シュレーゲルアオガエル

シュレーゲルアオガエル・葉の上の緑色の姿 カエル類

シュレーゲルアオガエルは、体長3〜5cmの日本固有種のアオガエル科カエルです。学名は Zhangixalus schlegelii(旧属 Rhacophorus)。全身が鮮やかな緑色で、指先に大きな吸盤を持ち、樹上や草の上で暮らします。田んぼの畦に泥の穴を掘り、その中に白いメレンゲ状の「泡巣」を作って卵を産む独特な繁殖行動で知られる、日本のカエルの中でも異彩を放つ種です。

本州・四国・九州の水田地帯や湿地の周辺に広く分布し、4〜7月の繁殖期には田んぼの畦から「コロコロ・コロコロ」という澄んだ声が響きます。名前はドイツ人動物学者ヘルマン・シュレーゲル(Hermann Schlegel、1804〜1884)にちなむ命名です。日本人の耳には少し覚えにくい名前ですが、田んぼの緑カエルとしてはニホンアマガエルと並ぶ二大代表種として親しまれています。

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分類と学名

分類階層

  • 界:動物界 Animalia
  • 門:脊索動物門 Chordata
  • 綱:両生綱 Amphibia
  • 目:無尾目 Anura
  • 科:アオガエル科 Rhacophoridae
  • 属:ジャンギサルス属 Zhangixalus(旧アオガエル属 Rhacophorus)
  • 種:シュレーゲルアオガエル Zhangixalus schlegelii

和名・英名

  • 和名:シュレーゲルアオガエル
  • 英名:Schlegel’s Green Tree Frog(シュレーゲルズ・グリーン・ツリー・フロッグ)

別名と名前の由来

  • 和名「シュレーゲルアオガエル」:19世紀ドイツの動物学者ヘルマン・シュレーゲル(Hermann Schlegel、ライデン国立自然史博物館長)にちなむ人名由来。日本の動物では珍しい外国人研究者の名を冠した種名で、当時のヨーロッパで日本産動物の研究が進められた歴史を映しています。「アオガエル」はアオガエル科全般に共通する呼び名です。
  • 英名「Schlegel’s Green Tree Frog」:直訳で「シュレーゲルの緑色の樹上カエル」。和名と同じ研究者名+緑+樹上性を並べた命名です。
  • 属名 Zhangixalus:2019年に旧アオガエル属 Rhacophorus から分割された新属で、中国の両生類学者張孟聞(Zhang Mengwen)にちなむ命名。日本の伝統的な図鑑では Rhacophorus schlegelii の学名で載っていますが、分子系統解析の結果に基づき近年 Zhangixalus schlegelii へ変更されました。
  • 種小名 schlegelii:和名同様、記載者アルベルト・ギュンターがシュレーゲルに献名した形容詞形です。

大きさ・生息などの基本データ

大きさオス:約3.0〜4.3cm/メス:約4.3〜5.3cm(メスの方がひとまわり大きい)/体重 数g程度
体色背中:明るい黄緑〜緑(環境や気分でやや濃淡が変わる)/腹側:白〜クリーム色/指先に大きな円盤状の吸盤/目の虹彩は金〜オレンジ色/喉から下顎にかけて黄色みが強い個体が多い
分布日本固有種/本州(東北南部以南)・四国・九州に広く分布/北海道・沖縄には自然分布しない
生息環境低地〜山地の水田・湿地・池沼の周辺/繁殖期は水辺の畦や草の茂み/非繁殖期は樹上・草の茂み・林縁で過ごす/夜行性が強い
食性動物食/小型の昆虫・クモ・ダニ・ハエ・小型甲虫を捕食/幼生(オタマジャクシ)は水中の藻類・デトリタス(有機物砕片)を食べる雑食
繁殖4〜7月に繁殖/田んぼの畦の地中に泥穴を掘り、白いメレンゲ状の「泡巣」を作って卵を産む(1腹200〜300個)/卵は数日で孵化し、オタマジャクシは泡を溶かして水に流れ出て育つ
鳴き声オスの繁殖鳴き:「コロコロ・コロコロ」「キュルキュル」と澄んだ声を繰り返す/畦の草陰や畦の穴の中から聞こえる
寿命野生で3〜5年程度と推定/飼育下では6〜8年の記録あり
保全状況IUCN:LC(軽度懸念)/日本全体では広く見られるが、地方によっては水田減少で個体数が縮小/千葉県・埼玉県などで準絶滅危惧に指定される地域あり
シュレーゲルアオガエルの成体・葉の上
Yasunori Koide, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons(葉の上に佇む成体)

樹上性のカエル─緑の体と吸盤つきの指

体色を微妙に変える

環境と気分で緑色の濃淡が変わる

シュレーゲルアオガエルの体色は基本的に鮮やかな黄緑〜緑色ですが、環境の明るさ・温度・湿度・興奮度によって濃淡が変化します。日中の乾いた葉の上では明るい黄緑になり、雨上がりの湿った茂みでは深い緑に。隠れて休んでいるときには灰色がかった暗い緑まで沈み、条件で見え方が大きく変わります。腹側は白〜クリーム色でコントラストがはっきりします。

目はオレンジがかった金色

目の虹彩は金〜オレンジ色で、瞳は横に長い楕円形をしています。ニホンアマガエルの黄色い目とは色調が異なり、正面から近距離で観察すると識別の決め手にもなります。喉から下顎の下面にかけては黄色みが強い個体が多く、緑色の背中と対比する明るい配色です。

