エナガ

鳥類

エナガは、長い尾と丸い体・柔らかい羽毛を持つ小さな鳥です。ユーラシア中緯度に広く分布し、日本でも身近な林や公園で群れを作って暮らします。頭部全体が白い北海道の亜種「シマエナガ」は「雪の妖精」として人気が高く、苔とクモの糸で袋状の巣を編む精巧な巣づくりや、繁殖失敗した個体が近親の巣を手伝う「ヘルパー行動」でも知られます。

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分類と学名

分類階層

  • 界:動物界 Animalia
  • 門:脊索動物門 Chordata
  • 綱:鳥綱 Aves
  • 目:スズメ目 Passeriformes
  • 科:エナガ科 Aegithalidae
  • 属:エナガ属 Aegithalos
  • 種:エナガ Aegithalos caudatus

和名・英名

  • 和名:エナガ(柄長)
  • 英名:Long-tailed tit/Long-tailed bushtit

名前の由来

属名Aegithalosはギリシャ語で「シジュウカラ類の一種」を意味する古い呼び名で、種小名caudatusは中世ラテン語で「(長い)尾の」の意味です。学名の全体は「長い尾のシジュウカラ類の一種」を指します。和名の「柄長」は、全長14cmに対して尾の長さが7〜8cmと極端に長く、その姿を柄杓(ひしゃく)の長い柄に見立てたことに由来します。江戸時代には「柄長柄杓(えながひしゃく)」「柄柄杓(えびしゃく)」「尾長柄杓(おながひしゃく)」「柄長鳥(えながどり)」などとも呼ばれていました。

大きさ・分布などの基本データ

大きさ全長 約13〜14cm(尾約7〜9cm)/翼開長 約16cm/体重 5.5〜9.5g
分布ユーラシア中緯度:ヨーロッパから中央アジア・日本まで。日本では九州以北に留鳥または漂鳥として生息
生息環境平地から山地の落葉広葉樹林・混合林、林縁部。庭園・公園・街路樹でも見られる
食性アブラムシなど昆虫・クモ類が中心。木の実・種子・樹液も食べる
繁殖3〜6月に苔とクモの糸で袋状の巣。7〜12個産卵、抱卵12〜14日、巣立ち14〜17日
寿命約2〜4年(野生・短命型)
保全状況IUCN:LC(軽度懸念)/東京都北多摩地区で準絶滅危惧(NT)

姿と体のつくり

柄杓の柄のような長い尾

エナガの成鳥(正面)
Francis C. Franklin, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

全長は約13〜14cmで、そのうち尾が7〜9cmを占めます。尾を除いた身体はゴルフボール大にすぎず、体重24gほどのスズメと比べても小さな鳥です。柔らかく膨らむ羽毛と長い尾で実際よりやや大きく見え、和名の由来もこの長い尾を柄杓の柄に見立てたところにあります。くちばしは約7mmと小さく、「鳥の中でもっとも短いくちばし」と評されることもあります。

南方系と北方系の見分け ―眉斑の有無

雌雄は同じ色で外見では区別できません。成鳥の瞼は黄色く、背中・下尾筒は淡い葡萄色を帯びます。羽色でもっとも目立つ違いは「眉斑(過眼線)」の有無で、南方系亜種のエナガでは目の上に太い黒帯が入り、そのまま背まで太い黒模様につながります。北方系亜種のシマエナガでは眉斑が完全に消え、頭部全体が白く見えます。

幼鳥は瞼が赤い

エナガの幼鳥(瞼が赤い)
Charles J. Sharp, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

幼鳥は成鳥で黒くなる部分が淡く、眉斑があっても褐色味を帯びます。頬は淡黄色で、瞼は赤色。この赤い瞼は成長にともなって黄色へ変わっていきます。幼鳥では4亜種の外見差もほとんどなく、若い個体は亜種の判別が難しいとされます。

「エナガ」と「シマエナガ」の違い

「エナガとシマエナガの違い」は多く検索される主題です。両者は別種ではなく、同じエナガという種の亜種同士です。日本には4亜種が生息し、そのうち北海道に暮らす亜種がシマエナガ、本州・佐渡・隠岐に暮らす亜種が「亜種エナガ」(A. c. trivirgatus)にあたります。

頭部の白さと眉斑の有無

もっともわかりやすい違いは、頭部の眉斑(黒い模様)の有無です。シマエナガは眉斑が完全に消え、頭部全体が真っ白に見えます。本州のエナガは目の上から背中にかけて太い黒帯が走り、遠目にも「白い顔に黒い眉」がはっきりわかります。この違いはシマエナガの「雪の妖精」というイメージの中心にもなっています。

