ホッキョクギツネは、北極圏のツンドラに住む、小型のイヌ科の動物です。冬は雪にまぎれる白い毛におおわれ、夏には褐色や灰色の毛に変わります。厚い毛皮と丸みのある体で、氷点下の寒さのなかで暮らします。おもな食べ物は、レミングという小さなネズミの仲間です。
分類と学名
ホッキョクギツネは、哺乳綱の食肉目のなかの、イヌ科キツネ属に含まれる動物です。学名は Vulpes lagopus といいます。日本に住むアカギツネと同じキツネ属で、より北の寒い地方に適応した種です。カナダやロシア、北ヨーロッパなど、北極を取り巻く地域に分布します。
分類階層
- 界:動物界 Animalia
- 門:脊索動物門 Chordata
- 綱:哺乳綱 Mammalia
- 目:食肉目 Carnivora
- 科:イヌ科 Canidae
- 種:ホッキョクギツネ Vulpes lagopus
和名・英名
- 和名:ホッキョクギツネ(北極狐)
- 英名:Arctic fox
名前の由来
「ホッキョクギツネ」の名は、北極圏に住むことにちなみます。英名の Arctic fox も、「北極のキツネ」という意味です。学名の lagopus は、ラテン語で「ウサギの足」を指します。足の裏まで毛におおわれた姿が、ウサギの足を思わせることに由来するとされます。
大きさ・分布などの基本データ
| 大きさ | 頭胴長50〜60cm、尾は30cmほど(アカギツネより小型) |
|---|---|
| 分布 | 北極圏のツンドラ(カナダ・ロシア・北欧・グリーンランドなど) |
| 生息環境 | 樹木のないツンドラ、海岸、氷の上 |
| 食べ物 | レミング・鳥・卵・魚・腐肉など |
| 寿命 | 野生でおよそ3〜6年 |
| 保全状況 | IUCN: LC(軽度懸念)/一部の地域では減少 |
季節で変わる毛の色
ホッキョクギツネの毛は、季節によって色が変わります。冬は白、夏は褐色。同じ個体でも、見た目が大きく変わります。
冬の白い毛
冬のホッキョクギツネは、全身が真っ白な毛におおわれます。雪と氷の世界では、この白い色が景色に溶けこんでいます。獲物に気づかれにくく、天敵からも見つかりにくくなります。真っ白な毛になるのは、一年のうち冬のあいだだけです。
雪にまぎれる白
白い冬毛は、雪の上で体の輪郭をぼかします。獲物のレミングに近づくときにも、姿が目立ちません。空から狙うワシなどの天敵に対しても、身を隠すのに役立ちます。雪の多い環境に合わせた、季節ごとの毛の色です。
灰色がかった個体
ホッキョクギツネには、冬でも白くならない個体がいます。こうした個体は、一年を通して灰色や青みがかった色をしています。雪の少ない海岸などに住むものに多いとされます。同じ種でも、住む場所によって毛の色に幅があります。
夏の褐色の毛
夏が近づくと、白い毛は褐色や灰色の毛に生えかわります。雪がとけて地面や岩があらわれる季節には、この色のほうが景色にまぎれます。冬毛にくらべて、夏毛は薄く短くなります。毛が大きく生えかわるのは、春と秋の年二回です。季節に合わせて毛の色と厚さを変えることが、この動物の特徴です。

