アカシュモクザメ

軟骨魚類

アカシュモクザメは、頭が左右に張り出したT字型の姿で知られる大型のサメです。ダイビングの名所には数十匹の群れが集まることがあり、その独特な頭部は狩りと感覚の両面で役立っているとされます。乱獲でIUCNの絶滅危機(CR)に指定されている種でもあります。

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分類と学名

分類階層

  • 界:動物界 Animalia
  • 門:脊索動物門 Chordata
  • 綱:軟骨魚綱 Chondrichthyes
  • 目:メジロザメ目 Carcharhiniformes
  • 科:シュモクザメ科 Sphyrnidae
  • 属:シュモクザメ属 Sphyrna
  • 種:アカシュモクザメ Sphyrna lewini(Griffith & Smith, 1834)

和名・英名

  • 和名:アカシュモクザメ
  • 英名:Scalloped Hammerhead
  • 別名:ハンマーヘッドシャーク(本種を含むシュモクザメ類の総称)

名前の由来

「シュモク(撞木)」は、鐘や太鼓を打つときに使う T 字型の道具のこと。頭部の形が撞木に似ていることから、シュモクザメ類の和名が生まれたとされます。「アカ」は魚体がやや赤みを帯びるためで、近縁のシロシュモクザメ(Sphyrna zygaena)と対にされた名前です。英名の scalloped(縁が波打った)は、頭の前縁に浅いくぼみが3つあることを表しています。

大きさ・分布などの基本データ

大きさ全長 最大約4.3m/通常2〜3m/出生時 約40cm
体重最大 約152kg
分布世界の熱帯・温帯の沿岸域(北緯46°〜南緯36°)。日本では相模湾以南〜沖縄、日本海側の一部でも記録
生息水深表層〜約500m。多くは水深25m以浅で行動
食性硬骨魚類(イワシ・サバなど)/頭足類(イカ・タコ)/甲殻類/小型サメ/エイ/ウミヘビ
繁殖胎生(卵黄栄養)。妊娠 約9〜12か月/1回に12〜41尾を出産
寿命推定30年前後(正確な野外記録は少ない)
保全状況IUCNレッドリスト:CR(近絶滅/2019年)/CITES附属書II

「撞木」に例えられた頭

下から見たアカシュモクザメの頭部(縁の3か所のくぼみ)
Kris Mikael Krister, CC BY 3.0, via Wikimedia Commons

アカシュモクザメの姿を印象づけているのは、左右に大きく張り出した独特の頭部です。ただ変わった形をしているわけではなく、そこには狩りと感覚の両方に関わる役割があるとされます。

中央にくぼみのある弧型の頭

頭部の前縁は緩やかな弧を描き、中央と左右の計3か所に浅いくぼみが並びます。この波打った縁が英名 Scalloped Hammerhead の由来で、近縁のシロシュモクザメ(頭の前縁がなめらかな弧)やヒラシュモクザメ(前縁がほぼ平ら)と区別する決め手になります。目と鼻はハンマーの左右の端に離れて位置し、視界と嗅覚の両方が横方向へ広く伸びています。

狩りと感覚を担う頭部

エイを海底から押さえつける道具

アカシュモクザメはエイ類を好んで食べるとされ、幅の広い頭部は砂に潜ったエイを押さえつけて掘り出すための道具として機能します。近縁のヒラシュモクザメがアカエイを頭で押さえる場面が観察されており、シュモクザメ類の頭部は「エイ狩りの装備」として進化した側面をもつと考えられています。

感覚器の広い視野と地磁気ナビ

ハンマーの左右の端に離れた目のおかげで、上下方向はもちろん、他のサメより広い立体視の範囲を持つと考えられています。頭の下面にはロレンチーニ器官と呼ばれる電気感覚センサーが密に並んでおり、砂に潜った獲物のわずかな筋電を捉えます。さらに海底の玄武岩が帯びる地磁気の縞を辿って回遊しているという説もあり、頭部は「動く感覚器」として複数の役割を担っているとされます。

群れをつくる海の狩人

伊豆・神子元島のアカシュモクザメの群れ
RYO SATO from Hamamatsu, Shizuoka, Japan, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons

アカシュモクザメは、他の多くのサメ類が単独行動を好むのに対し、時期によっては数十から数百匹の大きな群れを組みます。海山(seamount)や潮通しの良い岩礁周辺で見られ、日本近海にもこの群れが集まる有名な場所があります。

神子元・与那国・天草の大群

神子元島(伊豆・下田沖)

