サシバは、里山の水田や雑木林で暮らす、中型のタカです。春に南方から渡ってきて子育てをし、秋にはふたたび南へ帰る夏鳥です。カエルやヘビ、昆虫をおもに狩り、田んぼのある風景と深く結びついて生きています。秋には数千羽の群れが空に渦を巻く「タカ柱」でも知られます。冬に平地へやってくるノスリとは反対に、暖かい季節の里山を代表するタカです。
分類と学名
分類階層
- 界:動物界 Animalia
- 門:脊索動物門 Chordata
- 綱:鳥綱 Aves
- 目:タカ目 Accipitriformes
- 科:タカ科 Accipitridae
- 属:サシバ属 Butastur
- 種:サシバ Butastur indicus
和名・英名
- 和名:サシバ(差羽)
- 英名:Grey-faced buzzard
名前の由来
「サシバ」は「差羽」「刺羽」などと書かれます。まっすぐに一直線に飛ぶ姿から、その名がついたといわれますが、由来には諸説あります。学名の Butastur は、ノスリのなかま(Buteo)とタカのなかま(Astur)を合わせた言葉で、その中間のような姿を表しています。英名の Grey-faced buzzard は「灰色の顔をしたノスリのなかま」という意味で、灰褐色の頭にちなんだ呼び名とされます。
大きさ・分布などの基本データ
| 大きさ | 全長 約47〜51cm(メスがやや大きい)/翼を広げた幅 約105〜115cm |
|---|---|
| 分布 | 東アジアで繁殖。日本には夏鳥として本州・四国・九州へ渡来 |
| 生息環境 | 里山(水田・谷津田・雑木林がまじる環境) |
| 食べ物 | カエル・ヘビ・トカゲ・昆虫が中心。ときにネズミや小鳥 |
| 渡り | 4月ごろ渡来し、9月ごろ南下。東南アジアやニューギニアで越冬 |
| 保全状況 | IUCN:LC(軽度懸念)/日本:環境省レッドリスト 絶滅危惧II類(VU) |

里山のタカ
のどの白線と黒い縦線
大きさとメスの優位
サシバは、全長50センチメートル前後の中型のタカです。オスよりメスのほうがやや大きく、翼を広げた幅は1メートルを超えます。トビよりはひとまわり小さく、細めの翼と、やや長い尾をもつのが特徴です。飛ぶときは翼を水平に開き、輪を描いてゆっくり舞う姿がよく見られます。
のどの模様と腹の横縞
頭は灰褐色で、体の上面と胸は茶褐色をしています。のどは白く、中央に1本の黒い縦線が通るのが目立つ特徴です。腹には褐色の横縞が入り、体の下面は白っぽく、褐色の縞模様が並びます。この「のどの黒線」と「腹の横縞」は、ほかのタカと見分ける手がかりになります。若い鳥は全体に淡い色をしており、胸に縦の斑が並ぶため、横縞のはっきりした成鳥とは印象が変わります。目のまわりは黄色く、くちばしは鋭く曲がっています。

ノスリとの見分け
同じ里山で見られるノスリとは、いくつかの点で見分けられます。ノスリはずんぐりとして色が淡く、冬に平地へやってくる鳥です。サシバは細身で、のどの黒い縦線がはっきりし、夏に里山で子育てをします。サシバは夏に里山で繁殖し、ノスリは冬に平地へ渡来するため、両種が同じ場所で見られる季節はほとんど重なりません。飛ぶ姿では、翼の先が細くとがって見える点も、幅広い翼のノスリやトビとの違いになります。

水田でカエルやヘビを狩る
里山の水辺のハンター
カエル・ヘビ・トカゲ・昆虫
サシバの食べ物は、カエルやヘビ、トカゲといった小さな生きものが中心です。セミやバッタなどの昆虫もよく食べ、ときにはネズミや小鳥もとらえます。水田のまわりには、こうした獲物がたくさん暮らしています。人里近くまで出てきて、田んぼの上を舞いながら狩りをします。魚をとるミサゴや、小鳥を追うオオタカとは、獲物も狩り場もまったく異なります。水辺の小動物をまとめて利用できることが、里山という環境に根ざした暮らしを支えています。
田んぼと雑木林のセット
サシバは、狩り場となる水田と、巣をかける雑木林がそろった環境を好みます。木にとまって田んぼを見張り、獲物を見つけると舞いおりてつかまえます。人の手が入った里山は、サシバにとって暮らしやすい場所です。田を耕し、雑木林を残してきた人の営みが、この鳥の狩り場を支えてきました。水田と雑木林がひと続きになった環境は、サシバにとって欠かせない条件です。かつては全国の農村で、ごくふつうに見られた鳥でした。

