ムクドリは、全長24cmほどのスズメ目ムクドリ科の身近な鳥です。灰褐色の体に、眼の周りの白い模様と嘴・脚の黄色が目立つ、ずんぐりした姿がひと目でわかります。もともと農作物を食べる害虫を大量に捕食する「農林鳥」として重宝された益鳥でしたが、都市化に伴い駅前や街路樹に大群でねぐらを作り、鳴き声と糞害で「都市部の困った鳥」の代表格へと立場を変えていきました。「ギャーギャー」の鳴き声、電線を埋めるほどの大群、俳人・小林一茶が受けた「椋鳥」の蔑称。人の暮らしと深く絡み合う、複雑な顔を持つ鳥です。
分類と学名
分類階層
- 界:動物界 Animalia
- 門:脊索動物門 Chordata
- 綱:鳥綱 Aves
- 目:スズメ目 Passeriformes
- 科:ムクドリ科 Sturnidae
- 属:ムクドリ属 Spodiopsar
- 種:ムクドリ Spodiopsar cineraceus(Temminck, 1835)
和名・英名・地方名
- 和名:ムクドリ(椋鳥)
- 英名:White-cheeked Starling/Grey Starling
- 地方名:ガラガラドリ・ギャアギャアドリ(鳴き声由来)/サクラドリ・サクラゴ(岩手ほか、食性由来)/ヤマスズメ(岩手・秋田)
名前の由来 ―椋の木、それとも「むくつけし」
和名「ムクドリ」の由来には複数の説があります。椋(ムク)の木の実を好んで食べる鳥・椋の木を住まいに使う鳥・騒がしいさまを表す「むくつけしとり」の略といった系統の呼び名が伝わっています。属名 Spodiopsar は「灰色の顔」、種小名 cineraceus は「灰色の」を意味し、いずれも本種の淡い灰褐色の姿を表した命名です。江戸時代の『大和本草』には「ツグミくらいで形はハト、声はヒヨドリ」と記され、古くから体形の”ずんぐり感”が特徴として意識されていました。
大きさ・分布などの基本データ
| 大きさ | 全長 約24cm/翼開長 約40cm/体重 70〜100g |
|---|---|
| 分布 | 東アジア(中国・モンゴル・ロシア南東部・朝鮮半島・日本)/日本では九州以北で繁殖、北海道・東北は夏鳥 |
| 生息環境 | 農耕地・河川敷・住宅街・公園・駅前の街路樹まで幅広い |
| 寿命 | 野生でおおむね7〜10年 |
| 保全状況 | IUCN:LC(低危険種)/1994年から鳥獣保護法の狩猟鳥指定 |
姿と見分け方

灰色の体と、白い顔・黄色い嘴
眼の周りの白斑と黄色の嘴
全体は灰色から灰褐色の暗い色調で、眼の周囲だけが白く抜けます。この白斑が「White-cheeked(白い頬)」の英名の由来です。嘴と脚は鮮やかな黄色で、灰褐色の地味な体色のなかで強く目立つワンポイントになっています。頭頂から後頸にかけては黒く、光の当たり方によっては金属光沢を帯びて見えます。
雌雄はほぼ同色 ―雌がわずかに淡い
雌雄はほぼ同色で、外見だけの見分けはとても難しい鳥です。オスは頭部の黒と金属光沢がやや強く、メスは胸・腹・尾の色合いがオスより淡めになる傾向があります。幼鳥は全体に薄い茶色でぼんやりとした印象で、成鳥と並べば見分けはつきます。
ヒヨドリ・スズメとの違い
都市部でよく混同されるのはヒヨドリとスズメです。ムクドリはスズメより一回り大きく、ヒヨドリよりはやや小柄でずんぐりしています。決め手は嘴と脚の色で、ムクドリだけがはっきりした黄色をしています。地上を歩き回って餌をとる姿もムクドリの特徴で、木の上で果実をついばむヒヨドリや、跳ねながら移動するスズメとは行動でも見分けられます。
大群のねぐら ―都市を悩ませるムクドリ

夕方、樹上に数千羽が集まる
ムクドリは非繁殖期の秋から冬、夕暮れどきに数百〜数千羽の大群で決まったねぐらに集まる習性を持ちます。もともとは山中のモミなど針葉樹や竹藪をねぐらにしていましたが、都市部では駅前の街路樹や公園の並木がその役目を果たすようになりました。京都市内の観察では、ムクドリとスズメが同じ木をねぐらに共有する事例も報告されています。
パチンコ店なみの騒音と糞害
ねぐらでの鳴き声は「ギャーギャー」「ギュルギュル」「ミチミチ」と表現される甲高い声です。数千羽が同時に鳴くと、パチンコ店の店内と同じレベルの音量に達すると測定されており、夜11時を過ぎても止まらない事例も報告されています。加えてねぐらの下は大量の糞で覆われ、清掃・悪臭・景観の悪化が同時に発生します。全国の駅前でムクドリ対策の看板が立てられる背景には、この2つの被害の同時多発があります。
ディストレスコールとLED ―対策のイタチごっこ
天敵の悲鳴を録音して流す
ムクドリ対策として自治体や研究機関がまず試すのが「ディストレスコール」の音源です。天敵に捕まった鳥が発する悲鳴を録音して流し、ねぐらから追い払う手法で、農研機構が装置を開発しています。1990年代の研究では、ディストレスコールを聞かせるとねぐらの位置が変わる様子が観察され、追い払いの有効性が示されています。
LEDで追うと隣に移る
近年は強力なLEDライトを木に当てる方法も採用され、一定の追い出し効果を発揮しています。ただし追われたムクドリは近隣の別の場所に移るだけで、根本的な解消には至らないとされ、「イタチごっこ」という表現で語られる状態が続いています。
益鳥から害鳥へ ―立場が変わった鳥

百万匹の虫を食べる「農林鳥」
親子8羽で100万匹の害虫捕食
もともとムクドリは、農作物を食害する虫を大量に捕食する益鳥として重宝された鳥です。親2羽と雛6羽の家族が1年間で捕食する昆虫は100万匹以上に及ぶとの研究があり、当時の防除コストで換算すると1家族で年間100万円を超える利益を国家にもたらす「農林鳥」として称賛されていました。
明治の狩猟規則で保護対象に
明治時代の狩猟規則ではムクドリをツバメやヒバリと並んで狩猟禁止としており、この時代までは徹底して保護される対象でした。捕食する害虫の量から、国益を支える鳥として扱われた歴史があります。
1994年、狩猟鳥に再指定
ところが都市部への集中とねぐら大群化が進むと、鳴き声と糞害が社会問題として浮上します。日本ではムクドリは1994年に鳥獣保護法の狩猟鳥に指定され、冬季に定められた区域と方法で狩猟が可能な鳥となりました。「益鳥」から「害鳥」への評価の反転は、種そのものの変化ではなく、都市開発と生息地の変化によって人間との距離が変わった結果と考えられています。
繁殖と子育て

樹洞と屋根瓦の下に営巣
ムクドリの繁殖期は4月から7月にかけてで、産卵は4月下旬と6月上旬に2つのピークを持ちます。巣は樹木の洞を基本としますが、人家の屋根瓦の下・戸袋・雨戸の隙間・換気口などの人工物にも積極的に営巣し、住宅街の営巣鳥の代表格になっています。近縁のコムクドリは屋根瓦の隙間をより好みますが、ムクドリの方が体が大きいため、コムクドリの営巣場所を横取りする例も観察されています。
両親で子育て、雛は3週間で巣立ち
1回の産卵で4〜7個の淡青色の卵を産み、抱卵と育雛は雌雄が交代で行います。雛は孵化から約3週間で巣立ちます。産卵期のうち後期に繁殖する個体は前期の失敗からの再挑戦というより、そもそも初回の繁殖時期がずれている個体が多いとの調査結果もあります。両親が揃って歩き回りながら餌を運ぶ姿は、住宅街でも観察されるムクドリの子育て風景です。
雑食のなんでも屋 ―虫から果実まで

ムクドリは雑食で、地面を歩きながら昆虫の幼虫やミミズを拾い、木の上ではカキやサクランボなどの熟した果実をついばみます。地方名の「サクラドリ」「サクラゴ」はサクランボの食害から付いた名前で、農業被害としての顔と益鳥としての顔を同時に持つ食性です。天敵は猛禽類・カラス・イタチ・ヘビなどで、都市部ではねぐらのムクドリを狙うオオタカやハヤブサの姿も観察されます。
「椋鳥」の蔑称と一茶 ―名前が生きる文化
田舎から来る集団の代名詞
江戸時代の江戸には、農閑期の冬に地方から江戸へ出稼ぎに来る集団を「椋鳥」と呼ぶ蔑称がありました。ムクドリが大群で騒がしくやってくる様子を、田舎からやってきた騒がしい人々に重ねた呼び方で、俳人・小林一茶は故郷信濃から江戸への道中でこの呼び名を受けた屈辱を「椋鳥と人に呼ばるる寒さかな」と句に残しています。「大群」「騒がしさ」という本種の特徴が、そのまま社会的な差別語として使われた歴史があります。
森鷗外の「椋鳥通信」
明治時代には、文豪・森鷗外が海外情報を伝える連載コラムに「椋鳥通信」と名付けています。世界のなかで田舎者として海の向こうを見上げる日本人、というやや自嘲的な視点を、江戸期の蔑称に重ねた命名です。ムクドリという鳥そのものではなく、名前が背負う社会的なニュアンスが、文学のなかで別のかたちで生き続けてきました。
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参考
- BirdLife International. 2024. Spodiopsar cineraceus. IUCN Red List of Threatened Species(LC指定)
- 清棲幸保『日本鳥類大図鑑 第1巻(増補改訂版)』講談社, 1978(形態・鳴き声)
- 浅川真理・斎藤隆史「ムクドリの繁殖個体群構成」山階鳥類学雑誌 38(1), 2006(2山の産卵ピーク)
- 中村和雄・飯泉良則「Distress Call によるムクドリのねぐらの移動」野生生物保護 1(2), 1995(追い払い研究)
- Wikipedia (English): White-cheeked starling/Wikipedia(日本語版):ムクドリ(分布・生態・文化)
画像出典
- Alpsdake, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons(アイキャッチ/青空バック)
- Laitche, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons(岩の上)
- harum.koh, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons(電線の大群)
- Unknown author, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons(手すりに2羽)
- Alpsdake, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons(若鳥)
- Laitche, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons(枝の上)