寒さへの適応
ホッキョクギツネは、極地の寒さのなかで生きる体をもっています。毛皮や体つきの多くが、熱を逃がさないためのものです。

密な毛皮と丸い体つき
ホッキョクギツネの毛皮は、動物のなかでも高い断熱性をもつとされます。厚い下毛の上に、長い保護毛が重なる二重の構造です。その断熱性は、哺乳類の毛のなかでもとくに高い部類とされます。体を丸めて眠るときには、ふさふさの尾を顔や足にかけて熱を守ります。休むときの丸い姿も、寒さをしのぐための工夫です。
熱を逃がさない体
ホッキョクギツネは、アカギツネより小さく、丸みのある体つきです。耳や口先が短く、外の空気にふれる体の表面が小さくなっています。表面が小さいほど、体の熱は外へ逃げにくくなります。こうした特徴が重なり、氷点下数十度の寒さのなかでも活動できるとされます。寒い地方の動物によく見られる、体の形の特徴です。
足の裏まで毛におおわれる
ホッキョクギツネは、足の裏にも毛が生えています。この毛が、冷たい雪や氷から足を守ります。学名の「ウサギの足」も、この毛深い足に由来するとされます。氷の上でもすべりにくく、足を冷やさずに歩くことができます。
何を食べるか
ホッキョクギツネは、動物を中心に、さまざまなものを食べます。とくに、レミングという小さなネズミの仲間が主な獲物です。
主食のレミング
レミングは、ツンドラに住むネズミの仲間です。ホッキョクギツネは、雪の下にいるレミングを、音や気配でさがしてとらえます。加えて、鳥やその卵・魚・海鳥なども食べます。手に入るものを幅広く食べることが、きびしい環境での暮らしを支えています。
レミングの増減と数の変動
レミングの数は、年によって大きく増えたり減ったりします。レミングが多い年には、ホッキョクギツネもたくさんの子を育てられます。逆にレミングが少ない年には、生まれる子の数も減ります。主食の増減が、そのままキツネの数の変動につながっています。
腐肉やホッキョクグマの食べ残し
餌の少ない季節には、死んだ動物の肉も食べます。ホッキョクグマが仕留めたアザラシの食べ残しを、あさることもあります。ホッキョクグマのあとをついて歩く個体も知られています。獲物がとりにくい時期を、こうしてしのいでいます。
食べ物をたくわえる
ホッキョクギツネは、餌が多いときに、食べ物をたくわえる習性をもちます。とらえた獲物や鳥の卵を、巣穴の近くの土や雪の中にうめておきます。餌の少ない時期には、これを掘り出して食べるとされます。よい季節のうちにためておくことが、厳しい冬を越す助けになっています。
巣穴と子育て
ホッキョクギツネは、地面に掘った巣穴で子どもを育てます。ツンドラの巣穴は、代々受けつがれて使われることもあります。

ツンドラの巣穴
ホッキョクギツネは、水はけのよい丘などに、大きな巣穴を掘ります。長く使われた巣穴には、いくつもの出入り口が開いています。春になると、一度に多くの子ギツネが生まれます。その数は五頭前後で、餌の多い年には十頭ほどにもなるとされます。両親が餌を運び、子ギツネは夏のあいだに育ちます。
分布と保全
ホッキョクギツネは、北極を取り巻く広い範囲に分布します。全体としては数が多いものの、地域によっては減っています。
北極を取り巻く分布
ホッキョクギツネは、北極海を囲むツンドラに広く分布します。カナダやアラスカ、グリーンランド・北ヨーロッパ・ロシアなどに見られます。氷の上を長い距離にわたって移動する個体も知られています。ある調査では、一頭が数か月のあいだに数千キロを渡り歩いた例も報告されています。餌や繁殖の場所を求めて、氷上を大きく移動することがあります。全体としては数が多く、絶滅の心配は小さいとされています。
地域による減少
いっぽう、北ヨーロッパの一部では、数が大きく減った地域もあります。原因の一つとして、温暖化にともなうアカギツネの北上が指摘されています。体の大きいアカギツネと、すみかや餌をめぐって競合するためと考えられています。こうした地域では、保護の取り組みが続けられています。
参考
- ホッキョクギツネ Vulpes lagopus(Wikipedia日本語版)分類・形態・生態
- IUCNレッドリスト Vulpes lagopus 分布・保全状況
- 各動物図鑑・研究資料 寒冷適応・レミング・換毛
画像の出典
- アイキャッチ(冬毛のホッキョクギツネ):Jonathen Pie, CC0, via Wikimedia Commons
- 雪の上で丸くなる姿:Keith Morehouse, Public domain, via Wikimedia Commons
- 夏毛のホッキョクギツネ:Jules Verne Times Two, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
- 子ギツネ:Boylan Mike / U.S. Fish and Wildlife Service, Public domain, via Wikimedia Commons

