キタリス

齧歯類(ネズミ・リス)

キタリスは、ユーラシア大陸に広く分布する赤褐色の中型リスで、日本では北海道の亜種「エゾリス」が唯一の在来個体群です。冬になると耳の先に房状の長い毛が伸び、雪の森を鮮やかに彩ります。2006年に本州以南への持ち込みが禁止された特定外来生物でもあり、北海道の在来エゾリスと本州の在来ニホンリスの両方に及ぼしうる影響が議論されてきました。

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分類と学名

分類階層

  • 界:動物界 Animalia
  • 門:脊索動物門 Chordata
  • 綱:哺乳綱 Mammalia
  • 目:齧歯目 Rodentia
  • 科:リス科 Sciuridae
  • 属:リス属 Sciurus
  • 種:キタリス Sciurus vulgaris(Linnaeus, 1758)

和名・英名

  • 和名:キタリス
  • 英名:Eurasian Red Squirrel
  • 日本の亜種:エゾリス(Sciurus vulgaris orientis

学名の由来

属名 Sciurus はギリシア語で「影と尾」を意味する語に由来し、大きな尾を体の上に立てて日陰を作る姿が名前の元になったといわれます。種小名 vulgaris はラテン語で「普通の」の意で、ヨーロッパで最もよく見られるリスであることを表します。和名の「キタリス」は「北方のリス」の意で、北方の森林に広く分布することにちなむ名前です。

大きさ・分布などの基本データ

大きさ頭胴長 22〜27cm/尾長 16〜20cm/体重 0.3〜0.41kg
分布ユーラシア大陸の広い範囲(西ヨーロッパ〜東シベリア・中国東部・朝鮮半島・日本の北海道)
日本での分布亜種エゾリスとして北海道全域に在来分布。本州以南には自然分布せず、2013年に埼玉県狭山丘陵で外来個体の野生化が確認
生息環境広葉樹林・針葉樹林・混交林。ヨーロッパでは都市部の公園にも定着
食性植物食に傾いた雑食(種子・果実・木の芽・樹皮・樹液・キノコ・昆虫・稀に鳥の卵)
寿命野生で3〜7年、飼育下で10年前後
保全状況IUCNレッドリスト:LC(軽度懸念)/日本では2006年に本種(エゾリスを除く)が特定外来生物に指定

姿と冬毛の房毛

耳の房毛が伸びたキタリス(冬毛)
Zhanna Tyshchuk, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

キタリスは赤褐色を基本とする毛色ですが、季節と地域によって色合いが大きく変わる特徴があります。冬の姿は特に印象的で、耳の先の房毛が長く伸びて別の動物のような表情になります。

赤褐色から灰黒色までの毛色

体色は明るい赤褐色を基本としつつ、腹面は白から淡黄色です。ただし個体差・地域差が大きく、ヨーロッパ北部やシベリア東部では灰色から黒に近い個体も観察されています。日本のエゾリスも夏毛は赤褐色寄り、冬毛は灰褐色に近くなる季節変化を示します。同じ種の中でも、雪の多い地域ほど暗色の個体が増える傾向があるといわれます。

冬に伸びる耳の房毛

冬毛の房毛の役割

キタリスの冬毛の最大の特徴が、外耳の先端に長く伸びる房状の毛(ear tufts)です。夏には目立たない耳が、冬になると2〜3cmの房毛で飾られ、シルエットが一変します。房毛には耳への保温効果があるとされ、雪の深い北方の環境に適応した形質と考えられています。他のリス類(キタリス以外の Sciurus 属や日本のニホンリスも含む)の中には房毛がはっきりしない種が多く、本種の識別点の一つとなります。

春に落ちる房毛

春の換毛期になると房毛が抜け落ち、耳は普通のリスと変わらない形に戻ります。この時期は毛色も夏毛の明るい赤褐色に変わり、冬の姿しか見たことのない人には別種のように見えることがあります。房毛の長さや残存期間は個体・地域によって差があり、暖かい飼育環境下では房毛が発達しにくいことも観察されています。

亜種と日本のエゾリス

灰黒色の毛色を示すキタリスの野生個体(スイス・ヴァロン・ド・レシー)
Giles Laurent, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

キタリスは分布が極めて広いため、地域ごとに毛色や体格の違うたくさんの亜種に分けられてきました。日本に自然分布するのは北海道の亜種エゾリスだけで、本州以南のニホンリスとは別種です。

ユーラシアに広がる亜種

ヨーロッパ西部・中部・北欧・シベリア・アジア東部にかけて、20を超える亜種が記載されてきました。基本亜種はヨーロッパ産の Sciurus vulgaris vulgaris で、日本のエゾリスは Sciurus vulgaris orientis という独立の亜種として扱われます。近年の遺伝子解析ではいくつかの亜種のまとめ直しが提案されていますが、地域ごとの毛色・体格の変異は種内でも際立って大きいグループとされます。

