オオワシは、冬に流氷とともに北海道へやってくる、世界でもっとも重いワシの一つです。黒い体に白い肩と尾、そして巨大な黄色いくちばしが目を引きます。日本では卵を産まず、ロシア極東から渡ってくる冬の使者として知られます。
分類と学名
分類階層
- 界:動物界 Animalia
- 門:脊索動物門 Chordata
- 綱:鳥綱 Aves
- 目:タカ目 Accipitriformes
- 科:タカ科 Accipitridae
- 属:オジロワシ属 Haliaeetus
- 種:オオワシ Haliaeetus pelagicus
和名・英名
- 和名:オオワシ(大鷲)
- 英名:Steller’s sea eagle
名前の由来
和名の「オオワシ」は、その名のとおり「大きいワシ」という意味です。オジロワシ属(ウミワシ属)に属し、海や川べりで魚を捕る海のワシの仲間です。学名の pelagicus は「外洋の」を意味します。英名の Steller は、この鳥を記録したドイツの博物学者ステラーにちなみます。
大きさ・分布などの基本データ
| 大きさ | 全長 約85〜105cm/翼を広げた幅 約2〜2.5m(メスが大きい) |
|---|---|
| 体重 | オス 約5〜7kg/メス 約6〜9.5kg |
| 分布 | 繁殖はロシア極東。冬は日本(北海道など)や朝鮮半島へ南下 |
| 生息環境 | 海岸・河口・大きな川。流氷の海や漁港の周り |
| 食べ物 | サケ・マスなどの魚が中心。魚や海獣の死骸、水鳥も |
| 寿命 | 野生でおよそ20〜25年とされる |
| 保全状況 | IUCN:VU(危急)/日本:国の天然記念物・国内希少野生動植物種 |

巨大なくちばしをもつ海のワシ
黒い体に白い肩と尾
世界でもっとも重いワシの一つ
オオワシは、全長85〜105センチメートル、翼を広げた幅は2メートルを超える大型のワシです。体重はメスで9キログラムを超えることもあり、平均するとワシの中でもっとも重い種とされます。イヌワシより一段大きく、日本で見られるワシでは最大です。メスがオスよりはっきり大きく、並ぶと体格の差がよく分かります。
現生のワシで最大のくちばし
いちばんの特徴は、大きく発達した黄色から橙色のくちばしです。今生きているワシの中で最大級とされ、遠くからでもよく目立ちます。体は黒褐色で、肩・尾・腿に白い羽があり、黒と白の対比が鮮やかです。この配色と大きなくちばしがそろえば、ほかのワシと間違うことはほとんどありません。
若い鳥は褐色
白と黒がくっきり分かれるのは成鳥で、若い個体は全体に褐色をしています。肩や尾の白もはっきりせず、成鳥とは印象が異なります。くちばしはすでに黄色みを帯びており、若いうちから大きく見えます。成鳥の羽になるまでには、数年かかるとされます。
鋭い目と、低いだみ声
オオワシの目は黄色く、遠くの魚や獲物を見つける鋭い視力をもちます。ふだんはあまり鳴きませんが、集まった場所では「ガッガッ」「クワッ」といった低いだみ声を出します。イヌワシやトビのような澄んだ声とは違い、太くて荒っぽい響きです。流氷の上に何羽も集まると、こうした声が入り交じって聞こえることもあります。

流氷とともに来る冬の渡り鳥
ロシアで生まれ、日本で冬を越す
繁殖地はロシア極東
オオワシは、日本では卵を産みません。繁殖地は、ロシア極東のカムチャツカ半島やオホーツク海の沿岸、アムール川の下流などに限られます。世界の中でも分布の狭いワシで、ほとんどがこの一帯で生まれ育ちます。この点は、一年じゅう同じ土地で暮らすイヌワシやクマタカとは大きく違うところです。
流氷にのって知床へ
冬になり北の海が凍りはじめると、オオワシは南へ移動し、その多くが北海道へやってきます。とくにオホーツク海に面した知床や羅臼は、流氷とともに集まる姿で知られます。流氷の上に何羽もが並んでとまる光景は、北海道の冬を代表する風景の一つです。春になり流氷が去ると、オオワシもまたロシアへと帰っていきます。近年は人工衛星を使った追跡によって、一羽ごとの渡りの道すじも少しずつ分かってきました。

