キジは、日本の里山や河川敷でよく見られる大型の地上性の鳥です。日本鳥学会が1947年に「日本の国鳥」として選定した種で、日本固有種として本州・四国・九州に分布します。雄は緑色に光る胴と目のまわりの赤い肉垂(にくすい)を持ち、雌は茶褐色で地面に溶けこむ地味な姿。桃太郎の家来として登場する動物としても子どもに馴染みが深い、日本文化と縁の深い鳥です。
分類と学名
分類階層
- 界:動物界 Animalia
- 門:脊索動物門 Chordata
- 綱:鳥綱 Aves
- 目:キジ目 Galliformes
- 科:キジ科 Phasianidae
- 属:キジ属 Phasianus
- 種:キジ Phasianus versicolor
和名・英名
- 和名:キジ(雉・雉子)
- 英名:グリーンフェザント(Green Pheasant・緑のキジ)/ジャパニーズフェザント(Japanese Pheasant・日本のキジ)
種小名の意味と4亜種
種小名の versicolor(ヴェルシコロル)はラテン語で「色変わりの」の意味で、雄の胴に光る緑・青・赤といった多色の羽衣を捉えた名です。日本国内には自然分布として4つの亜種があります。本州北部のキタキジ・本州中部と四国のトウカイキジ・伊豆半島や紀伊半島と種子島や屋久島などのシマキジ・九州のキュウシュウキジです。ただし狩猟目的で放鳥されたユーラシア大陸産のコウライキジと交雑が進み、亜種間の識別が難しくなっている個体群も出ています。
大きさ・分布などの基本データ
| 大きさ | 全長 雄約81cm・雌約58cm/翼開長 約77cm/体重 雄0.8~1.1kg・雌0.6~0.9kg |
|---|---|
| 分布 | 本州・四国・九州とその周辺島嶼(日本固有種)/北海道と対馬・南西諸島には外来のコウライキジが放鳥定着 |
| 生息環境 | 山地から平地の林・農耕地・河川敷などの明るい草地 |
| 食性 | 雑食(草の種子・芽・葉が主体・昆虫やクモも食べる) |
| 寿命 | 野生 平均2~3年/飼育下 10年前後 |
| 保全状況 | IUCN:軽度懸念(LC)/狩猟鳥獣/東京都区部で絶滅危惧IB類 |
雄と雌の外見の違い

派手な雄
胴と頭の羽衣
雄は翼と尾羽を除く胴の全体が緑色に光る羽衣で覆われ、頭部は青緑色をしています。背中には濃い茶色に褐色の斑が入り、長い尾羽は茶褐色で細かい横縞が並びます。派手な色彩は雌への求愛や雄同士の縄張り誇示に使われる形質です。
赤い肉垂と繁殖期の変化
目のまわりには赤い肉垂(にくすい)と呼ばれる肉の突起があり、繁殖期にはこの部分が肥大して鮮やかに膨らみます。繁殖期の雄は赤いものに対して攻撃的になる性質を示し、赤い布や物体に突進する行動が観察されることもあります。肉垂の色と大きさは雄の健康状態を示す信号としても機能するとされます。
地味な雌
雌は雄と対照的に、全体が黄褐色から茶褐色の羽衣で覆われた地味な色合いです。地面や枯れ草に紛れる保護色で、抱卵中に卵と身を守るための形質と考えられています。全長は雄より20cm以上短く、尾羽も短めです。雛と行動する母鳥の姿はこの茶褐色に統一され、地上を歩き回る家族の姿に馴染みやすくなっています。
ヤマドリの雌との見分け
キジの雌は同じキジ科のヤマドリの雌にも似ますが、ヤマドリの雌よりやや白っぽく、尾羽が長いのが違いです。生息環境も分かれていて、キジは平地の草地や農耕地、ヤマドリは山地の森林を好みます。両者が混じって観察される機会は多くありません。
「ケーン」の鳴き声と母衣打ち

雄のケーン鳴き
繁殖期の雄は「ケーン」としわがれ気味の大きな声で鳴き、縄張りを宣言します。「ケンケン」と鋭く二声で発せられることも多く、里山では春から初夏の代表的な鳥の声です。慣用句の「けんもほろろ」は、この鳴き声と後述の母衣打ちの音の総称に由来するとされます。雌は「チョッチョッ」と低い声で鳴き、雄との音の対比がはっきりしています。
両翼を打ち鳴らす「母衣打ち」
ケーン鳴きの直後、雄はしばしば両翼を胴に打ちつけてブルブルという低い羽音を響かせます。この動作は「母衣打ち(ほろうち)」と呼ばれ、鳴き声と組み合わさって雄の縄張り主張を完結させる行動です。姿を隠していても遠くまで届く音のため、藪の中の雄がそこにいることを他個体に知らせる役割を果たします。母衣打ちを行うのは繁殖期の雄に限られます。
縄張りと乱婚傾向
雄はそれぞれ縄張りを持ちますが、雌は複数の雄の縄張りに自由に出入りする乱婚に近い繁殖様式をとります。子育ては雌のみが担い、地面を浅く掘って枯れ草を敷いた簡素な巣に、4~7月に6~12個の卵を産みます。孵化後の雛は早成性で、生まれてすぐ歩き回れます。非繁殖期には雌雄別々に行動し、夜は樹上で眠ります。
飛ぶより走るキジ

時速32kmで駆ける地上性の鳥
走行力が生存戦略の中心
キジは走るのが速く、スピードガンでの測定では時速32kmを記録した例があります。地上を素早く駆けて藪の陰へ逃げこむ走行力が、この鳥の生存戦略の中心です。太い脚と短い翼は、走ることに適応した体つきといえます。夜間は樹の上に飛び上がって眠り、地面の捕食者から距離を取ります。
飛翔は短距離のみ
キジは飛ぶのが苦手な地上性の鳥で、飛翔は短距離を低く飛ぶ程度です。危険を察知すると翼を大きく羽ばたかせて藪から飛び出し、数十メートル飛んですぐに地面に降りて走行に戻ります。長距離を飛び続ける能力は持たず、渡り鳥のような季節移動は行いません。留鳥として一年中同じ地域にとどまる生活史も、この飛翔力の限界と対応しています。
地震を察知するという古くからの俗信
キジは人には感じ取れない地震の初期微動を敏感に感知するとされ、地震の直前に鳴くという言い伝えが全国に広がっています。13世紀末の『塵袋(ちりぶくろ)』にも「地震・雷の時に鳴く」との記述があり、『伯耆国風土記(ほうきのくにふどき)』でも「地の震動時に雉が鳴く」と伝えられています。俗信ではあるものの、キジが微振動に敏感な可能性は近代以降も一定の関心を集めてきました。
日本の国鳥

1947年の国鳥選定
日本鳥学会は1947年3月22日にキジを「日本の国鳥」として選定しました。法律で定められた国鳥ではなく、日本鳥学会は政府機関でもないため、非公式な位置づけです。選定の理由には「日本固有種で日本の象徴になっている」「留鳥で一年中姿が見られる」「雄の姿は力強く男性的で、雌は母性愛が強く家族の和を象徴する」「古事記・日本書紀にも登場し、桃太郎の家来として子どもにも馴染みがある」といった点が挙げられました。県鳥に指定している自治体も多く、岩手県と岡山県がキジを県鳥に定めています。
一万円札と防衛省のエンブレム
1984年に発行された旧一万円札(D号券)の裏面には、雄と雌のキジがともにデザインされました。左に立ち姿の雄、右に座り込む雌という構図で、日本を代表する鳥として通貨の意匠に選ばれた経緯があります。防衛省情報本部のエンブレムもキジを意匠としていて、桃太郎の物語でキジが情報収集の役目を果たしたことにちなむとされています。Jリーグのファジアーノ岡山も、イタリア語で「キジ」を意味する「fagiano」を球団名に採用し、地元の桃太郎伝説に由来を求めています。
桃太郎の家来としてのキジ

キジは日本の民話「桃太郎」で、サル・イヌとともに主人公の家来として登場する動物です。桃太郎伝説は室町時代に成立したとされ、江戸時代以降に絵本や口頭伝承として広まりました。キジが選ばれた理由については、日本固有の鳥である点・姿が力強く目立つ点・鳴き声で存在を知らせる点などが挙げられます。空から敵情を偵察する役目を負う姿が絵本で描かれることが多く、防衛省情報本部のエンブレム選定にもこの物語が背景にあります。長野県や石川県の民話「キジも鳴かずば撃たれまい」も広く知られる物語で、「余計なことを言わなければ災難に遭わずに済む」という教訓の由来として今も使われる表現です。
キジ料理と食用の歴史

平安時代からの高級食材
キジ肉は日本で古くから食用にされ、平安時代の記録にはすでに宮廷の膳に上る様子が残ります。室町時代の料理書『四条流包丁書』には「鳥といえば雉のこと也」と書かれ、鳥料理の代表格として扱われてきました。伝統的な調理法として、雉鍋・すき焼き・釜飯・雉そば・雉飯があり、地域によっては現在も郷土料理として受け継がれています。「雉焼き」の名は本来キジ肉の焼き物を指しましたが、後に魚肉や鶏肉でも代用されるようになり、料理法の名称として定着しました。
徒然草に描かれた「最も品位の高い鳥」
14世紀前半に成立した兼好法師の『徒然草』第118段には、キジが最も品位の高い食用鳥として言及されています。中世の朝廷では、天皇や皇后の御湯殿上(女官の詰所兼調理場)の棚に、調理前の姿のまま置くことが許された鳥はキジだけだったと記されます。それだけキジは特別扱いされていた食材で、贈答や儀礼の膳にも登場しました。狩猟の獲物として鷹狩りの目的にもされ、江戸時代までは武家や貴族の食文化の中で重要な鳥でした。
キジにまつわる言葉と俗信
キジは日本語のなかにいくつもの慣用句を残しています。「けんもほろろ」は無愛想な受け答えを表す言葉で、キジの「ケーン」の鳴き声と母衣打ちの音を合わせた擬音が語源とされます。「キジも鳴かずば撃たれまい」は余計な発言で自ら不利益を招くことのたとえで、長野県の民話「キジも鳴かずば」に由来します。「焼け野の雉子(きぎす)、夜の鶴」は親が子を思う情の深さのたとえです。登山者の隠語「キジを撃つ」は物陰で用を足す姿がキジ猟に似ることから生まれた表現です。ネコの毛色「キジトラ」の名も、雌のキジの茶褐色の縞に似ることに由来します。
関連ページ



参考
- ウィキペディア日本語版「キジ」(分類・亜種・国鳥選定・桃太郎・徒然草・食用歴史)
- ウィキペディア英語版「Green pheasant」(日本固有種としての分類・保全状況)
- バードライフ・インターナショナル「IUCNレッドリスト キジ評価」(軽度懸念LCの評価根拠)
- 兼好法師『徒然草』第118段(14世紀前半・キジを最も品位の高い食用鳥として言及)
- 『四条流包丁書』(室町時代・「鳥といえば雉のこと也」)
画像出典
- Alpsdake, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons(アイキャッチ・日本のキジ雄)