日本産の4亜種

日本には次の4亜種が分布します。

  • シマエナガ A. c. japonicus:北海道(北方系)
  • 亜種エナガ A. c. trivirgatus:本州・佐渡・隠岐(南方系)
  • キュウシュウエナガ A. c. kiusiuensis:四国・九州(南方系)
  • チョウセンエナガ A. c. magnus:対馬・壱岐(南方系)

シマエナガは北方系で頭部が白く、他の3亜種は南方系で眉斑を持ちます。南方系3亜種の成鳥どうしは羽色にほとんど差がありません。シマエナガをユーラシア北部に広がる基亜種A. c. caudatusのシノニム(同じ亜種)とする説もあり、系統関係にはまだ十分な研究がないと指摘されています。

本州の「チバエナガ」

本州では通常、亜種エナガに眉斑があるため頭部は白と黒の縞になります。しかし千葉県北西部を中心に、眉斑が淡くシマエナガのように頭部全体が白っぽく見える個体が観察されます。日本野鳥の会千葉県支部などはこれを「チバエナガ」と通称し、シマエナガとは別物としています。江戸時代中期の『観文禽譜』にも「どろえなが」の名でエナガの変異個体らしい記述があり、正体はまだよくわかっていません。

「雪の妖精」シマエナガのブーム

2016年の写真集『シマエナガちゃん』

シマエナガは丸い体形と白く柔らかい羽毛から「雪の妖精」と呼ばれ、写真愛好家の被写体として人気を集めてきました。ブームのきっかけは2014年に、バードウォッチャーの永井真人が北海道弟子屈町の宿の近くで観察できるとバードウォッチング専門誌に寄稿したことにあります。翌々年の2016年11月に写真家の小原玲が講談社から写真集『シマエナガちゃん』を刊行し、SNSでの写真拡散もあって知名度が一気に広がりました。

1月20日「シマエナガの日」

日本記念日協会は大寒の1月20日を「シマエナガの日」として登録しています。札幌市在住の写真家で、Twitterアカウント「ぼく、シマエナガ。」を運営するやなぎさわごうの申請によるもので、寒さが厳しくなると羽毛を膨らませる鳥の特性から「1年でシマエナガがもっとも丸く膨らむ日」として2019年に受理されました。2023年の札幌雪まつりでは、市民雪像としてシマエナガの雪像が多数制作されました。

アイヌ語の「雪の鳥」

北海道の先住民アイヌ語では、シマエナガのことを「ウパㇱチㇼ(upas-chir)」と呼びます。「upas」は雪、「chir」は鳥を意味し、直訳すると「雪の鳥」になります。「雪の妖精」という現代の愛称の遙か以前から、頭部の白い姿と雪原とを結びつけた呼び名が北海道で使われてきたことになります。

苔とクモの糸の巣づくり

羽毛を運ぶエナガ(巣材集め)
Jerzy Strzelecki / Radomianin, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

エナガの巣は、多くの鳥の中でも際立って精巧な作りとされます。3月ごろから繁殖期に入ると、つがいは樹木の枝や幹のまたに、苔をクモの糸でまとめた袋状の巣を編み上げます。

「マジックテープ構造」の巣壁

苔の葉がフック、クモの糸がループ

巣の外壁は苔・地衣類・クモの糸・鳥の羽毛など4種類の素材でできており、典型的な1個の巣に6,000ピース以上が使われます。苔の小さな葉がフックの役割、クモの糸のループがループの役割を果たし、天然のマジックテープのような構造で強く柔らかい壁ができあがります。

地衣類のフレークで擬装

巣の外側には数百枚の地衣類のフレークが貼りつけられ、樹皮の瘤のように見せる擬装が施されます。似たような巣を作る鳥は他にほとんどおらず、樹皮に埋もれるような外観が特徴です。設置場所は地面から3m以下の低いイバラや藪、または高い木の枝の股など、捕食者の見つけにくい所が選ばれます。

羽毛1,000枚超の断熱材

巣の内側(産座)には、他の鳥の羽毛が大量に詰められます。その数は1,000枚を超えることもあり、記録では2,000枚以上詰められた例もあります。早春の寒い時期から繁殖を始めるための断熱層で、この巣づくりの巧みさから、江戸時代には「巧婦鳥(たくみどり)」の別名でも呼ばれていました。巣本体は横約8×10cm・縦約15cmの円形または楕円形の袋状で、側面の上部に直径約2.5cmの丸い出入口があります。

繁殖とヘルパー行動

4〜6月に7〜12個の卵

白地に赤褐色の斑のある卵

エナガの卵
Roger Culos, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

4月から6月にかけて、白地に赤褐色の斑のある卵を7〜12個産みます。抱卵は主に雌が担当し、12〜14日で孵化するとされます。抱卵中の個体は尾羽に曲がり癖がつくとも報告されています。

14〜17日で巣立ち、家族群へ

産座には大量の羽毛が敷きつめられ、雛は孵化後14〜17日で巣立つとされます。巣立ち後はいくつかの家族群が集まって群れ行動へ移ります。晩夏から冬にかけては複数の家族群が合流し、冬の越冬群を形づくるとされます。

「ヘルパー」―近親の巣を手伝う

失敗つがいが手伝いに回る

エナガは「協同繁殖(cooperative breeding)」を行う鳥として研究例が多く残されています。捕食などで自分たちの巣が失敗すると、失敗した個体は再繁殖せず、近親のつがいの巣で餌運びや防衛を手伝う「ヘルパー」に回ることがあります。ある調査ではおよそ半数の巣に1羽以上のヘルパーが参加していたと報告されています。

血縁は声で見分ける

ヘルパーが手伝う相手を血縁の近い個体に限る仕組みは、鳴き声による血縁認識に支えられているとされます。近親どうしで交尾すれば近交弱勢(子の適応度低下)が生じますが、繁殖相手選びでは声で近縁を識別し交尾を避けるという報告もあります。ヘルパーが加わる巣は餌運びと防衛が手厚くなり、雛の巣立ち成功率が高まる傾向が知られています。

高い捕食率と再生産

巣の捕食率は高いことが知られます。岐阜県で2001〜2004年に行われた178巣の調査では、31.5%にあたる56巣がハシボソガラス・ハシブトガラス・ニホンイタチ・ヘビ類の襲撃で繁殖に失敗しました。繁殖に成功したのは28.7%(51巣)にとどまります。1回の産卵数が多いことや、失敗つがいがヘルパーに回るシステムがある背景には、この高い捕食圧があると考えられています。

混群と「エナガ団子」

混群を先導する小さな案内役

非繁殖期のエナガは、数羽から30羽前後の小さな群れをつくって行動します。シジュウカラ・ヤマガラ・ヒガラ・メジロ・コゲラなどの違う種の小鳥と一緒になる「混群」をつくることも多く、その混群のなかで先頭を歩く先導役を務めるのはしばしばエナガとされます。地鳴きで仲間を確認しながら雑木林の中を次々と枝から枝へ移っていきます。

枝で寄り添う「エナガ団子」

羽毛を膨らませたエナガ
Rhododendrites, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

非繁殖期にはねぐらとなる木の枝に並列し、小さな体を隣どうし寄せ合って集団で眠る習性があります。この身を寄せ合った姿は「エナガ団子」と俗称され、雪の妖精のイメージと並んで人気の光景です。体が小さく寒さに弱い種にとって、集団で身を寄せ合うことは冬夜の生存率を高める効果があるとされます。街中の街路樹がねぐらになることもあり、夕方には多数のエナガの声で騒がしくなります。

食性 ―アブラムシと冬の樹液

アブラムシと蛾の卵・幼虫

アブラムシへの偏愛

エナガは年間を通じて昆虫食が中心で、蛾の卵・幼虫や小さな昆虫類・クモ類を主に食べます。特にアブラムシを好むとされ、葉先のアブラムシを停空飛行(ホバリング)しながら次々についばむ姿がよく観察されます。

秋冬は木の実・種子も食べる

カイガラムシ・昆虫の卵に加え、木の実や草の種子も食べ、秋冬には植物質の割合が増えるとされます。枝にぶら下がって種子をついばむ姿勢が見られることもあります。小さな体で位置を変えながら細い枝先を渡り、群れ全体で林の中の餌を効率よく拾っていくとされます。

冬の樹液の氷柱を舐める

樹皮から染み出る樹液も好み、クヌギなどの樹液を吸います。冬季は染み出た樹液が凍ってできた小さな氷柱を、ホバリングしながら舐めることがあります。体が小さく体温維持に多くのエネルギーを必要とする冬、糖分の含まれた樹液は貴重な餌となります。

鳴き声

鳴き声は1年を通してほぼ同じで、さえずりも地鳴きも「チーチー」「ツリリ」「ジュリリ」「チュリリ」といった細く高い声で表現されます。群れで動くエナガは絶えず接触音を出しながら移動するため、姿を見る前に声から気づかれることが多いのが特徴です。移動が速く警戒すべき状況になると、鳴きの間隔が短く音量も大きくなります。ハイタカ・ツミ・モズなどの猛禽やオオカマキリなどに襲われることがあり、これらを察知すると仲間に警戒発声を発します。

保全状況

IUCNレッドリストではLC(軽度懸念)で、ヨーロッパから日本まで広い分布域と多い個体数を反映しています。ただし体が小さいため長期にわたる厳寒には弱く、記録では最大80%の個体数低下が確認された地域もあります。繁殖ポテンシャルが高いため、こうした落ち込みは短期間で回復するとされています。日本では東京都北多摩地区が準絶滅危惧(NT)に指定されており、市街地の緑地環境の保全が身近な鳥の維持につながります。

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