春に来て秋に去る夏鳥
4月に渡来し里山で繁殖
サシバは、4月ごろに東南アジアなどから日本へ渡ってくる夏鳥です。春の渡りでは、南西諸島づたいに北上し、里山の芽吹きに合わせるように姿を見せます。本州・四国・九州の里山にやってきて、松やスギの高い木に巣をかけます。5〜6月ごろに、青みがかった白色の卵を3〜4個産み、つがいで協力してヒナを育てます。ノスリが冬に平地へやってくるのとは反対に、サシバは夏の里山を代表するタカです。

秋の渡りとタカ柱
数千羽が空を舞う
子育てを終えると、サシバは9月ごろから南へ渡りはじめます。晴れた日の午前中、地面が温まると立ちのぼる上昇気流に、多くの個体がいっせいに乗ります。渦を巻きながら空高くのぼり、高度をかせいでから、羽ばたかずに次の山へ滑るように移ります。こうして体力をおさえながら、長い距離を旅していきます。この群れが柱のように立ちのぼって見えることから、「タカ柱」と呼ばれています。数百から数千羽が一度に舞う光景は、秋の空の大きな見どころです。
白樺峠・伊良湖岬
サシバの渡りのルートは、ある程度決まっています。長野県の白樺峠や、愛知県の伊良湖岬は、渡りを見られる有名な場所です。白樺峠では、1シーズンに8000羽をこえるサシバが通過した記録もあります。渡りの終盤には、沖縄など南西諸島の島じまが中継地となります。そこから東南アジアやニューギニアまで、海をこえる長い旅をして冬を越します。春に北へ戻る時期にも、各地の岬や峠で、渡っていくサシバの数が記録されています。こうした渡りの名所には、秋になると観察に訪れる人も多く集まります。
里山とともに減るタカ
環境省の絶滅危惧種
サシバは、かつては各地の里山でふつうに見られる鳥でした。しかし近年は数を減らし、環境省のレッドリストでは絶滅危惧II類(VU)とされています。田んぼが減り、雑木林が荒れると、狩り場と獲物がともに失われます。休耕田が広がったり、谷津田が使われなくなったりすることも、えさとなる生きものの減少につながります。栃木県市貝町のように、サシバを守るために里山の環境を保つ取り組みを進める地域もあります。サシバを守る取り組みは、田んぼの生きものや、ほかの野鳥を守ることにもつながっています。サシバの数は、里山の自然が健やかかどうかを映す、ひとつの目安と考えられています。
サシバの豆知識
「ピックイー」と鳴く声
サシバの鳴き声は、「ピックイー」と聞こえる、よく通る声です。繁殖期の里山では、この声が縄張りを知らせる合図になります。春、山あいの林から「ピックイー」と響いてきたら、サシバが渡ってきた知らせともいわれます。巣の近くでは、つがいがたがいに鳴きかわし、外敵が近づくとくり返し警戒の声をあげます。姿が見えない林のなかでも、この声によって存在が知られてきました。
いっしょに渡るタカたち
秋の渡りで空を移動するのは、サシバだけではありません。ハチクマやノスリといったほかのタカも、同じころに南をめざします。ハチクマは、ハチの巣をおそって幼虫を食べる変わった食性のタカで、サシバと前後して渡ることで知られます。時期や場所によって、いろいろな種がまじって渡る姿も見られます。なかでもサシバは数が多く、タカの渡りの主役として知られています。秋の渡りの時期には、サシバの群れが各地の峠や岬を通過していきます。
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参考
- ウィキペディア「サシバ」(分類・大きさ・形態・食性・渡り・繁殖・保全)
- サントリー「日本の鳥百科」サシバ(生態・鳴き声・里山との関わり)
- のりくら観光協会・日本野鳥の会(白樺峠のタカの渡り・通過数)
画像出典
- アイキャッチ・止まる姿:Gray-faced Buzzard (Los Baños) — Pauline Carmel Joy Eje, CC BY 4.0, via Wikimedia Commons
- 里山の姿:Grey-faced Buzzard (Nai Yang, Phuket) — Ron Knight, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons
- 見張る姿:Gray-faced Buzzard — Wich’yanan L, CC BY 4.0, via Wikimedia Commons
- 卵:Butastur indicus egg (Delaware Museum of Natural History) — David J. Stang, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
- タカ柱(飛翔):Grey-faced buzzard in flight (Mount Noko) — Alpsdake, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
- 飛ぶ姿:Grey-faced buzzard in flight — Alpsdake, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons


