ダイオウホウズキイカ

ダイオウホウズキイカと人ダイバーの大きさ比較 イカ・タコ類(頭足類)

ダイオウホウズキイカは、南極海の深海に住む世界最重量のイカです。体重は495kgの記録があり、無脊椎動物として現存最大クラス。目の直径は最大40cmと動物界で最大級で、腕と触腕には回転式の鉤爪がずらりと並びます。マッコウクジラの主要な獲物であり、生きた姿の観察例は史上わずかしかない大型のイカです。

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分類と学名

分類階層

  • 界:動物界 Animalia
  • 門:軟体動物門 Mollusca
  • 綱:頭足綱 Cephalopoda
  • 亜綱:鞘形亜綱 Coleoidea
  • 上目:十腕形上目 Decapodiformes
  • 目:開眼目 Oegopsida
  • 科:サメハダホウズキイカ科 Cranchiidae
  • 亜科:クジャクイカ亜科 Taoniinae
  • 属:ダイオウホウズキイカ属 Mesonychoteuthis(1属1種)
  • 種:ダイオウホウズキイカ Mesonychoteuthis hamiltoni(Robson, 1925)

和名・英名

  • 和名:ダイオウホウズキイカ(大王酸漿魷)
  • 英名:Colossal squid/Antarctic cranch squid

学名の由来

属名 Mesonychoteuthis は古代ギリシア語で「中ほど(mesos)」「かぎ爪(onyx)」「イカ(teuthis)」の合成語で、腕に並ぶ鉤爪に由来します。種小名 hamiltoni は、模式標本のもととなった腕の冠を発見した E. Hamilton にちなみます。1925年、Guy Coburn Robson がマッコウクジラの胃内容物から得た2本の腕をもとに記載しました。

大きさ・分布などの基本データ

大きさ最大測定重量495kg(2007年ロス海)/マッコウ胃内容物の推定では600〜700kg級/全長は触腕なしで約4.2m、触腕を含めて推定約10m
直径27〜30cm(測定)、生体時40cm推定=動物界で確認された最大の目
分布環南極海(南極周辺)/南米南端・南アフリカ南端・ニュージーランド南端まで
生息環境幼体0〜500m/未成熟500〜2,000m/成体は主に200〜4,000mの中深層・漸深層
寿命推定数年(詳細不明)
食べ物ハダカイワシ・深海イワシ等の小魚が中心/大型ではパタゴニアメロも/共食い観察例あり
産卵数卵細胞は420万個以上/産卵は0℃前後の表層で行われるとされる
保全状況IUCN: LC(軽度懸念/2014年評価)

世界最重量の無脊椎動物

体重495kgの記録

ダイオウホウズキイカは、生きた無脊椎動物として現存最大クラスの体重を誇ります。実測記録と、間接証拠から推定されるサイズには開きがあります。

2007年の記録個体

2007年2月、ニュージーランドの漁船が南極ロス海で捕獲した個体は、解凍後の測定で体重495kg・外套長2.5m・全長4.2mでした。頭足類として史上最大の記録で、現存する無脊椎動物のなかで最も重い個体として広く受け入れられています。この個体の解凍と解剖の様子はニュージーランド国立博物館テ・パパで公開されました。

くちばしから推定される超巨大個体

マッコウクジラの胃内容物から回収されるくちばしのなかには、2007年記録個体より大きなサイズを示すものが混じっています。これをもとに、生体では600〜700kg級の個体もいると推定されています。すべての捕獲個体はメスで、成体オスの姿はまだ発見されていない謎も残ります。

ダイオウホウズキイカの姿(学術図版)
Rcidte, Public domain, via Wikimedia Commons
ニュージーランド国立博物館テ・パパに展示された標本
Scotted400, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

動物界最大の目

直径30cm超の巨眼

2007年の記録個体の目は、部分的に収縮した状態で直径27cm、生体時では30〜40cmと推定されました。これはメロン級の大きさで、現存する動物・確認されている絶滅動物を通じて最大の目です。同じ体重帯の遠洋生物(メカジキ等)の目が平均10cm前後であることを考えると、その巨大さは体格からも突出しています。