北海道の在来亜種エゾリス

エゾリス(S. v. orientis)は北海道の広葉樹林・針葉樹林・混交林に広く分布し、平地から山地までさまざまな環境で見られます。夏毛は赤褐色でお腹は白、冬毛は灰褐色でお腹は白のままで、耳の房毛は他のキタリス亜種と同様に冬に伸びます。北海道の森の代表的な哺乳類として、都市部の公園や大学の構内でも姿を見せることがあります。2006年の特定外来生物指定の際、日本の在来個体群である本亜種は指定から除外されました。

森で暮らす昼行性リス

秋の落葉の中で採餌するキタリス
hedera.baltica from Wrocław, Poland, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons

キタリスは典型的な昼行性の樹上性リスで、冬眠はしません。針葉樹の球果や広葉樹の種子・果実を食べ、余剰は地面や樹洞に隠す「貯食」を行うことで、寒い北方の森でも通年活動できる暮らしを実現しています。

樹上の巣と冬眠しない暮らし

ねぐらは高い枝の付け根に枯れ枝や苔で編まれた球形の巣(drey)を作るか、樹洞を利用します。冬でも活動を続けるため、極端に寒い日は巣にこもって過ごし、天候が回復すると採餌に出ます。ヨーロッパ北部やシベリアの個体群でも冬眠はせず、貯えた食料と冬毛の断熱で乗り切るのが本種の暮らし方です。

貯食行動と森の再生

秋に埋めるドングリと球果

秋にドングリ・松の球果・クルミなどを大量に集め、地面のあちこちに埋めて隠します。1個体が一冬に隠す食料は数百か所に分散され、匂いと位置の記憶を頼りに冬の間の必要分を掘り出していきます。深い雪が積もる北方の森でも、雪をかき分けて隠し場所に到達するとされます。

忘れられた種子が森を育てる

埋めた場所を全部覚えているわけではなく、忘れられた種子から次世代の木が芽生えることが、キタリスが森の再生に貢献する仕組みとなっています。特に針葉樹林ではキタリスの貯食が種子散布の主要ルートの一つで、森林の更新とキタリスの生活史は互いに支え合っています。

ニホンリスとの違い

正面から見たキタリス(白い腹面が見える)
Peter Trimming, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons

日本には別種のニホンリス(Sciurus lis)が本州・四国・九州に分布します。キタリスとは同じリス属の近縁種で、姿もよく似ていますが、大きさ・体色・分布・鳴き声などにいくつかの違いがあります。

分布と体格の違い

キタリス(エゾリス)は北海道に分布し頭胴長22〜27cm、ニホンリスは本州以南に分布し頭胴長16〜22cmとやや小型です。両者の分布は津軽海峡を境に重ならず、日本国内で両種が同じ森にいる場面は本来ありません。ただし外来のキタリスが本州で野生化した場合、ニホンリスと直接競合する懸念が指摘されています。

姿と冬毛の違い

ニホンリスは夏毛が明るい茶褐色、冬毛が灰褐色〜暗褐色に変わりますが、耳の房毛はキタリスほど発達しません。キタリス(エゾリス)は冬の房毛が長くはっきりしており、雪原で両種を並べれば区別は容易とされます。腹面はどちらも白いことが多く、体色だけでの見分けは季節や個体差で難しい場合があります。

特定外来生物としての位置づけ

切り株にすわるキタリス
Peter Trimming, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons

キタリスは2006年に外来生物法の特定外来生物に指定されました(在来亜種エゾリスは指定から除外)。ヨーロッパでは北米原産のトウブハイイロリスの侵入で本種が減少した歴史があり、日本でも同様の圧迫を在来のリス類が受ける懸念が背景にあります。

2006年の指定と2013年の野生化確認

本種はペットや動物園の展示動物として輸入されてきた歴史があり、放逐や逃げ出しによる野生化のリスクが指摘されてきました。2006年の指定で本州以南への持ち込み・飼育・譲渡が原則禁止となり、2013年には埼玉県狭山丘陵でヨーロッパ産と思われる個体の野生化が確認されました。この事例では防除の対応が取られ、本種が本州の森に定着する事態は現時点で回避されているとされます。

ハイイロリス問題との比較

ヨーロッパでの事例

イギリスとイタリアでは、北米から持ち込まれたトウブハイイロリス(Sciurus carolinensis)が在来のキタリスを大きく圧迫し、地域によっては本種が姿を消しました。ハイイロリスはキタリスより大型で採餌競争に強く、加えてキタリスに致命的なリスポックスウイルスを媒介するため、ハイイロリスが定着した森ではキタリスの生息が難しくなります。

日本での懸念

日本ではハイイロリスに相当する構図として、本州以南の在来ニホンリスと、外来として持ち込まれるキタリスの関係が想定されます。ニホンリスは近年生息地の縮小で個体数が減少している地域が多く、そこへキタリスが定着した場合、ヨーロッパのキタリスとハイイロリスと同型の圧迫が起こる可能性が指摘されています。北海道の在来エゾリスも本州のキタリス個体群の遺伝的攪乱を招く恐れがあり、亜種レベルでの厳格な管理が求められています。

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参考

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