サケをとらえる流氷の狩人
サケと、産卵後の死骸
浅瀬のサケをつかむ
オオワシの主な食べ物は、サケやマスなどの魚です。浅い川や海辺で、太い脚と大きなかぎ爪を使い、水面近くの魚をつかみ取ります。川をさかのぼって産卵したあとに力尽きたサケは、労せず手に入る大切な食べ物です。凍った海や川のふちで、こうした魚を待つ姿がよく見られます。水面すれすれを飛びながら、長い脚をのばして魚をつかみ取ることもあります。
死骸や横取りにも頼る
オオワシが口にするのは、生きた魚だけではありません。海獣や魚の死骸も、大切な食べ物です。陸に上がって、狩りで残されたエゾシカの死骸を漁ることもあります。時には、ほかの鳥が捕った獲物を横取りすることもあります。大きな体を養うため、手に入るものは幅広く利用する、たくましい狩人です。

オジロワシとの違い
肩の白と、くちばしの色
冬の北海道では、オオワシとよく似たオジロワシが、同じ海辺で見られます。どちらもオジロワシ属の大きな海のワシですが、いくつかの違いがあります。
| オオワシ | 黒い体に白い肩・尾。くちばしが大きく、鮮やかな黄〜橙色。冬鳥として渡来 |
|---|---|
| オジロワシ | 全体に褐色で、白いのは尾だけ。くちばしはやや小さめ。北海道で繁殖もする |
| トビ | 全長60cm前後と小さめ。尾がバチ形にへこむ。市街地や海辺で群れて舞う |
肩に大きな白い羽があり、くちばしが目立って大きいのがオオワシです。オジロワシは全体が褐色で、白いのは尾だけです。二種は同じ海辺に入り交じることもあり、並ぶと体の白の広さやくちばしの大きさの違いが引き立ちます。
数を減らす天然記念物
流氷の海と、鉛中毒の脅威
オオワシは、世界でおよそ5千羽ほどと推定される、数の少ないワシです。IUCNのレッドリストでは危急(VU)とされ、日本では1970年に国の天然記念物に指定されました。近年、大きな問題となっているのが鉛中毒です。狩猟で撃たれたエゾシカの体に残った鉛の弾を、死骸ごと食べてしまい、命を落とすオオワシが相次ぎました。鉛を使わない弾への切り替えなど、対策が進められています。繁殖地の開発や、餌となるサケの減少も、数を脅かす要因とされています。
※ 鉛中毒とは、鉛でできた弾や釣りのおもりを体内に取りこみ、中毒を起こすことです。死骸に残った鉛弾を食べた猛禽で問題になっています。
オオワシの豆知識
知床・羅臼の冬の主役
流氷の季節の知床や羅臼では、オオワシは冬の主役の一つです。流氷を見る観光船のまわりには、オオワシやオジロワシが集まり、その姿を目当てに多くの人が訪れます。堂々とした大きなワシが白い流氷の上に並ぶ光景は、写真家にも人気があります。オオワシはロシアと日本にまたがって暮らすため、その保全は両国での取り組みと深く関わっています。
琵琶湖の「山本山のおばあちゃん」
オオワシの多くは北海道で冬を越しますが、稀に本州の湖にも姿を見せます。滋賀県の琵琶湖のほとり、長浜市の山本山には、20年以上にわたって毎年冬に同じ1羽のオオワシが通い続けました。「山本山のおばあちゃん」と呼ばれて親しまれ、その長生きと、遠くまで渡る力に多くの人が驚きました。1羽の鳥が地域の冬の名物として愛された、珍しい例です。

動物園と、冬の観察地
野生のオオワシは、流氷の季節の知床・羅臼や、根室など道東の海辺で見られます。観光船や岬から、その大きな姿を観察できます。一年を通して見られる場所としては、円山動物園(札幌)や上野動物園などがあり、飼育された個体が知られています。太い脚と強い握力は、大きな魚や重い獲物をつかむのに役立っています。




参考
- English Wikipedia「Steller’s sea eagle」(大きさ・くちばし・渡り・保全)
- ウィキペディア「オオワシ」(日本の渡来・天然記念物・食性)
- IUCN Red List「Haliaeetus pelagicus」(保全状況の評価=危急)
画像の出典
- アイキャッチ(顔):Isiwal, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
- 全身:Dandy1022, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons
- 流氷の個体:Michael Pinczolits, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons
- 魚をつかむ個体:Saschathegerman, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons
- 白い肩:Matěj Baťha, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons
- 飼育個体:Хомелка, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons


