ハナイカ

ハナイカ・水族館の個体 イカ・タコ類(頭足類)

ハナイカは、体長4〜7cmの小さなコウイカです。鮮やかな黄と黒の斑模様と桃色の腕先が特徴で、その派手な体色から「花烏賊」と呼ばれてきました。日本近海の相模湾以南〜東シナ海に生息し、砂の海底を這うように移動する独特の暮らしをします。よく似た南方系のミナミハナイカ(Metasepia pfefferi)とはたびたび混同されますが、両者は貝殻の形状と分布で区別できる別種です。

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分類と学名

分類階層

  • 界:動物界 Animalia
  • 門:軟体動物門 Mollusca
  • 綱:頭足綱 Cephalopoda
  • 亜綱:鞘形亜綱 Coleoidea
  • 上目:十腕形上目 Decapodiformes
  • 目:コウイカ目 Sepiida
  • 科:コウイカ科 Sepiidae
  • 属:ハナイカ属 Metasepia(コウイカ属の亜属とする分類もあり)
  • 種:ハナイカ Metasepia tullbergi(Appellöf, 1886)

和名・英名

  • 和名:ハナイカ(花烏賊)
  • 英名:paintpot cuttlefish

和名は長崎の方言から

和名「ハナイカ(花烏賊)」は長崎地方の方言に由来します。鮮やかな体色を花にたとえた呼び名で、地元の漁業で古くから使われてきた名前がそのまま標準和名になりました。学名の種小名 tullbergi はスウェーデンの動物学者 Tycho Tullberg にちなみます。属名 Metasepia は「後の(meta)+コウイカ(Sepia)」の合成語です。

大きさ・分布などの基本データ

大きさ外套長 約4〜7cm(コウイカ類の中では小型)
分布日本の相模湾以南〜東シナ海〜トンキン湾(南西日本〜ベトナム北部)
生息環境水深40〜100mの砂底/産卵期は刺胞動物(イソバナ・ウミトサカ類)が多い岩礁地帯にも
寿命約1〜2年(詳細不明)
食べ物小型甲殻類・小魚など海底の生物
体色外套背側に暗色、鰭は黄色、腕先は桃色。興奮時に突起を立てて模様を変化
保全状況IUCN: DD(データ不足/2001年評価)

色鮮やかな小さなコウイカ

体長4cmの小型コウイカ

ハナイカは外套長4cm程度、最大でも7cmほどの小さなコウイカです。同じコウイカ目の中でもとくに小型の種で、大型のコブシメ(50cm)やヨーロッパコウイカ(49cm)と比べると10分の1ほどの大きさに収まります。小型ながら色彩と行動の派手さは頭足類のなかでも目立ちます。

ハナイカ・水族館の展示個体
Totti, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

黄・黒・桃色の華やかな体色

生きているときのハナイカは、外套膜の背側に走る一対の肉稜の両側が暗色に染まり、鰭は黄色に縁取られます。頭部の眼の後方・背側・腕には黄斑が並び、腕の反口側には黒点、保護膜や腕の末端はピンクや赤に色づきます。全体が花のような彩りをまとうことから、和名の由来にもなっています。色は環境や気分で大きく変化し、個体差も大きい点が特徴です。

体表に立てる「乳頭状突起」

ハナイカは体表に無数の乳頭状突起(papillae)を持ち、興奮時にはこれを立ち上げて外形を凸凹に変えます。色変えと突起の組み合わせで背景の質感まで再現し、海底の岩や砂利に完全に溶け込みます。頭足類の擬態能力のなかでも、色と質感を同時に操る点でとくに完成度が高い種の一つです。

ハナイカ(東武動物公園アクアで撮影)
James Kilfiger, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

海底を「歩く」コウイカ

底生の暮らしと擬態

ハナイカはツツイカ類と違い、水中を泳ぎ回るよりも海底に接した暮らしを送ります。体表の突起と鮮やかな体色を組み合わせて、擬態と警告色を場面ごとに使い分けます。

浮遊より底生の暮らし

ツツイカ類が水中を活発に泳ぎ回るのに対し、ハナイカはほとんどの時間を海底に接して過ごします。水深40〜100mの砂・泥の海底が主な棲みかで、砂に体を密着させて獲物を待ち伏せます。産卵期には刺胞動物(イソバナやウミトサカ類)の多い岩礁地帯にも現れ、卵を隠すように産みつけます。

突起を「第2の足」にして這う

ハナイカの特徴的な行動が、海底を這うように移動する姿です。海底に降りるときは腹側の両縁から大きな三角形の突起を突き出し、腹全体が海底と直接こすれないようにして進みます。海底の石に擬態した状態では、その突起を「第2の足」として使い、ゆっくりと歩くように移動します。イカ類のなかでは珍しい底生的な移動の様式です。

擬態と警告色の使い分け

普段の擬態モードでは、体色を海底の砂色に落ち着かせて背景に溶け込みます。危険を感じたり獲物に接近するときには、赤・黄・黒の派手な体色と大きく立ち上がった突起で目立つ姿へ切り替えます。この派手なモードは近縁のミナミハナイカ(毒を持つ)にも共通し、捕食者に警告する意味があると考えられています。

ミナミハナイカとの識別

「ハナイカ」の名で混同されがちな2種

ダイビングや水中写真の分野では、ハナイカ(Metasepia tullbergi)と近縁のミナミハナイカ(Metasepia pfefferi)がしばしば混同されます。両者はよく似た派手な体色を持ちますが、分布・貝殻の形状・毒性で明確に区別できる別種です。特に「毒を持つ」で知られる話題のイカはミナミハナイカのほうで、ハナイカ本種の毒性についてはあまり明らかになっていません。

分布の違い

ハナイカは日本の相模湾以南〜東シナ海〜トンキン湾までの北西太平洋に生息します。一方のミナミハナイカはオーストラリア沿岸のパース・ブリスベン以北からインド太平洋の熱帯域に分布し、日本近海には生息しません。日本近海で観察されるMetasepia属はほぼ本種に限られます。

ハナイカの分布図
Ts.kraus, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

貝殻の稜角の有無

体内の甲(貝殻)で最も明確に区別できます。ハナイカの貝殻は菱形で稜角(りょうかく)があるのに対し、ミナミハナイカの貝殻には稜角がありません。両種を博物館標本で識別する場合、この甲の形状が決め手になります。

毒性の話題はミナミハナイカ

「毒を持つコウイカ」として広く知られているのはミナミハナイカで、筋肉からテトロドトキシンが検出されています。ハナイカ本種の毒性については研究が少なく、明確な報告は多くありません。派手な体色は同じ「警告」機能を果たしているとされますが、両種を混同して「ハナイカが毒を持つ」と誤解されることがあるため、識別には注意が必要です。

分類論争と近縁関係

コブシメと近縁の分子系統

近年の分子系統解析では、ハナイカは同じ亜熱帯に住む大型コウイカのコブシメ(Sepia latimanus)と近縁とされています。この結果、ハナイカ属を除いた狭義のコウイカ属 Sepia は側系統(単一の系統群にならない)となり、コウイカ科の分類全体を見直す必要が指摘されるようになりました。

属の位置づけの議論

ハナイカ属 Metasepia は独立した属とする扱いが多い一方、コウイカ属 Sepia のハナイカ亜属(subgenus Metasepia)とする分類もあります。近年は Ascarosepion 属に含める新分類も提案されており、学名の表記は文献によって Metasepia tullbergi と Ascarosepion tullbergi が混在します。分類論争の途中にある種と言えます。

コウイカ属との甲の違い

形態上、Metasepia属をコウイカ属 Sepia と区別する主な特徴は「甲」の形状です。ハナイカ属の甲は菱形で、コウイカ属によく見られる「外円錐」を欠きます。歯舌の数も違い、コブシメを含む他のコウイカ属が7つの歯舌を持つのに対し、ハナイカは6つしか持ちません。近縁でありながら形態は明確に区別できる姉妹関係です。

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参考

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