静岡県の下田沖に浮かぶ神子元島は、夏から秋にかけてアカシュモクザメの群れが観察される岩礁で、ダイビングの対象海域として知られます。強い潮流にもまれる岩礁の潮上では、数十匹から時に100匹を超える群れが渦を巻くように泳ぐ姿が記録されています。

与那国島・熊本の天草

沖縄・与那国島の西崎(いりざき)沖でも冬季に群れが観察され、日本のハンマーヘッド観察地の一つに数えられています。熊本県の天草諸島でも、季節限定で群れが接岸する事例が報告されています。いずれも黒潮系の海流が当たる潮通しの良い場所という共通点があります。

群れを組む理由

群れを組む明確な理由はまだ完全にはわかっていません。若い個体を中心に外敵から身を守るため・餌の情報を共有するため・交尾相手を見つけるためなど、複数の説が提唱されています。成熟した大型個体は単独か少数で行動する傾向が強く、群れの中心を占めるのは若い個体だとされます。

食性と繁殖

アクアパーク品川で泳ぐアカシュモクザメ
Gant223, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

何を食べているか

雑食性の狩人で、イワシやサバなどの群れ魚・イカやタコの頭足類・エビやカニの甲殻類まで幅広く食べます。小型のサメやエイ、ウミヘビも狩りの対象になります。夜には沖合いへ移動して活発に狩りをし、昼はやや浅い場所で群れて休むという昼夜のリズムがあるとされます。

母サメが帰るマングローブ

胎生で、母体は約12か月かけて12〜41尾の子を体内で育てます。出産の場は河口や内湾のマングローブ域といった浅く安全な水域で、母サメは自分が生まれた海域に戻って産む傾向があるとの研究もあり、育ち場となる沿岸環境の保全が種の存続に直結すると考えられています。雌は全長240cm前後で性成熟し、雄はやや小さいサイズで成熟に達します。

シロシュモクザメ・ヒラシュモクザメとの違い

上から見たアカシュモクザメ
ErikvanB, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

日本近海には本種を含めて3種のシュモクザメ類が生息しています。いずれも一見しただけでは区別が難しく、頭の輪郭とサイズが決め手になります。

頭の輪郭で見分ける

アカシュモクザメの頭部前縁は弧を描き、中央と左右計3か所に浅いくぼみがあります。シロシュモクザメ(Sphyrna zygaena)はくぼみのないなめらかな弧が特徴で、名前の通りやや白っぽい体色です。ヒラシュモクザメ(Sphyrna mokarran)は頭の前縁がほとんど平らな一直線で、背びれが著しく高くまっすぐ立っている点で目立ちます。

大きさと生息場所の違い

頭の前縁/全長/背びれ/主な生息場所
アカシュモクザメ弧+3くぼみ/最大4.3m/並/熱帯〜温帯の沿岸・沖合。日本では相模湾以南
シロシュモクザメなめらかな弧/最大約4m/並/温帯寄り。日本近海でもやや冷たい海域
ヒラシュモクザメほぼ直線/最大約6m/著しく高い/熱帯・亜熱帯中心。日本では沖縄が主

絶滅危機(CR)と人との関わり

漁獲されたアカシュモクザメ
Dr. Raju Kasambe, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

アカシュモクザメはIUCNレッドリストで2019年にCR(近絶滅)に指定されました。海洋の大型捕食者としては最も厳しいランクで、種としての存続が短期的にも危ぶまれている状態にあるとされます。

フカヒレ需要と乱獲

CITES附属書IIとひれ規制

減少の主因は、フカヒレを目的とした漁業(フィニング)とマグロ・カジキ延縄漁での混獲です。ひれの単価が高いため、船上で背びれや胸びれを切り取って本体は海に捨てるフィニングが世界中で問題となってきました。シュモクザメ属は2013年に CITES 附属書II に掲載され、国際取引には許可証が必要となっています。

資源回復の遅さ

大型で成熟が遅く、産仔数も年に十数尾と限られるため、資源が減ると回復に非常に時間がかかる種です。大西洋の個体群は過去30年でおよそ95%減少したという評価もあり、太平洋・インド洋でも同様の減少が進んでいるとされます。

人との距離

体が大きく歯も鋭いのですが、アカシュモクザメが人を積極的に襲った記録は世界的にも極めて少なく、危険な種としては分類されていません。日本では島根県・広島県・愛媛県などの一部地域でサメを「ワニ」と呼んで食べる文化があり、本種も「カセ」「カセブカ」等の地方名で流通してきました。沖縄の美ら海水族館やアクアパーク品川などでは、ハンマーヘッドが飼育・展示されています。

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