マッコウクジラを見つけるための目

これほど大きな目を維持するのはエネルギー的にも大きな負担ですが、その利益はマッコウクジラの接近を早く検知することにあると考えられています。数学的モデルでは、120m以上先の大型物体の動きを検出できるとされ、これはマッコウクジラのソナー範囲の外側にあたります。深海のわずかな生物発光を広範囲でとらえる目としても機能します。

眼球そのものが光る

両方の眼球の前面、レンズのすぐ横には長方形の発光器(photophore)があり、共生する発光細菌の化学反応で光を出します。深海のわずかな光環境で自身を目立たなくする「反照カウンター光」の役割を果たすと考えられ、目そのものを見えにくくする働きが推定されています。

ダイオウホウズキイカの頭部と付属肢の標本(自然史博物館)
Mgiganteus1, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons(自然史博物館の展示標本)

回転式の鉤爪と強い武装

直径5cmの鉤爪

腕と触腕には吸盤の代わりに、直径5cmにも達する回転式の鉤爪(swiveling hooks)が並びます。獲物を捕らえるだけでなく、マッコウクジラのような大型捕食者から身を守る武装にもなります。触腕の先には「クラブ」と呼ばれる部位があり、鉤爪と吸盤が集中して並びます。マッコウクジラの体に残る円形の傷は、この鉤爪と吸盤が付けた痕と考えられています。

触腕先端のクラブ部(鉤爪と吸盤が並ぶ)
Mgiganteus1, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

大きなくちばし

腕の中心にはキチン質の硬いくちばし(カラストンビ)があり、これで獲物の肉を切り取って食べます。マッコウクジラの胃から回収されるくちばしは、生きた個体で確認された最大サイズよりも大きいものが混じっており、まだ捕獲されていないさらに巨大な個体の存在を示す手がかりとされます。

南極海の深海に住む

環南極分布

ダイオウホウズキイカは南極大陸を取り囲む南極海全域に分布し、北へは南米南端・南アフリカ南端・ニュージーランド南端まで広がります。特にウェッデル海と西ケルゲレン諸島の間は生息の「ホットスポット」とされ、獲物であるマゼランアイナメ(パタゴニアメロ)の分布と重なります。年齢とともに深いほうへ移動し、成体は水深200〜4,000mの中深層・漸深層域が主な暮らしの場です。

ダイオウホウズキイカの分布図(南半球全体)
Sitron, Public domain, via Wikimedia Commons

魚一匹で200日の低代謝

2010年の研究では、体重500kgの個体でも1日に必要な餌はわずか30g程度と推定されました。海を漂いながら待ち伏せで獲物を捕らえる「省エネ型」の暮らし方で、5kgの魚1匹で200日ほど生き延びる計算になります。同じ海域のクジラ類が必要とするエネルギーの300〜600分の1という水準です。

マッコウクジラの主要な獲物

南極海のマッコウクジラの胃から見つかるイカのくちばしのうち14%がダイオウホウズキイカのもので、重量では77%を占めると推定されています。個体数は決して多くないと考えられていますが、1個体の体重が大きいため、マッコウクジラの餌のなかで大きな比重を占めています。ミナミトックリクジラ・ゴンドウクジラ・シャチ・ミナミネムリブカ(南方眠り鮫)・ミナミゾウアザラシ・パタゴニアメロ・アホウドリ類なども捕食者として知られます。

捕獲と発見の歴史

1925年の記載から2007年の最大個体まで

1925年、Robson がマッコウクジラの胃から見つかった腕の冠2つをもとに新種として記載しました。ほぼ完全な形の個体が獲れたのは1981年のロス海のソ連漁船が最初で、次いで2003年、2005年に生きた状態で初捕獲(水深1,625m)と続きます。そして2007年2月、史上最大の495kgのメス個体がロス海のニュージーランド漁船によって捕獲されました。この2007年個体は解凍と解剖の過程がニュージーランド国立博物館テ・パパで公開されました。

2025年、初めて自然環境で撮影

2025年3月9日、南サンドウィッチ諸島沖でシュミット海洋研究所(Schmidt Ocean Institute)の遠隔操作探査機「SuBastian」が、水深600mを泳ぐ幼体(体長約30cm)の撮影に成功しました。これが自然環境下で生きた姿がはっきり確認された史上初の映像です。記載から100年、成体はいまだ自然環境で撮影されておらず、この巨大イカの生きた姿の多くは謎に包まれたままです。

捕獲個体はすべてメス

これまで捕獲された完全個体はすべてメスで、オスの成体はいまだに発見されていません。理由は分かっていませんが、繁殖生態が特殊であることを示唆する謎として残されています。卵細胞は420万個以上と、寒い深海の他のイカと比べても高い繁殖能力を持ちます。

食用にはならない

体組織には浮力を得るための塩化アンモニウムが多量に含まれ、身に独特のえぐ味があります。このため食用には向きません。狙って獲る漁業はなく、パタゴニアメロなどの延縄漁で偶然かかることがあるだけです。人間の生活圏から遠い南極海の深海が主な生息域のため、日常でこのイカが目に触れる機会はほぼありません。

近縁のイカとの比較

ダイオウイカとの違い

「大王」の名を冠する2種、ダイオウホウズキイカとダイオウイカは分類学上の近縁ではありません。同じ開眼目に属しますが、科の段階から系統が分かれ、姿・分布・武装のいずれもかなり違います。

体重と体長の比較

体重ではダイオウホウズキイカが圧倒的で、記録の495kgに対してダイオウイカは約275kgとされます。体長は逆にダイオウイカが長く、触腕を含めて14m級に達する報告もあります。ダイオウホウズキイカは触腕込みの推定でも約10mまでで、胴の太さと重量に振った体型です。

触腕の武装の違い

触腕の武装が両者を分ける決定的な特徴です。ダイオウホウズキイカは回転式の鉤爪を並べるのに対し、ダイオウイカは歯付きの吸盤で獲物を絡め取ります。マッコウクジラの体に残る円形の傷跡から、どちらの武装で付けられた痕かをある程度判別できるとされます。

棲む海の違い

ダイオウホウズキイカは環南極海だけに分布します。一方のダイオウイカは世界の温帯〜亜寒帯の中深層に広く生息し、日本近海でも記録があります。同じ「大王」の名を持ちながら、暮らす海はまったく別です。

比較表とサメハダホウズキイカ科

ダイオウホウズキイカダイオウイカ
サメハダホウズキイカ科ダイオウイカ科
最大体重495kg(推定600〜700kgも)約275kg
最大全長約10m(触腕含)約12〜14m
触腕の武装回転式の鉤爪歯付き吸盤
分布南極海世界の温帯〜亜寒帯

サメハダホウズキイカ科での例外

属するサメハダホウズキイカ科は英名「glass squids(ガラスイカ)」の名のとおり、多くが半透明の小型種で構成されます。ダイオウホウズキイカはこの科で唯一「腕と触腕に鉤爪を持つ」種で、成体サイズも桁違いに大きな存在です。深海における「深海巨大化(abyssal gigantism)」の代表例とされます。

マッコウクジラを介した情報

ダイオウホウズキイカの生態や分布のかなりの部分は、マッコウクジラの胃内容物の分析から明らかになってきました。回収されたくちばしの数と大きさから、まだ捕獲されたことのない超巨大個体の存在も推定されています。マッコウクジラは天敵であると同時に、この深海の巨大イカを人間が知るための重要な情報源にもなっています。

ダイオウイカ
ダイオウイカは、深海にすむ巨大なイカです。長い触腕をふくめると、全長は12mをこえることもあります。バスケットボールほどもある大きな目や、かぎのついた吸盤を持ちます。生きた姿がはじめて撮影されたのは、ようやく2012年のことでした。分類と学...

参考

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