クビワオオコウモリは、日本の南西諸島だけに分布する大型の果実食コウモリです。首まわりに金色の毛が輪のように広がる姿が和名の由来で、翼を広げると1mに達する日本最大級のコウモリでもあります。日本の集団はすべて絶滅危惧に指定されており、いくつかの亜種は国の天然記念物にも指定されています。
分類と学名
分類階層
- 界:動物界 Animalia
- 門:脊索動物門 Chordata
- 綱:哺乳綱 Mammalia
- 目:翼手目(コウモリ目)Chiroptera
- 科:オオコウモリ科 Pteropodidae
- 属:オオコウモリ属 Pteropus
- 種:クビワオオコウモリ Pteropus dasymallus(Temminck, 1825)
和名・英名
- 和名:クビワオオコウモリ(首輪大蝙蝠)
- 英名:Ryukyu Flying Fox
- 別名:フルーツバット、リュウキュウオオコウモリ
名前の由来
「クビワ」は、首から肩にかけての毛が金色から淡黄色に変化して、まるで首輪をかけたように見えることに由来します。英名の Flying Fox(空飛ぶキツネ)は、大きな目と尖った鼻先の顔立ちがキツネを思わせる点にちなむとされます。学名 Pteropus はギリシア語で「翼のある足」の意で、翼が指と皮膜でできているコウモリの構造を表す名前です。
大きさ・分布などの基本データ
| 大きさ | 頭胴長 19〜25cm/翼開長 約80〜100cm/体重 0.3〜0.5kg |
|---|---|
| 分布 | 台湾北部・フィリピン北部・日本の南西諸島(口永良部島〜八重山列島)+大東諸島+小笠原諸島の一部 |
| 日本での亜種 | エラブオオコウモリ・ダイトウオオコウモリ・オリイオオコウモリ・ヤエヤマオオコウモリ・タイワンオオコウモリの5亜種が日本と周辺に分布 |
| 生息環境 | 常緑広葉樹林・海岸林・農地周辺・都市部の街路樹まで |
| 食性 | 植物食(果実が中心/花の蜜・花粉・葉も食べる) |
| 繁殖 | 10〜12月に交尾、4〜6月に1頭を出産。妊娠期間は約6か月 |
| 寿命 | 飼育下で15〜20年程度 |
| 保全状況 | IUCNレッドリスト:VU(絶滅危惧)/CITES 附属書II/日本の各亜種は環境省レッドリストで絶滅危惧IA〜II類・国の天然記念物に指定された亜種あり |
姿の特徴と5つの亜種

クビワオオコウモリは大型のコウモリで、頭胴長は約20cm、翼を広げると80cm〜1mに達します。頭部は犬やキツネを思わせる細長い顔立ちで、大きな黒目と尖った鼻先を持ちます。この見た目のためオオコウモリ類は英語圏で Flying Fox(空飛ぶキツネ)と総称されます。
首輪のような金色の毛
体全体の毛色は暗褐色から黒褐色ですが、首の後ろから肩・胸元にかけて金色〜淡黄色の長い毛が生え、コート状の首輪のような模様を作ります。この毛色の変化が和名「クビワ」の由来です。翼の皮膜は薄い黒色で、光を透かすと血管の走り方まで見えるほど繊細な作りをしています。
5亜種の分布と保全
天然記念物指定の亜種
エラブオオコウモリ(P. d. dasymallus)は口永良部島・宝島などトカラ列島から屋久島周辺までに分布し、国の天然記念物に指定されています。ダイトウオオコウモリ(P. d. daitoensis)は北大東島・南大東島の固有亜種で、こちらも国の天然記念物です。両亜種とも環境省レッドリストで絶滅危惧IA類とされ、狭い島の中に限られた集団が生き残っています。
その他の絶滅危惧亜種
オリイオオコウモリ(P. d. inopinatus)は沖縄本島・慶良間諸島に分布し、環境省レッドリストで絶滅危惧IB類です。ヤエヤマオオコウモリ(P. d. yayeyamae)は石垣島・西表島・宮古島などに分布し、絶滅危惧II類とされます。台湾北部にはタイワンオオコウモリ(P. d. formosus)が分布します。いずれも小さな島に閉じ込められた形の集団で、集団同士の遺伝的な行き来がほぼ無いことが保全上の課題です。
目で見て飛ぶコウモリ
コウモリの多くは超音波を出して洞窟の暗闇を飛びますが、オオコウモリ科はエコーロケーションを行いません。クビワオオコウモリも大きな目と鼻を頼りに空を飛ぶタイプのコウモリです。
エコーロケーションを使わない
大きな目と広い視野
オオコウモリ科の眼球は他の哺乳類のなかでも比較的大きく、明るさに敏感な網膜構造を備えています。暗くなり始めた夕暮れから夜明け前の薄明時に活発に行動し、この時間帯の暗さでも十分に果実の位置や飛ぶ枝を見分けられるとされます。他のコウモリ類(キクガシラコウモリ科など)が発達させた超音波によるナビゲーションを、オオコウモリは目で代替した進化の系統にあると考えられています。
匂いで果実を探す
視覚と並んで発達しているのが嗅覚で、キツネのように尖った鼻先には熟した果実の匂いを遠くから感じ取る力があります。花や果物が熟してどんな匂いを発するかは、オオコウモリの採餌行動と共進化してきたと考えられており、実際に南西諸島の在来樹木の中にはクビワオオコウモリを主な花粉媒介者として想定した香りと蜜量を持つものがあるとされます。
昼間はねぐらで休む
日中は樹上のねぐらで枝からぶら下がって休み、日没とともに活動を開始します。行動範囲は一晩に数km程度で、島内の果樹園や在来樹木の間を移動しながら採餌します。他の多くのコウモリ類のように群れで一斉に狩りをするというより、単独や小さな群れでゆっくり移動する行動が観察されています。
果実食と花粉媒介

クビワオオコウモリは南西諸島の森の重要な花粉媒介者・種子散布者でもあります。夜間に果実を食べて島内を移動することで、多くの在来植物の繁殖を支えている面があります。
果実を中心とする食性
ガジュマル・アコウ・ヤマモモ・ビロウなど南西諸島の在来樹木の果実が主食で、季節によっては花や花蜜、若葉も口にします。人間の栽培する果樹(マンゴー・パパイヤ・グアバ・バナナ)も好み、農家との共存の課題となっています。1個体が一晩に食べる果実の量は自分の体重の半分に達することもあり、大量の果実を消費しては夜のうちに広い範囲へ移動します。
森の花粉媒介者
果実の他に、大型の白い花を咲かせる南西諸島の在来樹木ではクビワオオコウモリが主要な花粉媒介者を務めるものがあります。オオコウモリは飛びながら花に顔を突っこんで蜜を吸うため、鼻先や首の毛に花粉が付着し、次に訪れた花に運ばれます。夜間開花して匂いで惹きつける「コウモリ花」の型で進化した植物にとって、クビワオオコウモリは主要な花粉媒介者と考えられています。
集団のねぐらと繁殖
本種は完全に単独で暮らすタイプではなく、日中のねぐらでは数十〜数百頭の集団を作ることがあります。繁殖と子育ての一年もこの集団の中で進行します。
昼間の集団ねぐら
ねぐらの木にはガジュマルやリュウキュウマツなど背が高く枝が広がる樹種が選ばれ、複数頭がぶら下がって休んでいます。人の近づきにくい社寺林や離島の森が特に大きなねぐらとなる傾向があり、集団ねぐらは何十年も同じ場所で使われることがあります。ねぐら内では鳴き交わしや小さな争いが観察され、社会的な行動を持つ動物であることがうかがえます。
交尾から出産・子育て
交尾は10月から12月の秋の終わりに行われ、妊娠期間は約6か月で翌年の4月から6月に1頭を出産します。子は生後しばらく母親の胸元にしがみついて過ごし、飛べるようになるまで数か月かかります。雌は年に1頭しか産まないため、群れが減ってから回復するには長い年月が必要で、これが本種の絶滅危惧指定の背景の一つです。
生息地の縮小と保全

クビワオオコウモリはIUCNレッドリストでVU(絶滅危惧)に分類され、CITES附属書IIにも掲載されている国際的な保護対象種です。日本の亜種はいずれも環境省レッドリストで絶滅危惧に指定され、一部は国の天然記念物として文化財保護法でも守られています。
森林伐採と台風被害
南西諸島の在来常緑広葉樹林の伐採と農地化により、本種のねぐらや採餌の場が減ってきました。加えて南西諸島は毎年強い台風の通り道にあり、ねぐらの木が倒れる被害・大型の果樹が飛ばされて食物が減る被害など、島の気象と直接結びついた生息地の脆弱さが指摘されています。特にダイトウオオコウモリの生息する大東諸島は面積が非常に小さく、1回の強い台風でも集団全体が影響を受けることがあります。
保全活動の現状
天然記念物制度の下での保護
エラブオオコウモリとダイトウオオコウモリは国の天然記念物に指定されており、無許可の捕獲・飼育・売買は文化財保護法違反となります。指定を受けた亜種のねぐらの木も、保存木として管理されることがあります。加えて種の保存法や環境省の保護増殖事業に基づき、地元自治体・研究機関・NPOによる個体数モニタリングが継続されています。
農業被害と共存の課題
一方でマンゴー・パパイヤなど高価な果樹の被害が深刻な問題として持ち上がり、農家との共存が実務的な課題として残ります。園地への防鳥網の設置・被害補償制度・ねぐらの木の保全と農地の緩衝帯確保など、複数の手段を組み合わせた対策が試みられています。保護と農業損害の折り合いをどうつけるかは、南西諸島の希少種保全の現場でも代表的な難題として議論が続いています。
関連ページ

参考
- IUCN Red List Pteropus dasymallus(VU評価・脅威と生息地)
- Wikipedia (ja)「クビワオオコウモリ」(亜種・分布・食性)
- Wikipedia (en)「Ryukyu flying fox」(花粉媒介・生態)
- 環境省「絶滅のおそれのある野生生物」(環境省レッドリストの各亜種評価)


