トドは北太平洋に住むアシカ科最大の動物です。オスは体重1トンを超えることがあり、成長すると額が盛り上がって後頭部の毛がたてがみのように伸びます。
分類と学名
分類階層
- 界:動物界 Animalia
- 門:脊索動物門 Chordata
- 綱:哺乳綱 Mammalia
- 目:食肉目 Carnivora
- 科:アシカ科 Otariidae
- 属:トド属 Eumetopias
- 種:トド Eumetopias jubatus
和名・英名
- 和名:トド(海馬・胡獱)
- 英名:Steller sea lion/Northern sea lion
別名・学名の由来
属名の Eumetopias は、古代ギリシャ語で「広い額」を意味する語に由来します。種小名の jubatus はラテン語で「たてがみがある」という意味です。
どちらもオスの見た目をそのまま指しています。学名を読むだけで、この動物の特徴が二つ分かる形になっています。
大きさ・分布などの基本データ
| 大きさ | 最大全長 オス330cm/メス290cm。体重350〜1,120kg(アシカ科最大種) |
|---|---|
| 分布 | 北太平洋。繁殖地はアリューシャン列島・千島列島・カムチャツカ半島東部・アラスカ湾岸など |
| 日本での姿 | 繁殖地はなく、冬に北海道の日本海側へ回遊してくる |
| 生息環境 | 亜寒帯の沿岸。岩礁や岩の多い島に上陸する |
| 食べ物 | スケトウダラ・ホッケ・ニシン・サケなどの魚、イカ・タコ |
| 天敵 | 主にシャチ。若い個体はサメ類に襲われることもある |
| 保全状況 | 環境省レッドリスト: 指定なし(1998〜2012年は絶滅危惧II類) |
オスは1トンを超え、額が盛り上がる

メスの3倍を超える体重
最大全長はオスで330cm、メスで290cmです。体重は350〜1,120kgと幅があり、上限に近いオスはメスの3倍を超えます。
上限に近い個体は1トンを超え、軽自動車より重くなります。アシカ科では最大の種で、同じ種の雌雄でここまで差の開く動物は多くありません。
たてがみと、隆起した額
オスの成獣は上半身が肥大します。額が隆起し、後頭部の体毛が伸びてたてがみのようになります。学名が指しているのはこの姿です。
背面の毛は淡い黄褐色で、腹面は黒褐色です。生まれたばかりの子は黒褐色の毛におおわれますが、生後半年ほどで生え変わります。
アシカ・オットセイ・アザラシ・セイウチとの違い

鰭脚類は3つの科に分かれる
ひれ状の四肢を持つ海の哺乳類をまとめて鰭脚類と呼びます。現生の鰭脚類は、アシカ科・アザラシ科・セイウチ科の3つに分かれます。
トドはアシカ科です。オットセイもオタリアもここに入るので、トドはアシカの仲間という言い方は分類のうえで正しいことになります。セイウチ科は現在1属1種だけで、巨大な牙を持ち、貝類食に特化しています。数のうえではアザラシ科が圧倒的で、現生の鰭脚類のおよそ9割を占めるとまで言われています。
耳たぶの有無と後ろひれの向き
耳介は思ったより見えない
アシカ科とアザラシ科を分ける目印は耳です。アシカ科には耳介(じかい)、つまり耳たぶがあります。アザラシ科には耳介がなく、耳の穴が開いているだけです。
※ アシカ科の学名 Otariidae は、ギリシャ語で「小さい耳」を意味する otarion に由来します。名前そのものが見分けの目印になっています。
この目印は思うほど使いやすくありません。アシカ科の耳介も陸の獣に比べれば小さく、普段は体に沿って伏せられているためです。
陸での姿勢のほうが分かりやすい
実際に見分けやすいのは陸での動き方です。アシカ科は後ろのひれを前に向けられるので、四本の足で歩くように移動できます。上体を高く起こして座ることもできます。
アザラシ科は後ろのひれを前に向けられません。陸では体をうねらせて進むしかなく、常に腹ばいのままです。岩の上で体を立てている姿は、アシカ科でしか見られません。



混み合った岩場で、声で子を探す

春の岩場に集まるオス
春の半ば、成熟したオスが決まった繁殖地の岩場に集まってなわばりを構えます。メスは到着してまもなく出産し、交尾はそのあとに行われます。
オスは警告として、げっぷのような音・うなり声・鼻を鳴らす音・しゅうしゅうという音を使い分けます。水中でも似た音を出しており、1秒あたり20〜30回の低い音の連なりが記録されています。
名前のように呼び分ける母と子
母子にとって、声はもっと切実な道具です。母親は餌をとりに海へ出るので、混み合った繁殖地へ戻ったときに自分の子を見つけなければなりません。
母と子はそれぞれ固有の声を持ち、名前のように互いを呼び分けます。空気中で聞こえるその声は、ヒツジの鳴き声に似ていると表現されます。
子は4年も母親といることがある