指先の吸盤で葉や幹に張りつく

アオガエル科の共通の特徴として、指先に大きな円盤状の吸盤を持ちます。これで葉の裏や滑らかな幹の表面にしっかり張りつくことができ、樹上や草の茂みで暮らす基盤になっています。非繁殖期には地上に降りることが少なく、林縁や田んぼ周辺の草の上・低木の葉裏で休んでいる姿がよく観察されます。

シュレーゲルアオガエル・顔と体の詳細
Alpsdake, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons(三重県養老山地)

ニホンアマガエルとの見分け方

目の後ろの黒い線の有無が決定打

アマガエルには過眼線がある

シュレーゲルアオガエルと最もよく混同されるのがニホンアマガエルです。両者はどちらも日本の田んぼで見られる緑色のカエルで、色も大きさも似ています。決定的な違いは目の後ろから肩にかけて走る「過眼線(黒い帯)」の有無です。

比較項目シュレーゲルアオガエルニホンアマガエル
目の後ろの黒い線なし(顔は緑一色)あり(鼻先〜目〜肩まで走る)
体表の質感すべすべ・光沢があるややザラつき・光沢は弱い
大きさ3〜5cm(やや大きい)2〜4.5cm(やや小さい)
産卵場所田んぼの畦の泥穴の中(泡巣)田んぼの水中に直接(ゼリー塊)
分布日本固有種(本州以南)日本〜東アジア広域(北海道含む)

モリアオガエルとの違い

同じアオガエル科のモリアオガエル(Zhangixalus arboreus)も緑色の日本固有種で、しばしば混同されます。ただし大きさ(オス4〜6cm・メス6〜8cm)で明らかに大きく、産卵場所は「池や水たまりに張り出した木の枝」の空中で、白い泡巣を樹上に吊り下げる点が全く異なります。「畦の泥穴の中=シュレーゲル」「木の枝の上=モリアオ」で覚えると区別しやすくなります。目の虹彩はモリアオガエルが赤〜赤褐色なのに対し、シュレーゲルはオレンジ〜金色で、色でも見分けられます。

シュレーゲルアオガエル・全身の様子
ノボホショコロトソ, CC BY 4.0, via Wikimedia Commons(島根県浜田市)

「泡巣」と繁殖─田んぼの畦の中で卵を守る

畦に泥穴を掘って白い泡巣を作る

4〜7月の繁殖行動

シュレーゲルアオガエルの最大の特徴は、田んぼの畦の地中に「泡巣」を作る独特の繁殖行動です。オスが畦の水際近くに直径3〜5cm程度の泥穴を掘って鳴き、メスを呼び寄せます。ペアになると穴の中でメスが200〜300個の卵を産み、雌雄が後肢で分泌液を撹拌してホイップクリームのような白いメレンゲ状の泡を作り、卵をこの泡の中に包みます。

泡がオタマジャクシを守る仕組み

泡巣は乾燥から卵を守り、外敵の目からも隠す働きがあります。数日で卵が孵化するとオタマジャクシは泡の中で少し成長し、やがて泡が雨や水位の上昇で溶けて田んぼの水中へと流れ出ます。畦の穴の中というひと目につかない場所に卵を保護しつつ、孵化のタイミングで自然に水中へ移動できる巧妙な仕組みです。

オタマジャクシの育ち方

水中に出たオタマジャクシは、田んぼの水中で藻類やデトリタス(水底の有機物砕片)を食べて成長します。約1〜2か月で後肢・前肢が生えそろい、尾を吸収して上陸します。上陸後の幼体は畦や畑周辺の草の茂みへ移動し、そこから樹上性の生活に入ります。田植えのサイクルと繁殖が密接に結びついているため、水田の減少や畦の改修(コンクリート化)は本種の減少要因になっています。

シュレーゲルアオガエル・樹上でくつろぐ姿
Joi Ito, CC BY 3.0, via Wikimedia Commons(樹上に佇む成体)

鳴き声と観察・飼育のポイント

「コロコロ・キュルキュル」─澄んだ繁殖鳴き

オスの繁殖鳴きは「コロコロ・コロコロ」「キュルキュル」「キリリ・キリリ」と表現される、澄んで柔らかい声です。5〜6月の田んぼで畦の草陰から聞こえる代表的な音で、ニホンアマガエルの「クワックワッ」よりも音が丸く、聞き分けやすい鳴き声です。姿は見つけにくいものの、この声を聞くだけでも「近くにシュレーゲルアオガエルがいる」と判断できます。

飼育の基本

シュレーゲルアオガエルは飼育対象としても親しまれている種です。飼育の基本を押さえておくと長く元気に飼えます。

  • 飼育ケース:30cm前後のプラケース・爬虫類用ガラスケージ/樹上性なので高さのあるケースが望ましい
  • 床材:ヤシガラ土・水苔・観葉植物の鉢植えを組み合わせて湿度を保つ
  • 温度:20〜25℃(真夏の高温は避ける)/湿度:60〜80%
  • 餌:小型のコオロギ(イエコS〜M)・ハエ・ワラジムシなど生きた小昆虫/ピンセット給餌が可能な個体もいる
  • 餌の量:1匹あたり週に2〜4回、1回に小型コオロギ2〜3匹程度(食べ残さない量に調整)
  • 水:浅い水皿を常設/全身が浸れる浅めの深さ

採集と法規制の注意

シュレーゲルアオガエル自体は日本で捕獲禁止種には指定されていませんが、都道府県によっては準絶滅危惧種として保全対象になっている地域があります。田んぼやため池の畦から採集する場合は、事前に地域のレッドデータブックを確認し、必要以上に多くを持ち帰らない配慮が大切です。オタマジャクシから育てる場合も、成体になったら元の水田近くに戻すのが理想的です。

シュレーゲルアオガエル・鮮やかな緑の体色
M.Nishimura, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons(成体・鮮やかな緑の体色)

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