toby Y, CC BY 4.0, via Wikimedia Commons
- panina.anna, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons
- 새, Public domain, via Wikimedia Commons