乳離れの時期は個体差が大きい
生まれたばかりの子は全長1mほど、体重16〜23kgです。乳離れの時期は個体によって大きく違い、子が4年もの間ずっと母親と一緒にいることもあります。
同じ鰭脚類でも育て方の幅はかなり広いことになります。日本沿岸に定住するゼニガタアザラシは、授乳が3〜4週間ほどで終わります。
娘と、その子に同時に乳を与える
まれに、母親が娘に乳を与え、その娘も自分の生まれたばかりの子に乳を与えている例が記録されています。
三代が同時に授乳でつながる形で、哺乳類ではきわめて珍しいとされます。
群れる魚を追い、漁船のそばにも集まる

その場でいちばん多い獲物を食べる
食べ物の幅は広く、スケトウダラ・ホッケ・オヒョウ・ニシン・マダラ・サケ・イカナゴなどの魚を食べます。イカやタコ、貝も獲物になります。
群れる魚を好み、獲物の多い場所では12頭ほどの集団になることがあります。食べ物の内訳は季節と場所で変わり、その時その場所でいちばん多い種類に集中します。漁船の近くに集まり、目当て外として捨てられた魚を食べることも知られています。
体長の1.5倍を1秒で進む
アシカ科で最大でありながら、泳ぐ速さはより小さいカリフォルニアアシカとほぼ変わりません。滑るように進むときの速度は毎秒2.9〜3.4mで、体長の1.2〜1.5倍にあたります。
推進力の大半は前のひれをかき下ろす局面で生まれます。以前は、ひれを外へ開く動きや終わりぎわのかき動作で進むと考えられていました。2007年の研究では、その局面でほとんど推進力が出ていませんでした。
呼吸を止め、心拍を落として潜る
潜るときは呼吸を止め、心拍を落とし、手足など体の先のほうの血管を縮めます。こうして蓄えた酸素を長く使います。
厚い脂肪の層と外側の毛が、冷たい水の中で体温を保ちます。
ラッコの子を襲う一方でシャチに狙われる
まれにキタオットセイ・ワモンアザラシ・ゼニガタアザラシ、ラッコの子など、ほかの海獣を襲った記録もあります。
いっぽうでトドも襲われる側です。主な天敵はシャチで、オンデンザメ・ネズミザメ・ホホジロザメが若い個体を襲う可能性も指摘されています。
先史時代から狩られ、今はカレーになる

皮はカヤックを覆う材料だった
トドは分布域が人の暮らしと重なるところでは、先史時代から肉や資材のために狩られてきました。皮はバイダルカやカヤックを覆う材料としても使われました。
アラスカの一部の先住民の集落では、今も年300頭以下の規模で自給のための捕獲が続いています。
トドカレーという土産物
北海道ではトドの肉が食用にされています。「トドカレー」は土産物として、「熊カレー」「えぞ鹿カレー」と並んで広く知られています。缶詰で売られることが多く、羅臼では料理に使われます。
日本にトドの繁殖地はありません。千島列島や宗谷海峡の個体群が、冬に北海道沿岸へ回遊してきます。主な来遊先は道央から北檜山より北の日本海側です。
減らす目標を立てて採る
絶滅危惧II類から外れるまでの回復
トドは人の手による捕獲などで数を減らしました。1994年度からは漁業法にもとづく委員会の指示で、来遊期ごとの採捕数(獲ってよい頭数)が制限されます。
2007年度からは航空機からの目視調査などをもとに、許容される採捕数が示されるようになりました。この結果、個体数は急激に回復します。環境省レッドリストでは1998年以降ずっと絶滅危惧II類でしたが、2012年の見直しで指定から外れました。
網から食べることを覚えた
数が戻ると、今度は漁業被害が増えました。北海道日本海側の主な来遊域では、来遊する数が増え、滞在する期間も長くなっています。
被害が増えた理由として、水産庁は漁網から捕食することを学習した点を挙げています。獲物を探すより、網にかかった魚を食べるほうが早いと覚えた個体が増えた、という見方です。
6割まで減らすという管理目標
そこで2014年度に管理の目標が立てられました。10年後の来遊個体群を、2010年度の水準の6割まで減らすという内容です。採捕数はこのとき大幅に増やされました。
北海道庁の聞き取り調査によると、漁業被害額は2013年度に約20億円へ達しました。近年は10億円を下回る水準まで下がっています。
参考
画像出典
- Morkill, Anne, Public domain, via Wikimedia Commons
- Garst, Warren, 1922-2016, photographer, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
- Ensign Patricia Raymond, NOAA Corps, Public domain, via Wikimedia Commons
- Diego Delso, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
- Garst, Warren, 1922-2016, photographer, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
- Early T, U.S. Fish and Wildlife Service, Public domain, via Wikimedia Commons
- Diego Delso, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

